1. HOME
  2. シンBI実現の壁・課題
  3. 「社会制度問題」「社会・労働観問題」の壁・総括|LSF生活保障給付から始まるシンBI2050社会保障制度改革構想
シンBI実現の壁・課題

「社会制度問題」「社会・労働観問題」の壁・総括|LSF生活保障給付から始まるシンBI2050社会保障制度改革構想

当初予定していた、【BI実現の壁超克シリーズ】3つ目の壁「社会制度問題の壁」の総括を前に、4つ目の壁「社会・労働観問題の壁」にある「労働保険」の改革考察を先行。
⇒ 働く人すべてを支える新たな社会保険制度とは?―厚生就労保険制度とシンBI2050 – シン・ベーシックインカム2050論

そこからの「厚生就労保険」制度改革提案も、総括記事に含めることにして、本稿に至っています。
そこでまず、「社会制度問題の壁」6記事及び「社会・労働観問題の壁」1記事の総括記事と位置付け、シン社会制度体系改革の全体像を体系的に提示します。
その上で、それぞれの制度がどのような役割分担の下で一体となって機能するのかを明らかにすることを目的としています。

以上のように、本記事では、社会保障制度全体の設計思想と体系を示すことを主眼としています。
個々の制度設計や制度運営の詳細については、当サイト及び関係サイトONOLOGUE2050において、今後も継続して考察・提案を行っていきます。

なお、上記7記事のリストは、以下です。
それぞれかなりのボリュームの記事ですが、本稿を読み進める中、逐次確認頂ければ幸いです。

【社会制度問題の壁・記事集】

序 章 序章 「社会制度問題」の壁とは何か|BI実現の壁超克シリーズⅢ – シン・ベーシックインカム2050論 
第1章 社会制度問題の壁①|公的年金制度改革から始まるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第2章 社会制度問題の壁②|生活保護制度改革から考えるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第3章 社会制度問題の壁③|医療・介護制度改革を考えるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第4章 社会制度問題の壁④|児童福祉・障害者福祉制度改革を考えるシンBI2050の社会福祉再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第5章 社会制度問題の壁⑤|LSF生活保障給付で消える年収の壁と厚生住宅保険制度創設のシンBI2050 – シン・ベーシックインカム2050論

【社会・労働観問題の壁】

働く人すべてを支える新たな社会保険制度とは?―厚生就労保険制度とシンBI2050 – シン・ベーシックインカム2050論

以下の、BI実現の壁超克シリーズ序論で述べたように、ベーシックインカムの実現を阻む要因は、個別制度の問題ではなく、相互に関連する構造的な「壁」として存在しています。
本節では、そのうち「社会制度問題」と「社会・労働観問題」の両者を統合的に捉え、シンBI2050が目指す社会制度体系改革の基本方針を整理します。

冒頭述べた3つ目の壁と4つ目の壁を超克するための現制度体系の起点は、上記<序章>で紹介した、以下の体系一覧にありました。

分類制度名根拠となる主な法律主な対象者財源の構成主な給付・サービス内容
社会保険医療保険健康保険法
国民健康保険法
全国民(皆保険)保険料+公費療養の給付(窓口3割負担等)
年金保険国民年金法
厚生年金保険法
全国民(皆年金)保険料+公費老齢・障害・遺族年金(現金)
介護保険介護保険法40歳以上の国民保険料+公費訪問介護、施設入所等のサービス
雇用保険雇用保険法働く意思のある労働者保険料+公費失業給付、育児休業給付
労災保険労災保険法すべての労働者保険料のみ
(事業主負担)
療養補償、休業補償
公的扶助生活保護生活保護法困窮するすべての国民公費100%生活・住宅・医療等の8つの扶助
社会福祉児童福祉児童福祉法
児童手当法
児童、妊産婦、保護者公費中心保育、児童手当、児童相談所
障害者福祉障害者総合支援法身体・知的・精神障害者公費中心自立支援給付、補装具の支給
高齢者福祉老人福祉法65歳以上の高齢者公費中心養護老人ホームへの入所措置等
母子・父子福祉母子父子寡婦福祉法ひとり親家庭など公費中心貸付金、就業支援、生活指導
公衆衛生公衆衛生・母子保健地域保健法
感染症法など
全地域住民公費100%予防接種、検診、保健所の運営

この項では、この表をベースにして、先述の先行記事内容から、その重点を整理します。

1)制度自体の課題

① 現状の社会保障制度体系

現在の日本の社会保障制度は、先述のように、社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生という複数の制度体系によって構成されています。
それぞれの制度は、その時代ごとの社会課題に対応するため整備されてきたものであり、個々の制度には固有の役割と存在意義があります。
医療保険は国民皆保険を実現し、公的年金は高齢期の所得保障を担い、介護保険は超高齢社会への対応として創設されました。
また、生活保護は最後の安全網として、公的扶助の中心的役割を果たしています。
一方、社会福祉制度についても、児童福祉、障害者福祉、高齢者福祉、母子・父子福祉など、それぞれ異なる社会課題に応じて制度が整備され、公衆衛生分野では感染症対策や母子保健など、国民全体の健康維持を目的とした施策が展開されています。

つまり、現在の社会保障制度は、一つの制度として設計されたものではなく、それぞれ異なる時代背景、政策目的、財源構成、対象者を前提として積み重ねられてきた制度群の集合体であると言えます。
その結果、制度ごとに対象者、給付条件、財源、行政主体が異なり、制度間の連携や整合性よりも、それぞれの制度の維持・運営が優先される構造となっています。

この点については、以下の「社会制度問題の壁」シリーズ序章においても、制度の複雑化そのものが現代社会保障制度の構造問題であることを指摘しました。
そして、公的年金、医療保険、介護保険、生活保護、児童福祉、障害者福祉などを個別に改革するだけでは限界があり、制度体系全体を俯瞰した再設計が必要であることを確認しています。

したがって、本稿では個々の制度の詳細を改めて論じることを目的とはしません。
冒頭にある各記事・各章で積み重ねてきた制度改革の考察を踏まえながら、現行制度体系が抱える共通課題を整理し、その上でLife Security Foundation(LSF)生活保障給付を基盤とする、新たな社会制度体系の全体像を提示していきます。

② 個々の社会保障制度の課題整理

本シリーズで提案してきた制度改革は、年金制度、生活保護制度、医療・介護制度、児童福祉制度、障害者福祉制度、住宅制度、労働保険制度を、それぞれ個別に改革することを目的としているわけではありません。
共通しているのは、それぞれの制度が、本来担うべき役割以上に「生活保障」という機能を部分的に背負ってしまっている現状を見直すことにあります。

現在の社会保障制度では、
・公的年金は高齢期の生活保障を担い、
・生活保護は最低生活を保障し、
・障害年金は障害者の生活を支え、
・児童手当は子育て世帯の生活を支援し、
・雇用保険は失業時の生活を保障しています。
さらに、
・税制上の各種控除や社会保険制度も、間接的に生活保障機能を担っています。
このように、本来一つの考え方で整理されるべき生活保障が、制度ごとに分散して存在していることが、制度全体を複雑で分かりにくいものにしています。

そこでシンBI2050では、まず生活保障という共通機能をLSF生活保障給付へ集約することを基本原則とします。
その上で、
・公的年金制度は老後の所得形成を担う厚生積立年金保険制度へ、
・医療・介護制度は医療・介護サービスを中心とする厚生健康保険制度へ、
・住宅施策は住まいを保障する厚生住宅保険制度へ、
・雇用保険は働く人すべてを支える厚生就労保険制度へ
と、それぞれ本来の役割に沿って再編します。

また、児童福祉や障害者福祉などの社会福祉制度についても、その役割を生活保障から専門的支援へと明確に位置付け直します。
・児童福祉は保育・子育て支援・相談支援を中心に、
・障害者福祉は障害に伴う追加的支援や可能な範囲での自立支援や社会参加支援を中心に担う制度として再構築することで、
それぞれの専門性を一層発揮できる制度へ転換します。

つまり、本シリーズで提案してきた制度改革は、個々の制度を廃止したり縮小したりすることではなく、LSF生活保障給付を社会保障制度全体の基盤として位置付け、それぞれの制度を本来果たすべき役割へ再配置することにあります。
これが、シンBI2050が目指す「シン社会制度体系改革」の基本思想です。

2)BI実現の壁との関係

本節で考察する社会制度体系改革は、第3の壁「社会制度問題」及び第4の壁「社会・労働観問題」に対する提案ですが、その内容は、この2つの壁だけにとどまるものではありません。
社会保障制度は、財源・財政、マクロ経済、格差、人口構造、AI・AX社会など、他の壁とも密接に関係しています。
したがって、シン社会制度体系改革も、それぞれの壁との関係性を踏まえながら、一体的に理解することが欠かせません。

① 財源・財政問題(第1の壁)

財源・財政問題の壁は、シンBI2050の実現可能性を左右する最大の論点と考えられがちです。
しかしその第1シリーズで整理したように、その本質は「財源をどう確保するか」ではありません。
むしろ、通貨・財政・貨幣創造・デジタル通貨を含めた制度基盤をどのように再設計するのかという問題でした。
つまり、この壁は制度改革の前提条件ではあるものの、その目的は財源論に留まらず、「制度設計へ議論を軸として転換すること」にありました。
社会制度問題の壁は、この制度設計論を具体的な社会保障制度へ落とし込む段階として位置付けられます。

なお、「財源・財政問題の壁」シリーズは、6記事で構成されていますが、以下に、その総括記事を添付しています。
その他の5記事も、その記事からリンクを貼っていますので、確認頂ければ幸いです。

② マクロ経済問題(第2の壁)

マクロ経済問題の壁は、単なるインフレや景気対策の問題ではありません。
その第2シリーズで整理したように、現在のマクロ経済問題は、過剰流動性、金融市場偏在、生活市場、供給基盤、地域経済、人口構造など、日本社会全体の構造問題と不可分のものとなっています。
そのため、社会制度改革もまた、制度だけを個別に見直せばよいのではなく、「どの流動性を、どこへ循環させ、どの社会を維持するのか」というマクロ経済設計と一体で考える必要があります。
社会制度問題の壁は、マクロ経済問題シリーズで提示した「生活市場維持型マクロ経済構想」を具体的な制度体系へ実装する段階として位置付けられます。

「マクロ経済問題の壁」シリーズは、5記事で構成されていますが、以下に、その序論に当たる記事を添付しました。
他の4記事も、当サイト確認頂けます。
関心をお持ち頂けましたら、閲覧ください。

③ 格差社会問題(第5の壁)

格差社会問題は、所得格差だけではありません。
教育、医療、住宅、就労機会など、生活基盤そのものの格差へ広がっていることが、現代社会の大きな課題となっています。
現在の社会保障制度では、それぞれの制度が部分的に生活保障を担っているため、制度によって受けられる支援にも差が生じています。
その結果、制度間の隙間や支援対象から外れる人々が生まれ、格差が固定化される要因にもなっています。

LSF生活保障給付を共通基盤とする制度体系では、すべての国民が生活保障の出発点を共有し、その上で各専門制度が役割を担います。
これは、格差を単に所得再分配で是正するのではなく、生活基盤そのものを保障することによって、格差の固定化を防ぐ制度設計でもあります。

④ 人口構造問題(第6の壁)

少子高齢化と人口減少は、社会保障制度の持続可能性そのものを左右する問題です。
現行制度の多くは、人口増加と安定した雇用を前提として構築されてきましたが、その前提は大きく変化しています。

シンBI2050では、年齢や家族構成、就労形態によって生活保障を分けるのではなく、すべての国民に共通する生活保障基盤としてLSF生活保障給付を位置付けます。
その上で、高齢者、子ども、現役世代、それぞれに必要な制度を組み合わせることによって、人口構造の変化にも柔軟に対応できる制度体系を目指しています。

⑤ AI・AX社会問題(第7の壁)

AI・AX社会では、働き方や雇用の形態が大きく変化し、従来の雇用中心の社会保障制度だけでは対応できなくなることが予想されます。
生活保障を雇用や所得と切り離し、LSF生活保障給付によって生活基盤を支えた上で、厚生就労保険制度が学び直し、職業能力開発、転職、再就職などを支援することにより、変化する社会へ柔軟に対応することが可能になります。

このように、第7の壁であるAI・AX社会問題も、社会制度体系改革と密接に結び付いており、両者を一体として考えることがシンBI2050の基本的な考え方となっています。

なお、第8の壁「政治問題」については、本稿では取り上げていません。
その理由は、政治問題は制度そのものの設計課題ではなく、本稿で提案するシン社会制度体系改革を、どのような政治的プロセスや国民的合意形成を通じて実現していくかという「実現方法」の課題だからです。
この点については、【BI実現の壁超克シリーズ】第8の壁「政治問題」において、改めて考察・提案する予定です。

本シリーズを通じて提案してきた各制度改革は、公的年金制度、生活保護制度、医療・介護制度、児童福祉制度、障害者福祉制度、住宅制度、労働保険制度を、それぞれ個別に見直すことを目的としたものではありません。
本来の目的は、社会保障制度全体を一つの体系として再設計することにあります。

現在の社会保障制度では、それぞれの制度が独立して発展してきた結果、生活保障機能が各制度へ分散し、その上に医療、介護、福祉、住宅、就労支援などが複雑に重なり合う構造となっています。
シンBI2050では、この構造を抜本的に見直し、まず全国民共通の生活保障基盤としてLSF生活保障給付を設け、その上で各制度を本来の役割に沿って再配置することを基本方針としています。

すなわち、生活保障を中心に制度を組み立てるのではなく、生活保障を共通基盤として整備した上で、それぞれの制度が専門的な役割を担う社会保障体系へ転換することが、本稿で提案する「シン社会制度体系改革」の基本思想です。

