働く人すべてを支える新たな社会保険制度とは?―厚生就労保険制度とシンBI2050
BI実現の壁超克シリーズ‐Ⅳ:社会・労働観問題の壁とシンBI2050
BI実現の壁超克シリーズⅣ 社会・労働観問題の壁を超える──厚生就労保険制度が拓く新しい就労保障
はじめに
【BI実現の壁超克シリーズ】に取り組んできています。
「財源・財政問題」「マクロ経済問題」「社会制度問題」「社会・労働観問題」「格差問題」「人口構造問題」「雇用/AI問題」「政治問題」という8つの壁を設定しています。
1つ目の壁、2つ目の壁をこじ開け、3つ目の壁の「社会問題の壁」に歩みを進め、以下の序章から第5章迄終えました。
・序章 「社会制度問題」の壁とは何か|BI実現の壁超克シリーズⅢ – シン・ベーシックインカム2050論
・社会制度問題の壁①|公的年金制度改革から始まるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
・社会制度問題の壁②|生活保護制度改革から考えるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
・社会制度問題の壁③|医療・介護制度改革を考えるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
・社会制度問題の壁④|児童福祉・障害者福祉制度改革を考えるシンBI2050の社会福祉再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
・社会制度問題の壁⑤|LSF生活保障給付で消える年収の壁と厚生住宅保険制度創設のシンBI2050 – シン・ベーシックインカム2050論
当初予定では、第6章をこの「社会制度問題」の壁の総括の章として終え、本稿の「社会・労働観問題」に進む予定でした。
しかし、本稿において当初位置付け、取り組む予定だった「労働保険」の改革に関する論考は、元々、以下のように、社会保障制度の中に位置付けられています。
| 分類 | 制度名 | 根拠となる主な法律 | 主な対象者 | 財源の構成 | 主な給付・サービス内容 |
|---|---|---|---|---|---|
| 社会保険 | 医療保険 | 健康保険法 国民健康保険法 | 全国民(皆保険) | 保険料+公費 | 療養の給付(窓口3割負担等) |
| 年金保険 | 国民年金法 厚生年金保険法 | 全国民(皆年金) | 保険料+公費 | 老齢・障害・遺族年金(現金) | |
| 介護保険 | 介護保険法 | 40歳以上の国民 | 保険料+公費 | 訪問介護、施設入所等のサービス | |
| 雇用保険 | 雇用保険法 | 働く意思のある労働者 | 保険料+公費 | 失業給付、育児休業給付 | |
| 労災保険 | 労災保険法 | すべての労働者 | 保険料のみ (事業主負担) | 療養補償、休業補償 | |
| 公的扶助 | 生活保護 | 生活保護法 | 困窮するすべての国民 | 公費100% | 生活・住宅・医療等の8つの扶助 |
| 社会福祉 | 児童福祉 | 児童福祉法 児童手当法 | 児童、妊産婦、保護者 | 公費中心 | 保育、児童手当、児童相談所 |
| 障害者福祉 | 障害者総合支援法 | 身体・知的・精神障害者 | 公費中心 | 自立支援給付、補装具の支給 | |
| 高齢者福祉 | 老人福祉法 | 65歳以上の高齢者 | 公費中心 | 養護老人ホームへの入所措置等 | |
| 母子・父子福祉 | 母子父子寡婦福祉法 | ひとり親家庭など | 公費中心 | 貸付金、就業支援、生活指導 | |
| 公衆衛生 | 公衆衛生・母子保健 | 地域保健法 感染症法など | 全地域住民 | 公費100% | 予防接種、検診、保健所の運営 |
LSF=Life Security Foundation 生活保障給付制度の新設・導入を掲げることからスタートした、『「社会制度問題」の壁を乗り超えるための6章』。
ここまでの各章で、種々の制度改編と改革を掲げてきており、本来ならば、その流れの中で「雇用保険」に関する改革を提案してから、第6章の総括にも組み入れるべき。
そう考えて、順序を入れ替えて、本稿に先に取り組むことにしたわけです。
従い、
従って、次回の第6章は、「社会制度問題」「社会・労働観問題」の2つの壁を打破するための論考・提案の総括に、役割をシン化させます。
「社会・労働観問題」の壁も、当初3回程度のシリーズを予定していましたが、8つの壁シリーズ全体の見直しも併せて行いつつ、本稿の1記事に集約することにしています。
そのため、『「社会制度問題」の壁を乗り超えるための6章』は、『「社会制度問題」の壁を乗り超えるための5章』に。
元の第6章は、『2つの壁「社会制度問題」「社会・労働観問題」総括』という位置づけになります。
ご了承ください。

1.仕事と社会保障をめぐる社会観・労働観
現在の社会保障制度は、「働くこと」を前提として設計されてきました。
そのため、雇用や就労と結び付いた制度が多く、「働けるか」「働いているか」が給付や支援の重要な条件となっています。
しかし、人口減少や少子高齢化、働き方の多様化、さらにはAIの急速な普及によって、この前提そのものが大きく揺らぎ始めています。
本節では、社会保障制度の背景にある社会観・労働観を整理するとともに、「働くこと」を中心とした制度設計が抱える課題を明らかにし、シンBI2050における新たな方向性について考えます。
1-1 社会保障制度における就労条件主義
日本の社会保障制度には、働くことを前提として給付や支援を設計する「就労条件主義」とも呼べる考え方が広く存在しています。
生活保護制度における就労支援、雇用保険の加入条件などは、その代表例と言えるでしょう。
本項では、この就労条件主義がどのように形成され、現在の制度にどのような影響を与えているのかを整理するとともに、その課題について考察します。
1)頻発する就労支援政策と問題点
近年、わが国では、生活保護制度をはじめ、雇用保険制度、生活困窮者自立支援制度など、様々な制度において就労支援が重視されるようになっています。
その背景には、「働くことによって自立した生活を実現する」という考え方があり、社会保障制度においても就労が重要な位置付けを占めています。
一方で、人口減少や少子高齢化、働き方の多様化、AI・AXの進展などにより、従来の就労を前提とした制度設計だけでは対応が難しい課題も生じています。
ここでは、就労支援政策の基本的な考え方と課題を簡単に整理しました。
各制度の内容や雇用保険制度との関係、就労支援制度の現状と課題については、第2節及び第3節において詳しく整理します。
① 就労支援政策の現状:現在では、多くの社会保障制度において、就労支援が重要な政策課題として位置付けられています。
② 就労を前提とした社会保障制度:多くの制度では、就労や求職活動が給付や支援と密接に結び付けられています。
③ ワークフェア政策との関係:就労支援政策は、ワークフェアの考え方とも深く関係しています。その概要については本節で整理し、その成果や課題については後述します。
④ 就労支援政策の成果と限界:就労支援政策は一定の成果を挙げてきた一方で、多様な働き方や就労が困難な人々への対応など、新たな課題も生じています。これらについては、第1節第3項及び第2節で詳しく考察します。
2)雇用保険制度と加入条件の特徴と課題
雇用保険制度は、失業時の所得保障をはじめ、再就職支援や能力開発、育児・介護休業支援などを行う制度として、わが国の雇用政策の中核を担っています。
一方で、この制度は「企業に雇用される労働者」を基本として設計されており、加入対象や給付要件も雇用契約を前提としています。そのため、自営業者や多くのフリーランスなどは制度の対象外となるなど、働き方の多様化が進む現在では様々な課題も指摘されています。
ここでは、就労条件主義を象徴する制度として、その特徴を簡単に整理します。
制度の目的や仕組み、給付内容、財政運営などについては、第3節「労働保険の現状と課題」において詳しく取り上げます。
① 雇用保険制度創設の経緯:現在の雇用保険制度は、1974(昭和49)年に雇用保険法によって創設されました。
失業時の所得保障に加え、雇用の安定や再就職支援、能力開発などを総合的に推進する制度として発展してきました。
② 加入対象者及び加入要件:雇用保険は、一定の加入要件を満たす労働者を対象とする社会保険制度です。
現在では対象範囲は拡大されていますが、制度の基本は「企業に雇用される労働者」を前提として構築されています。
③ 適用除外者の現状:自営業者や多くのフリーランスなどは、原則として制度の対象外となっています。
また、短時間労働者などについても、加入要件を満たさない場合は適用されません。
④ 雇用形態多様化への対応課題:働き方が多様化する現在では、雇用契約を前提とした制度設計との間に少しずつズレが生じています。
シンBI2050では、就労形態ではなく、「働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとするすべての人」を基本的な対象とする制度への再編が必要であると考えます。その具体的な制度設計については、第4節「厚生就労保険制度設計の基本方針と方向性」において詳しく提案します。
3)就労条件を前提とする社会保障制度の限界
これまで見てきたように、現在の社会保障制度の多くは、「働くこと」や「雇用されること」を前提として制度が設計されています。
こうした考え方は、安定した雇用が社会の中心であった時代には一定の合理性がありました。
しかし、人口減少、少子高齢化、働き方の多様化、AI・AXの進展などにより、その前提そのものを見直す必要性が高まっています。
ここでは、現行制度が抱える主な課題を簡単に整理しました。
雇用や所得を取り巻く現状については第2節で、労働保険制度などの具体的な制度については第3節で、新たな制度設計の方向性については第4節で詳しく検討します。
① 雇用中心制度の限界:現行制度は、企業に雇用される働き方を基本として構築されており、多様化する就労実態との間に様々な課題が生じています。
② 就労できない人への対応:病気や障害、育児、介護などにより十分な就労が困難な人々に対する生活保障のあり方も重要な課題となっています。
③ 多様な働き方との不整合:フリーランス、副業・兼業、自営業など、多様な働き方が広がる中で、現行制度との制度的なズレも拡大しています。
④ LSF生活保障給付との制度的違い:シンBI2050では、生活保障と就労支援の役割をより明確に整理し、それぞれが本来担うべき機能を再構築することを目指しています。
その考え方及び具体的な制度設計については、第4節「厚生就労保険制度設計の基本方針と方向性」において詳しく提案します。
1-2 「働かざる者食うべからず」論の精神構造と社会的価値観・労働観を巡る課題
制度の背景には、社会全体が共有してきた価値観があります。
その代表的なものが、「働かざる者食うべからず」という考え方です。この考え方は勤労の尊さを支えてきた一方で、働けない人や多様な生き方を選択する人々への社会的評価にも影響を与えてきました。
本項では、この価値観の歴史的背景と現代社会への影響を整理し、これからの社会に求められる労働観について考えます。
1)「働かざる者食うべからず」の歴史的背景
「働かざる者食うべからず」という言葉は、今日でも様々な場面で引用されます。
しかし、その言葉自体よりも重要なのは、「生活は自ら働いて維持すべきである」という価値観が、長年にわたり社会制度や意識の中へ浸透してきたことです。
もちろん、働くことは人間の生きがいや自己実現、所得の獲得、家族の生活を支える重要な活動であり、その価値は現在でも変わりません。
しかし、その考え方が制度設計にまで及び、「働くこと」を絶対視・絶対条件とし、それが何かしらの生活保障を受ける条件とされる場合には、制度全体を改めて見直す必要が生じてきます。
① 宗教・倫理思想との関係
人類の歴史を振り返れば、多くの宗教や倫理思想において、勤勉さや労働は重要な徳目として位置付けられてきました。
その背景には、共同体を維持し、家族を養い、自らの生活を支えるためには、誰もがそれぞれの役割を果たす必要があったという時代的事情があります。
こうした考え方は、長い年月を経て「働くことは善であり、働かないことは望ましくない」という価値観として広く浸透していきました。
もっとも、それはあくまでも歴史的・社会的背景の中で形成された価値観であり、現代の制度設計において、そのまま絶対的な原則とすることが適切かどうかについては、改めて検討する必要があります。
② 近代国家形成との関係
近代国家が成立し、産業化が進展すると、労働は経済成長を支える重要な基盤となりました。
税収の確保、社会保険制度の維持、産業発展など、多くの制度が「働く国民」を前提として整備され、国民にも勤労が期待されるようになります。
わが国でも、戦後復興から高度経済成長期にかけて、企業へ就職し、長期間働き続けることが一般的な人生設計となり、それを支える社会保障制度や税制度が整備されました。
このような時代背景の下では、「働いて生活すること」が制度全体の基本的な前提となることには一定の合理性がありました。
③ 日本の勤労観形成
日本では、勤勉さや真面目さを重んじる価値観が長く育まれてきました。
戦後の経済成長期には、「よく働くこと」が個人の生活向上だけではなく、企業の発展、地域経済の発展、さらには国家全体の発展にもつながるという考え方が広く共有されました。
言うならば、経済成長主義と一致していたわけです。
その結果、「働くこと」が当然視される一方で、「働けない事情」や「多様な働き方」については、制度上十分想定されず、対応されていなかった面もあります。
現在でも、この時代に形成された価値観は、多くの制度や国民意識の中に残っていると言えるでしょう。
④ 現代への影響
現在でも、「働くこと」は生活を支える基本であるという考え方に大きな変化はありません。
しかし、少子高齢化、人口減少、AI技術の進展、多様な働き方の普及など、社会を取り巻く環境は大きく変化しています。
また、育児、介護、病気、障害など、それぞれの事情によって一時的または継続的に十分な就労が困難となる人も少なくありません。
こうした時代においても、「働くこと」を生活保障を受けるための前提条件として考え続けることが適切なのかどうかは、改めて検討すべき課題と言えるでしょう。
むしろ、現代そしてこれからの課題は、「働くこと」よりも「働き方」、そして「生き方」と結びつけて考えることが望ましいと言えるでしょうか。
シンBI2050では、働くことの価値を否定するものではありません。
むしろ、一人ひとりが希望する仕事に挑戦し、その思い・意欲や経験・能力を十分に発揮できる環境づくりは、これまで以上に重要になると考えています。
一方で、生活保障については、就労の有無や雇用形態にかかわらず、多様な生き方や働き方を受け止められる制度として設計し、その上で、働くことを希望する人には十分な就労支援を行うことが、これからの時代に求められる新しい制度のあり方ではないかと考えます。
2)自己責任論・勤労観・ワークフェア思想
「働かざる者食うべからず」という考え方は、現代では「自己責任論」や「勤労観」、さらには「ワークフェア(Workfare)」と呼ばれる政策理念へも少なからず影響を与えています。
これらは、それぞれ異なる時代背景や制度目的の下で形成されたものですが、いずれにも「働くこと」を重視するという共通した考え方があります。
ここでは、それらが現在の社会保障制度へどのような影響を与えているのかについて整理します。
① 自己責任論の形成
自己責任という考え方は、自らの生活は自らの努力によって築くべきであるという価値観を基本としています。
個人の自立や努力を尊重する考え方そのものは、健全な社会を維持する上でも重要な要素であり、決して否定されるものではありません。
一方で、その考え方が過度に強調されると、病気、障害、育児、介護、失業、災害など、自らの努力だけでは解決できない事情まで個人の責任として捉えられる危険性も生じます。
現代社会では、一人ひとりの努力を尊重しながらも、個人だけでは対応できない課題については、制度として支えていくという視点との両立が求められています。
加えて、自己責任という考え方については、その意味や適用範囲をめぐって様々な議論があります。
しかし、生活保障制度は自己責任論だけを前提として設計されるものではなく、私たちすべての国民の生活全体を支える制度として構築される必要があります。
② 勤労を重視する価値観
日本では、「よく働くこと」が長く美徳とされてきました。
その背景には、戦後復興や高度経済成長を支えた勤勉さや責任感があり、その価値観は企業活動や教育、家庭生活など様々な場面に浸透していきました。
この勤労観は、日本経済の発展を支える原動力となった一方で、「働くこと」そのものが人生の中心的価値として捉えられる傾向も生み出しました。
しかし現在では、仕事だけではなく、子育て、介護、地域活動、学び直しなど、多様な人生設計が求められる時代となっています。
そのため、「働くこと」の価値を大切にしながらも、多様な働き方や生き方を受け入れられる制度や価値観への転換も求められています。
③ ワークフェア政策との関係
ワークフェアとは、生活保障だけではなく、就労支援を組み合わせることによって、自立を促す政策理念です。
働くことが可能な人には、就労支援や能力開発を行い、就労を通じた自立を支援するという考え方であり、多くの国で様々な形で導入されています。
わが国においても、生活保護制度や生活困窮者自立支援制度などにおいて、就労支援は重要な施策の一つとなっています。
しかし、その運用においては、「就労支援」と「生活保障」との役割が十分整理されているとは言えず、生活保障を受けるための条件として就労が強く求められるような運用となれば、本来の制度目的との間にズレが生じる可能性もあります。
④ 現代制度への影響
現在の社会保障制度や雇用政策には、こうした自己責任論や勤労観、ワークフェア思想が様々な形で反映されています。
その結果、「働くこと」が制度利用の前提条件となる制度も少なくありません。
もちろん、働くことを希望する人への支援を充実させることは重要です。
しかし、生活保障と就労支援は、それぞれ異なる役割を担う制度として整理・再構築していくことが望まれます。
ここまで見てきたように、「働かざる者食うべからず」に象徴される価値観は、長い歴史の中で形成され、現在の社会保障制度や就労支援政策にも少なからぬ影響を与えています。
しかし、人口減少、少子高齢化、AI・AXの進展、働き方の多様化など、社会を取り巻く環境が大きく変化する中で、従来の価値観や制度の前提については改めて検討する必要があります。
1-3 ワークフェア論の限界とこれからの方向付け
先述したように、近年の社会保障制度では、「働くこと」を生活保障と結び付けるワークフェアの考え方が広く取り入れられてきました。
その背景には、「働くことによって自立した生活を実現する」という考え方があり、就労支援や職業能力開発など、様々な政策が展開されてきました。
こうした考え方は、働く意欲や能力を持つ人々を支援する上で一定の役割を果たしてきたことも事実です。
一方で、人口減少や少子高齢化、働き方の多様化、AI・AXの進展などにより、従来の制度や考え方だけでは十分に対応できない課題も見え始めています。
ここでは、ワークフェア政策の成果と限界を整理するとともに、これからの仕事・就労・生活保障のあり方について考えます。
1)ワークフェア政策の成果と課題
ワークフェアは、「働くこと」を通じて生活の安定や自立を目指す政策として、多くの社会保障制度に取り入れられてきました。
働くことは所得を得る手段であるだけではなく、生きがいや自己実現にもつながる重要な活動です。
その意味において、就労支援や再就職支援、職業能力の向上などを重視する政策には一定の意義があります。