1)LSF導入の背景・目的

① 社会保障制度の共通基盤を再構築する

現在の社会保障制度では、公的年金、生活保護、障害年金、児童手当、雇用保険、各種税制控除など、多くの制度が生活保障機能を部分的に担っています。
その結果、制度ごとに対象者や受給要件、財源、運営主体が異なり、制度全体が複雑化するとともに、制度間の重複や隙間も生じています。

そこでシンBI2050では、生活保障という共通機能をLSF生活保障給付へ集約し、すべての国民が共通の生活保障基盤の上で生活できる制度へ転換することを目指します。

② 「生活保障」と「専門保障」を分離する

LSF生活保障給付の目的は、医療や介護、福祉などの専門制度を置き換えることではありません。
生活保障をLSFが担うことによって、それぞれの制度は本来果たすべき専門的役割へ専念できるようになります。

つまり、「生活を保障する制度」と「専門的支援を行う制度」を明確に分離し、それぞれの役割を整理することが、社会制度体系改革の出発点になります。

2)厚生保険制度体系への再編

① 社会保険制度から厚生保険制度へ

LSF生活保障給付の導入によって、現在の社会保険制度も大きく役割を変えることになります。

現行制度では、生活保障機能を一部担ってきた社会保険制度ですが、生活保障の基盤がLSFへ移ることにより、それぞれの保険制度は本来保障すべき分野に特化した制度へ再編されます。

その結果、公的年金制度は厚生積立年金保険制度へ、医療保険・介護保険は厚生健康保険制度へ、住宅施策は厚生住宅保険制度へ、雇用保険は厚生就労保険制度へと、それぞれ専門性を高めた制度へ発展していきます。

② 「生活保障」から「専門保障」への転換

厚生保険制度体系が担う役割は、最低生活を保障することではありません。
老後所得形成、医療・介護サービス、住まいの保障、就労支援など、それぞれの分野における専門的保障を担う制度として再編されます。
生活保障をLSFが担うことによって、厚生保険制度は、それぞれの分野で制度本来の目的を十分に発揮できる社会保障制度へ転換していきます。

3)社会福祉制度体系の再構築

① 社会福祉制度の役割を明確化する

児童福祉制度や障害者福祉制度も、これまで生活保障と専門支援の両方を担ってきました。
しかし、LSF生活保障給付によって生活保障が共通化されれば、社会福祉制度は、子どもの健全な成長支援、障害者の社会参加支援、高齢者支援、相談支援、地域福祉など、本来専門性が求められる分野へ重点を移すことができます。

② 支援の質を高める制度へ

生活保障を目的とした審査や給付管理から解放されることで、福祉行政や福祉専門職は、伴走支援や相談支援、地域支援など、人と向き合う支援へ人的資源を集中できるようになります
これは単なる制度改革ではなく、社会福祉そのものの質を高める改革でもあります。

4)制度間の役割分担

① LSFが担うもの

LSF生活保障給付は、全国民共通の生活保障基盤として、年齢や就労形態、家族構成にかかわらず、すべての国民の最低限の生活基盤を保障します。

② 厚生保険が担うもの

厚生保険制度体系は、老後所得形成、医療・介護、住宅、就労など、それぞれの専門分野における保障を担います。

③ 社会福祉が担うもの

社会福祉制度は、児童、障害者、高齢者などに対する専門的支援、相談支援、地域支援など、人に寄り添う支援を担います。

④ 行政が担うもの

行政は、制度運営と給付管理だけでなく、社会保障制度全体の調整、地域支援、危機対応、政策評価など、社会保障全体を支える基盤としての役割を担います。
LSFの導入によって制度運営が簡素化されることで、行政は審査中心の業務から、国民生活を支えるための政策運営と専門支援へ重点を移していくことが期待されます。

以下に、シンBI2050が、LSF 生活保障給付導入により改革をめざす、社会保障制度体系を図に表しました。

            【シンBI2050社会保障アーキテクチャ】



              LSF生活保障給付
         (すべての国民共通の生活保障基盤)

                 │
    ────────────────────────────────────────
    │         │         │         │
    ▼        ▼        ▼        ▼

 厚生積立年金保険  厚生健康保険  厚生住宅保険  厚生就労保険
 (老後所得形成) (医療・介護)   (住まい)   (就労・能力開発)

                 │
                 ▼

             社会福祉制度体系
    (児童福祉・障害者福祉・生活支援・相談支援・地域福祉等)

                 │
                 ▼

               行政・自治体
    (制度運営・専門支援・地域支援・危機対応・政策実施)


税制改革は、シンBI2050における社会制度体系改革の一部であり、独立した改革ではありません。
現在の税制には、生活保障機能を補完するための各種控除制度や社会保険料軽減制度が数多く組み込まれています。
しかし、LSF生活保障給付によって全国民共通の生活保障基盤が整備されれば、これらの制度の多くは本来の役割を終えることになります。

したがって、税制改革の目的は増税や減税ではなく、生活保障制度との役割分担を整理し、より簡素で公平な税体系へ再構築することにあります。

1)所得税・住民税および社会保険料における各種控除制度廃止と変革点|消える年収の壁

① 控除制度が果たしてきた役割

現在の所得税・住民税制度には、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、各種所得控除など、多くの控除制度が設けられています。
これらは課税所得を調整する税制としてだけではなく、生活保障を補完する役割も担ってきました。
また、社会保険制度においても、被扶養者制度や保険料負担の境界が、同様の生活保障機能を果たしています。

しかし、その結果として、税制と社会保障制度が複雑に重なり合い、「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」など、さまざまな「年収の壁」を生み出してきました。

② LSF導入によって消える年収の壁

LSF生活保障給付では、生活保障そのものを制度として保障します。
そのため、税制や社会保険制度が生活保障機能を担う必要はなくなります。
結果として、各種控除制度や扶養概念の見直しが可能となり、現在問題となっている年収の壁は制度構造そのものから解消されます。
働く時間を抑えたり、就業調整を行ったりする必要がなくなり、「働けば働くほど所得が増える」という、本来あるべき制度へ転換します。

③ 税制本来の役割への回帰

生活保障をLSFが担うことによって、所得税・住民税は、本来の「所得に応じた公平な負担」を実現する制度へ戻ることができます。
税制は生活保障制度ではなく、公共サービスを支える財源制度として、その役割をより明確にすることが可能となります。

2)LSF利用時の消費税無税化

① LSF給付の目的と消費税

LSF生活保障給付は、最低限の生活を維持するための基礎的生活保障です。
その給付を生活必需品の購入に充てた際、消費税が課税されることは、生活保障給付の一部が直ちに税として回収されることを意味します。
そこでシンBI2050では、LSFによる決済については消費税を非課税とすることを提案しています。

② 生活保障機能を損なわない税制度

LSF給付は、食料、日用品、住まい、生活サービスなど、生活基盤を支えるために設けられる制度です。
その利用に対して課税しないことは、生活保障制度としての機能を維持するための制度設計であり、単なる減税政策ではありません。

3)消費税から購買税への転換

① なぜ購買税へ転換するのか

LSF利用時の消費税無税化を導入すると、現行の消費税制度との整合性を見直す必要があります。
そこでシンBI2050では、消費税制度全体を見直し、「購買税」という新たな考え方への転換を提案しています。
本件については、以下の記事を参照ください。
⇒ 社会制度問題の壁⑤|LSF生活保障給付で消える年収の壁と厚生住宅保険制度創設のシンBI2050 – シン・ベーシックインカム2050論

② 生活保障と税制度の両立

購買税への転換によって、LSFによる生活保障部分には課税せず、それ以外の一般消費について公平に負担を求めることが可能になります。
これにより、生活保障制度と税制度が矛盾することなく、一つの制度体系として機能することが期待されます。

③ 社会制度体系改革との一体性

税制改革だけを切り離して実施しても、シンBI2050が目指す制度改革は完成しません。
LSF生活保障給付、厚生保険制度体系、社会福祉制度体系、そして税制度が、それぞれ役割を分担しながら一体となって機能することによって、初めて「シン社会制度体系改革」が完成します。

以上のように、LSF生活保障給付の導入は、新たな給付制度を創設することが目的ではありません。
生活保障制度、厚生保険制度、社会福祉制度、税制度をそれぞれ本来の役割へ再配置し、一つの社会保障体系として再構築することこそが、本節で示したシン社会制度体系改革の基本方針です。

第1節では、シンBI2050が目指す社会制度体系改革の基本理念と、その基盤となるLSF生活保障給付の位置付けについて整理しました。
しかし、LSF生活保障給付だけで、すべての社会保障機能を担うことはできません。
また、それをめざすものでもありません。
これまでの社会保障制度は、「生活保障」「社会保険」「社会福祉」が制度ごとに発展してきた結果、それぞれが異なる目的・財源・対象者・運営主体を持ち、制度間の重複や空白が生じる複雑な体系となっています。

そこでシンBI2050では、LSF生活保障給付を社会保障制度の第1階層に位置付け、その上に社会保険制度を再編し、さらに社会福祉制度を再構築する三層構造を採用します。

本節では、その中核となる厚生保険制度体系について、現行制度の課題を整理しながら、その基本的な考え方を提示します。

LSF生活保障給付を社会保障制度の基盤に位置付ける以上、その上に構築される社会保険制度についても、従来の枠組みのままでよいとは言えません。
まずは、現行社会保険制度がどのような背景の下で整備され、現在どのような課題を抱えているのかを整理した上で、厚生保険制度体系への再編が必要となる理由について考えます。

1)現行社会保険制度の特徴

① 社会保険制度の成立背景

日本の社会保険制度は、高度経済成長期における安定した雇用環境と人口増加を前提として整備されてきた経緯があります。
会社に就職し、長期間同じ企業で働き、定年まで保険料を納め続けることを標準的なライフスタイルと想定し、その期間に応じて年金や医療、雇用保険などの給付を受ける制度として発展してきました。

この仕組みは、戦後日本の経済成長を支える重要な社会基盤として大きな役割を果たしましたが、一方で、制度ごとに個別最適を積み重ねてきた結果、社会全体として統一的な制度体系を形成するまでには至りませんでした。

現在では、年金、医療、介護、雇用、労災といった制度が、それぞれ独立した制度として運営されており、加入条件や保険料負担、給付内容も制度ごとに異なる複雑な構造となっています。

② 社会保険制度の役割と限界

社会保険制度は、病気や失業、高齢化など、個人だけでは対応が難しい生活上のリスクを社会全体で支える仕組みとして大きな成果を上げてきました。
しかし、その前提となっていた社会経済環境は大きく変化しています。
非正規雇用やフリーランスの増加、副業・兼業の一般化、転職の常態化など、働き方は大きく多様化しました。
また、人生100年時代と言われる現在では、学び直しやキャリア転換を繰り返しながら働くことが、まだまだですが、一般的になりつつあると言えるでしょう。
にもかかわらず、多くの社会保険制度は、依然として「企業に継続雇用される正社員」そして大手企業を中心に設計されており、多様な働き方との間に制度上の不整合が生じています。

その結果、年収の壁や加入要件、制度間の格差など、多くの課題を抱えるようになりました。

③ 人口構造変化による制度不全

さらに深刻なのは、人口構造そのものが制度創設当時とは大きく変化していることです。
少子高齢化の進行により、保険料を負担する現役世代は減少する一方、年金・医療・介護などの給付を必要とする高齢者は増え続けています。
また、単身世帯の増加や未婚率の上昇、地域社会の変化などにより、従来の家族による相互扶助機能も弱まりつつあります。

このような人口構造の変化は、個々の社会保険制度だけで対応できる問題ではなく、日本社会全体の制度設計を見直すことを求めています。

シンBI2050では、この構造的な変化を一時的な制度改正によって乗り切ろうとするのではなく、LSF生活保障給付を基盤とした新しい社会保障体系の上に、社会保険制度そのものを再編することで、長期的に持続可能な制度体系の構築を目指します。

2)LSF導入が社会保険制度へ及ぼす影響

① 基礎生活保障機能の移行、生活保護制度の使命終了

シンBI2050における最大の制度改革は、LSF生活保障給付によって、すべての国民に対する基礎生活保障を制度として恒常的に確立することにあります。
これにより、現行の生活保護制度が担ってきた「最低生活の保障」という役割は、個別の救済制度から普遍的な生活保障制度へ移行します。
もちろん、生活保護制度が担ってきたすべての機能がLSFへ移るわけではありません。
生活扶助や住宅扶助はLSF生活保障給付へ、かつ一部は厚生住宅保険制度へ、医療扶助・介護扶助は総合的な医療・介護制度へ、就労支援機能は後述する厚生就労保険制度へ、それぞれ役割を再配置・再編集することになります。

その結果、生活保護制度は歴史的使命を終え、制度としては発展的に解消されることになります。
これは生活保護制度を否定するものではありません。
社会保障制度が成熟・シン化した結果として、その生活保障機能が、より公平で普遍的な制度へ引き継がれることを意味しています。

② 保険制度本来の役割への回帰

基礎生活保障をLSF生活保障給付が担うことにより、社会保険制度は、本来果たすべき役割へ立ち返ることが可能になります。
本来、保険制度は、生活そのものを保障する制度ではなく、病気、失業、住宅、老後など、それぞれの生活上のリスクに対応するための制度です。
しかし現実には、最低生活保障まで社会保険制度が部分的に担わざるを得なくなり、制度間の役割が曖昧になっていました。