一方で、社会経済環境が大きく変化する現在では、従来の考え方だけでは対応できない課題も少なくありません。
現状での「ワークフェア政策」の功罪を、以下、簡単に整理しました。
① 制度導入の目的:働くことを通じた自立支援を基本とする制度として導入されました。
② 一定の成果:就労支援や再就職支援などにおいて一定の成果を挙げてきました。
③ 制度上の限界:病気や障害、育児、介護などにより就労が困難な人への対応、生活保障と就労支援との関係、就労先そのものの質など、多くの課題も指摘されています。
④ 今後の課題:就労支援制度だけではなく、生活保障制度を含めた制度全体のあり方について見直していく必要があります。
2)生活保障と就労支援の役割分担
生活保障と就労支援は、互いに密接な関係を持ちながらも、その役割は必ずしも同じではありません。
生活の基盤が安定しているからこそ、新しい仕事への挑戦や学び直しにも取り組むことができます。
また、働くことは所得を得るためだけではなく、自らの能力や経験を生かし、人生を豊かにする重要な営みでもあります。
そのため、今後は生活保障と就労支援を対立するものとして考えるのではなく、それぞれの役割を整理しながら相互に補完し合う制度として構築していくことが重要になります。
その基本的な視点と考え方を以下に整理しました。
① LSF生活保障給付の役割:安心して生活を営むための基盤を支えることです。
② 就労支援制度の役割:働くことを希望する人が、自ら選択した仕事に挑戦できるよう支援することです。
③ 両制度の補完関係:生活保障と就労支援は、それぞれ異なる役割を担いながら相互に支え合う関係にあります。
④ 制度再編の方向性:多様な生き方や働き方に対応できる制度体系への再構築が求められます。
3)これからの就労支援の方向性
これからの就労支援は、「働くこと」を求める制度から、「一人ひとりが希望する仕事や働き方を実現できるよう支援する制度」へ発展していくことが望まれます。
そのためには、単に就職先を紹介したり、職業訓練を実施したりするだけでは十分とは言えません。
現在のワークフェア政策には、働く意思があっても、自分の適性や能力、どのような仕事が自分に合っているのか分からない人への支援が十分とは言えない面もあります。
また、就労支援のために用意されたプログラムや施策が、それぞれの人の希望や適性と本当に合致しているのかという課題もあります。
その結果、「まず仕事に就くこと」が優先され、自ら希望する仕事や能力を発揮できる仕事との出会いが十分に支援されていない場合も少なくありません。
これからの就労支援では、一人ひとりの主体的な意思や希望を尊重しながら、適性や能力を見つめ直し、自分らしい仕事や働き方を選択できるよう支援していくことが、これまで以上に重要になると考えます。
その積み重ねは、結果として、わが国が将来必要とする人的基盤の維持・形成にもつながるものと考えられます。
ここまで見てきた内容を整理すると、現在の社会保障制度が抱える課題と、シンBI2050が目指す方向性は、次のようにまとめることができます。
【第1節の整理:仕事・社会保障・就労支援をめぐる考え方】
| 観点 | 現在の制度・考え方 | シンBI2050が目指す方向性 |
|---|---|---|
| 社会保障の基本 | 就労を前提とした制度設計 | 就労の有無にかかわらず生活基盤を保障 |
| 生活保障 | 就労支援と密接に結び付く場合が多い | 生活保障と就労支援の役割を整理・再構築 |
| 就労支援 | 就職・再就職を中心とした支援 | 希望する仕事・生き方を実現するための支援 |
| 働き方 | 雇用中心の制度設計 | 雇用・自営・フリーランスなど多様な働き方を尊重 |
| 労働観 | 「働くこと」を重視 | 「働き方」「生き方」「能力発揮」を重視 |
| ワークフェア | 就労を通じた自立支援 | 生活保障を基盤とした主体的な就労支援 |
| 制度の目的 | 就労と生活保障を一体的に運用 | 生活保障と就労支援が補完し合う制度体系 |
| 社会全体への効果 | 雇用維持・就労促進 | 一人ひとりの希望や能力を生かし、その結果として、わが国が必要とする人的基盤も維持・形成 |
次節以降では、こうした問題意識を踏まえ、現在の就労・雇用制度や労働保険制度の現状と課題を整理した上で、シンBI2050が考える新たな制度設計について具体的に提案していきます。

2.就労・雇用制度と所得、生活をめぐる課題と今後
現在、わが国では、働き方や雇用を取り巻く環境が大きく変化しています。
少子高齢化や人口減少の進行に加え、非正規雇用の増加、フリーランスや副業・兼業の拡大、AI・デジタル技術の急速な進展などにより、従来の雇用制度や社会保障制度が前提としてきた社会構造そのものが変わりつつあります。また、仕事と子育て・介護との両立、所得格差の拡大、人手不足への対応など、就労を取り巻く課題も、より複雑で多様なものとなっています。
本節では、制度改革を論じる前提として、現在の就労・雇用を取り巻く環境がどのように変化し、どのような課題を抱えているのかを、多角的な視点から整理していきます。
2-1 雇用形態問題と所得・生活
日本では、長年にわたり「企業に就職し、定年まで働く」という働き方を前提として、雇用制度や社会保障制度が整備されてきました。
しかし、経済構造や産業構造の変化、人口減少、少子高齢化、女性の就労拡大、働き方改革などを背景として、現在では正規雇用だけではなく、非正規雇用、フリーランス、副業・兼業、自営業など、多様な働き方が広がっています。
こうした変化は、働く人々に新たな選択肢をもたらした一方で、所得格差や生活不安、社会保障制度との不整合など、新たな課題も生み出しています。
本項では、雇用形態の変化が所得や生活にどのような影響を及ぼしているのかについて整理します。
1)雇用中心社会の形成
わが国の戦後社会は、企業に雇用されることを生活安定の基本として発展してきました。
とりわけ高度経済成長期以降、安定した企業雇用は、所得、社会保険、退職金、住宅ローン、家族形成などと密接に結び付いてきました。
この仕組みは、働く人とその家族の生活を支える大きな役割を果たしてきました。
しかし同時に、企業に雇用されることが生活安定の条件となり、雇用から外れる人や、不安定な雇用に置かれる人にとっては、制度上の不利が生じやすい構造も形成されました。
① 日本型雇用制度の形成
日本型雇用制度は、戦後復興から高度経済成長期にかけて形成されました。
長期雇用を前提として、企業が人を採用し、育て、定年まで雇用するという仕組みは、企業にとっても労働者にとっても一定の合理性を持っていました。
企業は安定した労働力を確保でき、労働者は安定した所得と生活設計を得ることができました。
② 終身雇用・年功序列
終身雇用や年功序列は、長期的な雇用関係を前提とした制度でした。
若い時期には賃金が抑えられる一方で、勤続年数や年齢に応じて賃金が上昇し、家族形成や住宅取得、子育て、老後準備などの生活設計とも結び付いていました。
この仕組みは、安定した経済成長と人口増加を前提としていた時代には、生活の安定を支える重要な役割を果たしていました。
①と合わせて、こうした日本型の雇用方式は、「メンバーシップ型」と呼ばれることが多いのは、知られているところです。
③ 雇用制度の変化
バブル経済崩壊以降、企業は人件費の固定化を避ける傾向を強め、非正規雇用や外部委託を活用するようになりました。
また、産業構造の変化やサービス産業の拡大、女性や高齢者の就労拡大などにより、働き方は大きく多様化しました。
その結果、かつてのように「正社員として長期間働くこと」を標準とする雇用モデルだけでは、現在の就労実態を十分に説明できなくなっています。
④ 現代的課題
現代の課題は、雇用形態が多様化したこと自体ではありません。
問題は、雇用形態の違いが、所得、社会保険、教育訓練、職業選択、生活設計などの格差と結び付きやすいことです。
多様な働き方が広がる一方で、その違いが不安定な生活や将来不安につながるのであれば、制度の側も現実に合わせて見直される必要があります。
また、従来型の「メンバーシップ型」の雇用方式に対して、「ジョブ型」雇用という呼び名が用いられていることも知られています。
言い換えると、雇用形態の変化が、年功賃金制から、ジョブ=仕事の内容に応じた賃金制=職務給制への転換を促す、という議論になります。
しかし、非正規雇用にまでその考えを及ぼすのかどうかも含めて、現在でも、ジョブ型雇用が日本に定着しているとは思えません。
今後、厚生就労保険制度の具体的な制度設計が進む中で、『働き方』という観点から、ジョブ型雇用との関係も重要な検討課題になっていくものと考えられます。
2)正規・非正規雇用問題
現在の雇用問題を考える上で、正規雇用と非正規雇用の違いは避けて通れません。
非正規雇用は、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員など多様な形態を含んでおり、働く時間や場所、ライフステージに応じて柔軟に働けるという側面もあります。
一方で、賃金水準、雇用の安定性、昇給機会、退職金、社会保険加入、教育訓練機会などに差が生じる場合も多く、生活の安定や将来設計に大きな影響を与えています。
① 雇用形態の多様化
非正規雇用は、企業にとっては雇用調整や業務量の変動に対応しやすい働き方として活用されてきました。
働く側にとっても、子育て、介護、学業、健康状態、地域事情などに応じて働き方を選べる面があります。
しかし、その柔軟性が、本人の希望によるものなのか、やむを得ない選択なのかによって、意味は大きく異なります。
② 所得格差への影響
正規雇用と非正規雇用の違いは、月々の賃金だけではなく、生涯所得にも影響します。
昇給、賞与、退職金、福利厚生、教育訓練機会などの違いが積み重なることで、長期的な所得格差が生じやすくなります。
この格差は、本人だけではなく、家族形成、子育て、住宅、老後準備などにも影響を及ぼします。
③ 社会保険制度との関係
社会保険制度は、一定の労働時間や雇用期間などを前提として適用される仕組みが多くあります。
そのため、短時間勤務や不安定な雇用形態では、制度の対象になりにくい場合や、十分な保障を受けにくい場合があります。
働いているにもかかわらず、社会保険制度との接続が弱い人々が存在することは、雇用中心社会の大きな課題です。
④ 今後の制度課題
今後の課題は、正規雇用を標準に戻すことだけではありません。
重要なのは、働き方の違いによって、生活保障や将来設計に過度な格差が生じないようにすることです。
多様な働き方を認めながら、所得、社会保険、職業選択、能力発揮の機会をどのように保障していくかが、これからの制度設計の重要な論点になります。
3)フリーランス・ギグワーク問題
近年では、企業に雇用されず、自ら仕事を受注するフリーランスや、インターネットを通じて単発・短期の仕事を行うギグワークが広がっています。
これらの働き方は、自らの専門性や経験を生かし、時間や場所に縛られず働ける可能性を持っています。
一方で、所得の変動、契約上の不安定さ、社会保険制度との接続、仕事を継続的に確保する難しさなど、従来の雇用制度では十分に対応しにくい課題もあります。
① 新しい働き方の拡大
フリーランスやギグワークは、個人が自ら仕事を選び、複数の仕事を組み合わせる働き方として広がっています。
デジタル技術の普及により、場所に縛られず仕事を受けることも可能になりました。
このような働き方は、本人の希望や能力を生かしやすい面がある一方で、仕事量や収入が安定しにくいという特徴も持っています。
② 制度上の課題
現行制度の多くは、企業に雇用される労働者を前提として設計されています。
そのため、フリーランスやギグワーカーは、労働法制や雇用保険、労災保険などとの関係で、十分な保護を受けにくい場合があります。
働いて収入を得ているにもかかわらず、制度上は「労働者」として扱われにくいことが、制度的な課題となっています。
③ 所得保障との関係
フリーランスやギグワークでは、仕事の量や単価、取引先との関係によって所得が大きく変動します。
一時的に収入が増える場合もありますが、病気、育児、介護、景気変動、取引先の都合などによって収入が急減するリスクもあります。
そのため、所得保障や生活保障との関係をどのように整理するかが重要になります。
④ 就労支援制度の必要性
今後は、雇用されているかどうかだけではなく、働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとする人をどう支えるかが問われます
その支援は、単なる職業紹介にとどまるものではありません。
本人の希望、適性、経験、能力を踏まえながら、自分に合った仕事や働き方を見つける支援、必要な学び直し、仕事の継続を支える仕組みが重要になります。
ここまで見てきたように、雇用形態の多様化は、働く人々に新たな可能性をもたらす一方で、所得や生活保障との関係に新たな課題を生み出しています。
| 働き方 | 主な特徴 | 現在の課題 |
|---|---|---|
| 正規雇用 | 長期雇用を前提とした安定的な働き方 | 転職・副業・兼業など多様化への対応 |
| 非正規雇用 | 短時間・有期・派遣など柔軟な働き方 | 所得格差、雇用不安、社会保険との接続 |
| フリーランス | 専門性や主体性を生かしやすい働き方 | 所得変動、契約上の弱さ、保障制度の不足 |
| ギグワーク | デジタル技術を活用した短期・単発型就労 | 継続性、労働者性、事故・疾病時の保障 |
| 自営業 | 独立した事業運営 | 収入変動、事業継続、生活保障との関係 |
このような現実を踏まえると、雇用形態だけで就労や生活保障のあり方を判断することには限界があります。
次項では、働き方の多様化が所得格差や所得保障制度とどのように関係しているのかについて整理します。
2-2 所得格差の現状と課題
働き方の多様化は、人々に新たな選択肢をもたらした一方で、所得や生活の安定という面では、新たな課題も生み出しています。
所得格差は、単に賃金水準の違いだけではありません。
雇用形態、働く時間、社会保険制度、家族構成、地域、教育機会など、様々な要因が重なり合うことによって生じています。
また、少子高齢化や人口減少、産業構造の変化、AI・デジタル技術の進展などにより、今後も所得構造は大きく変化していくことが予想されます。
本項では、所得格差の現状を整理するとともに、所得保障制度が果たすべき役割について考察します。
1)選択肢としての多様な働き方と所得不安
働き方の多様化は、一人ひとりの生活スタイルや価値観に応じた選択を可能にしました。
一方で、働き方によって所得の安定性や将来の見通しには大きな違いが生じています。特に非正規雇用やフリーランス、自営業などでは、景気や仕事量の変化を受けやすく、所得が不安定になりやすい傾向があります。
① 所得構造の変化
従来は、正規雇用を中心とした安定した給与所得が一般的でした。
現在では、多様な就労形態の拡大に伴い、給与所得だけではなく、事業所得や業務委託収入など、所得構造そのものが多様化しています。
また、個人という領域にとどまらず、夫婦や世帯を単位として考えた時には、その所得構造は、一層多様化すると考えられます。
② 雇用形態との関係
雇用形態の違いは、所得水準だけではなく、昇給、賞与、退職金など、生涯所得にも影響します。
また、景気変動や契約更新などの影響を受けやすい働き方では、将来の生活設計を立てにくいという課題もあります。
③ 格差拡大要因
所得格差は、能力や努力だけによって生じるものではありません。
雇用形態、地域、産業構造、景気動向、家庭環境など、多くの要因が重なり合うことで拡大する場合があります。
④ 将来的課題
人口減少やAI・デジタル技術の進展によって、今後も就労環境は変化していくことが予想されます。
特に、AI社会の急速な進展、AX化などがどの程度、どのようにこれからの雇用と仕事、働き方に影響を及ぼすのか、正直、見通せない状況にあると思います。
だからこそ、多様な働き方を認めながらも、一人ひとりが安心して生活し、挑戦できる生活基盤を社会全体で支える仕組みが求められます。
2)所得保障制度の現状と今後のあり方
現在の所得保障制度は、雇用保険、生活保護、公的年金など、それぞれ異なる制度によって構成されています。
しかし、多くの制度は創設時の社会経済環境を前提としており、多様化する働き方や所得構造との間に制度的な課題も生じています。
① 現行制度の特徴
現在の所得保障制度は、失業、老齢、障害、生活困窮など、それぞれ異なる状況ごとに制度が設けられています。
そのため、制度ごとに対象者や給付条件、財源などが異なっています。
② 制度の限界
制度が細分化されていることから、制度間の重複や空白が生じる場合があります。
また、働き方の多様化に十分対応できていない制度も少なくありません。
③ LSF生活保障給付との関係
こうした課題を踏まえると、生活保障については、就労形態や雇用形態に左右されにくい制度のあり方について検討していく必要があります。
具体的な制度設計については、第4節で提案します。
④ 制度再編の方向性
今後は、それぞれの制度目的を整理し、多様な働き方や人生設計に対応できる制度体系への見直しが求められます。
3)LSF生活保障給付が果たす役割
所得格差そのものを完全になくすことは現実的ではありません。
不可能でしょう。
しかし、所得格差がそのまま生活格差へ直結する社会については、改善を図る必要があります。
生活の基盤が安定しているときに、人は安心して働き、学び、挑戦し、自らの能力を発揮することができると考えています。
① 最低生活保障
すべての人が安心して生活できる基盤を確保することが、生活保障制度の基本的な役割となります。
② 就労支援との関係
生活保障と就労支援は対立するものではなく、相互に補完し合うことで、一人ひとりの自立や能力発揮を支えることが期待されます。
③ 所得格差への対応
所得格差そのものではなく、生活基盤の格差をできるだけ小さくしていくことが重要になります。
④ 就労意欲との関係
生活が保障されることによって、人々が安心して仕事を選択し、新たな仕事へ挑戦し、自らの能力や経験を生かせる環境づくりにつながることも期待されます。
ここまで見てきたように、所得格差の問題は、賃金水準だけではなく、働き方や社会保障制度、人口構造などとも密接に関係しています。
| 観点 | 現状 | 今後の課題 |
|---|---|---|
| 所得構造 | 多様化が進展 | 所得の安定性確保 |
| 雇用形態 | 正規・非正規・自営など多様化 | 格差固定化の防止 |
| 社会保障 | 制度ごとに分立 | 制度間の整理・再構築 |
| 生活保障 | 制度によって対象が異なる | 多様な働き方への対応 |
| 就労 | 働き方の選択肢が拡大 | 希望する仕事への挑戦を支える環境づくり |
2-3 仕事との両立を巡る働き方・生活と所得
働くことは、所得を得るためだけの活動ではありません。
子育てや介護、看護、学び直し、地域活動など、人生の様々な出来事と両立しながら続けていくものでもあります。
しかし、現在の就労制度や雇用慣行は、長時間労働や継続的な就労を前提として形成されてきた側面があり、ライフステージの変化によって仕事を続けることが難しくなる場合も少なくありません。
本項では、仕事と生活の両立を巡る現状と課題について整理します。
1)仕事と子育ての両立
少子化が進む現在、子育てと仕事をどのように両立できる社会を構築するかは、わが国全体の重要な課題となっています。
育児休業制度や短時間勤務制度などの整備は進んできましたが、子育て世代が安心して働き続けられる環境づくりには、なお多くの課題が残されています。
① 現状の制度
育児休業制度や育児休業給付、短時間勤務制度など、子育てと仕事の両立を支援する制度は段階的に整備されてきました。
一方で、利用しやすさや職場環境には企業間で大きな差も見られます。
② 企業負担の現状