LSF生活保障給付を第1階層に置くことで、社会保険制度は基礎生活保障から解放され、それぞれの制度目的に応じた保障機能へ特化することができます。
これは単なる制度整理ではなく、社会保障制度全体の役割分担を明確化し、制度運営の効率性と持続可能性を高めることにもつながります。

③ 社会保険制度再編の必要性|社会保険から厚生保険へ

もっとも、基礎生活保障機能をLSF生活保障給付へ移しただけでは、現在の社会保険制度が抱える課題は解決しません。
年金、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険などは、それぞれ異なる歴史的経緯の中で整備されてきたため、制度目的や加入条件、財源、運営主体が必ずしも統一されておらず、制度間の重複や空白も少なくありません。
また、少子高齢化や多様な働き方の進展など、社会経済環境が大きく変化する中で、従来の制度体系のままでは対応が困難になりつつあります。

そこでシンBI2050では、LSF生活保障給付を社会保障制度の基盤とした上で、社会保険制度全体を再編し、新たな「厚生保険制度体系」として再構築することを提案しています。
ここでいう「厚生」とは、従来の福利厚生や企業厚生を意味するものではありません。
国民一人ひとりが、生涯を通じて安心して生活し、働き、住み、健康を維持し、自身の意志と能力を実現・発揮できる社会を支える制度体系全体を表す概念として位置付けています。

したがって、厚生年金制度、厚生健康保険制度、厚生住宅保険制度、厚生就労保険制度は、それぞれ独立した制度ではなく、LSF生活保障給付を土台とする一つの厚生保険制度体系として相互に連携しながら機能することになります。

この「社会保険から厚生保険への再編」は、単なる制度名称の変更ではなく、第1の壁「財源・財政問題」で整理した制度設計論と、第2の壁「マクロ経済問題」で整理した生活市場維持・社会流動性設計を、具体的な社会保障制度として実装するための改革でもあります。

前項では、現行社会保険制度が、人口構造や働き方、社会経済環境の変化に十分対応できなくなっていることを整理しました。
しかし、その解決策は、既存制度を一つずつ改正していくことではありません。
シンBI2050では、LSF生活保障給付を社会保障制度の基盤に据えた上で、社会保険制度全体を新たな厚生保険制度体系として再編し、それぞれの制度が本来果たすべき役割を明確に分担することをめざしています。

ここでは、その基本となる役割分担の考え方について整理します。

1)生活保障制度と厚生保険制度の役割分担

① LSFが担うもの

Life Security Foundation LSF生活保障給付は、すべての国民に共通する基礎生活保障を担う制度です。
従来の生活保護制度や各種所得保障制度のように、生活が困窮してから支援を受ける制度ではなく、生活困窮そのものを予防する社会基盤として位置付けられます。

したがって、LSFが担うのは、「最低生活保障」ではなく、「基礎生活保障」です。
生活に必要な最低限の所得基盤を全国民へ普遍的に保障することで、生活不安そのものを小さくし、その上で、それぞれの人生や働き方に応じた保障を厚生保険制度が担う構造となります。
LSFは社会保障制度全体の土台であり、他の制度に代わる制度ではありません。

② 保険制度が担うもの

厚生保険制度は、LSF生活保障給付では対応できない、それぞれの生活上のリスクに対する保障を担います。
具体的には、
・老後所得保障は厚生積立年金制度、
・疾病・医療保障・介護保障は厚生健康保険制度、
・住居の安定は厚生住宅保険制度、
・就労・職業職務能力・キャリア形成は厚生就労保険制度
というように、それぞれの制度目的を明確に分担します。

つまり、厚生保険制度は、「生活を保障する制度」ではなく、「人生の各場面で発生するリスクを保障する制度」として、本来の役割へ回帰します。

③ 企業が担うもの

企業もまた、新しい社会保障体系の重要な担い手です。
しかし、その役割は、従来のように生活保障そのものを担うことではありません。
基礎生活保障はLSFが担い、社会保険機能は厚生保険制度が担うことにより、企業は雇用の創出、人材育成、安全な職場環境の整備、生産性向上など、本来果たすべき役割へ集中できるようになります。

また、働き方の多様化が進む中で、企業に依存した社会保障制度から脱却することは、正規・非正規、自営業、フリーランスなど、多様な働き方に中立な制度体系を構築することにもつながります。

④ 公費負担と役割分担

新しい社会保障体系では、公費負担も役割に応じて整理されます。
LSF生活保障給付は、社会全体で基礎生活保障を支える制度として、公的な制度設計に基づき発行する専用デジタル通貨を基盤とした、特別会計制度において管理・運営されます。
一方、厚生保険制度は、制度の性格に応じて個人及び企業が負担する保険料と公費を適切に組み合わせながら運営されます。
また、社会福祉や地域福祉、障害者支援など、公費による支援が適切な分野については、引き続き行政が中心となって担います。

このように、「誰が負担するか」ではなく、「誰が何を担うか」を明確にすることによって、制度間の重複や空白を減らし、持続可能な社会保障制度体系を構築することが、シンBI2050が目指す社会制度改革の基本方針です。

以上の考え方を整理すると、新しい社会保障制度体系における各制度・各主体の基本的な役割分担は、概ね以下のようになります。
重要なのは、一つの制度がすべてを担うのではなく、それぞれが本来の役割を明確にしながら相互に連携することなのです。

担い手基本的役割
LSF生活保障給付全国民の基礎生活保障
厚生保険制度人生各段階・各リスクへの保障
社会福祉制度個別支援・伴走支援・現物サービス
企業雇用・人材育成・職場環境整備
行政制度運営・公費負担・地域支援


このように、LSF生活保障給付を基盤とし、その上に厚生保険制度、社会福祉制度、企業、行政がそれぞれの役割を担うことで、重複や空白の少ない社会保障制度体系を構築することができます。
次項以降では、この考え方に基づき、新しい厚生保険制度体系を構成する各制度について、その役割と制度設計の基本方針を整理していきます。

2)シン厚生保険制度体系

LSF生活保障給付を社会保障制度の基盤に位置付けた場合、その上に構築される厚生保険制度は、それぞれ異なる生活上のリスクに対応する専門的な保障制度として再編されます。
現行制度のように、それぞれが独立して制度を発展させるのではなく、共通した設計思想の下で相互に連携することが、新しい厚生保険制度体系の基本的な考え方です。
以下、それぞれの制度の概要を整理しました。

① 厚生健康保険

厚生健康保険制度は、病気やけが、出産などに伴う医療保障と従来の介護サービス保障を担う制度です。
LSF生活保障給付によって基礎生活保障が確保されることで、厚生健康保険制度は医療保障・介護保障本来の役割に、より集中・強化することが可能になります。
また、高齢化が進む社会に対応するため、医療と介護との連携を一層強化し、健康寿命の延伸や予防医療を重視した制度へ発展させることが期待されます。

② 厚生就労保険

厚生就労保険制度は、従来の雇用保険や労災保険を発展的に再編し、「働くこと」そのものを生涯にわたり支える制度として位置付けます。
失業時の所得保障だけでなく、学び直し、リスキリング、キャリア形成、転職支援、起業支援、安全な就労環境の確保など、生涯就労を支援する総合的な制度へ転換します。
働き方が多様化する時代に対応し、会社員だけでなく、自営業者やフリーランスなども含めた新しい就労保障制度として整備することをめざします。

③ 厚生積立年金保険

厚生積立年金保険制度は、LSF生活保障給付によって保障される基礎生活の上に、自らの就労や保険料負担に応じた老後所得を形成する制度です。
現行の賦課方式中心の制度から、積立方式を基本とした持続可能な制度へ段階的に移行することを想定しています。
これにより、基礎生活保障と老後所得保障の役割分担を明確にし、人口構造の変化にも対応しやすい制度体系を構築します。

④ 厚生住宅保険

厚生住宅保険制度は、「住まい」を生活保障の重要な要素として位置付け、住宅に関するリスクを社会全体で支える制度です。
住宅扶助の考え方を発展させ、住宅確保支援、公営住宅政策、空き家活用、地方移住支援などを総合的に連携させることで、安心して暮らし続けられる住環境の整備を目指します。
住まいを単なる個人資産ではなく、生活基盤の一部として捉えることが、新しい住宅政策の基本的な考え方となります。

⑤ 今後検討すべき保険制度

2つの壁を超克すべく、本節では、厚生健康保険制度、厚生就労保険制度、厚生積立年金保険制度、厚生住宅保険制度の4制度を、新しい厚生保険制度体系の中核として提案しました。
一方、社会保障制度は、人口構造や働き方、技術革新、社会経済環境の変化に応じて、今後も継続的な見直しが必要となります。
したがって、将来新たな社会的リスクや社会的ニーズが生じた場合には、その内容に応じて保険制度化の可能性を検討していくことも重要です。

シンBI2050が提案する厚生保険制度体系は、固定的な制度ではなく、社会の変化に対応しながら発展していく柔軟な制度体系として位置付けています。

厚生保険制度体系を現実的な制度として構想するためには、制度理念だけでなく、財政構造と保険料体系の考え方を整理しておく必要があります。
ただし、ここで提示する数字は、最終的な制度設計数値ではなく、現行制度の保険料率、過去記事で整理した再配分方針、LSF生活保障給付導入後の役割分担を踏まえた試案です。

重要なのは、新しい厚生保険制度を、既存制度の上に単純に積み増すことではありません。
LSF生活保障給付によって基礎生活保障を社会保障制度の第1階層へ移し、これまで年金制度や生活保護制度、各種控除制度が部分的に担ってきた生活保障機能を再配置することで、社会保険料体系そのものを組み替えることにあります。

① LSF導入に伴う旧基礎年金保険料の取り扱い方針|シン厚生保険制度群への再配分

現行の厚生年金保険料率は、労使合計18.3%、本人負担9.15%、事業主負担9.15%を基本としています。
過去記事では、この厚生年金保険料を単純に削減するのではなく、LSF生活保障給付の導入により公的年金制度の基礎生活保障機能が縮小することを踏まえ、新しい厚生保険制度群へ再配分する方針を示してきました。

この考え方に立てば、旧基礎年金相当部分は、LSF生活保障給付へ移行する基礎生活保障機能として整理されます。
一方、所得比例的な老後保障部分の一部は、厚生積立年金保険制度とし、積立方式を基本とする制度へ再編します。

したがって、厚生年金保険料18.3%、個人負担分9.15%をそのまま維持するのではなく、その一部を、厚生積立年金保険、厚生健康保険、厚生就労保険および厚生住宅保険へ再配分することが、シンBI2050における保険料体系再設計の基本方針となります。
そしてその残りが、個人及び(法定福利費を負担する)企業の手元に戻り、手取りが増えることになります。

② 保険料率システムの簡素化|税制改革と負担率基準方式へ

現行制度では、所得税、住民税、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料などが、それぞれ異なる制度目的、算定基準、徴収方法によって運営されています。
その結果、国民にとって自分が何にどれだけ負担しているのかが分かりにくく、制度全体の透明性も低くなっています。

シンBI2050では、LSF生活保障給付の導入と税制改革を前提に、所得税・住民税・社会保険料を別々に積み重ねるのではなく、個人の合計負担率を一つの基準として管理する方式へ転換することを提案します。

この方式では、個々の保険料率を独立して上げ下げするのではなく、所得税、住民税、厚生保険料を含めた総負担率の範囲内で、制度目的ごとに財源を配分します。
これにより、制度追加による負担増ではなく、制度再編による負担構造の組み替えが可能になります。

③ 合計負担率管理

厚生保険制度体系の保険料設計では、個別制度ごとの収支だけでなく、個人、企業、国の合計負担率を管理することを想定しています。

特に個人負担については、給与所得者本人の税及び社会保険料負担率を一つの基準として管理し、その中でLSF、厚生保険、所得税・住民税の役割を再配分することが必要になります。
シリーズ記事内でも、本人負担率全体を基準として、厚生住宅保険制度を新たな追加負担ではなく、社会保険制度全体の再編によって生み出される財源で設計する考え方を示してきました。

この考え方に基づけば、厚生保険制度体系は、「制度ごとに必要だから保険料を上げる」のではなく、「国民生活を支えるために、どの制度へどれだけ配分するか」を総合的に設計する制度となります。

① 総所得基準導入の背景と目的

シンBI2050が提案する「合計負担率管理」を実効性ある制度として運用するためには、その算出・算定の基礎となる所得基準を統一する必要があります。
現行制度では、所得税、住民税、社会保険料のそれぞれで所得の定義や控除制度、算定方法が異なり、さらに給与所得、事業所得、金融所得などについても異なる課税方式が採用されています。
その結果、制度間の比較が困難となるだけでなく、所得把握の不公平や「年収の壁」など、様々な制度的歪みを生み出しています。

そこでシンBI2050では、税制および厚生保険制度の共通基準として「総所得基準」を導入し、すべての所得を可能な限り共通の基準で把握・算定することを基本方針とします。
これにより、所得税、住民税、厚生保険料のすべてを同一の分母で設計することが可能となり、制度全体の公平性・透明性・持続可能性を大きく高めることができます。

② 総所得基準の基本的な考え方

総所得基準では、個人が一年間に取得する経済的利益を、次の4つの区分に整理します。

a.労働・事業所得

給与所得、事業所得、フリーランス報酬、副業収入など、就労や事業活動によって得られる所得です。

b.資産所得

利子、配当、不動産所得、株式・投資信託等の譲渡益など、資産の保有・運用によって得られる所得です。

c.移転所得

生前贈与など、資産の移転によって取得する所得です。ただし相続については独立した税制課題として別途検討します。

d.その他の所得

制度設計上、新たに総所得へ算入すべき所得については、今後の税制改革と併せて順次制度化を検討します。

なお、企業が従業員へ提供する福利厚生等については、個人所得へ算入するのではなく、企業側における調整課税制度として別途検討することを基本方針とします。

③ 総所得基準を支えるデジタル社会基盤

総所得基準を実効性ある制度とするためには、高精度な所得把握システムが不可欠です。
シンBI2050では、マイナンバー制度を基盤としたデジタル社会基盤の整備を前提とし、給与・報酬情報、金融資産情報などを適切に連携・把握することにより、可能な限り正確で公平な所得把握を実現することを目指します。
具体的な制度設計については、行政DXやデジタル社会基盤改革の中で別途詳細に検討します。