育児休業取得への対応や代替要員の確保、人員配置の見直しなどは、企業にとって一定の負担となっています。
特に従業員数の少ない企業ほど、その影響は大きくなります。
③ 中小企業が抱える課題
中小企業では、人材確保そのものが難しい中で育児休業への対応も求められるため、人員配置や業務運営に大きな影響を受ける場合があります。
制度整備だけでは解決できない現実的な課題も少なくありません。
④ 新制度による対応
今後は、子育てを理由として働き続けることを諦めることがないよう、多様な働き方や柔軟な就労環境の整備が一層重要になると考えられます。
2)仕事と介護・看護の両立
高齢化が進む中、子育てと同様、介護や看護と仕事との両立も重要な社会課題となっています。
家族の介護を担う人の多くが現役世代であり、介護を理由として離職する人も少なくありません。
① 高齢社会と介護問題
高齢者人口の増加に伴い、介護を必要とする人も増加しています。
その結果、家族が介護を担う期間も長期化する傾向が見られます。
② 離職問題
介護離職は、本人の所得減少だけではなく、企業にとっても貴重な人材を失うことにつながります。
また、一度離職すると再就職が容易ではない場合もあります。
③ 現行制度の限界
介護休業制度などは整備されていますが、長期間に及ぶ介護や看護への対応としては十分とは言えない場合もあります。
制度だけでは対応できない現実も少なくありません。
④ 新制度による支援
仕事と介護・看護を両立できる柔軟な働き方や、地域における介護サービスの充実など、多面的な支援が求められています。
3)人生100年時代の多様な働き方
平均寿命の延伸に伴い、「教育を受け、働き、引退する」という従来型の人生設計だけでは対応が難しくなっています。
今後は、働く期間の長期化だけではなく、学び直しや職業選択を繰り返しながら、それぞれのライフステージに応じた働き方を選択する機会も増えていくと考えられます。
① ライフステージの変化
長寿化に伴い、進学、就職、結婚、子育て、介護、定年といった人生の節目は、多様化しています。
一人ひとりの人生設計も、従来以上に幅広いものとなっています。
② 学び直し(リスキリング)
技術革新や産業構造の変化に伴い、社会人になってから新たな知識や技能を身に付ける機会も重要性を増しています。
学び直しは、転職だけではなく、現在の仕事を続ける上でも必要となる場面が増えています。
③ セカンドライフ、サードライフ
人生100年時代では、定年後も地域活動や再就職、起業など、多様な生き方や働き方が広がっています。
高齢者を支えるだけではなく、その経験や能力を社会で生かしていくことも重要になります。
④ 多様な働き方への対応
今後は、年齢や雇用形態にかかわらず、それぞれのライフステージに応じて、自ら希望する働き方を選択できる環境づくりが一層重要になると考えられます。
ここまで見てきたように、仕事と生活の両立を巡る課題は、子育てや介護だけではなく、人生設計そのものと深く関わっています。
| ライフステージ | 主な課題 | 求められる環境 |
|---|---|---|
| 子育て期 | 育児と仕事の両立 | 柔軟な勤務制度、子育て支援 |
| 介護・看護期 | 介護離職、長期介護 | 就労継続支援、介護サービス |
| 学び直し | 技能更新、職業転換 | リスキリング、教育機会 |
| セカンドライフ | 再就職、地域活動 | 多様な就労機会、社会参加 |
| 全世代共通 | ライフステージの変化 | 希望に応じた多様な働き方の選択 |
2-4 人口減少と労働市場の関係
わが国では、少子高齢化の進行に伴い、生産年齢人口の減少が続いています。
この変化は、労働市場だけではなく、地域社会、産業構造、社会保障制度、経済成長など、社会全体に大きな影響を及ぼしています。
一方で、人手不足が深刻化する中でも、就労が困難な人や、自らの能力を十分に発揮できていない人も少なくありません。
本項では、人口減少社会における労働市場の変化と、その課題について整理します。
1)人口減少社会と労働供給
人口減少社会では、単に働く人が減少するだけではなく、産業構造や地域社会にも大きな変化が生じます。
これまでのように人口増加を前提とした制度や経済運営だけでは対応が難しくなっており、限られた労働力をどのように生かしていくかが重要な課題となっています。
① 生産年齢人口の減少
わが国の生産年齢人口(15~64歳)は、1995(平成7)年の約8,700万人をピークに減少が続いています。
今後も少子高齢化の進行に伴い、生産年齢人口はさらに減少すると見込まれており、労働力不足の深刻化が懸念されています。
② 労働力不足
医療、介護、建設、物流、農業、観光など、多くの分野で人手不足が深刻化しています。
今後は、単に労働力を確保するだけではなく、一人ひとりが能力を発揮しやすい就労環境を整備していくことも重要になります。
③ 地域間格差
人口減少は全国一律ではなく、地方ほど急速に進行しています。
そのため、地域によっては働く人そのものが不足し、地域産業や生活サービスの維持が難しくなりつつあります。
④ 将来予測
今後も人口減少は続くことが見込まれており、従来の人口規模を前提とした制度運営は難しくなっていきます。
労働市場についても、人口減少を前提とした制度や社会のあり方を考えていく必要があります。
2)地域社会・地方創生との関係
人口減少の影響は、地域社会において特に顕著に現れています。
働く世代の減少に伴い、地域産業や公共サービス、地域コミュニティの維持が難しくなる地域も増えています。
① 地方人口減少
若年世代の都市部への流出や出生数の減少などにより、多くの地域で人口減少が続いています。
人口減少は、地域経済だけではなく、医療、介護、教育など様々な分野にも影響を及ぼしています。
② 地域産業との関係
農林水産業、観光業、地域サービス業などでは、担い手不足が深刻化しています。
地域経済を維持するためにも、地域産業を支える人材の確保が重要な課題となっています。
③ 地域雇用の確保
地域で安心して働き、生活できる環境を整えることは、人口流出の抑制にもつながります。
多様な働き方やデジタル技術の活用なども含め、地域に応じた雇用環境づくりが求められています。
④ 地域活性化との連携
人口減少社会では、地域の特色や資源を生かした産業振興や雇用創出も重要になります。
働く場を維持・創出することは、地域社会そのものを支えることにもつながります。
3)長寿社会と就労期間の変化
平均寿命の延伸に伴い、働く期間も長期化する傾向にあります。
高齢者が健康状態や希望に応じて働き続けることは、人手不足への対応だけではなく、本人の生きがいや社会参加という観点からも重要になっています。
① 高齢就労の現状
高齢者の就業率は年々上昇しており、多くの人が65歳以降も働いています。
年齢だけではなく、健康状態や本人の意思に応じた就労が広がりつつあります。
② 定年制度との関係
定年延長や継続雇用制度などにより、高齢者が働き続ける環境は整備されつつあります。
一方で、賃金や職務内容などについては、なお課題も残されています。
③ 生涯現役社会への課題
人生100年時代では、働く期間の長期化だけではなく、途中で学び直しや職業転換を行う機会も増えていくと考えられます。
そのため、一律の就労モデルではなく、多様なライフステージに応じた働き方が重要になります。
④ 制度改革の方向性
人口減少社会では、年齢だけではなく、一人ひとりの希望や能力に応じて働き続けられる社会の実現が求められます。
もちろん、高齢夫婦や高齢単身者の増加、介護や終活という側面からの制度整備も欠かせません。
そのためには、就労制度だけではなく、雇用慣行や社会保障制度も含めた総合的な見直しが重要になると考えられます。
| 人口・労働市場の変化 | 現状 | 社会への影響 |
|---|---|---|
| 生産年齢人口 | 継続的に減少 | 労働力不足の深刻化 |
| 地域人口 | 地方を中心に減少 | 地域産業・地域社会の維持が困難 |
| 高齢就労 | 就業率が上昇 | 就労期間の長期化 |
| 人材不足 | 幅広い業種で進行 | 医療・介護・物流・農業・観光などへの影響 |
| 労働市場 | 多様化・流動化 | 従来の制度との不整合が拡大 |
2-5 AI社会加速化における雇用と仕事のあり方
AI技術の進展は、仕事の内容、職業構造、必要とされる能力、働き方そのものに大きな影響を与え始めています。
これまで人が担ってきた作業の一部は自動化され、事務、製造、物流、金融、医療、教育、専門職領域など、幅広い分野で仕事の再編が進んでいます。
一方で、AIによってすべての仕事がなくなるわけではありません。
むしろ、人間の判断、創造、対話、ケア、責任ある意思決定が必要とされる領域は、これまで以上に重要になると考えられます。
本項では、AI社会の進展が雇用と仕事に与える影響を整理し、これからの就労環境に求められる視点について考えます。
1)AI社会と職業構造の変化
AIの進展は、単純作業だけではなく、知的作業や専門的業務にも影響を及ぼしています。
これまで人が時間をかけて行ってきた情報処理、文書作成、分析、照合、管理、判断補助などの業務は、AIによって大きく効率化されつつあります。
その結果、仕事は「職業」単位ではなく、「業務」や「機能」単位で再編されていく可能性があります。
① AI技術の急速な進展
生成AIや機械学習、画像認識、音声認識、自然言語処理などの技術は急速に進歩しています。
これにより、事務作業、問い合わせ対応、資料作成、翻訳、設計補助、診断補助、教育支援など、多くの分野でAI活用が広がっています。
② 職業構造への影響
AIは、特定の職業を丸ごと置き換えるというよりも、職業の中に含まれる業務を分解し、一部を代替・補助していく形で影響を及ぼします。
そのため、同じ職業であっても、AIに任せる業務と、人が担うべき業務との整理が進むことになります。
③ 新しい職業の創出
AIの進展は、既存業務の代替だけではなく、新しい仕事も生み出します。
AIを活用する仕事、AIを管理する仕事、AIでは判断できない領域を担う仕事、AIと人間の役割を設計する仕事などが重要になります。
④ 今後の展望
今後の課題は、AIによって仕事がなくなるかどうかだけではありません。
重要なのは、AIによって仕事の中身が変わる中で、人がどのような役割を担い、どのような能力や経験を生かしていくかという点です。
2)自動化・AXの進展と仕事
AIの進展は、自動化やAXの進展とも深く結び付いています。
AXとは、AIを活用して業務、組織、制度、産業構造を変革していく動きと考えることができます。
単なる効率化にとどまらず、仕事の進め方、組織運営、行政手続、社会保障制度の管理などにも大きな影響を及ぼす可能性があります。
① AXとは何か
AXは、AIを活用した社会・産業・行政の変革を意味します。
DXがデジタル化を中心とする変革であるならば、AXはAIを前提として、判断、予測、支援、管理、調整のあり方まで変えていくものです。
② 生産性向上
AIや自動化は、人手不足への対応や業務効率化に大きな効果をもたらす可能性があります。
特に、定型業務、事務処理、情報整理、在庫管理、需要予測、業務配分などでは、AIによる効率化が進みやすいと考えられます。
③ 雇用への影響
自動化が進めば、一部の仕事や業務は減少します。
一方で、人が担うべき仕事の内容は変化し、AIを使いこなす能力、複雑な判断を行う能力、人と人との関係を支える能力などが、より重要になります。
④ 新たな就労機会
AXの進展により、AIを活用した地域産業、農業、観光、介護、教育、防災、行政支援など、新たな就労機会も生まれる可能性があります。
重要なのは、AIを単なる人員削減の手段とするのではなく、人がより意味のある仕事に取り組める環境を整えるために活用することです。
3)人手不足と労働力問題
AIや自動化が進んでも、人手不足の問題がすぐに解消されるわけではありません。
むしろ、人口減少社会では、人が担うべき仕事とAIに任せる仕事を整理し、限られた人の力をどこに集中させるかが重要になります。
① 構造的人手不足
医療、介護、保育、物流、建設、農業、観光など、多くの分野で人手不足が深刻化しています。
これは一時的な景気変動ではなく、人口構造の変化による長期的な課題です。
② 業種別課題
人手不足の内容は、業種によって異なります。
介護や医療では人のケアや判断が重要であり、農業や物流では地域や現場を支える継続的な労働力が必要です。
観光分野では、地域資源を理解し、人との接点を担う人材も重要になります。
③ 人をどう仕事につなぐか
これから重要になるのは、単に不足分野へ人を送り込むことではありません
一人ひとりの希望、適性、経験、生活事情を踏まえながら、どのような仕事なら続けられるのか、どのような仕事なら力を発揮できるのかを見極める支援が必要になります。
④ 就労支援制度との関係
人手不足への対応は、雇用政策だけで完結するものではありません。
仕事を探す人と、働き手を必要とする分野との接点をどのようにつくるかが重要です。
その際、本人の主体性や希望を無視して、必要な分野へ誘導するだけでは、持続的な就労にはつながりにくいと考えられます。
4)エッセンシャルワーク問題
AI社会が進展するほど、人が担うべき仕事の意味も改めて問われます。
医療、介護、保育、教育、物流、農業、食料、清掃、防災、地域生活支援など、生活を支える仕事は、社会の基盤そのものです。
しかし、これらの仕事は、社会に不可欠であるにもかかわらず、賃金や処遇、社会的評価が十分とは言えない場合があります。
① エッセンシャルワークの意義
エッセンシャルワークは、生活と社会機能を維持するために欠かせない仕事です。
市場の評価だけでは測りきれない価値を持ち、人口減少社会においては、その重要性がさらに高まります。
② 処遇改善の必要性
不可欠な仕事でありながら、低賃金や重い負担、慢性的な人手不足が続くならば、その分野は持続できません。
処遇改善は、単なる賃上げ問題ではなく、社会基盤を維持するための制度課題でもあります。
③ 人材不足問題
エッセンシャルワークの人手不足は、単に求人を増やせば解決するものではありません。
その仕事の意味、必要性、将来性、働き方、支援体制を分かりやすく示し、希望する人が安心して関われる環境を整える必要があります。
④ 国家基盤との関係
食料、医療、介護、防災、物流、地域生活支援などは、国家社会・生活社会・経済社会を支える基盤です。
これらの領域を維持することは、単なる雇用政策ではなく、シン安保2050ともつながる重要な課題です。
エッセンシャルワークに関する考察として、以下があります。
参考にして頂ければと思います。
5)創造・判断・ケア労働の未来
AIが進展する時代においても、人間にしか担いにくい仕事は残ります
それは、創造、判断、対話、共感、ケア、責任ある意思決定などを伴う仕事です。
今後は、AIに代替される仕事と、人が担うべき仕事を単純に分けるのではなく、AIと人間がどのように役割を分担するかが重要になります。
① AIに代替されにくい仕事
人間の感情、身体性、関係性、責任判断を伴う仕事は、AIに完全に代替されにくい領域です。
介護、保育、教育、相談、医療、創作、企画、交渉、地域支援などでは、人間の役割が引き続き重要になります。
② 人間固有の価値
人間の価値は、単にAIより効率よく作業できるかどうかで決まるものではありません。
人と向き合い、状況を読み取り、相手の意思や感情を受け止め、責任を持って判断することに、人間固有の価値があります。
③ 能力発揮の方向性
これから重要になるのは、画一的な人材育成ではなく、一人ひとりが自らの関心、経験、適性、希望を踏まえて、どのような仕事で力を発揮できるかを見いだすことです。
そのためには、仕事に関する情報提供、相談、学び直し、資格取得、現場経験、職業選択を支える仕組みが必要になります。
④ シンBI2050における仕事の再定義
シンBI2050においては、仕事を単に賃金を得る手段としてだけでなく、自らの意思と能力を生かし、生活を築き、国家社会・生活社会・経済社会の維持にも関わる営みとして捉え直す必要があります。
ただし、その出発点は、国家や企業が必要とする労働力ではなく、あくまでも一人ひとりの主体性、思い、希望です。その希望や適性を見いだすことが難しい人に対しては、次善の支援として、将来必要とされる分野への情報提供、学び直し、職業体験、資格取得、就労機会との接続を整えていくことも重要になります。
ここまで見てきたように、AI社会の進展は、仕事を奪うだけの問題ではありません。
むしろ、仕事の中身を分解し、人間が担うべき仕事の意味を改めて問い直す契機でもあります。
| 変化 | 主な内容 | 今後求められる視点 |
|---|---|---|
| AIの進展 | 定型業務・知的作業の一部を代替 | 人が担う判断・創造・対話の明確化 |
| AXの進展 | 業務・制度・行政運営の変革 | AIを前提とした制度設計 |
| 人手不足 | 医療・介護・物流・農業・観光などで深刻化 | 希望・適性と必要分野をつなぐ支援 |
| エッセンシャルワーク | 生活基盤を支える仕事の重要性が増大 | 処遇・評価・継続性の見直し |
| 仕事観の変化 | 賃金労働中心から能力発揮へ | 主体性・希望・適職発見の支援 |
人口減少とAX時代における労働力の変化については、次の記事でも詳しく考察しています。
本節では、雇用形態の多様化、所得格差、仕事と生活の両立、人口減少社会、AI・AXの進展など、就労や生活を取り巻く環境が大きく変化していることを見てきました。
こうした変化は、それぞれ独立した問題ではありません。
互いに密接に関係しながら、従来の「企業に雇用されること」を前提として構築されてきた雇用制度や社会保障制度との間に、少しずつ制度的なズレを生み出しています。
また、これからの社会では、単に働く人を増やすことだけではなく、一人ひとりが希望する仕事や、自らの適性・能力を生かせる仕事に挑戦できる環境づくりも、これまで以上に重要になっていくと考えられます。
そのことは、結果として、わが国が将来必要とする人的基盤の維持・形成にもつながるものと期待されます。
こうした課題に対応するためには、まず現行制度がどのような仕組みで運営され、どのような役割を担っているのかを正しく理解することが重要です。
次節では、雇用保険制度及び労災保険制度を中心に、現在の労働保険制度の仕組みや役割、そして現状が抱える課題について整理します。

3.労働保険の現状と課題
雇用保険と労災保険は、日本の労働保険制度を構成する二本柱であり、働く人々の生活と安全を支える重要な制度です。
しかし、その制度設計は、終身雇用や正社員中心の社会を前提として構築されてきた側面が強く、多様な働き方が広がる現在では様々な課題も顕在化しています。
本節では、労働保険制度の現状を整理するとともに、社会保障制度全体の中で果たす役割と、シンBI2050における制度再設計の方向性について考えます。
3-1 雇用保険制度の特徴と問題点
雇用保険制度は、失業時の所得保障だけでなく、育児休業給付や教育訓練給付など、多様な機能を担っています。
一方で、加入条件や適用範囲などについては、多様な働き方が広がる現在の社会との間に少なからぬズレも生じています。
本項では、制度の特徴を整理するとともに、その課題を考察します。
1)制度の目的と役割
雇用保険制度は、労働者が失業した場合や就業の継続が困難となった場合に、生活や再就職を支援するとともに、雇用の安定や能力開発を促進することを目的として設けられています。
また、失業給付だけではなく、教育訓練給付や雇用調整助成金などを通じて、働く人と企業の双方を支援する制度としての役割も担っています。
① 雇用保険制度創設の目的・経緯
わが国の雇用保険制度は、1974(昭和49)年に制定された雇用保険法によって創設されました。
それ以前の失業保険制度を発展的に見直し、失業時の所得保障だけではなく、再就職支援や雇用の安定、職業能力の開発など、より幅広い役割を担う制度として整備されたものです。
当時は、高度経済成長の中で企業へ長期間勤務する雇用形態が一般的であり、失業は一時的なものとの考え方が制度設計の前提となっていました。
そのため、一定期間雇用され、保険料を負担してきた労働者が、失業した場合に生活を支えながら再就職を目指すことが制度の基本的な考え方となっています。
② 制度の対象者・適用範囲
雇用保険は、一定の要件を満たして雇用される労働者を対象としています。
現在では、正社員だけではなく、多くのパートタイマーや契約社員なども加入対象となっていますが、適用を受けるためには、週の所定労働時間や雇用見込み期間など、法律で定められた加入要件を満たす必要があります。
一方で、自営業者やフリーランスなど、雇用関係にない働き方については、原則として加入対象とはなっていません。
このように、制度の基本は現在でも「雇用される労働者」を中心として設計されており、多様な働き方が広がる今日においては、制度との間に様々な課題が生じています。
③ 社会保障制度における位置付け
雇用保険制度は、労働保険制度の一つとして位置付けられるとともに、わが国の社会保障制度を構成する重要な制度でもあります。
その役割は、失業した人への給付だけではなく、再就職支援や職業能力開発、雇用の維持などを通じて、働く人々の生活の安定を図ることにあります。
一方で、その制度は「雇用されること」を基本として構築されているため、フリーランス、副業・兼業、短時間就労など、多様化する働き方への対応には限界も指摘されています。
人口減少とAI・AX時代を迎えるこれからの社会では、雇用という枠組みだけを前提とした制度ではなく、「働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとするすべての人」を支える制度へと発展させていくことが求められるのではないでしょうか。
2)制度の仕組みと運営
雇用保険制度は、労働者や事業主から徴収する保険料を主な財源とし、国庫負担も組み合わせながら運営されています。
制度全体は、労働保険特別会計(雇用勘定)によって経理され、失業等給付、育児休業給付、教育訓練給付、雇用安定事業など、幅広い施策が実施されています。
近年では、少子高齢化や人口減少、雇用形態の多様化に加え、コロナ禍に伴う給付増加などもあり、財政運営や制度の持続可能性についても様々な議論が行われています。
① 雇用保険料の仕組みと歳入・歳出状況
雇用保険料は、労働者と事業主が共同で負担する仕組みとなっています。
令和7(2025)年度の一般事業における保険料率は給与総額の1.45%であり、このうち労働者が0.55%、事業主が0.90%を負担しています。
なお、事業主負担には、失業等給付に加え、雇用安定事業や能力開発事業などの財源も含まれています。
一方、令和5(2023)年度決算では、雇用保険勘定の保険料収入は約3兆1,128億円、歳入総額は約3兆4,886億円、歳出総額は約2兆6,571億円となっています。
歳出の内訳を見ると、失業等給付費が約1兆1,931億円、育児休業給付費が約7,494億円となっており、この二つで全体の約7割を占めています。
また、職業能力開発関係費や地域雇用対策費、業務取扱費などにも多くの財源が充てられています。
このように、現在の雇用保険制度は、失業給付だけではなく、育児休業給付や能力開発、雇用対策など、多様な施策を支える総合的な制度として運営されています。
② 雇用保険制度の運用・管理方法
雇用保険制度は、厚生労働省が制度全体を所管し、都道府県労働局及び全国のハローワーク(公共職業安定所)が実際の運営を担っています。
事業主は、労働者を雇用した際に加入手続きを行うとともに、毎年、給与総額に基づいて雇用保険料を申告・納付します。
失業給付や教育訓練給付などの申請はハローワークが受け付け、受給資格の確認や給付決定なども同機関が行っています。
また、職業相談、職業紹介、求人情報の提供、再就職支援、職業訓練の案内などもハローワークが中心となって実施しており、雇用保険制度は就労支援制度とも密接に結び付いた運営が行われています。
③ 財政運営上の課題
雇用保険制度は、景気や雇用情勢によって財政状況が大きく左右される特徴があります。
特にコロナ禍では、雇用調整助成金や失業等給付の大幅な増加により、財政状況は急速に悪化し、保険料率や国庫負担の在り方についても見直しが行われました。
現在は財政状況も改善傾向にありますが、今後は人口減少や就業形態の多様化、AI・AXの進展などにより、制度を取り巻く環境はさらに大きく変化すると考えられます。
また、現行制度は「雇用される労働者」を前提として構築されているため、フリーランスや複数就業、自営業など、多様な働き方への対応には一定の限界があります。
こうした状況を踏まえると、今後は保険料負担や給付内容だけではなく、制度の対象者や役割そのものについても見直しを進め、人口減少社会やAI・AX時代に対応した新たな就労支援制度へ発展させていくことが求められるのではないでしょうか。
3)失業給付・就労支援制度
雇用保険制度の中心となるのが、失業した労働者に対する基本手当(失業給付)です。
しかし、現在の制度は失業中の生活保障だけではなく、早期の再就職支援や職業能力の向上、育児や介護など仕事と生活の両立支援まで、その役割を大きく広げています。
そのため、現在の雇用保険制度は、単なる失業保険制度ではなく、「働くこと」を総合的に支援する制度として位置付けられています。
① 基本手当(失業給付)
基本手当(失業給付)は、離職した労働者が再就職するまでの生活を支えるための給付制度です。
受給するためには、原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることが必要です。
ただし、倒産・解雇など会社都合による離職や、有期雇用契約の更新が行われなかった場合などには、離職前1年間に通算6か月以上加入していれば受給資格を得ることができます。
また、受給には、「働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っていること」が条件となります。
給付額は、離職前6か月間の賃金を基に算出される賃金日額のおおむね50~80%程度で、年齢や賃金水準によって異なります。
給付日数は、離職理由や雇用保険加入期間、年齢などに応じて90日から360日まで設定されています。
なお、受給開始までには7日間の待期期間が設けられており、自己都合退職の場合には、原則として1か月間の給付制限期間があります。
② 就労支援・能力開発支援
雇用保険制度では、失業給付だけではなく、再就職を支援するための様々な制度が設けられています。
ハローワークでは、求人情報の提供、職業相談、職業紹介、応募書類の作成支援、面接指導など、就職活動全般について支援が行われています。
また、教育訓練給付制度では、厚生労働大臣が指定する講座を受講した場合、一般教育訓練では受講費用の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練では40%(上限20万円)、専門実践教育訓練では条件を満たすことにより最大80%が支給されます。
さらに、公共職業訓練や求職者支援訓練なども実施されており、IT、デジタル、介護、建設など、人材不足分野を中心とした職業能力開発も進められています。
③ その他給付制度
雇用保険制度には、基本手当以外にも様々な給付制度があります。
代表的なものとして、育児休業給付では、休業開始から180日までは休業前賃金の67%、181日目以降は50%が支給されます。
また、介護休業給付では、対象家族1人につき通算93日を限度として、休業前賃金の67%が支給されます。
このほか、高年齢雇用継続給付や教育訓練給付なども設けられており、ライフステージや就労環境の変化に応じて、多様な働き方を支援する制度となっています。
このように、現在の雇用保険制度は、失業時の所得保障だけではなく、再就職支援、職業能力開発、育児・介護との両立支援など、多様な役割を担う制度へ発展してきました。
しかし、その対象は依然として「雇用される労働者」が中心であり、フリーランスや自営業者、複数の仕事を組み合わせて働く人などへの対応には課題も残されています。
シンBI2050では、生活保障はLSF生活保障給付制度が担い、厚生就労保険制度が就労支援、能力開発、資格取得支援、人材育成などを担うことで、それぞれの役割をより明確に分担した制度へ再構築することが望ましいと考えます。
4)制度の課題と改革の方向性
雇用保険制度は、失業時の所得保障や再就職支援など、長年にわたりわが国の雇用政策を支える重要な制度として機能してきました。
しかし、その制度設計は、高度経済成長期に形成された「企業へ就職し、長期間雇用される」という働き方を前提としています。
現在では、人口減少、少子高齢化、就業形態の多様化、AI・AXの進展など、制度を取り巻く環境は大きく変化しており、従来の制度だけでは対応が難しい課題も数多く生じています。
シンBI2050では、こうした社会環境の変化を踏まえ、生活保障制度と就労支援制度をそれぞれ独立した制度として再編し、より時代に適した制度への転換を目指しています。
① 現行制度の課題
現行の雇用保険制度は、「雇用される労働者」を対象として制度設計されているため、自営業者、フリーランス、複業・兼業を行う人など、多様な働き方への対応には限界があります。
また、失業給付、能力開発、育児・介護支援など、制度の役割が年々拡大した結果、本来異なる目的を持つ制度が一つの保険制度の中に組み込まれ、制度全体が複雑化しています。
さらに、人口減少社会では、生産年齢人口そのものが減少していくことから、失業対策だけではなく、人材育成や就労支援、労働力確保など、より幅広い役割が求められるようになっています。
② LSF生活保障給付導入による変化
LSF生活保障給付制度の導入により、失業した場合の生活基盤は、雇用保険制度だけに依存するのではなく、LSF生活保障給付制度によって一定水準まで保障されることになります。
これにより、雇用保険制度が担ってきた「失業時の最低限の生活保障」という役割は大きく変化し、制度全体を就労支援中心へ再編することが可能になります。
また、生活不安を過度に抱えることなく、新しい仕事への挑戦や学び直し、職業能力の向上に取り組みやすい環境が整うことも期待されます。
③ 厚生就労保険制度への移行と再編
厚生就労保険制度では、「失業後の生活保障」よりも、「働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとするすべての人」を支援する制度へ転換することを目指します。
具体的には、職業相談、職業紹介、職業能力開発、学び直し、資格取得支援、キャリア形成支援、就労移行支援、人材育成、公営事業への就労支援などを制度の中心的な役割として位置付けます。
また、加入対象についても、従来の雇用契約を前提とした制度から、自営業者やフリーランスなども含め、仕事によって所得を得ることを希望する人々へと段階的に拡大していくことを想定しています。
人口減少とAI・AX時代を迎えるこれからのわが国では、「失業への対応」を中心とした制度から、「働くことを支える制度」へ転換していくことが重要です。
厚生就労保険制度は、その中核となる制度として、LSF生活保障給付制度と相互に補完しながら、多様な働き方と就労機会を支える新たな社会保障制度へ発展していくことが期待されます。
【雇用保険制度の概要】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 雇用保険法 |
| 創設 | 1974年 |
| 財源 | 労使折半+国庫負担 |
| 加入対象 | 週20時間以上・31日以上雇用見込み等 |
| 保険料率 | 1.45%(2025年度一般事業) |
| 主な給付 | 基本手当・育児休業給付・教育訓練給付等 |
| 所管 | 厚生労働省・ハローワーク |
3-2 労災保険(労働者災害補償保険)の特徴と問題点
労災保険は、仕事中や通勤中の事故や疾病から労働者を守るための制度です。
しかし、フリーランスやギグワーカーなど、新しい就労形態の拡大に伴い、制度の対象や適用範囲をめぐる課題も生じています。
本項では、労災保険制度の特徴と課題を整理します。
1)制度創設の目的
労災保険制度は、労働者が業務又は通勤によって災害を受けた場合に、必要な補償を迅速かつ確実に行うことを目的として設けられています。
現在では、医療費や休業補償だけではなく、障害補償、遺族補償、介護補償、社会復帰支援なども含めた総合的な補償制度として運営されています。
① 労災保険制度創設の経緯と目的
わが国の労災保険制度は、1947(昭和22)年に労働者災害補償保険法が制定され、運用が開始されました。
戦後の産業復興が進む中で、工場や建設現場などにおける労働災害が増加し、労働者やその家族を保護する制度の必要性が高まったことが制度創設の背景にあります。
それまで労働災害に対する補償は、労働基準法に基づく事業主の補償責任が中心でしたが、個々の企業だけで十分な補償を行うことには限界がありました。
そこで、事業主が保険料を負担し、国が制度を運営する社会保険方式を採用することにより、被災した労働者に対して迅速かつ確実な補償を行う仕組みが整備されました。
② 補償対象となる労働災害及び通勤災害
労災保険の補償対象は、大きく「業務災害」と「通勤災害」の二つに区分されています。
「業務災害」とは、仕事中や業務に起因して発生した負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
一方、「通勤災害」とは、合理的な経路及び方法による通勤中に発生した事故などによる災害をいいます。
労災保険では、災害の内容に応じて療養(補償)等給付、休業(補償)等給付、障害(補償)等給付、遺族(補償)等給付、介護(補償)等給付、葬祭料などが支給されます。
なお、業務災害については、療養費は原則として全額給付され、休業した場合には、休業4日目から給付基礎日額の80%(休業補償給付60%、休業特別支給金20%)が支給されるなど、手厚い補償制度となっています。
③ 社会保障制度における労災保険の位置付け
労災保険は、雇用保険とともに労働保険制度を構成する重要な制度であり、仕事に起因する事故や疾病から労働者を守る役割を担っています。
また、医療保険や障害年金制度などとも密接に関連しながら、仕事に伴うリスクを社会全体で支える社会保障制度の一つとして位置付けられています。
一方で、制度の対象は基本的に「雇用される労働者」とされており、自営業者やフリーランスについては、特別加入制度の対象となる場合を除き、原則として適用対象外となっています。
しかし、近年では、働き方の多様化やフリーランスの増加などを背景として、制度の対象範囲についても見直しが進められています。
シンBI2050においても、仕事に伴う災害や事故への補償は引き続き必要不可欠な制度と考えていますが、その対象や運営方法については、多様な働き方や人口減少社会に対応できる制度へと再構築していくことが重要になると考えます。
2)制度の仕組みと運営
労災保険制度は、事業主が全額負担する保険料を財源として運営されている点が、雇用保険制度とは大きく異なる特徴です。
また、労働災害の発生状況は業種によって大きく異なることから、保険料率も業種ごとに細かく設定されており、「災害発生リスクに応じて負担する」という考え方が採用されています。
制度全体は労働保険特別会計(労災勘定)によって管理され、厚生労働省が制度全体を所管するとともに、全国の労働局及び労働基準監督署が実務を担当しています。
① 労災保険料の仕組みと歳入・歳出状況
労災保険料は、労働者本人の負担はなく、事業主が賃金総額に保険料率を乗じて全額負担する仕組みとなっています。
保険料率は事業の種類ごとに設定されており、令和7(2025)年度では54業種に区分されています。
保険料率は、
・最低 0.25%(金融業、保険業、情報サービス業など)
・最高 8.80%(林業)
となっており、約35倍もの開きがあります。
例えば、
・一般製造業 0.35~0.95%程度
・運送業 0.40~1.10%程度
・建設業 0.90~3.40%程度
となっており、労働災害発生率が高い業種ほど保険料率も高く設定されています。
令和5(2023)年度決算では、
・保険料収入 約1兆2,000億円
・歳入総額 約1兆5,000億円
・歳出総額 約1兆3,000億円
となっています。
歳出の大部分は、療養(補償)等給付、休業(補償)等給付、障害(補償)等給付、遺族(補償)等給付
などの保険給付費が占めています。
このほか、社会復帰促進等事業、労働災害防止対策、安全衛生対策、制度運営費などにも支出されています。
② 労災保険制度の運用・管理方法
労災保険制度は、厚生労働省が制度全体を所管し、都道府県労働局及び労働基準監督署が実際の運営を担当しています。
事業主は毎年、労働保険年度更新において賃金総額を申告し、労災保険料を納付します。
労働災害が発生した場合には、労働基準監督署が災害発生状況や業務との因果関係などを調査し、労災認定を行います。
認定後は、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付など、それぞれの状況に応じた保険給付が行われます。
また、被災労働者の社会復帰支援、義肢装具の支給、リハビリテーション、労働災害防止対策なども制度の重要な役割となっています。
③ 財政運営及び保険料率設定の特徴・課題
労災保険制度の特徴は、業種ごとの労働災害発生率を基に保険料率を設定していることです。
また、一定規模以上の事業については、過去の災害発生状況に応じて保険料率を増減する「メリット制」が導入されており、安全管理に積極的に取り組む企業ほど保険料負担が軽減される仕組みとなっています。
一方で、制度創設当時には想定されていなかった課題も増えています。
高齢就労者の増加、女性就労の拡大、フリーランスなど多様な働き方の普及に加え、精神障害や長時間労働による労災認定件数も増加しています。
さらに、AI・AXの進展によって、従来型の肉体労働災害だけではなく、人とAIが協働する新たな就労環境における安全管理や責任のあり方についても検討が求められる時代となっています。
このような状況を踏まえると、今後は従来の制度を維持するだけではなく、多様な働き方への対応、制度対象の見直し、安全衛生対策の高度化などを進め、人口減少社会やAI・AX時代に対応した労災補償制度へ発展させていくことが重要になると考えます。
3)給付制度と企業責任・社会保障の関係
労災保険制度は、業務上又は通勤による災害を受けた労働者やその家族を保護することを目的とする制度です。
その特徴は、単なる社会保障制度ではなく、事業主が本来負うべき災害補償責任を、保険制度によって確実かつ迅速に実現する仕組みとなっていることです。
このため、医療保険や年金制度など一般的な社会保障制度とは制度創設の考え方や役割が異なっており、その違いを理解することが重要です。
① 労災補償給付制度の概要
労災保険では、労働災害や通勤災害によって負傷、疾病、障害又は死亡した場合、その状況に応じて様々な保険給付が行われます。
主な給付には、
・療養(補償)等給付(医療費は原則全額給付)
・休業(補償)等給付(休業4日目から給付基礎日額の80%)
・障害(補償)等給付
・遺族(補償)等給付
・介護(補償)等給付
・傷病(補償)等年金
・葬祭料・葬祭給付などがあります。
また、社会復帰促進等事業として、リハビリテーション、義肢・装具の支給、被災労働者や遺族への各種支援なども実施されています。
このように、労災保険制度は、事故後の所得補償だけではなく、治療から社会復帰までを含めた総合的な補償制度として運営されています。
② 企業責任と無過失補償制度の考え方