④ 総所得基準(分母)の概算モデル

総所得基準による負担率試算を行うためには、日本全体の年間総所得額(分母)を設定する必要があります。
本稿では、現時点で公表されている各種公的統計を基礎資料とし、給与所得、事業所得、資産所得等を総合的に勘案したモデルケースとして、年間総所得総額を試算します。

【表 総所得基準(年間総所得)モデル値】

区分概算額(兆円)主な参考資料
雇用者所得(給与・賞与等)約260国税庁「民間給与実態統計調査」、内閣府「国民経済計算」
個人事業所得等約20内閣府「国民経済計算」
資産所得(利子・配当・賃貸・譲渡益等)約35内閣府「国民経済計算」、日本銀行「資金循環統計」
その他調整項目約5シンBI2050制度設計上の推計値
総所得基準(試算)約320兆円シンBI2050試算

※本表は制度設計のための概算モデルであり、今後の統計整理及び制度設計の進展に応じて適宜見直しを行う予定です。

⑤ 本稿における位置付け

以降、本稿で提示する厚生積立年金保険、厚生健康保険、厚生就労保険及び厚生住宅保険の保険料率試算は、すべてこの総所得基準(約320兆円)を共通の分母として算出します。

その上で、各制度の現行歳入・歳出構造を整理・分析し、新制度に必要な財政規模を試算した後、4制度全体の保険料率及び税を含めた合計負担率の最適な配分を検討・提示していきます。

本制度は、LSF生活保障給付によって現行年金制度の基礎生活保障機能を切り離した後に残る、「老後の生活水準向上のための積立制度」として位置付けるものです。
そのため、現行制度の延長ではなく、「積立型老後資産形成制度」として制度設計を全面的に見直します。

① 現行国民年金・厚生年金保険制度の財源・財政と問題点
a.現行年金制度の財政構造

現行制度では、
・国民年金(基礎年金)
・厚生年金
の2制度により運営されています。
しかし実際には、
・基礎年金部分
・報酬比例部分
が複雑に重なり、
さらに
・保険料
・国庫負担
・年金積立金(GPIF)運用益
など複数の財源で構成されています。
制度全体が極めて分かりにくく、国民が財政構造を理解しにくい制度となっています。

以下に、2023年度の概算値を集計しました。

【表 現行公的年金制度の概算財政規模(2023年度ベース)】

項目概算額
年金給付費約56.4兆円
保険料収入約40兆円
国庫負担約13兆円
GPIF運用収益等約3兆円(年度変動あり)

※概算値。制度全体の規模を把握するためのモデル値。

b.LSF導入による制度転換

LSF生活保障給付の導入により、最低生活保障機能はすべてLSFへ移行します。
その結果、厚生積立年金保険は、「生活保障」ではなく、「老後資産形成」のみを担う制度へ転換されます。
制度目的が明確になることで、現役世代と高齢世代双方にとって理解しやすい制度となります。

c.現行制度の主な課題

・生活保障と積立制度が混在している。
・現役世代の保険料負担が重い。
・少子高齢化により賦課方式の持続性が低下している。
・制度全体が複雑で理解しにくい。

② LSF導入による厚生積立年金制度の保険料システム試案
a.制度の基本構造

厚生積立年金保険は、現役時代の積立を基本とする長期運用型保険制度とします。
LSFが最低生活保障を担うため、積立金はすべて老後所得向上のために活用されます。

b.保険料率試案

本稿では、総所得基準(320兆円)を用い、次の試案を提示します。

【表 厚生積立年金保険制度(第1次試案)】

区分試案
総所得基準約320兆円
個人負担率1.0%
企業負担率1.0%(0%案も今後検討)
保険料率合計2.0%
年間積立額約6.4兆円

※企業負担については、退職給付制度との整理を含め、今後さらに検討する余地があります。

c.積立金の管理

徴収した保険料は、現行GPIFと同様に、長期・分散投資を基本とした運用を行います。運用益は加入者全体へ公平に還元されます。

③ 厚生積立年金制度の管理運営方法試案と課題
a.独立積立勘定方式

厚生積立年金保険は、他の厚生保険制度とは独立した積立勘定として管理します。
財政を明確に区分することで、制度の透明性を高めます。

b.運用機関

運用については、現行GPIFを発展的に再編した独立運用機関を基本とします。
安全性・流動性・収益性のバランスを重視し、長期安定運用を行います。

c.情報公開

運用状況、積立残高、運用利回り、将来給付見込みについては、デジタル社会基盤を活用し、加入者が随時確認できる仕組みを整備します。

④ 期待効果
a.保険料負担の大幅軽減

現行制度では、厚生年金保険料は賦課方式を前提としており、総所得基準へ換算すると、個人・企業とも約6.25%程度の負担となります。
シンBI2050では、LSF生活保障給付へ最低生活保障機能を移行することにより、厚生積立年金保険は老後資産形成を目的とする積立制度へ転換します。
その結果、第1次試案では個人・企業とも約1.0%程度まで保険料率を引き下げることが可能となり、現役世代の保険料負担を大幅に軽減できます。

b.制度目的の明確化

LSFは生活保障、厚生積立年金保険は資産形成、という役割分担が明確になります。

c.長期財政の安定

積立方式を基本とすることで、少子高齢化の影響を受けにくい制度へ転換できます。

d.他制度への財源再配分

現行厚生年金保険制度の保険料を総所得基準へ換算すると、個人・企業とも約6.25%となります。
このうち、新制度に必要となる厚生積立年金保険料約1.0%を除く約5.25%は、新しい厚生保険制度体系の財源として再配分可能となります。
この再配分可能財源は、厚生健康保険、厚生就労保険及び新設する厚生住宅保険制度の財政基盤として活用するとともに、最終的には個人及び企業双方の負担軽減へつなげることが期待されます。

【表 厚生年金制度改革による再配分可能財源(概算)】

項目個人企業
現行厚生年金保険負担率(総所得換算)約6.25%約6.25%
厚生積立年金保険▲1.00%▲1.00%
再配分可能率約5.25%約5.25%

厚生健康保険制度は、シンBI2050が提案する4つの厚生保険制度の中で、最も大きな財政規模を持つ中核的な制度です。
現行制度では、医療保険制度と介護保険制度が別々に設計・運営されており、さらに医療保険制度自体も、被用者保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度など複数の制度に分かれています。

そのため、制度全体の財政規模や財源構成を国民が理解することは容易ではありません。
そこで本項では、まず現行制度の財源・財政構造を整理した上で、LSF生活保障給付を基盤とした新しい厚生健康保険制度の財政モデル及び保険料体系について検討します。

① 現行医療・介護保険制度の財源・財政と問題点
a.現行医療保険制度の財政構造

現在の医療保険制度は、加入者の属性ごとに複数の保険制度へ分かれています。

【表 現行医療保険制度(2023年度概算)】

制度主な加入者年間給付費(概算)
協会けんぽ中小企業被用者約12兆円
健康保険組合大企業被用者約9兆円
共済組合公務員等約4兆円
国民健康保険自営業・無職等約12兆円
後期高齢者医療制度75歳以上約11兆円
合計約48兆円

制度ごとに加入者、財源、保険料率及び公費負担割合が異なり、制度間の財政調整も複雑化しています。
その結果、医療保障という同じ目的でありながら、制度ごとの負担感や財政構造に大きな違いが生じています。

b.介護保険制度の財政構造

介護保険制度は、40歳以上の保険料と国・地方自治体の公費によって運営されています。

【表 介護保険制度(2023年度概算)】

項目金額
年間介護給付費約11.5兆円
利用者自己負担約1.5兆円
公費約5.8兆円
保険料約4.2兆円

高齢化の進展に伴い、介護サービス費は年々増加しており、制度の持続可能性が大きな課題となっています。

c.医療・介護制度全体の財源構成

医療制度と介護制度を合わせると、年間約59.6兆円規模の社会保障制度となります。

【表 医療・介護制度全体の財源構成(2023年度概算)】

財源金額
利用者自己負担約7.1兆円
保険料約29.3兆円
国・地方公費約23.2兆円
合計約59.6兆円

医療・介護制度は、「保険制度」と呼ばれていますが、実際には保険料だけでなく、多額の国・地方公費によって支えられている制度であることが分かります。

d.医療・介護制度全体の歳出構成

次に、制度全体の支出構成を整理すると、次のようになります。

【表 医療・介護制度全体の歳出構成(2023年度概算)】

区分金額
医療給付費約48.1兆円
介護給付費約11.5兆円
合計約59.6兆円

制度全体では約60兆円規模の財政を運営していることになり、4つの厚生保険制度の中でも圧倒的に大きな割合を占めています。

e.現行制度の主な課題

現行制度には、次のような構造的課題があります。
・医療保険制度が複数の制度に分かれ、制度間の公平性や財政調整が複雑になっている。
・医療保険と介護保険が別制度として運営されているため、人生全体を通じた健康保障制度として一体的に設計されていない。
・保険料、利用者自己負担、公費の役割分担が国民に分かりにくく、制度全体の財政構造が見えにくい。
・少子高齢化や医療技術の高度化に伴い、歳出は今後も増加することが見込まれる一方、その財源確保については制度ごとの対応にとどまり、社会保障制度全体としての最適化が図られていない。

② 総所得基準による現行制度負担率換算
a.負担率算定の考え方

前項では、現行の医療・介護制度全体の年間財政規模が約59.6兆円であり、その財源は「利用者自己負担」「保険料」「国・地方公費」の3つによって構成されていることを確認しました。
ここでは、そのうち保険料部分について、新たに設定した「総所得基準(約320兆円)」を共通の分母として換算し、現行制度における実質的な負担率を算出します。

この作業の目的は、現行制度とシンBI2050の制度設計を同じ基準で比較できるようにすることにあります。

b.現行制度における保険料負担率

医療・介護制度全体の保険料収入は約29.3兆円です。

これを総所得基準約320兆円で除すると、現行制度における実質保険料率は約9.15%となります。
なお、この保険料は、個人と企業が共同で負担しているため、それぞれの実質負担率は次のようになります。

【表 現行医療・介護制度の実質保険料負担率(総所得基準換算)】

区分保険料収入実質負担率
個人負担約16.2兆円約5.05%
企業負担約13.1兆円約4.10%
合計約29.3兆円約9.15%

※総所得基準:約320兆円

現行制度では、企業負担分を含めた法定福利費が雇用コストを押し上げる要因となる一方、個人側にとっても保険料負担が可処分所得を圧迫する要因となっています。

c.現行制度から見える課題

現行制度では、医療保険制度ごとに保険料率や算定方法が異なり、さらに介護保険料も別建てで徴収されています。
そのため、加入者自身が「自分は医療・介護制度全体として何%負担しているのか」を把握することは容易ではありません。
また、給与所得を中心とした保険料体系となっているため、事業所得や資産所得との負担の均衡にも課題が残されています。

シンBI2050では、総所得基準を共通の分母とすることにより、保険制度全体を統一した考え方で設計し、制度間の公平性と透明性を高めることを目指します。

③ LSF導入による厚生健康保険制度の財政試案
a.制度再編の基本的な考え方

LSF生活保障給付の導入後も、医療及び介護サービスそのものは引き続き社会全体で支える必要があります。
したがって、厚生健康保険制度では、現行制度の医療・介護サービスを基本的に維持しながら、制度運営のみを抜本的に見直します。

具体的には、
・複数に分かれている医療保険制度を統合する。
・医療保険と介護保険を一体的に運営する。
・保険料算定基準を総所得基準へ統一する。
・制度間の財政調整を簡素化する。
ことを基本方針とします。

b.新制度における必要歳出試算

シンBI2050では、医療及び介護サービスの水準を基本的に維持することを前提として、第1次試算では現行制度と同規模の財政を必要歳出として設定します。

【表 厚生健康保険制度の必要歳出試算(第1次試案)】

項目金額
医療サービス約48.1兆円
介護サービス約11.5兆円
必要歳出合計約59.6兆円

これは現行制度をそのまま引き継ぐという意味ではなく、現時点で必要と考えられる医療・介護サービス全体の規模を示したものです。

次に、この必要歳出をどのような財源で賄うかについて検討します。

c.必要歳入及び財源構成試案

厚生健康保険制度では、必要歳出約59.6兆円を、①利用者自己負担、②国・地方公費、③保険料収入の3つの財源によって賄います。
本稿では、制度設計の第1次試案として、現行制度の利用者自己負担及び国・地方公費の規模を基本的に維持するものと仮定します。
その結果、保険料によって確保すべき必要歳入は約29.3兆円となります。

【表 厚生健康保険制度の必要歳入試算(第1次試案)】

財源区分金額
利用者自己負担約7.1兆円
国・地方公費約23.2兆円
保険料収入約29.3兆円
必要歳入合計約59.6兆円

この表から分かるように、厚生健康保険制度は保険料だけで運営される制度ではありません。
現行制度においても、制度全体の約4割は国・地方自治体による公費で支えられており、この考え方は新制度においても基本的に維持します。
したがって、保険料率を検討する際には、「必要歳出全体」を保険料だけで負担するという考え方ではなく、公費及び利用者自己負担を含めた財源全体の中で位置付けることが重要となります。

d.新制度における保険料率算定の考え方

ここで重要となるのが、本稿で採用する保険料率算定方法です。
一般的には、必要保険料収入約29.3兆円を総所得基準約320兆円で除することにより、必要保険料率を算出することになります。