労災保険制度の大きな特徴は、「無過失補償」の考え方を採用していることです。
これは、労働者や事業主の過失の有無にかかわらず、業務又は通勤との因果関係が認められれば、保険給付が行われる制度です。
その背景には、労働基準法に基づき、事業主には労働者の安全に配慮し、業務上の災害について補償責任を負うという考え方があります。
しかし、個々の企業だけで十分な補償を継続して行うことには限界があるため、事業主が保険料を拠出し、国が制度として運営する社会保険方式が採用されています。
その結果、被災した労働者は迅速かつ確実に補償を受けることができ、企業側も過大な補償負担による経営不安を避けることが可能となっています。
③ 労災保険と社会保障制度との役割分担
労災保険制度は、健康保険や障害年金など一般の社会保障制度とは、その役割が明確に区分されています。
例えば、仕事中の負傷や疾病については健康保険ではなく労災保険が適用され、業務災害に起因する補償については、労災保険制度が優先して給付を行います。
一方、業務と関係のない病気やけがについては健康保険制度が適用されるなど、それぞれの制度が役割を分担しています。
シンBI2050においても、業務災害や通勤災害に対する補償制度は、今後も必要不可欠な制度として維持されるべきであると考えています。
ただし、働き方の多様化やAI・AXの進展、フリーランスや個人事業者の増加などを踏まえると、補償対象や制度運営については現代の就労実態に合わせて見直しを進める必要があります。
その上で、LSF生活保障給付制度がすべての人の生活基盤を支え、労災保険制度が業務上災害に対する補償を担い、さらに厚生就労保険制度が就労支援や能力開発を担うというように、それぞれの制度が本来の役割を分担しながら相互に補完し合う制度体系を構築していくことが重要になると考えます。
4)制度改革の方向性
労災保険制度は、制度創設以来、業務上及び通勤途上の災害から働く人々を守る重要な制度として大きな役割を果たしてきました。
しかし、制度創設当時と比べると、就業構造や産業構造、働き方は大きく変化しています。
人口減少、少子高齢化、AI・AXの進展、フリーランスなど新たな働き方の拡大など、社会経済環境が大きく変化する中で、現行制度についても時代に合わせた見直しが求められています。
シンBI2050では、労災補償制度が担うべき役割は維持しつつ、多様な働き方にも対応できる制度へと再構築していくことが必要であると考えます。
① 現行労災保険制度の課題
現行制度は、「雇用される労働者」を基本として制度設計されています。
そのため、企業へ雇用される働き方が中心であった時代には十分機能してきましたが、現在では働き方の多様化が進み、制度との間に様々な課題が生じています。
また、制度創設当時は工場や建設現場などで発生する身体的災害への対応が中心でしたが、現在では精神障害、長時間労働、ハラスメントなど、新たな労働災害も増加しています。
さらに、高齢就労者の増加やAI・AXの進展に伴い、人とAIが協働する職場環境や遠隔勤務など、従来想定されていなかった就労形態への対応も求められています。
② 雇用形態の多様化・フリーランス等への対応
近年では、自営業者、フリーランス、副業・兼業、業務委託など、多様な働き方が急速に広がっています。
こうした人々の中には、企業に雇用される労働者と同様の業務に従事しているにもかかわらず、現行制度では原則として労災保険の対象外となる場合も少なくありません。
現在では、一部の業種について特別加入制度が拡充されていますが、制度全体として見ると、依然として雇用契約の有無を基準とした制度設計となっています。
今後は、「誰に雇用されているか」ではなく、「どのような仕事に従事し、どのような業務上の危険を負っているか」という観点から制度を見直していくことも重要な課題になると考えられます。
③ 厚生就労保険制度への統合・再編の方向性
このように、労災保険制度は「仕事に伴う災害への補償」、LSF生活保障給付制度は「生活基盤の保障」、厚生就労保険制度は「働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとする人への就労支援」というように、それぞれの制度が本来の役割を明確に分担する制度体系を構築することが可能になります。
人口減少とAI・AX時代を迎えるこれからのわが国では、従来の雇用中心の制度から、多様な働き方を前提とした制度へ転換していくことが重要です。
労災保険制度についても、その基本的な役割を維持しながら、新しい時代に対応した制度へ発展させ、誰もが安心して働くことができる環境を整備していくことが求められると考えます。
【労災保険制度の概要】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 労働者災害補償保険法 |
| 創設 | 1947年 |
| 財源 | 事業主100%負担 |
| 加入対象 | 労働者(特別加入制度あり) |
| 保険料率 | 0.25~8.8% |
| 主な給付 | 療養・休業・障害・遺族等 |
| 所管 | 厚生労働省・労働基準監督署 |

3-3 労働保険の意義と社会保障制度における位置付け
労働保険制度は、社会保障制度全体の中では社会保険制度の一部として位置付けられています。
しかし、LSF生活保障給付を基盤とするシンBI2050では、その役割や制度設計も大きく変わる可能性があります。
本項では、労働保険制度の本来の役割を確認するとともに、新たな生活保障体系の中でどのような位置付けが望ましいのかを整理します。
1)社会保険制度の一部としての労働保険
労働保険制度は、雇用保険制度と労災保険制度の二つの制度によって構成されています。いずれも、働く人々を支える社会保険制度として重要な役割を果たしていますが、その制度目的や財源、給付内容は大きく異なります。
そのため、それぞれの制度の役割を正しく理解した上で、今後の制度改革を検討することが重要になります。
① 労働保険制度の目的と社会的役割
労働保険制度は、仕事に伴って発生する様々なリスクから働く人々を守ることを目的として設けられています。
雇用保険制度は、失業や育児・介護、能力開発など、就労の継続や再就職を支援する役割を担っています。
一方、労災保険制度は、業務上又は通勤途上に発生した災害について補償を行い、被災した労働者やその家族を保護する役割を担っています。
このように、労働保険制度は、働く人々が安心して仕事に従事できる環境を支えるとともに、企業活動や経済活動の安定にも大きく寄与している制度と言えます。
② 雇用保険・労災保険の制度的特徴
雇用保険制度と労災保険制度は、ともに労働保険制度を構成していますが、その制度設計には大きな違いがあります。
雇用保険は、労働者と事業主が保険料を共同で負担し、失業給付や就労支援、能力開発支援などを行う制度です。
これに対し、労災保険は、事業主が保険料を全額負担し、業務災害や通勤災害による補償を行う制度となっています。
また、雇用保険は「雇用関係」を前提として制度が構築されているのに対し、労災保険は「業務に起因する災害への補償」を目的とする制度であり、それぞれ異なる役割を担っています。
③ 社会保障制度全体における位置付けと課題
労働保険制度は、医療保険制度、年金制度、介護保険制度などとともに、わが国の社会保障制度を構成する重要な制度の一つです。
しかし、その制度設計は、高度経済成長期における「企業へ雇用され、長期間働き続ける」という就業構造を前提として構築されてきました。
そのため、フリーランスや自営業者、副業・兼業など多様な働き方が広がる現在では、制度の対象や役割について見直しが求められる場面も増えています。
さらに、人口減少社会では、労働力不足への対応や職業能力開発、人材確保など、新たな役割も期待されるようになっています。
シンBI2050では、生活保障はLSF生活保障給付制度、就労支援は厚生就労保険制度、業務災害補償は労災保険制度というように、それぞれの制度が本来担うべき役割をより明確に整理し、相互に補完し合う制度体系へ再構築することが重要であると考えます。
2)LSF生活保障給付との役割分担
シンBI2050では、現行の社会保障制度が抱える様々な課題の背景には、「生活保障」と「就労支援」、さらには「業務上災害への補償」など、本来異なる役割を担う制度が複雑に重なり合っていることも一因であると考えています。
そのため、各制度が担う役割を明確に整理し、それぞれが本来の目的に沿って機能する制度体系へ再編していくことが重要になります。
LSF生活保障給付制度と労働保険制度も、互いに競合する制度ではなく、それぞれ異なる役割を担いながら相互に補完し合う制度として位置付けられます。
① LSF生活保障給付が担う生活保障機能
LSF生活保障給付制度は、すべての人が安心して生活を営むための基盤となる生活保障を担う制度です。
就労の有無や雇用形態、年齢などを基本的な給付要件とするのではなく、私たち国民一人ひとりの生活基盤を支える制度として位置付けられます。
そのため、失業や病気、障害、育児、介護など、人生の様々な局面においても、最低限の生活基盤を維持できるよう支援することが制度の基本的な役割となります。
これにより、生活への過度な不安を抱えることなく、新たな仕事への挑戦や学び直し、職業能力の向上などにも取り組みやすい環境を整えることが期待されます。
② 労働保険制度が担う就労保障機能
一方、労働保険制度は、働く人々を支える制度として、それぞれ異なる役割を担います。
雇用保険制度は、将来的には厚生就労保険制度へ発展的に再編し、職業相談、職業紹介、学び直し、資格取得支援、職業能力開発など、「働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとする人」を支援する制度へ転換していくことを目指します。
また、労災保険制度は、業務上又は通勤途上に発生した災害に対する補償制度として、その役割を維持しながら、多様な働き方にも対応できる制度へ発展させていくことが求められます。
このように、労働保険制度は、生活そのものを保障する制度ではなく、安全に働き、能力を発揮し、自らが希望する仕事に挑戦できる環境を支える制度として位置付けることが重要になります。
③ 両制度の補完関係と制度再編の方向
LSF生活保障給付制度と労働保険制度は、それぞれ異なる役割を担いながら、一体となって新しい社会保障制度を構成します。
LSF生活保障給付制度が国民の生活基盤を支え、厚生就労保険制度が就労支援や職業能力開発、人材育成などを担い、労災保険制度が業務上災害に対する補償を担うことにより、それぞれの制度目的がより明確になります。
また、生活保障を就労条件と切り離すことによって、働くことを希望する人は安心して新しい仕事へ挑戦し、学び直しや職業能力の向上にも取り組みやすくなります。
3)失業給付・就労支援制度
雇用保険制度の中心となるのが、失業した労働者に対する基本手当(失業給付)です。
しかし、現在の制度は失業中の生活保障だけではなく、早期の再就職支援や職業能力の向上、育児や介護など仕事と生活の両立支援まで、その役割を大きく広げています。
そのため、現在の雇用保険制度は、単なる失業保険制度ではなく、「働くこと」を総合的に支援する制度として位置付けられています。
① 基本手当(失業給付)
基本手当(失業給付)は、離職した労働者が再就職するまでの生活を支えるための給付制度です。
受給するためには、原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることが必要です。
ただし、倒産・解雇など会社都合による離職や、有期雇用契約の更新が行われなかった場合などには、離職前1年間に通算6か月以上加入していれば受給資格を得ることができます。
また、受給には、「働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っていること」が条件となります。
給付額は、離職前6か月間の賃金を基に算出される賃金日額のおおむね50~80%程度で、年齢や賃金水準によって異なります。
給付日数は、離職理由や雇用保険加入期間、年齢などに応じて90日から360日まで設定されています。
なお、受給開始までには7日間の待期期間が設けられており、自己都合退職の場合には、原則として1か月間の給付制限期間があります。
② 就労支援・能力開発支援
雇用保険制度では、失業給付だけではなく、再就職を支援するための様々な制度が設けられています。
ハローワークでは、求人情報の提供、職業相談、職業紹介、応募書類の作成支援、面接指導など、就職活動全般について支援が行われています。
また、教育訓練給付制度では、厚生労働大臣が指定する講座を受講した場合、一般教育訓練では受講費用の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練では40%(上限20万円)、専門実践教育訓練では条件を満たすことにより最大80%が支給されます。
さらに、公共職業訓練や求職者支援訓練なども実施されており、IT、デジタル、介護、建設など、人材不足分野を中心とした職業能力開発も進められています。
③ その他給付制度
雇用保険制度には、基本手当以外にも様々な給付制度があります。
代表的なものとして、育児休業給付では、休業開始から180日までは休業前賃金の67%、181日目以降は50%が支給されます。
また、介護休業給付では、対象家族1人につき通算93日を限度として、休業前賃金の67%が支給されます。
このほか、高年齢雇用継続給付や教育訓練給付なども設けられており、ライフステージや就労環境の変化に応じて、多様な働き方を支援する制度となっています。
このように、現在の雇用保険制度は、失業時の所得保障だけではなく、再就職支援、職業能力開発、育児・介護との両立支援など、多様な役割を担う制度へ発展してきました。
しかし、その対象は依然として「雇用される労働者」が中心であり、フリーランスや自営業者、複数の仕事を組み合わせて働く人などへの対応には課題も残されています。
シンBI2050では、生活保障はLSF生活保障給付制度が担い、厚生就労保険制度が就労支援、能力開発、資格取得支援、人材育成などを担うことで、それぞれの役割をより明確に分担した制度へ再構築することが望ましいと考えます。
4)制度の課題と改革の方向性
雇用保険制度は、失業時の所得保障や再就職支援など、長年にわたりわが国の雇用政策を支える重要な制度として機能してきました。しかし、その制度設計は、高度経済成長期に形成された「企業へ就職し、長期間雇用される」という働き方を前提としています。
現在では、人口減少、少子高齢化、就業形態の多様化、AI・AXの進展など、制度を取り巻く環境は大きく変化しており、従来の制度だけでは対応が難しい課題も数多く生じています。
シンBI2050では、こうした社会環境の変化を踏まえ、生活保障制度と就労支援制度をそれぞれ独立した制度として再編し、より時代に適した制度への転換を目指しています。
① 現行制度の課題
現行の雇用保険制度は、「雇用される労働者」を対象として制度設計されているため、自営業者、フリーランス、複業・兼業を行う人など、多様な働き方への対応には限界があります。
また、失業給付、能力開発、育児・介護支援など、制度の役割が年々拡大した結果、本来異なる目的を持つ制度が一つの保険制度の中に組み込まれ、制度全体が複雑化しています。
さらに、人口減少社会では、生産年齢人口そのものが減少していくことから、失業対策だけではなく、人材育成や就労支援、労働力確保など、より幅広い役割が求められるようになっています。
② LSF生活保障給付導入による変化
シンBI2050では、生活保障については、LSF生活保障給付制度によって担うことを基本としています。
そのため、失業した場合の生活基盤は、雇用保険制度だけに依存するのではなく、LSF生活保障給付制度によって一定水準まで保障されることになります。
これにより、雇用保険制度が担ってきた「失業時の最低限の生活保障」という役割は大きく変化し、制度全体を就労支援中心へ再編することが可能になります。
また、生活不安を過度に抱えることなく、新しい仕事への挑戦や学び直し、職業能力の向上に取り組みやすい環境が整うことも期待されます。
③ 厚生就労保険制度への移行と再編
シンBI2050では、現行の雇用保険制度を発展的に再編し、新たに厚生就労保険制度として位置付けることを提案しています。
厚生就労保険制度では、「失業後の生活保障」よりも、「働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとするすべての人」を支援する制度へ転換することを目指します。
具体的には、職業相談、職業紹介、職業能力開発、学び直し、資格取得支援、キャリア形成支援、就労移行支援、人材育成、公営事業への就労支援などを制度の中心的な役割として位置付けます。
また、加入対象についても、従来の雇用契約を前提とした制度から、自営業者やフリーランスなども含め、仕事によって所得を得ることを希望する人々へと段階的に拡大していくことを想定しています。
人口減少とAI・AX時代を迎えるこれからのわが国では、「失業への対応」を中心とした制度から、「働くことを支える制度」へ転換していくことが重要です。
厚生就労保険制度は、その中核となる制度として、LSF生活保障給付制度と相互に補完しながら、多様な働き方と就労機会を支える新たな社会保障制度へ発展していくことが期待されます。
3)厚生就労保険制度への橋渡し
ここまで見てきたように、現行の労働保険制度は、雇用保険制度と労災保険制度という二つの制度によって構成され、それぞれ長年にわたり重要な役割を果たしてきました。
しかし、人口減少、少子高齢化、AI・AXの進展、働き方の多様化など、社会経済環境が大きく変化する中で、制度創設当時の前提だけでは十分に対応できない課題も増えています。
シンBI2050では、こうした変化を踏まえ、生活保障制度と就労支援制度の役割を明確に区分するとともに、労働保険制度についても、時代に適した新たな制度へ発展的に再編することを提案しています。
① 雇用保険・労災保険統合の必要性
現在の労働保険制度は、雇用保険制度と労災保険制度を総称した制度ですが、制度の目的や対象、財源、運営方法は大きく異なっています。
一方で、いずれも「働く人」を対象とする制度であることから、窓口や運営体制、人材育成、職業相談、職業紹介などについては、より一体的な制度運営を進める余地もあります。
② 「就労」を中心とした社会保険制度への再編
現行の雇用保険制度は、「失業への対応」を制度の出発点として発展してきました。
しかし、人口減少社会では、失業対策だけではなく、働くことを希望する人への職業相談、能力開発、学び直し、資格取得支援、就労機会の拡充、人材育成などが、より重要な政策課題となります。
そのため、シンBI2050では、「失業保険」から「就労支援」へ、「雇用中心」から「就労中心」へと制度の考え方を転換し、厚生就労保険制度として発展的に再編することを提案しています。
ここでいう「就労」とは、雇用契約による働き方だけを意味するものではありません。
働くことを希望し、自ら選択した仕事によって収入を得ようとするすべての人を支える制度として構築していくことが重要であると考えます。
③ LSF・厚生健康保険・厚生住宅保険との関係
シンBI2050では、社会保障制度全体を、それぞれの目的に応じた制度へ整理・再編することを基本的な考え方としています。
LSF生活保障給付制度は、すべての人の生活基盤を保障する制度として位置付けられます。
厚生健康保険制度は、医療や介護など健康に関する保障を担います。
厚生住宅保険制度は、住宅の確保や住み替え支援、住宅の維持・改善など、住生活基盤を支える制度として構想しています。
そして厚生就労保険制度は、職業能力開発、資格取得支援、学び直し、就労相談、職業紹介、人材育成など、働くことを希望する人を支える制度として位置付けられます。
それぞれの制度が本来の役割を明確に分担しながら相互に補完し合うことで、より分かりやすく、持続可能な社会保障制度体系を構築することが可能になると考えます。
④ 厚生就労保険制度創設の基本理念
厚生就労保険制度の目的は、「失業への対応」を中心とした制度ではなく、一人ひとりが希望する仕事に挑戦し、その能力や経験を十分に発揮できる社会を支えることにあります。
生活保障についてはLSF生活保障給付制度が担い、仕事に伴う災害補償については労災保険制度が担う。
その上で厚生就労保険制度は、就労支援、能力開発、資格取得支援、人材育成、職業紹介などを総合的に担う制度として機能します。
人口減少とAI・AX時代を迎えるこれからのわが国では、「失業した人を支える制度」から、「働くことを希望する人を支え、能力を発揮できる環境を整える制度」への転換が求められます。
シンBI2050では、現行の雇用保険制度及び労災保険制度が担ってきた基本的な機能を維持しながら、それぞれの制度目的をより明確に整理・再編することを基本的な考え方としています。
生活保障はLSF生活保障給付制度、就労支援や能力開発、キャリア形成支援などは厚生就労保険制度、業務上及び通勤途上の災害補償は労災保険制度が担うことで、制度相互の役割を明確化し、多様な働き方や人口減少社会、AI・AX時代にも対応できる持続可能な制度体系を構築することを目指します。
シンBI2050が提案する厚生就労保険制度は、その中核を担う新たな社会保険制度として、多様な働き方と持続可能な社会保障制度を支える基盤となることを目指すものです。

4.厚生就労保険制度設計の基本方針と方向性
これまで見てきたように、現在の就労・雇用制度や労働保険制度は、「企業に雇用される労働者」を前提として発展してきました。しかし、人口減少、少子高齢化、働き方の多様化、AI・AXの進展などにより、その前提そのものが大きく変化しています。
一方で、仕事は単に所得を得るための手段ではなく、一人ひとりが能力や経験を生かし、社会に参加し、生きがいを見いだす重要な営みでもあります。また、医療、介護、農業、観光、防災、地域産業など、わが国の社会基盤を維持していくためにも、多様な就労を支える制度の重要性は今後ますます高まるものと考えられます。
本節では、こうした社会の変化を踏まえ、現行の雇用保険制度及び労災保険制度を発展的に統合・再編した「厚生就労保険制度」の基本理念、制度設計及び財政運営の考え方について提案します。
4-1 制度創設の目的及び基本理念
現在の労働保険制度は、雇用保険制度と労災保険制度を中心として構成され、それぞれ重要な役割を果たしてきました。
しかし、その制度設計は「企業に雇用される労働者」を基本としており、多様な働き方が広がる現在では、制度の対象や役割について見直しが求められるようになっています。
シンBI2050では、生活保障はLSF生活保障給付が担い、厚生就労保険制度は「働くことを希望する人々」を支援する制度として再構築します。
ここでは、その制度創設の目的と基本理念について整理します。
1)厚生就労保険制度創設の目的
厚生就労保険制度は、単に雇用保険制度と労災保険制度を統合することを目的とするものではありません。
多様な働き方が一般化する社会において、就労形態にかかわらず、失業給付、労災補償、就労支援、技能・技術開発支援などを一体的に担う、新しい社会保険制度として位置付けるものです。
以下、当制度を創設するに当たっての基本となる理念・考え方について、整理しました。
① 制度創設の背景
現在の労働保険制度は、高度経済成長期に形成された雇用構造を前提として整備されてきました。
しかし現在では、非正規雇用、フリーランス、自営業、副業・兼業など、多様な働き方が広がり、人口減少やAI・AXの進展によって、仕事そのもののあり方も大きく変化しています。
また、医療、介護、農業、物流、観光、防災など、人材確保が重要となる分野も拡大しています。
こうした社会の変化に対応するためには、従来の雇用中心の制度から、より多様な就労を支える制度への転換が必要になります。
② 「厚生」の意味・意義
本制度における「厚生」とは、単なる福利厚生を意味するものではありません
一人ひとりが安心して働き、能力を発揮し、人生の各ライフステージを通じて安定した生活を築くことができるよう支えるという、広い意味での生活基盤の充実を意味しています。
生活そのものはLSF生活保障給付によって支えられますが、その上で働くことを希望する人が安心して挑戦し続けられる環境を整えることも、厚生の重要な役割になります。
③ 「就労」の意味・意義
本制度が対象とする「就労」とは、企業に雇用される労働だけを意味するものではありません。
給与所得者、自営業者、個人事業主、フリーランス、農林水産業従事者、家族従業者など、自らの意思によって仕事に取り組み、収入を得ようとする様々な活動を含みます。
また、就労とは単なる所得獲得手段ではなく、能力を発揮し、社会に参加し、生きがいを実現する重要な営みでもあります。
言い換えると、「就労」は、「働くこと」「働き方」を意味する言葉と言えるかと思います。
但し、本制度では、働き方の違いによって支援対象を限定するのではなく、多様な就労=働き方を支える制度として設計します。
④ 保険制度として位置付ける意味
厚生就労保険制度は、公的扶助ではなく、社会保険制度として構築します。
これは、働く人々が保険料を負担し合い、相互扶助の考え方に基づいて制度を支えるという社会保険本来の理念を継承し、具現化するためです。
また、個人、企業、国がそれぞれ一定の役割を担うことで、持続可能で安定した制度運営を図ることも目的としています。
さらに、社会保険制度として位置付けることにより、失業給付、労働災害補償、就労支援、能力開発支援など、現行制度が担ってきた機能を継承しながら、新しい時代に対応した制度へと発展させていきます。
2)LSF生活保障給付との役割分担
LSF生活保障給付と厚生就労保険制度は、どちらも国民生活を支える重要な制度ですが、その役割は明確に異なります。
双方の役割と分担について整理しました。
① LSF生活保障給付が担う生活保障
LSF生活保障給付は、すべての人が安心して生活できる基盤を保障する制度です。
② 厚生就労保険制度が担う就労支援
厚生就労保険制度は、就労相談、職業紹介、学び直し、資格取得、技能・技術開発、労災補償などを通じて、就労に関わるリスクと機会を総合的に支える制度です。
③ 両制度の補完関係
生活保障と就労支援は対立するものではありません。
生活の基盤が安定しているからこそ、人は安心して仕事に挑戦し、学び直し、新たな働き方を選択することができます。
両制度は、それぞれ異なる役割を担いながら相互に補完し合う関係にあります。
3)制度創設によって目指す方向性
厚生就労保険制度は、従来の雇用保険制度を単に拡充するものではありません。
以下の方針・方向付けに基づき、雇用中心の労働保険制度を、多様な就労形態に対応する新しい社会保険制度へシン化・転換することを目指します。
① 多様な働き方を支える制度
雇用形態に左右されず、多様な就労を支える制度へ転換します。
② 就労希望者を支援する制度
単なる就職斡旋ではなく、相談、情報提供、職業体験、学び直しなどを組み合わせた就労支援へ転換します。
③ 能力発揮を支援する制度
適性把握、技能・技術開発、資格取得、就労継続支援などを通じて、仕事との接続を具体的に支援します。
④ 人生の各ライフステージに対応する制度
子育て、介護、学び直し、再就職、高齢期など、人生の各段階に応じて継続的に就労を支える制度として構築します。
ここまで述べてきた厚生就労保険制度の基本理念を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 現行制度 | 厚生就労保険制度 |
|---|---|---|
| 制度目的 | 雇用維持・失業対策 | 就労支援・能力発揮支援 |
| 基本対象 | 雇用労働者 | 働くことを希望するすべての人 |
| 生活保障 | 一部担う | LSF生活保障給付へ役割分担 |
| 就労支援 | 雇用中心 | 多様な働き方全体を支援 |
| 制度理念 | 雇用保険 | 就労社会基盤 |
このように、本制度は現行制度を否定するものではなく、その役割を発展的に再整理する制度として位置付けられます。
4-2 加入対象者及び保険制度の基本設計
厚生就労保険制度を設計する上で最も重要になるのは、誰を制度の対象とするかという点です。
現行の雇用保険制度は、基本的に「企業に雇用される労働者」を中心として構築されています。
しかし、現在では、給与所得者だけではなく、自営業者、個人事業主、フリーランス、ギグワーカー、農林水産業従事者、家族従業者など、多様な形で働き、所得を得る人々が広がっています。
そのため、新たな厚生就労保険制度では、雇用契約の有無だけを基準とするのではなく、就労実態、所得形態、支援の必要性に応じて対象者を把握する制度として設計する必要があります。
ここでは、加入対象者、所得がない人への対応、保険料負担の基本原則について整理します。
1)加入対象者の基本方針
厚生就労保険制度は、従来の雇用保険制度のように、企業に雇用される労働者だけを中心とする制度ではありません。
給与所得者、自営業者、フリーランス、家族従業者、求職者、学び直し中の人などを含め、就労との関わりに応じて制度対象を広く捉える仕組みとして構築します。
① 全国民加入を基本とする考え方
厚生就労保険制度は、原則として全国民を制度対象に置くことを基本とします。
ただし、これはすべての人に同じ保険料負担や同じ給付を行うという意味ではありません。
実際の保険料負担や給付内容は、所得の有無、就労状況、年齢、ライフステージ、支援の必要性などに応じて区分される必要があります。
重要なのは、制度の入口を「雇用されている人」に限定しないことです。
就労している人だけではなく、求職中の人、学び直しを行う人、子育てや介護などで一時的に就労を離れている人も、制度上の接続を維持できるようにします。
② 雇用形態を問わない加入制度
現行制度では、雇用契約の有無が制度適用の大きな基準となっています。
しかし、実際には、企業に雇用されていなくても、仕事を行い、所得を得ている人は数多く存在します。自営業者、個人事業主、フリーランス、ギグワーカー、農林水産業従事者などは、その代表例です。
厚生就労保険制度では、こうした働き方を制度の外側に置くのではなく、就労の一形態として正面から位置付けます。
雇用契約があるかどうかではなく、仕事によって所得を得ているか、または働くことを希望しているかを重視することにより、多様化する就労実態に対応できる制度となります。
③ 個人単位加入への転換
厚生就労保険制度では、企業単位ではなく、個人単位で制度に加入する考え方を基本とします。
これまでの雇用保険制度は、事業所を通じて労働者を把握し、保険料を徴収する仕組みが中心でした。しかし、複数の仕事を持つ人、副業・兼業を行う人、個人で仕事を受注する人が増える中では、事業所単位だけで就労実態を把握することには限界があります。
個人単位加入へ転換することで、働き方が変わっても制度との接続が切れにくくなります。
また、転職、独立、休職、学び直し、育児、介護、高齢期の就労など、人生の各段階に応じた柔軟な制度運用が可能になります。
④ 多様な働き方への対応
厚生就労保険制度は、多様な働き方を例外として扱う制度ではなく、多様な働き方そのものを前提として設計する制度です。
正規雇用、非正規雇用、自営業、フリーランス、副業・兼業、農林水産業、家族従業、短時間就労、地域活動に近い就労など、働き方は今後さらに多様化していきます。
その際に重要なのは、働き方の違いによって制度的な不利が過度に生じないようにすることです。
多様な働き方を認めるだけではなく、それぞれの働き方に応じた保険料負担、所得保障、就労支援、能力発揮支援をどのように設計するかが、新制度の重要な課題となります。
2)対象となる加入者
厚生就労保険制度では、所得を得ている人、または所得を得ることを希望する人を幅広く対象とします。
ここで重要なのは、対象者を「雇用されているかどうか」で区分するのではなく、どのような形で仕事に関わり、所得を得ているか、あるいは今後得ようとしているかという視点で捉えることです。
① 給与所得者
給与所得者は、厚生就労保険制度の中でも主要な加入者層となります。
正社員、契約社員、派遣社員、パートタイマー、アルバイトなど、雇用契約に基づいて給与を得ている人は、現行の雇用保険制度においても中心的な対象となっています。
新制度でも、給与所得者は引き続き重要な対象となりますが、従来と異なるのは、給与所得者だけを制度の中心に置かないことです。
給与所得者については、現行制度で蓄積されてきた保険料徴収や給付管理の仕組みを活用しながら、より広い就労支援制度へ接続していくことが求められます。
② 自営業者・個人事業主
自営業者や個人事業主は、現行の雇用保険制度では原則として対象外となっています。
しかし、実際には、自ら事業を営み、所得を得て、地域経済や生活サービスを支えている人々でもあります。
所得変動や事業継続リスクを抱えやすい一方で、失業給付や雇用保険による就労支援とは接続しにくい立場に置かれてきました。
厚生就労保険制度では、自営業者や個人事業主も加入対象に位置付け、事業継続、事業転換、学び直し、再就労支援などを受けられる制度として設計する必要があります。
③ フリーランス・ギグワーカー
フリーランスやギグワーカーは、今後さらに増加する可能性がある働き方です。
専門性を生かして働く人もいれば、短期・単発の仕事を組み合わせて生活を支える人もいます。自由度が高い一方で、所得の不安定さ、契約上の弱さ、事故や病気への備え、キャリア形成の難しさなど、独自の課題を抱えています。
厚生就労保険制度では、フリーランスやギグワーカーを例外的な存在としてではなく、就労形態の一つとして制度に組み込む必要があります。
その際には、所得把握、保険料負担、業務上災害への対応、学び直し支援、仕事の継続支援などを一体的に検討することが重要になります。
④ 農林水産業従事者
農林水産業従事者は、食料安全保障や地域維持の観点からも重要な就労主体です。
しかし、農業や漁業、林業では、就労形態や所得構造が一般的な給与所得者とは異なる場合が多く、季節変動や天候、価格変動などの影響も受けやすい特徴があります。
厚生就労保険制度では、農林水産業を単なる一産業としてではなく、国家社会・生活社会を支える基盤的分野として位置付ける必要があります。
そのため、加入制度においても、所得の変動性や家族経営の実態、地域産業としての役割を踏まえた設計が求められます。
⑤ 家族従業者
家族従業者は、自営業や農林水産業、小規模事業などにおいて重要な役割を果たしているにもかかわらず、制度上の位置付けが曖昧になりやすい存在です。
実際には事業に従事し、労働力として貢献していても、給与所得者として明確に把握されない場合や、社会保険制度との接続が弱い場合があります。
厚生就労保険制度では、家族従業者についても、実際の就労実態に応じて制度対象として把握することが重要です。
家族経営や小規模事業の実態を踏まえ、本人の就労、所得、将来の生活保障と結び付けて制度設計する必要があります。
⑥ その他所得を有する就労者
現代の働き方は、既存の分類だけでは整理できないものも増えています。
副業・兼業、短時間就労、地域での有償活動、デジタルプラットフォームを通じた収入、複数の所得源を組み合わせる働き方などが広がっています。
厚生就労保険制度では、こうした新しい所得形態を制度の外側に置くのではなく、一定の所得を得ている就労者として把握する必要があります。
そのためには、所得情報と就労実態を適切に把握し、保険料負担や給付、就労支援へつなげる仕組みが不可欠になります。
3)所得がない人への対応
厚生就労保険制度を全国民対象の制度として構想する場合、所得がない人をどのように位置付けるかが重要になります。
所得がないから制度の対象外とするのではなく、現在は所得がなくても、将来的に働くことを希望する人、学び直しを行う人、生活事情によって一時的に就労できない人も、制度上の対象として勘案する必要があります。
① 学生
学生は、現在所得を得ていない場合が多い一方で、将来の就労主体でもあります。
厚生就労保険制度では、学生を単なる未就労者としてではなく、将来の仕事や働き方を考える段階にある人として位置付けることができます。
職業情報の提供、適性把握、インターンシップ、資格取得支援、地域産業や基盤分野との接点づくりなど、早い段階から就労への理解を深める支援も検討対象になります。
② 求職者
求職者は、働く意思を持ちながら、まだ仕事に就いていない人です。
現行制度では、雇用保険の受給資格がある人とない人との間で支援内容に差が生じることがあります。
厚生就労保険制度では、過去の雇用保険加入歴だけではなく、現在の就労意思、生活状況、希望する働き方、必要な支援内容を踏まえて、職業相談、適性確認、学び直し、職業体験、就労機会との接続を行う制度として設計する必要があります。
③ 障害者
障害者については、就労能力の有無だけで一律に判断することは適切ではありません。
障害の内容や程度、生活環境、本人の希望、必要な支援は一人ひとり異なります。
厚生就労保険制度では、障害の内容や程度、本人の状態、意思、生活環境に応じた就労支援を行うことを基本とします。
また、生活保障についてはLSF生活保障給付や関連する福祉制度が担い、厚生就労保険制度は、就労を希望する人を無理のない形で就労機会へ接続する役割を担うことになります。
④ 専業主婦・主夫
専業主婦・主夫は、家事、子育て、介護など、家庭内で重要な役割を担っています。
しかし、現行制度では、所得を得ていないために就労制度との接続が弱くなりやすい面があります。
今後、本人が働くことを希望する場合には、就労経験の有無やブランクにかかわらず、再就労、学び直し、資格取得、短時間就労、在宅就労など、多様な選択肢を提示できる制度が必要です。
厚生就労保険制度では、家事やケア経験も含めて、その人の経験や能力をどのように仕事へつなげるかを支援することが重要になります。
⑤ 高齢者
高齢者については、年齢だけで就労支援の対象外とするべきではありません。
健康状態、生活事情、本人の希望に応じて、働き続けたい人、短時間だけ働きたい人、地域活動や経験を生かした仕事に関わりたい人など、様々な形が考えられます。
厚生就労保険制度では、高齢者を単なる支えられる側としてではなく、多様な経験を持つ就労主体として位置付けます。
ただし、就労を強制するのではなく、あくまでも本人の意思を前提とした支援であることが重要です。
⑥ その他制度上加入対象となる者
所得がない人の中には、病気療養中の人、家族の介護を担う人、ひきこもり状態にある人、一時的に就労から離れている人など、様々な事情を抱える人がいます。
これらの人々を一律に就労可能・不可能で区分するのではなく、本人の状態や希望に応じて、段階的に支援へ接続できる制度が必要です。
厚生就労保険制度では、こうした人々を制度の外側に置くのではなく、必要なときに相談や支援を受けられる対象として位置付けることが望まれます。
4)保険料負担の基本原則
厚生就労保険制度を社会保険制度として構築する以上、保険料負担のあり方は制度設計の中核になります。
ただし、全国民を対象とする制度であることを理由に、単純にすべての人へ同じ負担を求めることは適切ではありません。
所得の有無、所得水準、就労形態、企業との関係、国の責任などを踏まえ、個人・企業・国の負担をどのように分担するかが重要になります。
① 個人負担
個人負担は、就労によって所得を得ている人が、制度を支える一員として保険料を負担する仕組みです。
給与所得者であれば給与から、自営業者やフリーランスであれば申告所得などを基に、一定の保険料を負担することが想定されます
ただし、所得の低い人や所得変動の大きい人については、負担が過重にならないよう配慮が必要です。