その結果、
約29.3兆円 ÷ 約320兆円 ≒ 約9.15%
となり、これは現行制度を総所得基準へ換算した場合の実質保険料率と一致します。
しかし、シンBI2050では、この9.15%をそのまま新制度の保険料率とする考え方は採用しません。
その理由は、厚生積立年金保険制度への移行によって、現行厚生年金保険制度から大きな再配分可能財源が生まれるためです。

本制度では、その再配分可能財源を、厚生健康保険、厚生就労保険及び厚生住宅保険へ適切に再配分しながら、新しい保険料体系を設計することを基本方針としています。
したがって、厚生健康保険制度単独で最終的な保険料率を決定するのではなく、第2節後半で示す「4つの厚生保険制度全体の保険料体系」の中で最終的な配分率を決定します。

このような考え方を採用することにより、一つの制度だけが財政的に過大な負担を負うことなく、4制度全体として最適な保険料体系を構築することが可能となります。

④ 厚生健康保険制度の管理運営方法試案
a.医療・介護制度の一体運営

現行制度では、医療保険制度と介護保険制度がそれぞれ独立した制度として設計・運営されており、財政管理や保険料徴収も別々に行われています。
しかし、人生という視点で見ると、医療と介護は連続した生活保障であり、制度を分離して管理する合理性は年々薄れています。

そこでシンBI2050では、医療保険と介護保険を「厚生健康保険制度」として一体的に運営し、財政管理、保険料徴収及び給付管理を一本化することを基本方針とします。
これにより、制度間の財政調整や事務手続きを大幅に簡素化するとともに、ライフステージ全体を通じた切れ目のない健康保障を実現します。

b.保険者制度の再編

現行制度では、
・協会けんぽ
・健康保険組合
・共済組合
・国民健康保険
・後期高齢者医療制度
など、多数の保険者が存在し、それぞれが保険料徴収、資格管理及び給付管理を行っています。

シンBI2050では、保険料算定基準を総所得基準へ統一するとともに、保険者機能についても段階的な再編・統合を進め、制度運営の効率化を図ります。
一方で、地域医療計画や医療提供体制については、地域ごとの実情を踏まえた運営を維持し、中央集権的な制度ではなく、全国共通の制度基盤と地域運営を組み合わせた仕組みを目指します。

c.デジタル社会基盤との連携

厚生健康保険制度では、保険料算定、資格管理、給付管理及び診療情報をデジタル社会基盤と連携させることにより、行政コストの削減と制度運営の効率化を図ります。

また、個人ごとの健康情報、医療履歴及び介護サービス利用履歴についても、本人の同意を前提として一元的に管理し、必要な医療・介護サービスをより円滑に提供できる環境を整備します。
ただし、個人情報保護及び情報セキュリティについては、制度運営の前提条件として十分な安全対策を講じることが不可欠です。

⑤ 期待効果
a.制度体系の簡素化と透明性の向上

医療保険制度と介護保険制度を一体化し、保険料算定基準を総所得基準へ統一することにより、制度全体の財政構造が分かりやすくなります。
また、保険料、公費及び利用者自己負担の役割分担も明確となり、制度運営の透明性が大きく向上します。

b.公平な保険料負担

給与所得だけでなく、事業所得や資産所得を含めた総所得基準を採用することにより、働き方や所得の種類による負担格差を縮小することができます。
これにより、多様な働き方が広がる社会に対応した、より公平な保険料体系を構築することが可能となります。

c.持続可能な財政運営

医療・介護制度を個別に維持するのではなく、厚生健康保険制度として一体的に管理することにより、制度全体を俯瞰した財政運営が可能となります。
さらに、現行厚生年金制度改革によって創出される再配分可能財源を活用することで、急激な保険料負担の増加を抑制しながら、将来の医療・介護需要の増加にも柔軟に対応できる制度基盤を整備することが期待されます。

d.4つの厚生保険制度との連携

厚生健康保険制度は、シンBI2050が提案する4つの厚生保険制度の中で最も大きな財政規模を持つ制度です。
そのため、本制度単独で保険料率を決定するのではなく、厚生積立年金保険、厚生就労保険及び厚生住宅保険を含めた4制度全体の財政バランスを踏まえながら、最終的な保険料率を決定することが重要となります。

次項以降では、厚生就労保険及び厚生住宅保険についても同様の手法により財政規模及び必要保険料を整理した上で、最後に4制度全体の保険料体系及び合計負担率について総合的な試算を行います。

現行の雇用保険制度及び労災保険制度は、「企業へ雇用される労働者」を前提として制度設計されています。
そのため、フリーランス、個人事業主、ギグワーカーなど、多様な働き方が広がる現在の社会には十分対応できなくなっています。
シンBI2050では、これらを発展的に統合し、「働くことを希望するすべての人」を対象とする厚生就労保険制度へ再編します。

まず、現行制度の財政構造を整理します。

① 現行雇用保険・労災保険制度の財源・財政と問題点
a.現行制度の財政構造

【表 現行雇用保険・労災保険制度の財政規模(2023年度概算)】

制度歳入保険料国費等歳出収支
雇用保険約3.53兆円約2.87兆円約0.66兆円約2.62兆円約0.91兆円
労災保険約1.49兆円約0.98兆円約0.51兆円約1.25兆円約0.25兆円
合計約5.03兆円約3.85兆円約1.17兆円約3.87兆円約1.16兆円

※概算値

現在の制度では、雇用保険及び労災保険を合わせても年間約3.9兆円規模の事業となっています。
一方、保険料収入は約3.85兆円であり、近年はコロナ禍以降の制度正常化によって約1兆円を超える黒字となっています。

b.現行制度の主な課題

現行制度には、次のような課題があります。
・雇用契約を前提としており、多様な働き方へ十分対応できない。
・失業給付、育児休業給付、雇用安定事業など性格の異なる事業が同一財政で運営されている。
・労災保険は業種別料率が複雑であり、企業負担の公平性にも課題がある。
・AI・AX時代に必要となるリスキリングやキャリア転換支援など、新しい就労支援機能が十分整備されていない。

② LSF導入による厚生就労保険制度の財源・財政試案
a.制度の基本構造

LSF生活保障給付の導入により、失業中の最低生活保障についてはLSFが担うことになります。
その結果、厚生就労保険制度は、
・就労災害補償
・職業能力開発
・リスキリング支援
・キャリア形成支援
・再就職・転職支援
・起業・再挑戦支
など、「働くことを支える制度」へ役割を明確化します。

b.必要歳出試算

現行制度の事業規模を基礎とし、新たな就労支援事業を加味した第1次試算として、年間約4.0兆円を必要歳出規模と設定します。

【表 厚生就労保険制度の必要歳出試算(第1次試案)】

区分金額
就労災害補償約1.3兆円
雇用・再就職支援約1.3兆円
リスキリング・能力開発約0.8兆円
起業・キャリア形成支援等約0.6兆円
必要歳出合計約4.0兆円
c.必要歳入及び財源構成試案

本制度では、リスキリング、人材育成及び就労支援は国家全体への人的資本投資という性格を持つため、一定割合を国費で負担することが適切と考えます。

第1次試案では、
・国・地方公費:約0.8兆円
・保険料:約3.2兆円
と設定します。

【表 厚生就労保険制度の必要歳入試算(第1次試案)】

財源金額
国・地方公費約0.8兆円
保険料収入約3.2兆円
必要歳入合計約4.0兆円
d.保険料率算定の考え方

必要保険料収入約3.2兆円を総所得基準約320兆円で換算すると、必要保険料率は約1.0%となります。

ただし、この数値は厚生就労保険制度単独の試算であり、最終的な個人負担率及び企業負担率については、厚生積立年金保険制度からの再配分可能財源を踏まえ、第2節後半の「厚生保険制度体系における保険料体系試案」において決定します。

③ 厚生就労保険制度の管理運営方法試案と課題

厚生就労保険制度では、現行のハローワーク機能を発展的に再編し、単なる職業紹介機関ではなく、「生涯キャリア支援機関」への転換を図ります。

また、個人事業主やフリーランスについても対象とするため、就労実態や業務災害認定基準については、デジタル社会基盤を活用した新たな認定ルールの整備が必要となります。

④ 期待効果

・雇用形態に関わらず、すべての働く人が共通の就労保障を受けられる。
・失業保障中心の制度から、生涯就労支援制度へ転換できる。
・AI・AX時代に必要なリスキリングやキャリア形成支援を強化できる。
・厚生積立年金保険制度からの再配分可能財源を活用することで、現役世代及び企業双方の保険料負担を抑制しながら制度の充実を図ることが可能となる。

住まいは、衣食と並ぶ生活の基盤であり、人間らしい生活を営むために不可欠な社会インフラです。
しかし、日本の住宅政策は、住宅建設、都市整備、公営住宅、住宅扶助、高齢者住宅支援などが各省庁・各制度に分散し、「社会保障制度」として体系化されていません。

シンBI2050では、LSF生活保障給付によって最低生活保障を実現した上で、「住まいの保障」を社会保障制度の一つとして位置付け、新たに厚生住宅保険制度を創設します。
本制度は住宅の所有を保障する制度ではなく、すべての国民が安心して居住できる環境を保障する社会保障制度として設計します。

① 現行住宅政策の財源・財政と問題点
a.住宅関連社会保障・住宅政策の財政構造

現在、日本の住宅関連政策は、国土交通省、厚生労働省及び地方自治体などが、それぞれ異なる目的で実施しています。

【表 現行住宅関連政策・社会保障予算(2023年度概算)】

制度・事業年間予算規模
生活保護住宅扶助約0.65兆円
住居確保給付金約0.01兆円
公営住宅整備・維持管理約0.55兆円
住宅セーフティネット・居住支援約0.09兆円
その他住宅支援事業約0.10兆円
合計約1.40兆円

主な対象は、
・生活保護住宅扶助
・住居確保給付金
・公営住宅整備・維持管理
・住宅セーフティネット事業
・高齢者・障害者居住支援
などですが、それぞれ制度目的も財源も異なっています。

b.住宅政策全体から見た構造的課題

現行制度には、次のような課題があります。
・住宅政策と社会保障制度が完全に分離されている。
・公営住宅政策と民間住宅政策との役割分担が不明確である。
・住宅扶助が生活保護制度へ組み込まれている。
・若年層、子育て世帯、単身世帯への住宅支援制度が限定的である。
・人口減少・空き家増加時代に対応した制度となっていない。

c.税制優遇との関係

住宅ローン減税など、住宅取得に対する税制優遇は現在も継続しています。
しかし、これらは持ち家取得を前提とした政策であり、「住まいを保障する社会保障制度」とは制度目的が異なります。
今後は住宅政策全体との整合性を図りながら、税制の在り方についても総合的に見直す必要があります。

② LSF導入による厚生住宅保険制度試案
a.制度創設の基本理念

厚生住宅保険制度は、「住宅建設を支援する制度」ではなく、「住まいを保障する制度」として創設します。
住まいを生活保障インフラの一つとして位置付けることにより、年齢、所得、雇用形態に関わらず、安心して暮らせる居住環境を支えます。

b.主な事業構成

本制度では、現行制度を整理・統合し、次の事業を基本とします。
・住宅手当制度
・高齢者・障害者・単身者住宅支援
・母子家庭・父子家庭住宅支援
・地域住宅再生支援
・空き家活用支援
・公営住宅・UR住宅との連携
・災害時住宅保障

③ 財源・財政試算と保険料算定の考え方
a.現行制度の財政規模

現在の住宅関連社会保障及び住宅政策を整理すると、公費を中心とした年間約1.4兆円規模の事業が実施されています。

b.新制度における必要歳出試算

厚生住宅保険制度では、
・住宅扶助の再編
・住宅セーフティネット
・高齢者住宅支援
・地域住宅再生
・空き家活用
・災害時住宅保障
を統合し、第1次試算では年間約1.8兆円の事業規模を想定します。

【表 厚生住宅保険制度の必要歳出試算(第1次試案)】

項目金額
住宅保障事業約0.8兆円
居住支援・セーフティネット約0.5兆円
地域住宅再生・災害対応等約0.5兆円
必要歳出合計約1.8兆円
c.必要歳入及び財源構成試案

厚生住宅保険制度は、住宅政策であると同時に国土政策及び地域政策としての性格も持つため、公費負担を一定割合維持することが適切と考えます。

第1次試案では、
・国・地方公費:約1.3兆円
・保険料:約0.5兆円
と設定します。

【表 厚生住宅保険制度の必要歳入試算(第1次試案)】

財源金額
国・地方公費約1.3兆円
保険料収入約0.5兆円
必要歳入合計約1.8兆円
d.保険料率算定の考え方

必要保険料収入約0.5兆円を総所得基準約320兆円で除すると、現行制度の再編部分を賄うために必要となる最低限の保険料率は、個人・企業合計で約0.16%となります。

一方、厚生住宅保険制度は、現行住宅政策の単なる受け皿ではありません。
住宅保障の対象拡大、空き家活用、地域住宅再生、災害時住宅保障及び将来の住宅需要への対応まで担う新設制度です。

そこで、第1次制度設計試案では、現行政策の再編に必要な最低保険料率約0.16%とは別に、厚生年金制度改革によって生じる再配分可能財源から、個人0.5%、企業0.5%、合計1.0%を厚生住宅保険へ配分します。

総所得基準約320兆円に対する1.0%は約3.2兆円に相当します。
このうち、現行住宅政策等を再編した国・地方公費約1.3兆円も別途投入されるため、制度全体としては、住宅手当、居住支援、地域住宅再生、空き家対策及び災害対応などを、当初の必要歳出試算約1.8兆円を超えて段階的に拡充できる財政余力を持つことになります。

したがって、約0.16%は現行事業規模を基礎とした必要最小限の保険料率、合計1.0%は新しい住宅保障制度を積極的に構築するための政策配分率として区別します。
最終的な配分率については、4つの厚生保険制度全体の必要歳出、国費投入及び個人・企業への負担還元との均衡を踏まえて決定します。

LSF生活保障給付の導入と厚生保険制度体系の再構築により、税制もまた抜本的な見直しが必要となります。
現行の所得税・住民税制度は、多数の所得区分や控除制度を前提として設計されており、社会保障制度とも複雑に連動しています。
その結果、制度全体が極めて分かりにくく、働き方や所得の種類による不公平や行政コストの増大を招いています。

シンBI2050では、第2項で示した「総所得基準」を所得税・住民税についても共通の算定基準として採用し、控除制度に依存しない、シンプルで公平な税制への転換を目指します。

① 現状所得税・住民税課税方式の規模および特徴と問題点
a.現行所得税・住民税制度の概要

現在の個人所得課税は、所得税(国税)と住民税(地方税)によって構成されています。
所得税は超過累進税率を採用し、住民税は原則として一定税率による課税方式となっています。

また、給与所得控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、医療費控除など、多数の控除制度が組み合わされることにより、実際の課税所得が決定されています。

【表 現行所得税・住民税制度の概況(2023年度概算)】

項目概算額
所得税収約23兆円
個人住民税収約15兆円
合計税収約38兆円
b.現行制度の構造的課題

現行制度には、次のような課題があります。
・所得区分や控除制度が複雑で、国民にとって分かりにくい。
・社会保険料控除など社会保障制度との重複が多い。
・配偶者控除や扶養控除などが「年収の壁」の一因となっている。
・金融所得などについて分離課税が採用され、所得種類による負担格差が存在する。
・行政及び企業双方に大きな事務負担を生じさせている。

② 所得税・住民税改訂の目的と改訂試案
a.総所得基準への一本化

所得税・住民税についても、第2項で示した総所得基準を共通の分母として採用します。
給与所得、事業所得、資産所得などを可能な限り共通基準で把握し、所得の種類による負担格差を縮小します。

b.控除制度の抜本的見直し

LSF生活保障給付の導入により、最低生活保障については税制ではなく社会保障制度が担うことになります。
そのため、
・基礎控除
・配偶者控除
・扶養控除
・社会保険料控除
などについては制度目的を整理した上で抜本的な見直しを行います。

税制は所得再分配を担う制度ではなく、公平で簡素な課税制度として再構築することを基本方針とします。

c.総所得基準による現行税負担率換算

本稿では、所得税及び住民税についても、総所得基準約320兆円を共通の分母として換算します。

【表 現行所得税・住民税の総所得基準換算(2023年度概算)】

項目金額
所得税収約23兆円
個人住民税収約15兆円
合計税収約38兆円
総所得基準約320兆円
実質税負担率約11.9%

この約11.9%は、現行税制を総所得基準へ換算した場合の実質的な税負担率を示すものであり、新制度における税率を示すものではありません。

シンBI2050では、この税負担率と前項までで検討した厚生保険制度全体の保険料率とを合わせて、「税及び厚生保険料合計負担率」という新しい指標によって管理することを基本方針とします。

d.今後検討すべき課題

新しい税率体系の導入に当たっては、
・累進税率の在り方
・金融所得課税
・相続税・贈与税との関係
・地方税財源
・地方交付税制度
などとの整合性について、引き続き詳細な制度設計が必要となります。

③ 期待効果

所得税・住民税制度を総所得基準へ一本化することにより、税制全体の透明性と公平性が大きく向上します。
また、複雑な控除制度の整理によって行政コストや企業の事務負担が軽減されるとともに、「年収の壁」や所得種類による負担格差の解消にもつながります。
さらに、厚生保険制度と共通の総所得基準を採用することで、税制と社会保障制度が同一の基準の下で設計されることとなり、国民一人ひとりにとって理解しやすく、持続可能な新しい負担システムの構築が期待されます。

本稿では、税率そのものを決定するのではなく、その算定基準を整理することを目的としています。
最終的な税率及び税と厚生保険料を合わせた合計負担率については、次項以降で示す厚生保険制度体系及び「税及び厚生保険料合計負担率試案」の中で総合的に検討・提示します。

ここまで、厚生積立年金保険、厚生健康保険、厚生就労保険及び厚生住宅保険について、それぞれ現行制度の財源・財政状況及びLSF生活保障給付導入後の制度構想を検討してきました。

本項では、それらを一つの厚生保険制度体系として統合し、新しい総所得基準(約320兆円)を共通の分母として、必要歳出、必要歳入、保険料率及び再配分可能財源を一体的に試算します。
なお、本稿で示す数値は制度設計の第1次試算であり、今後の制度内容や統計データの精査に応じて見直されることを前提としています。

① 4制度の必要歳出試算
a.必要歳出算定の考え方

各制度の必要歳出は、現行制度をそのまま引き継ぐものではありません。
現行制度から継続する事業、LSF生活保障給付へ移管する事業、新たに追加・拡充する事業を整理したうえで、新制度として必要となる年間事業規模を試算しました。

【表1】4制度の新制度必要歳出試算(第1次試案・単位:兆円)

制度現行制度等を基礎とした規模新制度必要歳出内容
厚生積立年金保険年金給付約56.46.4個人積立勘定への年間積立
厚生健康保険医療48.1+介護11.559.6医療・介護サービス
厚生就労保険雇用・労災3.94.0就労・能力開発・労災等
厚生住宅保険約1.41.8住宅保障制度
合計71.8

厚生積立年金保険は事業費ではなく積立金であるため性格は異なりますが、制度全体として必要となる年間財源として計上しています。
また制度開始後の医療需要、高齢化等を考慮し、安全余裕度を確認するため10%増加ケースについても参考として試算します。

【表2 需要10%増ケース】

制度必要歳出
厚生積立年金保険7.0兆円
厚生健康保険65.6兆円
厚生就労保険4.4兆円
厚生住宅保険2.0兆円
合計79.0兆円
② 必要歳入及び財源構成試案

必要歳出のうち、
・利用者自己負担
・国・地方公費
・保険料収入
を区分すると、次のようになります。

【表3】4制度の必要歳入構成試案(単位:兆円)

制度必要歳出利用者自己負担国・地方公費保険料収入
厚生積立年金保険6.40.00.06.4
厚生健康保険59.67.123.229.3
厚生就労保険4.00.00.83.2
厚生住宅保険1.80.01.30.5
合計71.87.125.339.4

この結果、新制度全体で保険料として必要となる歳入は約39.4兆円となります。

③ 現行制度保険料負担の総所得基準換算

次に、現行制度で個人及び企業が実際に負担している保険料を、新しい総所得基準(320兆円)へ換算します。

【表4】現行制度保険料収入(総所得320兆円基準換算前・単位:兆円)

制度個人企業合計
医療・介護16.1513.1329.28
厚生年金20.0020.0040.00
雇用保険1.111.762.87
労災保険0.000.980.98
合計37.2635.8773.13

これを総所得320兆円で換算すると次の負担率となります。

【表5】現行制度実質保険料率(総所得320兆円換算)

制度個人企業合計
医療・介護5.05%4.10%9.15%
厚生年金6.25%6.25%12.50%
雇用保険0.35%0.55%0.90%
労災保険0.00%0.31%0.31%
合計11.65%11.21%22.86%

ここで重要なのは、厚生年金保険の実質負担率が、総所得基準では個人・企業とも約6.25%となることです。

④ 厚生年金制度改革による再配分可能財源

シンBI2050では、老齢基礎年金の生活保障機能をLSF生活保障給付へ移管します。
これにより厚生年金保険は「老後資産形成制度」として再編され、厚生積立年金保険へ移行します。

第1次試案では、積立保険料率を個人・企業とも各1.0%と設定します。

【表6】厚生年金改革による再配分可能率試算

項目個人企業
現行厚生年金負担率6.25%6.25%
積立年金必要率▲1.00%▲1.00%
再配分可能率5.25%5.25%

この5.25%が、新たな厚生保険制度体系へ配分できる財源となります。

⑤ 再配分可能財源の配分試案

第1次試案では、再配分可能財源を次の優先順位で配分します。

a. 厚生住宅保険制度の創設
b. 厚生健康保険制度の充実
c. 厚生就労保険制度の充実
d. 個人及び企業への負担軽減

【表7】第1次再配分モデル(第1次試案)

配分先個人企業合計
厚生住宅保険0.50%0.50%1.00%
厚生健康保険3.50%3.50%7.00%
厚生就労保険0.75%0.75%1.50%
個人・企業への還元0.50%0.50%1.00%
合計5.25%5.25%10.50%

なお、この数値は制度設計上の第1次配分モデルであり、各制度の事業内容、公費負担割合及び利用者自己負担割合に応じて毎年度見直すことを前提としています。

⑥ 制度別保険料率試案

以上の試算を踏まえ、本稿では制度別保険料率を固定値として示すのではなく、「必要歳出→必要歳入→再配分可能財源」という財政設計プロセスの結果として導くことを基本原則とします。

ここまで、シンBI2050における4つの厚生保険制度について、その必要歳出、必要歳入及び保険料体系を整理してきました。しかし、個人や企業にとって実際の負担を決めるのは保険料だけではありません。所得税及び住民税を含めた公的負担全体を同一基準で捉えて初めて、新制度の負担水準と妥当性を評価することができます。

本項では、現行の所得税及び住民税収を総所得基準約320兆円へ換算し、第8項で算出した厚生保険料率と合算することにより、第1次の合計負担率試案を提示します。

① 現行所得税・住民税の総所得基準換算

本稿では、個人所得税収を約23兆円、個人住民税収を約15兆円とする概算値を用います。これを総所得基準約320兆円で除すると、それぞれの実質換算率は次のようになります。

【表 現行所得税・住民税の総所得基準換算】

税目概算税収総所得基準換算率
所得税約23兆円約7.19%
個人住民税約15兆円約4.69%
合計約38兆円約11.88%

この11.88%は、現行税収を新しい総所得基準へ換算した参考率であり、現行の税率表をそのまま表したものではありません。
控除廃止、金融所得の総合化、課税所得範囲の拡大等を前提とするため、新制度では同程度の税収をより低く単純な表面税率で確保できる可能性もあります。

② 個人の税・厚生保険料合計負担率試案

所得税及び住民税については、まず現行税収規模を維持する基準ケースとして約11.88%を置き、第8項で算出した個人厚生保険料率約5.93%を加えます。

【表 個人の税・厚生保険料合計負担率試案】

負担項目負担率
所得税約7.19%
個人住民税約4.69%
厚生積立年金保険1.00%
厚生健康保険4.58%
厚生就労保険0.30%
厚生住宅保険0.05%
厚生保険料合計約5.93%
所得税・住民税・厚生保険料合計約17.81%

この約17.81%は、所得税・住民税の現行税収規模を維持し、4つの厚生保険制度の必要保険料収入を確保する基準ケースです。
消費税その他の税負担は含んでいません。

③ 企業の厚生保険料負担率試案

企業側については、第8項で算出した必要保険料率を基礎とし、法人税、法人住民税、法人事業税等とは分けて示します。

【表 企業の厚生保険料負担率試案】

負担項目負担率
厚生積立年金保険1.00%
厚生健康保険4.58%
厚生就労保険0.70%
厚生住宅保険0.11%
厚生保険料合計約6.39%
法人税等別途算定
企業合計負担率約6.39%+法人課税

企業側の厚生保険料率は、現行制度を総所得基準へ換算した約11.21%から約6.39%へ低下する第1次試算となります。概算上、約4.82ポイントの法定厚生保険料負担軽減となります。

④ 現行制度との負担率比較

新しい厚生保険制度では、個人・企業の保険料負担がどの程度変化するかを、現行換算率と比較します。

【表 現行制度とシン厚生保険制度の負担率比較】

区分現行厚生保険料換算率新制度必要保険料率増減
個人11.64%5.93%▲5.71ポイント
企業11.21%6.39%▲4.82ポイント
合計22.85%12.32%▲10.53ポイント

この差は、LSF導入による基礎年金機能の移行、厚生年金制度から厚生積立年金保険への転換、国費の制度別投入及び総所得基準の拡大によって生じます。

ただし、総所得基準には給与所得以外の事業所得や資産所得等も含まれるため、この負担率低下を、現在の給与に適用される表面保険料率の単純な引下げとして比較することはできません。
同一の総所得基準で現行制度と新制度を比較した結果として位置付ける必要があります。

⑤ 合計負担率管理の基本方針

シンBI2050では、所得税、住民税及び4つの厚生保険料をそれぞれ独立して改定するのではなく、個人の合計負担率を一つの管理指標として設定します。

医療・介護需要、就労支援需要、住宅保障需要等が増加する場合には、特定制度の保険料だけを自動的に引き上げるのではなく、国費投入額、利用者自己負担、制度間配分及び税率を総合的に見直します。

【表 シンBI2050合計負担率管理モデル】

管理区分第1次試算
所得税・住民税合計約11.88%
個人厚生保険料合計約5.93%
個人合計負担率約17.81%
企業厚生保険料合計約6.39%
法人課税別途算定
消費課税・資産課税等別途設計