また、所得がない人については、原則として保険料負担を求めないか、国庫負担によって制度上の加入状態を維持する仕組みも検討することになります。
② 企業負担
企業負担は、働く人を雇用し、または仕事を発注する側が、制度を支えるために負担する仕組みです。
給与所得者については、現行の雇用保険制度と同様に、労働者本人と事業主が一定割合で保険料を負担することが基本となります。
また、フリーランスや個人事業主への業務委託が拡大している現状を踏まえると、発注者側の負担や責任をどこまで制度化するかも重要な検討課題となります。
企業が雇用から業務委託へ置き換えることで、社会保険料負担を回避できるような制度設計は避ける必要があります。
③ 国庫負担
国庫負担は、制度の公共性を支える重要な財源です。
厚生就労保険制度は、単なる個人の就職支援制度ではなく、人口減少社会における就労基盤、産業基盤、地域基盤を支える制度でもあります。
そのため、所得のない人への制度接続、低所得者への負担軽減、基盤分野への就労支援、公営事業との連携などについては、国庫負担を組み合わせる必要があります。
国庫負担を適切に組み込むことで、保険制度としての安定性と、社会政策としての公共性を両立させることが可能になります。
④ 保険料率設定の基本方針
保険料率は、制度の持続可能性と加入者負担のバランスを踏まえて設定する必要があります。
現行の雇用保険制度や労災保険制度の保険料率を参考にしつつ、厚生就労保険制度が新たに担う就労支援、学び直し支援、資格取得支援、キャリア形成支援、公営事業支援などの財政規模を見込む必要があります。
ただし、保険料率を過度に高く設定すれば、個人や企業の負担が重くなり、制度への理解も得にくくなります。
そのため、初期段階では現行制度から引き継ぐ機能を中心に制度を設計し、段階的に対象事業や給付内容を拡充していく方法も考えられます。
加えて、保険料率は、社会保険制度と税制とを合わせた、合計負担率の望ましい設定方針に基づくものです。
そして、LSF生活保障給付制の導入によって可能になる、年金保険料の負担軽減の範囲内で、新設保険制度の負担率を極力下げることを目標としています。
厚生就労保険制度の保険料率は、単なる財源確保の手段ではなく、どのような就労社会を支えるのかという制度理念と一体で設計されるべきことも言うまでもありません。
厚生就労保険制度における加入対象と保険料負担の考え方を整理すると、次のようになります。
| 区分 | 加入 | 保険料 | 就労支援 |
|---|---|---|---|
| 給与所得者 | ○ | 本人・企業 | ○ |
| 自営業 | ○ | 本人 | ○ |
| フリーランス | ○ | 本人 | ○ |
| 農林水産業 | ○ | 本人 | ○ |
| 家族従業者 | ○ | 本人 | ○ |
| 学生 | ○ | 原則免除 | ○ |
| 求職者 | ○ | 原則免除 | ○ |
| 専業主婦・主夫 | ○ | 条件による | ○ |
| 高齢者 | ○ | 所得に応じる | ○ |
従来の「雇用されているかどうか」を基準とする制度から、「就労との関わり」を基準とする制度へ転換することが、本制度の特徴となります。
4-3 現行制度から引き継ぐ事業及び制度統合
厚生就労保険制度は、現行の雇用保険制度及び労災保険制度を単純に廃止し、まったく別の制度へ置き換えるものではありません。
むしろ、現行制度が長年担ってきた重要な機能を維持しながら、人口減少、働き方の多様化、AI・AXの進展に対応できるよう、制度目的と運営方法を整理・再編することを目的とします。
特に、失業給付、就職支援、教育訓練給付、労働災害補償などは、今後も必要不可欠な機能です。厚生就労保険制度では、これらを引き継ぎつつ、より広い就労支援制度として発展させていく必要があります。
ここでは、現行制度から引き継ぐべき事業と、制度統合によって期待される行政改革の方向性について整理します。
1)雇用保険制度から引き継ぐ事業
雇用保険制度は、失業時の所得保障だけではなく、再就職支援、教育訓練、雇用安定など、働く人々を支える多様な機能を担ってきました。
厚生就労保険制度では、これらの機能を維持しつつ、雇用契約を前提とした制度から、働くことを希望する人を広く支える制度へと発展させます。
① 失業給付
失業給付は、厚生就労保険制度においても重要な機能として引き継ぐべきものです。
LSF生活保障給付が生活の基盤を支える制度であるとしても、それによって失業給付の役割が不要になるわけではありません。
失業給付には、離職前の所得水準や生活水準を一定期間維持しながら、次の仕事へ移行するための時間を確保するという重要な意味があります。
したがって、厚生就労保険制度では、LSF生活保障給付による基礎的な生活保障の上に、失業・転職・事業縮小・収入急減時などに対応する所得補完機能として、失業給付を位置付けることは必然としています。
また、給付の目的も、単に「失業中の生活を支える」だけではなく、本人が希望する仕事へ移行するための準備期間を保障するものとして整理する必要があります。
② 就職支援
現行の雇用保険制度では、ハローワークを中心に、求人情報の提供、職業相談、職業紹介、応募支援などが行われています。
これらは、厚生就労保険制度においても重要な事業として引き継ぐべきものです。
ただし、今後の就労支援は、単に「早く就職させる」ことを目的とするだけでは不十分です。
本人がどのような仕事を希望しているのか、どのような経験や能力を持っているのか、どのような働き方なら継続できるのかを丁寧に把握し、その上で就労機会へつなげる支援が必要になります。
その意味で、就職支援は、職業紹介にとどまらず、キャリア相談、適性把握、職業情報提供、職場体験、地域産業との接続などを含む、より広い支援へ発展させる必要があります。
③ 教育訓練給付
教育訓練給付は、働く人が新たな知識や技能を身に付け、職業能力を高めるための重要な制度です。
厚生就労保険制度では、この機能を引き継ぎつつ、より実効性のある学び直し支援へ発展させる必要があります。
従来の職業訓練や教育訓練が、本当に本人の希望や適性、将来の仕事に結び付いているのかについては、改めて検証が必要です。
今後は、単に講座を受講することを支援するだけではなく、どの分野を学ぶべきか、どの資格が有効か、どの仕事につながるのかを含めた相談支援が重要になります。
また、農業、観光、介護、防災、地域インフラ維持、デジタル活用など、今後のわが国にとって重要性が高まる分野については、教育訓練給付の対象や内容を再設計していくことも検討すべきです。
④ 雇用安定事業
現行の雇用保険制度には、雇用の維持や失業の予防を目的とする雇用安定事業があります。
景気変動や産業構造の変化により雇用不安が生じる場合、雇用を維持するための助成や支援は、今後も重要な役割を果たします。
ただし、今後は「現在の雇用を維持する」ことだけではなく、産業構造の変化に対応し、円滑な職業移行を支える視点も必要になります。
企業の都合だけで雇用を守るのではなく、働く本人が希望する仕事へ移行できるよう、企業、地域、行政、教育機関が連携する仕組みが求められます。
厚生就労保険制度では、雇用安定事業を、雇用維持だけではなく、就労継続、職業転換、地域産業への移行支援などを含む制度へ発展させることが望まれます。
2)労災保険制度から引き継ぐ事業
労災保険制度は、業務上及び通勤途上の災害から働く人々を守る制度として、今後も必要不可欠です。
厚生就労保険制度においても、労働災害補償の機能は軽視すべきではありません。
むしろ、働き方が多様化する時代には、労災補償の対象や運営方法を見直し、より多様な就労実態に対応できる制度へ発展させる必要があります。
① 労働災害補償
労働災害補償は、仕事に起因して負傷、疾病、障害又は死亡した場合に、医療や所得補償を行う重要な制度です。
これは、働く人の安全と生活を守るための基本的な機能であり、厚生就労保険制度においても維持されるべきです。
ただし、現行制度は基本的に雇用される労働者を中心として設計されています。
今後は、フリーランス、ギグワーカー、自営業者、農林水産業従事者などについても、仕事に伴うリスクをどのように補償するかを検討する必要があります。
労働災害補償は、雇用契約の有無だけではなく、実際にどのような仕事を行い、どのような危険にさらされているかという視点から再設計されるべきです。
② 通勤災害補償
通勤災害補償は、仕事へ向かう途中又は仕事から帰る途中に発生した災害に対する補償です。
現行制度では、合理的な経路及び方法による通勤が対象とされています。
しかし、働き方が多様化する中で、通勤のあり方も変化しています。
在宅勤務、複数拠点勤務、副業・兼業、移動しながら働く形態などが広がる中で、どこまでを通勤と見るのか、どの移動を仕事に伴う移動と見るのかについて、整理が必要になります。
厚生就労保険制度では、従来型の通勤だけではなく、多様な就労形態に伴う移動リスクも踏まえた補償制度を検討する必要があります。
③ 社会復帰支援
労災保険制度は、被災した人に対する医療や所得補償だけでなく、社会復帰支援も担っています。
仕事中の事故や疾病によって、元の仕事に戻ることが難しくなる場合もあります。
そのような場合には、単に補償を行うだけではなく、本人の状態や希望に応じて、新たな働き方へ移行する支援が必要になります。
厚生就労保険制度では、この社会復帰支援をより重視すべきです。
リハビリテーション、職業転換、学び直し、職場環境の調整、短時間就労、在宅就労などを組み合わせ、本人が可能な形で仕事や生活を再構築できるよう支援することが重要です。
④ 労働安全対策
労働災害を補償するだけではなく、災害を未然に防ぐことも重要です。
労災保険制度では、労働安全衛生対策や災害防止事業も行われています。
厚生就労保険制度では、この機能を引き継ぎつつ、AI・AX時代に対応した新しい労働安全対策へ発展させる必要があります。
人とAI、人とロボット、人と自動化設備が協働する職場では、従来とは異なる安全管理が求められます。
また、精神的負荷、過重労働、ハラスメント、孤立した働き方など、身体的災害だけでは捉えにくいリスクへの対応も重要になります。
3)制度統合による行政改革
厚生就労保険制度は、現行制度の機能を引き継ぐだけではなく、制度運営そのものを整理・効率化する契機にもなります。
雇用保険、労災保険、就労支援、教育訓練、労働安全、社会復帰支援などが分断されたままでは、利用者にとって分かりにくく、行政運営上も重複や非効率が生じやすくなります。
制度統合の目的は、単なる組織再編ではありません。
利用者にとって分かりやすく、必要な支援につながりやすい制度へ再設計することにあります。
① 行政手続の簡素化
現行制度では、制度ごとに手続、窓口、申請書類、確認事項が異なり、利用者にとって分かりにくい場合があります。
厚生就労保険制度では、加入、保険料、給付、就労相談、教育訓練、労災補償などについて、できる限り一体的に手続できる仕組みが求められます。
特に、転職、独立、副業、休職、失業、労災、学び直しなどが連続して起こる場合、制度ごとに手続が分断されると、必要な支援へたどり着きにくくなります。
行政手続を簡素化することは、利用者の負担軽減だけではなく、行政側の事務効率化にもつながります。
② 保険制度の一元化
雇用保険と労災保険は制度目的が異なるため、すべてを完全に同一化することは適切ではありません。
しかし、加入者管理、保険料徴収、給付情報、就労支援情報、労災補償情報などについては、一元的に管理する余地があります。
制度の一元化とは、制度目的の違いを消すことではなく、必要な情報や手続を統合し、利用者にとって分かりやすい制度にすることです。
厚生就労保険制度では、就労に関する社会保険情報を一体的に把握し、給付や支援へ迅速につなげる仕組みを整備する必要があります。
③ 利用者利便性の向上
制度は、利用者が必要なときに使えるものでなければ意味がありません。
失業した人、仕事を探している人、労災に遭った人、学び直しを希望する人、介護や子育てと仕事の両立に悩む人など、それぞれが自分に必要な支援へ迷わずアクセスできることが重要です。
厚生就労保険制度では、ワンストップ相談、オンライン申請、AIを活用した情報提供、地域窓口との連携などにより、利用者利便性を高める必要があります。
ただし、デジタル化だけで完結するのではなく、高齢者、障害者、デジタル機器に不慣れな人などにも対応できる人的支援を残すことが重要です。
④ 行政運営の効率化
人口減少社会では、行政側の人員や財源にも制約が生じます。
そのため、制度を複雑なまま維持するのではなく、重複する事務を整理し、AI・AXを活用しながら、効率的な運営体制を構築する必要があります。
行政運営の効率化は、単なるコスト削減ではありません。
必要な支援を必要な人へ迅速に届けるための制度改革です。
厚生就労保険制度では、制度統合とAX化を組み合わせ、利用者本位でありながら、持続可能な行政運営を実現することが求められます。
現行制度から引き継ぐ主な事業と、新制度における位置付けを整理すると、次のようになります。
| 現行制度 | 引継ぎ | 新制度での発展 |
|---|---|---|
| 失業給付 | ○ | 所得補完機能として再編 |
| 就職支援 | ○ | キャリア形成支援へ拡充 |
| 教育訓練給付 | ○ | 学び直し・資格取得支援へ発展 |
| 雇用安定事業 | ○ | 就労継続・職業転換支援へ |
| 労災補償 | ○ | 多様な働き方へ対象拡大 |
| 通勤災害 | ○ | 新たな就労形態へ対応 |
| 労働安全 | ○ | AI・AX時代へ対応 |
制度統合とは制度を減らすことではなく、利用者に分かりやすく再編することを意味しています。

4-4 新制度における就労支援、能力発揮及び就労環境整備
厚生就労保険制度の中心的な役割は、単に失業した人を再就職させることではありません。
従来の職業紹介や職業訓練にとどまらず、就職・転職、副業・兼業、起業・創業、学び直し、資格取得、子育て・介護との両立、ハローワーク改革、公営事業との連携などを含む、総合的な就労支援制度として設計する必要があります。
1)多様な働き方への就労支援
働き方が多様化する現在、就労支援も「正社員として就職すること」だけを目的とする制度では不十分です。
就職、転職、副業、兼業、起業、再就職、就労継続など、それぞれの働き方に応じた支援メニューを整える必要があります。
① 就職・転職支援
就職・転職支援では、単に求人情報を提供するだけではなく、本人がどのような仕事を希望しているのか、どのような経験や技能を持っているのか、どのような働き方なら継続できるのかを丁寧に確認することが重要です。
そのため、早期就職だけを目標にせず、職業相談、適性把握、職業情報提供、職場体験、地域産業との接続などを組み合わせた支援が必要になります。
② 副業・兼業支援
副業・兼業は、所得を補う手段であるだけではなく、新しい仕事への挑戦や、将来の独立・転職への準備にもなり得ます。
一方で、労働時間管理、健康管理、社会保険、税務、契約責任など、制度面で整理すべき課題も多くあります。
厚生就労保険制度では、副業・兼業を例外的な働き方として扱うのではなく、多様な就労形態の一つとして位置付け、相談支援や制度情報の提供、所得管理、健康管理などを支える仕組みが必要になります。
また、副業・兼業は、所得確保だけではなく、新たな技能・技術の習得や将来の起業・創業へつながる可能性も期待されます。
③ 起業・創業支援
起業・創業は、自ら仕事をつくり、所得を得る重要な働き方です。
しかし、事業を始めるには、資金、事業計画、会計、税務、販路、許認可、リスク管理など、多くの課題があります。
厚生就労保険制度では、起業を希望する人に対して、単なる創業セミナーではなく、事業継続を見据えた伴走支援が必要です。
小規模事業、地域事業、農業、観光、介護、生活支援サービスなど、地域課題と結び付いた創業支援も重要な対象になります。
④ 就労継続支援
就労支援は、仕事に就いた時点で終わるものではありません。
仕事を継続するためには、職場環境、健康状態、家庭事情、所得水準、職業能力、対人関係など、様々な要素が関係します。
厚生就労保険制度では、就職後や転職後も、必要に応じて相談や支援を受けられる仕組みを整える必要があります。
特に、病気、障害、介護、子育て、メンタル不調などを抱える人については、就労開始後の継続支援が重要になります。
⑤ 再就職支援
再就職支援は、失業した人だけではなく、育児や介護、病気、学び直し、事業廃止、高齢期などにより一度仕事を離れた人にも必要です
ブランクがある人に対しては、単に求人を紹介するだけではなく、不安の解消、職業感覚の回復、技能の更新、短時間就労からの再開など、段階的な支援が求められます。
再就職支援は、働くことを急がせる制度ではなく、本人が再び自分に合った仕事へ向かうための準備を支える制度として設計する必要があります。
2)職業能力開発及び学び直し(リスキリング)支援
職業能力開発や学び直しは、これからの就労支援において重要な柱となります。
ただし、単に「人材育成」と一言で済ませるのではなく、誰が、誰に対して、どのような目的で、どのような仕事へつなげるために支援するのかを明確にする必要があります。
厚生就労保険制度では、本人の希望や適性を出発点とし、その上で必要な学び直しや資格取得、職業能力開発を支援する制度として設計することが重要です。
① リスキリング
リスキリングは、産業構造や技術の変化に対応するため、新たな知識や技能を身に付ける取組です。
AI・AXの進展により、これまでの仕事の一部が自動化される一方で、新たな業務や役割も生まれています。
厚生就労保険制度では、リスキリングを企業都合の配置転換手段としてだけでなく、本人が希望する仕事へ移行するための支援として位置付けることを重視しています。
そのためには、学ぶ内容が実際の仕事とどう結び付くのかを明確にし、受講前の相談、受講中の支援、受講後の就労接続までを一体化する必要があります。
② リカレント教育
リカレント教育は、人生の途中で何度も学び直し、仕事や生活の変化に対応していくための仕組みです。
人生100年時代においては、若い時期に一度学んだ知識だけで、生涯を通じて働き続けることは難しくなっています。
厚生就労保険制度では、年齢や雇用形態にかかわらず、必要な時期に学び直しができる環境を整える必要があります。
特に、子育て後の再就職、介護後の復職、中高年期の職業転換、高齢期の地域就労など、それぞれのライフステージに応じた学び直し支援が求められます。
③ 国家資格取得支援
医療、介護、保育、農業、観光、防災、建設、インフラ維持、デジタル分野などでは、一定の資格や専門知識が必要となる仕事が多くあります。
厚生就労保険制度では、本人が希望する仕事へ進むために必要な国家資格や公的資格の取得を支援することが重要です。
ただし、資格取得そのものを目的化してはなりません。
どの資格がどの仕事につながるのか、その仕事が本人の希望や適性に合っているのか、取得後にどのような就労機会があるのかを確認しながら支援する必要があります。
④ 職業能力開発
職業能力開発は、画一的な訓練ではなく、本人の経験、能力、関心、生活事情に応じて設計されるべきです。
従来の職業訓練が、実際に必要な仕事や本人の適性と十分に結び付いているのかについては、改めて検証が必要です。
厚生就労保険制度では、職業訓練の内容を、事務作業や汎用技能だけに限定せず、農業、観光、介護、防災、地域サービス、デジタル活用など、今後のわが国にとって重要性が高まる分野へ広げていくことが求められます。
⑤ 公的教育機関との連携
学び直しや職業能力開発を充実させるためには、公的教育機関との連携が欠かせません。
高校、専門学校、大学、職業能力開発校、地域の教育機関などと連携し、実際の就労につながる教育プログラムを整備する必要があります。