これにより、必要歳出、国費、保険料及び税収のいずれかを変更した場合にも、その影響を合計負担率として即時に把握し、制度全体の均衡を維持することが可能になります。

第2節では、LSF生活保障給付を社会保障制度の第1階層に位置付け、その上に新たな「厚生保険制度体系」を構築するという考え方に基づき、制度設計及び財政設計の両面から検討を進めてきました。

現行制度は、年金、医療、介護、雇用、労災、住宅、さらには税制まで、それぞれ異なる制度理念、財源、運営主体によって構成されており、制度全体としての整合性や効率性を十分に検証することが困難な構造となっています。
その結果、制度ごとに異なる負担基準や給付基準が積み重なり、国民にとって分かりにくく、行政にとっても複雑で非効率な社会保障体系となっています。

これに対し、シンBI2050では、LSF生活保障給付によって最低生活保障を全国民へ、個人ごとに、共通に保障したうえで、その上位制度として「厚生積立年金保険」「厚生健康保険」「厚生就労保険」「厚生住宅保険」の4つの厚生保険制度へ再編することを提案しました。

さらに、それぞれの制度について、現行制度の財源・財政規模を整理するとともに、新制度として必要となる事業内容及び必要歳出規模を試算し、その財源を利用者自己負担、国・地方公費及び保険料収入によってどのように構成するかという基本モデルを提示しました。

特に本稿では、従来ほとんど議論されることのなかった「制度全体の財政設計」という視点から、4制度を一体として捉え、必要歳出を積み上げ、その歳出を支える必要歳入を逆算。
さらに現行厚生年金制度改革によって創出される再配分可能財源を、新しい厚生保険制度体系全体へ再配分するという制度設計プロセスを示しました。

また、その基盤として、給与所得だけでなく、事業所得や資産所得等も含めた「新しい総所得基準」を設定し、その共通基準によって保険料率及び税率を算定する「合計負担率管理」という考え方を提示したことも、本制度の大きな特徴です。

これにより、従来のように制度ごとに保険料率や税率を個別に改定するのではなく、社会保障制度全体の必要歳出と国民負担全体との均衡を確認しながら、税及び保険料を一体的に設計・管理することが可能になります。

さらに、厚生年金制度改革によって生まれる財源を、新設される厚生住宅保険制度や厚生健康保険、厚生就労保険の充実へ重点的に再配分します。
その上で、なお余力がある場合には個人及び企業双方の負担軽減へ還元するのです。
この考え方は、現行制度には存在しない新しい財政設計手法であり、本制度の持続可能性を高める重要な要素となります。

もちろん、本稿で示した財政規模や保険料率は、第1次試算としての制度設計モデルであり、今後さらに統計データや制度内容を精査しながら改善を重ねていく必要があります。
しかし、重要なのは個々の数値そのものにとどまらず、「必要歳出から必要歳入を導き、その結果として保険料率を決定する」という透明性の高い制度設計プロセスを明らかにしたことにあります。

社会保障制度は、一度制度を決めて終わるものではありません。
人口構造、経済成長、医療技術、働き方、住宅事情など、社会環境の変化に応じて継続的に見直されるべきものです。
そのためにも、誰もが検証できる共通の財政設計基準と算定プロセスを持つことが不可欠です。

第2節で提示した新しい厚生保険制度体系は、LSF生活保障給付を土台とし、その上に4つの厚生保険制度を体系的に配置し、税制を含めた国民負担全体を一体的に管理する、新しい社会保障システムへの第一歩となるものです。
第3節では、この制度体系を支えるもう一つの柱である「社会福祉制度体系改革」について検討し、生活保障と厚生保険を補完する社会福祉の役割と新しい制度体系を整理していきます。

シンBI2050では、LSF生活保障給付が基礎生活保障を担い、厚生保険制度が医療、就労、老後、住宅などの生活リスクを担うことにより、社会福祉制度は、所得保障や生活費補填の役割から離れ、本来の専門的支援、伴走支援、社会参加支援へ重点を移すことになります。
本節では、その基本方針と重点政策を整理します。

第2節では、LSF生活保障給付を基盤とした厚生保険制度体系について整理しました。
しかし、社会保障制度は、生活保障制度と厚生保険制度だけで完結するものではありません。
障害者支援、児童・学生支援、母子・父子支援、高齢者支援、地域福祉など、一人ひとりの生活状況に応じた専門的・個別的な支援については、引き続き社会福祉制度が重要な役割を担います。

【新しい社会保障体系における3層構造】

制度体系主な役割主な内容
第1層LSF生活保障給付全国民への基礎生活保障
第2層厚生保険制度医療・介護・就労・積立年金・住宅保障
第3層社会福祉制度専門支援・伴走支援・社会参加支援

1)社会福祉の定義と基本方針

① 生活保障制度ではなく専門支援制度としての社会福祉

社会福祉とは、本来、生活費を保障する制度そのものではありません。
生活上の困難、障害、家庭環境、成長過程、加齢、地域社会との関係など、一人ひとりの状況に応じて必要な支援を行い、その人らしい生活と社会参加を支える制度です。
しかし現行制度では、生活保障制度が十分に機能しない中で、社会福祉制度が生活費補填や困窮対策まで担わざるを得ない場面が多く、その役割が曖昧になってきました。
LSF生活保障給付の導入は、この曖昧さを整理し、社会福祉制度を専門支援制度として再定義する契機となります。

② 「生活を保障する福祉」から「生活を支える福祉」へ

LSF生活保障給付が基礎生活保障を担うことで、社会福祉制度は「生活を保障する福祉」から「生活を支える福祉」へ転換します。
これは、福祉を縮小することではありません。
むしろ、生活費の不足を埋めるための制度運営から離れ、障害者の社会参加、子どもの成長支援、家庭支援、高齢者の地域生活支援、生活困難者への伴走支援など、より専門性の高い領域へ重点を移すことを意味します。

③ 普遍的生活保障と個別的支援の役割分担

新しい社会保障体系では、普遍的な生活保障はLSF生活保障給付が担い、医療・就労・年金・住宅などの生活リスクは厚生保険制度が担います。
その上で、個人ごとの事情に応じた支援を社会福祉制度が担います。
この役割分担により、社会福祉制度は、対象者を選別して生活費を補う制度ではなく、必要な人に必要な支援を届ける専門制度として再構築されます。

【LSF・厚生保険・社会福祉の役割分担】

制度主な役割支援方法
LSF最低生活保障現金給付
厚生保険人生の主要リスク保障保険給付・現物給付
社会福祉個別課題への専門支援相談・伴走・現物サービス

2)社会福祉制度運営基盤としての地域包括支援センター

① 高齢者中心の地域包括支援から全世代型支援基盤へ

現在の地域包括支援センターは、高齢者支援を中心に整備されてきました。
しかし、今後の社会福祉制度では、高齢者だけでなく、障害者、子ども、子育て世帯、ひとり親世帯、生活困難を抱える人、就労や社会参加に課題を抱える人など、より広い対象を支える地域支援基盤が必要になります。
そのため、シンBI2050では、地域包括支援センターを全世代型の地域生活支援拠点へ発展させることを基本方針とします。

② 制度別窓口から総合相談・伴走支援拠点へ

現行制度では、相談内容によって窓口が分かれ、利用者が制度ごとの要件や手続きを理解しなければならない構造になっています。
その結果、制度の狭間に落ちる人や、支援につながる前に孤立する人が生じています。
地域包括支援センターを総合相談・伴走支援拠点として再編すれば、相談者が制度を探すのではなく、支援側が必要な制度や専門職へつなぐ仕組みに転換できます。これは、社会福祉制度を利用者本位へ転換するための重要な運営基盤になります。

③ 地域福祉データと行政連携の拠点化

LSF生活保障給付や厚生保険制度が整備されても、地域ごとの生活課題は一律ではありません。
高齢化率、単身世帯の増加、障害者支援の状況、子育て環境、交通弱者、住宅困難、孤立問題などは地域によって大きく異なります。
地域包括支援センターは、こうした地域課題を把握し、自治体、医療機関、福祉専門職、学校、地域団体と連携する拠点として機能する必要があります。

【全世代型地域包括支援センターの役割】

分野主な支援
高齢者地域生活支援・相談
障害者生活・就労・地域参加支援
子ども・家庭子育て・虐待・教育連携
就労キャリア相談・厚生就労保険との連携
住宅厚生住宅保険との連携
医療厚生健康保険との連携

3)社会福祉専門職の人材・組織政策

① 審査・管理業務から伴走支援業務への転換

生活保護制度をはじめ、現行の福祉行政では、資格審査、所得確認、扶養照会、給付管理などに多くの人的資源が割かれてきました。しかし、LSF生活保障給付が基礎生活保障を担うことで、こうした審査・管理業務は大幅に縮小される可能性があります。
その結果、社会福祉専門職は、本来の専門性を発揮できる相談支援、伴走支援、地域支援、社会参加支援へ重点を移すことができます。

② 福祉専門職の再配置と処遇改善

社会福祉制度を再構築する上で、専門職の人材確保と処遇改善は不可欠です。制度が整っていても、現場を担う人材が不足し、疲弊していれば、支援の質は維持できません。
社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、相談支援専門員、児童福祉司などの専門職を、制度別に分断するのではなく、地域支援チームとして再配置し、専門性に見合う処遇とキャリア形成を保障する必要があります。

③ 多職種連携と地域支援チームの形成

新しい社会福祉制度では、一人の専門職がすべてを担うのではなく、医療、介護、教育、就労、住宅、司法、行政などの関係機関と連携しながら支援を行う体制が重要になります。
そのためには、地域包括支援センターを中心に、多職種連携による地域支援チームを形成し、個人や家庭の複合的な課題に対応できる組織体制を整える必要があります。

【社会福祉専門職の役割転換】

現行シンBI2050
資格審査伴走支援
所得調査生活相談
扶養照会地域連携
給付管理社会参加支援
ケース管理多職種コーディネート

4)社会福祉財源・財政基本方針

① 社会福祉財源は公費中心を基本とする

社会福祉制度は、厚生保険制度のように保険料と給付の対応関係を前提とする制度ではありません。
障害者支援、児童・学生支援、家庭支援、地域福祉など、公共性と個別性が極めて高い分野であることから、その財源は引き続き国及び地方自治体による公費負担を基本とします。

したがって、新しい社会福祉制度体系においても、財源は国及び地方自治体による公費負担を基本とします。

② LSF導入による生活保障財源との分離

LSF生活保障給付の導入により、社会福祉制度が生活費補填を担う必要性は大きく低下します。これにより、社会福祉財源は、生活保障そのものではなく、専門支援、相談支援、現物サービス、地域支援へ重点的に配分することが可能になります。
つまり、社会福祉財政は、給付額の拡大競争ではなく、支援の質を高める財政へ転換されるべきです。

③ 国・自治体・地域機関の役割分担

社会福祉制度の財政運営では、国が制度基準と基礎財源を担い、自治体が地域の実情に応じた運営を担い、地域包括支援センターなどの現場機関が具体的な支援を実施する役割分担が重要になります。
国が全国共通の最低基準を整備し、自治体が地域特性に応じた支援を組み合わせ、現場の専門職が個別支援を担うことで、普遍性と地域性を両立する社会福祉制度体系を構築することができます。

新しい社会福祉財政の役割分担】

主体役割
制度設計・基礎財源
地方自治体地域運営
地域包括支援センター個別支援
民間・NPO地域サービス

前項では、新しい社会福祉制度体系の基本方針について整理しました。
その基本方針の下では、社会福祉制度は生活保障制度を補完する制度ではなく、一人ひとりの生活課題や社会参加を支援する専門制度として位置付けられます。
ここでは、その中心となる重点政策について整理します。

1)障害者生活包括支援福祉制度

① 所得保障から生活包括支援への転換

LSF生活保障給付によって基礎生活保障が確立されることにより、障害者福祉制度は生活費を補う制度から、障害に伴う生活課題を支援する制度へ重点を移します。
所得保障はLSF生活保障給付と厚生積立年金保険制度が担い、社会福祉制度は障害特性に応じた専門的支援を担います。

② 障害特性に応じた現物サービスの充実

障害者支援では、介助、移動支援、就労支援、補装具、コミュニケーション支援など、個人ごとに必要な支援内容は大きく異なります。
そのため、新しい障害者福祉制度では、現金給付ではなく、障害特性に応じた現物サービスを中心とした包括支援体制を充実させます。

③ 地域生活と社会参加支援

施設中心ではなく、地域で暮らしながら学び、働き、社会参加できる環境づくりを重視します。
障害の有無にかかわらず、多様な人々が地域社会で共生できることが、新しい障害者福祉制度の基本理念となります。

2)児童・学生支援福祉制度

① 子どもの生活環境全体を支える制度へ

児童福祉制度は、単なる保育制度や児童手当制度ではありません。
子どもの成長、教育、健康、家庭環境、社会参加など、ライフステージ全体を支える制度として位置付け直します。

② 教育・福祉・地域の連携

学校だけ、家庭だけ、行政だけで子どもを支えることは困難です。
教育機関、福祉機関、地域包括支援センター、医療機関などが連携し、子ども一人ひとりの状況に応じた支援体制を構築します。

③ 将来への投資としての児童・学生支援

児童・学生支援は福祉政策であると同時に、人口政策、教育政策、人材育成政策でもあります。
子どもへの支援を社会全体への長期的投資として位置付けることが重要になります。

3)母子・父子支援福祉制度

① ひとり親支援から子どもと家庭への包括支援へ

母子・父子支援制度は、経済的困窮への対応だけではなく、子どもの健全な成長と家庭生活全体を支える制度として再構築する必要があります。
LSF生活保障給付によって基礎生活保障が確保されることを前提に、社会福祉制度では、就労支援、子育て支援、相談支援、地域生活支援など、家庭の状況に応じた包括的な支援を重視します。
また、子どもの養育費の支払い義務を負う前夫又は前妻に対し、その履行を適切に確保するための法的手続きや相談支援についても、母子・父子支援福祉制度の重要な役割として位置付ける必要があります。
子どもの健全な成長と生活の安定を図る観点から、養育費確保に向けた行政支援や関係機関との連携体制の整備も、本制度の重要な課題となります。

② 多様な家族・世帯形成への対応

家族や世帯の形態は多様化しています。
未婚、再婚、事実婚、単身養育など、それぞれの生活実態に応じた制度設計が求められます。
制度は特定の家族形態を前提とするのではなく、子どもの利益と生活の安定を中心に構築されるべきです。

③ 格差問題・少子化対策との連携

母子・父子支援制度は、福祉政策にとどまらず、格差問題、少子化対策、家族政策とも密接に関係しています。
これらの課題については、本シリーズ第5の壁「格差問題」において、家族形成、多様な子どもの出生・養育環境、社会的格差なども含め、さらに詳しく考察する予定です。

4)高齢者支援福祉制度

① 高齢者福祉の役割転換

医療・介護保障は厚生健康保険制度が担い、所得保障はLSF生活保障給付と厚生積立年金保険制度が担います。
そのため、高齢者福祉制度は、高齢者の地域生活や社会参加を支える制度として位置付け直します。

② 地域包括ケアと生活支援

住み慣れた地域で暮らし続けることを基本とし、地域包括支援センターを中心とした相談体制、生活支援、見守り、交流支援などを充実させます。

③ 健康寿命と生涯社会参加

高齢者を支えられる存在としてだけではなく、地域社会を支える主体として位置付けることも重要です。
健康寿命の延伸と、多様な社会参加の機会を確保することが、高齢者福祉制度の重要な役割になります。

④ 高齢夫婦世帯・高齢単身者世帯の急増による終活・死後対応への自治体関与基盤の整備・強化

団塊の世代全員が後期高齢者となり、高齢夫婦世帯及び高齢単身者世帯は今後急速に増加していきます。
その結果、看取りや葬送、遺品整理、各種行政手続きなどを家族や親族だけで担うことが困難なケースが増加し、既に社会的課題として顕在化し始めています。今後は、身寄りのない高齢者や家族による支援が期待できない世帯への対応需要がさらに高まることが予想されます。

このため、高齢者本人の意思を尊重した終活支援、生前からの相談体制、死後事務への支援体制などについても、自治体を中心とした地域福祉の重要な役割として制度的な整備を進める必要があります。
今後の高齢者福祉においては、人生の最終段階から死後対応までを含めた包括的な生活支援体制の構築が重要な課題となるでしょう。

5)その他の福祉政策の制度化課題・領域

① 社会変化に応じた新たな福祉課題

人口構造、家族形態、働き方、AI社会などの変化に伴い、新しい福祉課題が今後も生じることが予想されます。
社会福祉制度は、それらに柔軟に対応できる制度体系として発展していく必要があります。

② 制度横断型支援の重要性

一人の生活課題は、一つの制度だけでは解決できません。
医療、教育、住宅、就労、地域生活などを横断した支援体制を整備することが、今後ますます重要になります。

③ 社会福祉制度体系の継続的発展

本稿で整理した制度体系は、現時点における基本構想です。
今後も社会環境や国民生活の変化を踏まえながら、必要な福祉政策や制度領域について検討を重ね、より実効性の高い社会福祉制度体系へ発展させていくことが求められます。

本節で整理した社会福祉制度体系は、LSF生活保障給付及び4つの厚生保険制度を補完する第3の柱として位置付けられます。
普遍的生活保障と専門的個別支援を明確に役割分担することにより、生活保障、医療、就労、住宅、地域福祉が一体となった新しい社会保障体系が実現します。
今後は、社会環境や人口構造の変化に応じて継続的に制度を発展させ、より実効性の高い社会福祉制度へと成熟させていくことが求められます。

社会福祉重点政策体系
分野基本理念主な支援
障害者福祉社会参加現物サービス・就労支援
児童・学生支援成長支援教育・地域連携
母子・父子支援家庭支援包括支援
高齢者福祉地域生活見守り・交流・生活支援、終活・死後対応
その他制度横断新しい福祉課題への対応

本稿では、「社会制度問題の壁」シリーズ6記事及び「社会・労働観問題の壁」シリーズの記事を総括し、シンBI2050が提案する新しい社会保障制度体系について整理・体系化してきました。

LSF生活保障給付を基盤とし、その上に4つの厚生保険制度、さらに専門的・個別的支援を担う社会福祉制度を配置することにより、日本の社会保障制度全体を役割ごとに再編する基本構想を提示することができました。

もちろん、本稿で示した制度設計は現時点における第1次試案です。

今後も人口構造や経済構造、AI・AX社会の進展、さらには社会そのものの価値観の変化を踏まえながら、継続的な検証と改善を行い、より完成度の高い制度体系へ発展させていく予定です。

1)制度体系全体の役割

シンBI2050では、日本の社会保障制度を、それぞれ異なる役割を担う3つの階層によって構成します。

第1層には、全国民へ、個人ごとに、共通に保障されるLSF生活保障給付を配置します。
第2層には、人生における主要な社会的リスクへ対応する4つの厚生保険制度を配置します。
そして
第3層には、障害者支援、児童・学生支援、母子・父子支援、高齢者支援など、一人ひとりの事情に応じた専門的・個別的支援を担う社会福祉制度を配置します。

これにより、「生活保障」「社会保障」「社会福祉」の役割を明確に分離しながら、相互に補完し合う新しい社会保障体系を構築します。

【表】シンBI2050社会保障制度体系完成図

制度主な役割
第1層LSF生活保障給付全国民への基礎生活保障
第2層厚生積立年金保険老後資産形成
厚生健康保険医療・介護保障
厚生就労保険就労・能力開発・労働災害保障
厚生住宅保険居住・住宅保障
第3層社会福祉制度障害者・児童学生・母子父子・高齢者・地域福祉等の専門的個別支援

2)制度相互の連携

新しい社会保障制度体系では、それぞれの制度が独立して存在するのではなく、デジタル社会基盤のもとで有機的に連携します。

LSF生活保障給付が生活の土台を支え、厚生保険制度が医療・就労・住宅・老後資産形成などの社会的リスクを保障し、社会福祉制度が個別事情に応じた専門的支援を行います。

また、全世代型地域包括支援センターを地域における総合相談拠点として位置付けることにより、制度間の連携を実効性あるものとし、行政・医療・福祉・教育・就労・住宅政策を横断的につなぐ地域基盤を構築します。

3)制度改革が目指す社会像

シンBI2050が目指す社会は、「困窮者を救済する社会」ではありません。
すべての国民が安心して学び、働き、挑戦し、それぞれのライフステージに応じた人生設計を主体的に選択できる社会です。

最低限の生活はLSF生活保障給付によって保障され、その上で、医療、介護、就労、住宅、老後資産形成を厚生保険制度が支え、専門的な支援を社会福祉制度が担います。

さらに、税制と厚生保険制度を総所得基準による合計負担率管理のもとで一体的に設計することにより、公平性、透明性及び持続可能性を兼ね備えた新しい社会保障制度を実現します。

1)basicincome.jpにおける制度設計の深化

本サイトでは、今後も「シンBI実現への道」カテゴリーを中心に、本稿で整理した制度体系をさらに具体的な制度設計へと発展させていきます。

また、「シンBI2050とは」カテゴリーでは、シンBI2050全体の理念、基本構造及び各制度間の関係について継続的に整理・体系化し、制度全体を理解しやすい形で発信していきます。

2)ONOLOGUE2050との連携

シンBI2050は、社会保障制度だけを改革する構想ではありません。
今後は、関連サイト「ONOLOGUE2050」で展開するシン安保2050政策シリーズと連携しながら、より包括的で、多義的かつ多様な社会改革構想へと発展させていきます。

具体的には、
① 「生活社会基盤」における政策シリーズ
② 「経済社会構造」における政策シリーズ
③ 「国家社会基盤」における政策シリーズ
との相互連携を進め、それぞれの制度設計を統合的に検討していきます。

参考資料:シン安保2050政策体系一覧表

1. 国家社会基盤シン安保2. 生活社会基盤シン安保3. 経済社会構造シン安保
① エネルギーシン安保① 人口・少子高齢化・世代シン安保① 雇用・労働/賃金・所得シン安保
② 資源シン安保② 結婚・家族・世帯シン安保② 労働力シン安保
(外国人労働・AI代替・人材育成・労働保険等シン安保含む)
③ 国土・自然環境・防災シン安保③ 出産・子育て・保育シン安保③ 経済安全保障シン安保
④ 公共インフラシン安保④ 教育・スキリング・生涯設計シン安保④ 産業経済・企業格差シン安保
 (中小企業シン安保含む)
⑤ 食料シン安保⑤ 医療・健康・公衆衛生・介護シン安保⑤ 金融・資本市場・税制シン安保
⑥ 財政シン安保⑥ 社会保障シン安保(年金・生活保護・障害者福祉シン安保含む⑥ AI/AX・デジタル経済・イノベーションシン安保
⑦ 先端技術シン安保(情報・デジタル情報リスク・サイバー統治シン安保含む)⑦ 地方自治・地域社会生活シン安保
(都市・地方生活シン安保含む)
⑦ 企業統治・事業経営・CXシン安保
⑧ 防衛・外交シン安保⑧ 治安・情報市民社会・AI社会シン安保⑧ 貿易・観光シン安保
⑨ 統治制度(政治・立法・行政・司法)シン安保⑨ 日常生活シン安保
(消費・居住・健康・移動他)
⑨ グローバル経済シン安保
ベーシックインカムシン安保ベーシックインカムシン安保ベーシックインカムシン安保

3)シン2050思想体系との統合

シンBI2050は、単独で存在する政策ではありません。
今後は、
・シン社会的共通資本2050
・シン循環型社会2050
・シンMMT2050
・シン・イノベーション2050
など、ONOLOGUE2050で展開する各理念・政策シリーズとの相互連携を図りながら、日本社会全体の新しい将来像を構築していきます。

本稿により、「社会制度問題の壁」シリーズ及び「社会・労働観問題の壁」シリーズを終えます。
これにより、<シンBI2050実現の8つの壁>超克シリーズは、一つの節目を迎えることとなりました。

これまで、
・「財源・財政問題の壁」
・「マクロ経済問題の壁」
については既にシリーズを完結しています。
さらに今回、
・「社会制度問題の壁」
・「社会・労働観問題の壁」
についても、制度体系全体の整理を終えることができました。

この4つの壁は、まさに、これまでのBI論が、どうしても現実的に議論・検討し尽くすまでに至らない大きな要因でした。
まだまだ、具体性と実現性という点では不十分ではありましたが、従来にない視点や思想、そして改革構想に踏み込み、多くの提案を行ってきました。
その成果の一つが、最初の2つの壁問題への取り組みによる、専用デジタル通貨発行による新たな財政・通貨制度体系の提案です。
もう一つが、本稿で総括したLSF(Life Security Foundation)生活保障給付を基盤とする、新しい社会保障制度体系の構想と制度設計です。

今後は、
・「格差社会問題の壁」
・「人口構造問題の壁」
について、シンBI2050がこれらの構造的課題をどのように克服できるのかという視点から考察を進めます。
続いて、
・「AI・AX社会問題の壁」
では、急速に進展するAI・AX社会を単なる脅威として捉えるのではなく、新しい生活保障制度や労働・産業・教育制度との関係を踏まえ、その可能性を最大限に活かす社会構造について検討していきます。

そして最後に取り組む予定である
・「政治問題の壁」
は、シンBI2050実現に向けた最大の壁であると考えています。

しかし、その壁を論じる前に必要なのは、政治が判断できるだけの制度体系と国家構想を提示することです。
シンBI2050及び関連制度の制度設計を一つひとつ積み重ね、社会保障、税制、地方制度、産業政策、教育政策、デジタル社会基盤などを統合した総合的な日本社会の改革構想として提示できたとき、初めて政治の選択肢として現実的な議論が可能になると考えています。

本サイトでは、今後もその実現に向けた制度設計と政策提案を継続し、より多くの方々の理解と関心、そして賛同を得られるよう、近未来の日本社会について建設的な論考と具体的な制度提案を積み重ねていきたいと考えています。

なお、本稿で提示した新・厚生保険制度における各制度の負担料率および合計負担料率に基づく場合、実際に、個々人の負担額及び負担料率がどのようになるかという試算を行っていません。
あくまでも、マクロのデータを基にしての仮説であり、現状の負担額・負担率と、新制度における負担額・負担率の比較は、別の機会に行うこととしています。

また、所得税・住民税の負担額及び負担率換算も、現在のマクロデータを基本としており、より望ましい税率の考察や、厚生保険制度と一体化しての、望ましい合計負担率の検討にも踏み込んでいない状態で終わっています。

加えて、非常に木目の粗い仮説・論考レベルというご批判もあるかと思っています。
ただ、言葉だけの○○改革という、慣用語句的な、惰性的に用いられる改革論を脱して、シンの社会保障改革、社会制度改革、そして税制改革を行う上で、この「社会制度問題」「社会・労働観問題」の壁の超克には、必須の選択となるであろうことを、まず本稿で具体論・現実論の起点として示すことに注力した次第です。
今後の取り組みにも関心を持って頂ければと思います。