また、地域産業や公営事業、民間事業者との連携により、学ぶ場と働く場を近づけることも重要です。
厚生就労保険制度は、教育と就労を分断するのではなく、学び直しから仕事への移行を支える制度として機能する必要があります。
3)子育て・介護・治療等との両立支援
働くことは、人生の他の活動と切り離して考えることはできません。
子育て、介護、看護、病気治療、障害、学び直しなど、生活上の事情によって働き方を調整しなければならない場面は、誰にでも起こり得ます。
厚生就労保険制度では、こうした事情を個人や企業だけに負わせるのではなく、制度として支える必要があります。
① 子育てと仕事の両立支援
子育てと仕事の両立は、少子化対策としても、生活保障としても重要な課題です。
現行制度では、育児休業制度や育児休業給付などが整備されていますが、実際には企業規模や職場環境によって利用しやすさに差があります。
厚生就労保険制度では、子育て期の働き方を柔軟に支える制度が必要です。
短時間勤務、在宅勤務、段階的復職、再就職支援、学び直し支援などを組み合わせ、子育てを理由に就労機会が大きく損なわれないようにすることが求められます。
② 介護と仕事の両立支援
介護と仕事の両立は、今後ますます重要になる課題です。
高齢化が進む中で、現役世代が家族の介護を担うケースは年々増加しており、介護離職は本人の所得や将来設計にも大きな影響を与えます。
厚生就労保険制度では、介護休業や短時間勤務だけではなく、相談支援、柔軟な勤務形態、在宅勤務、再就職支援などを含めた総合的な支援が必要です。
介護を理由に仕事を完全に断念せざるを得ない状況を減らすことが、本人にとっても、企業や地域にとっても重要になります。
仕事と介護を両立させ、介護離職を防ぐための考察シリーズがあります。
以下の記事で、確認ください。
③ 治療と仕事の両立支援
病気の治療を続けながら働く人も増えています。
医療技術の進歩により、がん、慢性疾患、精神疾患などを抱えながら働くことも可能になってきましたが、職場の理解や勤務調整が不十分な場合、就労継続が難しくなることがあります。
厚生就労保険制度では、治療と仕事を両立するための相談支援、勤務時間調整、休職・復職支援、職場環境調整などを制度として支える必要があります。
これは、単に労働力を維持するためではなく、本人の生活と尊厳を守るための支援でもあります。
④ 多様なライフステージへの対応
人生には、就職、結婚、子育て、介護、病気、転職、独立、学び直し、高齢期など、様々な局面があります。
従来の制度は、連続的に働き続けることを前提としてきた面がありますが、実際には多くの人が人生の途中で働き方を変えています。
厚生就労保険制度では、ライフステージの変化を例外として扱うのではなく、制度設計の前提として組み込む必要があります。
一時的に就労を離れること、働き方を変えること、再び仕事に戻ることを自然に支えられる制度が求められます。
⑤ 中小企業への支援制度
子育て、介護、治療との両立支援は、企業にとっても重要な課題です。
特に中小企業では、代替人員の確保や業務調整が難しく、制度上の義務だけを課しても現場で対応できない場合があります。厚生就労保険制度では、中小企業に対して、代替人員確保、業務改善、助成、専門相談、地域人材との連携などを支援する仕組みが必要です。
両立支援を企業任せにするのではなく、制度として企業と働く人の双方を支えることが重要になります。
こうした、仕事との両立問題への法的な支援としては、「育児・介護休業法」が最も知られており、利用度も上がってきてはいます。
しかし、この制度は基本的には、企業の対応に委ねているもので、大企業や一部の業種、理解度が高い企業トップの事業所などにおいて、人材の囲い込み政策ともリンクして、定着してきていると言えます。
それらの企業では、企業独自の支援制度も拡充されています。
しかし、実態としては、こうした法律の運用と企業独自の制度導入面での企業間格差は、広がる一方という問題が厳として存在します。
厚生就労保険制度では、こうした現実にも焦点を当てて、対応を、と考えています。
4)就労支援機関改革
厚生就労保険制度を実効性ある制度とするためには、就労支援機関の改革が不可欠です。
現行のハローワークや各種支援機関は重要な役割を果たしてきましたが、今後は、求人紹介中心の支援から、本人の希望や適性に応じた伴走型支援へ転換していく必要があります。
① ハローワーク改革
ハローワークは、就労支援の中心的機関として長年機能してきました。
しかし、今後は求人紹介だけではなく、キャリア相談、適性把握、職業情報提供、学び直し支援、地域産業との連携などを担う機関へ発展する必要があります。
特に、失業者だけでなく、転職希望者、フリーランス、自営業者、学び直しを希望する人、子育てや介護後に再就労を目指す人、そして起業を志す人など、多様な利用者を対象とすることが求められます。
ハローワークという呼称と合わせて、改革が行われる段階にあると言えるでしょう。
② キャリア形成支援
キャリア形成支援は、単に職歴を整理すること、あるいは職歴を積み重ねていくことを支援するわけではありません。
本人がどのような仕事を希望し、どのような能力や経験を持ち、今後どのような働き方を望むのかを一緒に考える支援です。
特に、自分の適性や適職が分からない人に対しては、相談、職業体験、学び直し、資格取得、短期就労などを通じて、段階的に可能性を探る支援が必要になります。
厚生就労保険制度では、このキャリア形成支援を制度の中心の一つに位置付けることも検討しています。
③ AIを活用した就労マッチング
AIは、就労支援にも活用できます。
求人情報、本人の経験、資格、希望条件、地域事情、産業動向などを分析し、より適切な仕事や学び直しの選択肢を提示することが可能になります。
ただし、AIによるマッチングは、本人の意思を代替するものではありません。
AIは選択肢を広げるための補助として活用し、最終的には本人の希望や判断を尊重する仕組みにする必要があります。
④ 地域就労支援機関との連携
就労支援は、全国一律の制度だけでは十分ではありません。
地域ごとに産業構造、人口構成、人手不足分野、生活環境は異なります。
そのため、自治体、商工団体、農業団体、観光団体、福祉機関、教育機関、NPO、地域企業などとの連携が重要になります。
厚生就労保険制度では、地域の実情に応じて、働きたい人と地域の仕事をつなぐ仕組みを整える必要があります。
⑤ 就労情報基盤の整備
就労支援を高度化するためには、仕事に関する情報基盤の整備が必要です。
求人情報だけではなく、職業内容、必要な資格、将来性、地域需要、収入水準、働き方、必要な学習内容などを分かりやすく提供することが重要です。
自分に合った仕事を見つけるためには、まずどのような仕事が存在し、どのような能力が求められ、どのような働き方が可能なのかを知る必要があります。
厚生就労保険制度では、こうした情報を公的に整備し、誰もが利用できる就労情報基盤として提供することが望まれます。
5)公営事業による技能・技術開発及び就労支援
人口減少社会では、民間雇用だけに就労機会を委ねることには限界があります。
やはり、民間企業は、事業活動を通じて、収益・利潤を獲得することが最大の目的であり、その条件を満たすか否かに、事業化及び雇用政策の判断を委ねているからです。
そのため、食料安全保障、医療・介護、防災、インフラ維持、地域生活支援など、国や地域の基盤を支える分野では、公的な関与を強める必要が生じる状況もありうると考えています。
厚生就労保険制度では、公営事業を、単なる雇用の受け皿ではなく、本人の希望や適性を踏まえた技能・技術開発の機会と就労機会の一つとして位置付ける余地が十分あると考えています。
① 公営事業創設の目的
公営事業の目的は、失業者を当人の意向を無視して、一方的・強制的に吸収することでは決してありません。
本人が希望する仕事や、自らの適性に合う仕事を見いだせない場合に、次善の選択肢として、提案・推奨するものです。
公共性の高い分野で基礎的な知識と技術及び経験を積み、その価値や意義を持つことができれば、この分野の就労へつなげる場を提供できることになります。
また、同時に、食料、介護、防災、地域インフラなど、わが国が将来にわたって維持すべき分野の人的基盤も支える役割を持ちます。
② 食料安全保障分野の技能・技術開発
農業や食料分野は、今後のわが国にとって極めて重要な分野です。
高齢化が進む農業現場では、担い手不足が深刻化しており、食料自給や地域維持の観点からも、新たな就労機会として位置付ける意義があります。
厚生就労保険制度では、農業に関心を持つ人や、地域で働くことを希望する人に対して、農業技術、経営、流通、食品加工、地域ブランド、観光農業などを含む実践的な支援を行うことが考えられます。
公営農場、県営・市営農場、研修農場などを活用することも、選択肢の一つとなります。
もちろん、畜産業・林業・水産業においても同様の事情・背景があることは言うまでもありません。
③ 医療・介護・福祉分野の技能・技術開発
医療・介護・福祉分野は、少子高齢化が進む中で、今後も人手不足が続くと考えられます。
しかし、これらの仕事は単に人手を投入すればよいものではありません。
利用者との関係、身体的負担、精神的負担、専門知識、倫理観などが求められる仕事です。
厚生就労保険制度では、介護や福祉の仕事に関心を持つ人に対して、職場体験、基礎研修、資格取得、段階的就労などを組み合わせ、無理なく仕事へ接続できる仕組みを整える事業も重視しています。
④ 防災・インフラ維持管理分野の技能・技術開発
人口減少社会では、防災、道路、橋梁、上下水道、公共施設、地域交通などの維持管理も大きな課題となります。
これらは、地域生活を支える基盤でありながら、担い手不足が深刻化しやすい分野です。
厚生就労保険制度では、防災やインフラ維持に関心を持つ人に対して、基礎知識、実地訓練、資格取得、地域事業との接続を支援することも政策の一つと考えています。
こうした分野は、単なる就労支援ではなく、シン安保2050とも関係する重要な国家・地域基盤の維持課題です。
⑤ 公営農場等による能力技能・技術開発及び就労支援
公営農場等は、農業に関心を持つ人が実際に経験を積み、自分に合うかどうかを確認する場として有効です。
いきなり民間農家へ就農するのではなく、公営の研修農場や実証農場で、一定期間、農作業、栽培管理、機械操作、販売、加工、地域連携などを学ぶことができます。
その上で、本人の希望や適性に応じて、民間農業法人、地域農家、自治体事業、農業関連ビジネスなどへつなげることが考えられます。
この仕組みは、本人にとっては仕事との出会いの場であり、地域にとっては担い手確保の場にもなります。
⑥ 民間事業者との連携及び就労支援
公営事業は、民間事業と対立するものではありません。
むしろ、公営事業は、基礎的な訓練や職業体験、適性確認を担い、その後、民間事業者への就労や事業参加へつなげるという役割連携も十分検討すべき課題べきです。
農業、観光、介護、防災、地域インフラ、生活支援サービスなどでは、民間事業者との連携によって、より実践的な就労機会をつくることができます。
厚生就労保険制度では、公営事業と民間事業者をつなぎ、本人の希望と地域・産業の需要を結び付ける仕組みを整えることも課題にすべきと考えています。
なお、以上見てきた事業分野における仕事・働き方は、ほとんどが、エッセンシャル・ワークと呼ぶことができると思います。
それらの分野における技術・技能も、これからはAIとのシン化が見込まれ、組み込まれていきます。
従来、負のイメージがあったこれらのお仕事も、やりがいや労働環境・労働条件の向上と一体化したものにシン化していくと考えられます。
その結果、本人が希望し、自ら選択した仕事が、結果として、わが国の人的基盤の維持・形成にもつながっていく社会の実現を目指します。
厚生就労保険制度が担う就労支援は、従来の職業紹介を中心とする制度から、大きく機能を拡張します。
| 支援分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 就職支援 | 職業紹介・転職支援 |
| 適性発見 | キャリア相談・適職支援 |
| 能力開発 | リスキリング・リカレント教育 |
| 資格取得 | 国家資格・技能取得 |
| 両立支援 | 子育て・介護・治療 |
| 公営事業 | 農業・観光・防災・地域基盤 |
| AI支援 | AIマッチング・就労情報提供 |
このように、厚生就労保険制度は、仕事を紹介する制度から、人生を通じた就労を支える制度へ転換することを目指します。
4-5 厚生就労保険制度の財源及び財政運営
厚生就労保険制度を構想する上では、制度理念だけではなく、財源及び財政運営の考え方を明確にしておく必要があります。
現行の雇用保険制度及び労災保険制度は、いずれも労働保険特別会計の中で運営され、保険料収入を中心に財源を確保しています。
ただし、雇用保険制度では労働者、事業主、国庫がそれぞれ一定の負担を行うのに対し、労災保険制度では事業主が保険料を全額負担するという違いがあります。
厚生就労保険制度では、これらの現行制度の財政構造を踏まえながら、制度の対象拡大、就労支援機能の強化、能力発揮支援、公営事業との連携など、新たな役割に見合った財源設計を行う必要があります。
ここでは、現行制度の財政規模を確認した上で、新制度における保険料制度、歳入・歳出試算、制度の持続可能性について整理します。
1)現行制度の財政規模と課題
厚生就労保険制度の財源を考える前提として、まず現行の雇用保険制度及び労災保険制度の財政規模を確認しておく必要があります。
両制度は、いずれも労働保険特別会計において管理されていますが、その目的、財源構成、保険料負担、給付内容は異なります。
① 雇用保険制度の保険料率
2025(令和7)年度の雇用保険料率は、一般の事業で15.5/1000、すなわち1.55%です。
このうち、失業等給付等の保険料率は労働者負担、事業主負担ともに5.5/1000であり、雇用保険二事業分として事業主のみが3.5/1000を負担します。
農林水産・清酒製造の事業及び建設の事業では、一般の事業よりも高い料率が設定されています。
雇用保険制度は、労働者と事業主が保険料を負担し、国庫負担も組み合わせながら、失業給付、育児休業給付、教育訓練給付、雇用安定事業などを実施する制度として運営されています。
② 労災保険制度の保険料率
労災保険料は、労働者本人の負担はなく、事業主が全額負担します。
労災保険率は業種ごとの災害発生リスクに応じて設定されており、令和7年度と同率とされる令和8年度の労災保険率表では、業種ごとに異なる料率が設定されています。
この仕組みは、業務上災害の発生リスクが高い業種ほど高い保険料を負担するという考え方に基づいています。
厚生就労保険制度においても、労働災害補償機能を維持する以上、業種や就労形態ごとのリスクに応じた負担構造をどう設計するかが重要になります。
③ 歳入・歳出及び積立金の現状
2023(令和5)年度の労働保険特別会計・雇用勘定では、保険収入は約3兆1128億円、失業等給付費は約1兆1931億円、育児休業給付費は約7494億円、職業紹介事業等実施費は約825億円、職業能力開発強化費は約501億円となっています。
また、労災勘定については、令和5年度決算で約2233億円の剰余金が生じており、その一部は支払備金や未経過保険料等を控除した上で積立金へ積み立てられています。
これらを見ると、現行制度は一定の財政規模を持ち、保険給付、雇用支援、能力開発、労災補償などの機能を支えていることが分かります。
④ 現行制度における課題
現行制度の課題は、財源が不足しているかどうかだけではありません。
むしろ重要なのは、現在の財源構造が「企業に雇用される労働者」を中心に設計されていることです。
自営業者、フリーランス、ギグワーカー、家族従業者、副業・兼業者などが増える中で、雇用関係を前提とした保険料徴収や給付設計だけでは、就労実態を十分に反映できなくなっています。
また、今後は、失業給付や労災補償を維持しつつ、適性・適職発見支援、学び直し支援、資格取得支援、公営事業との連携など、新たな機能を追加することを想定しています。
そのため、厚生就労保険制度では、現行制度の財政基盤を引き継ぎながら、対象拡大と機能拡充に対応できる新たな財政設計が必要になります。
2)新制度における保険料制度
厚生就労保険制度は、社会保険制度として構築する以上、保険料負担を基本財源とします。
ただし、制度対象を給与所得者だけに限定しない以上、保険料の負担方法も、従来の給与天引き中心の仕組みだけでは不十分です。
給与所得者、自営業者、フリーランス、所得がない人など、それぞれの状況に応じた負担設計が必要になります。
① 保険料負担の基本的考え方
保険料負担の基本は、所得を得ている人が、その所得に応じて制度を支えることです
給与所得者については、現行の雇用保険制度と同様に、給与を基礎として保険料を算定することができます。
一方、自営業者、個人事業主、フリーランス、ギグワーカーなどについては、事業所得や雑所得など、申告所得を基礎とした保険料算定が必要になります。
ただし、所得変動が大きい働き方については、単年度所得だけで保険料を決めると負担が不安定になる可能性があります。
そのため、一定期間の平均所得、最低負担額、低所得者軽減、国庫補助などを組み合わせることが必要になります。
② 個人・企業・国の負担割合
厚生就労保険制度では、個人、企業、国がそれぞれ制度を支える構造が望ましいと考えます。
個人は、就労によって所得を得る当事者として、所得に応じた保険料を負担します。
企業は、雇用する労働者について事業主負担を行うとともに、業務委託や外部人材の活用によって社会保険料負担を回避することがないよう、一定の負担ルールを検討する必要があります。
国は、制度の公共性を踏まえ、所得のない人、低所得者、学び直し支援、公営事業、基盤分野への就労支援などについて、国庫負担を行います。
この三者負担の考え方により、制度の安定性と公共性を両立させることを可能にします。
③ 保険料率設定の考え方
保険料率は、現行の雇用保険料率及び労災保険料率を参考にしながら設定する必要があります。
ただし、厚生就労保険制度は、単に雇用保険と労災保険を合算する制度ではありません。
失業給付、労災補償、就労支援、能力発揮支援、資格取得支援、学び直し支援、公営事業との連携など、制度が担う機能に応じて必要歳出、予想歳出を積み上げ、その上で保険料率を設計する必要があります。
初期段階では、現行制度の保険料率を大きく超えない範囲で制度を開始し、国庫負担や段階的拡充を組み合わせる方法も考えられます。
制度への理解を得るためには、保険料率の引き上げだけを先行させるのではなく、何のための負担なのか、どのような支援を受けられるのかを明確にすることが不可欠です。
また、シンBI2050では、LSF生活保障給付の導入に伴い、現行の厚生年金制度は大きく再編されます。
これにより、現在、厚生年金保険料として負担している保険料の一部については、厚生就労保険制度をはじめ、厚生健康保険制度や厚生住宅保険制度など、新しい社会保険制度へ段階的に移転・再配分することを基本方針としています。
この考え方により、新たな保険料負担を大幅に増やすことなく、制度全体として社会保障機能を再構築することが可能になると考えます。
この保険料再編の基本的な考え方については、下記の2つの記事で提案しています。
参照ください。
④ 財政運営の基本原則
厚生就労保険制度の財政運営では、安定性、透明性、公平性、機動性の4つが重要になります。
・安定性とは、失業増加や景気変動、災害、産業構造変化にも耐えられる財政基盤を確保することです。
・透明性とは、保険料がどの事業に使われているのかを明確にすることです。
・公平性とは、雇用形態や所得形態の違いによって、過度な不公平が生じないようにすることです。
・機動性とは、人口減少やAI・AXの進展など、社会環境の変化に応じて、給付内容や支援事業を柔軟に見直せることです。
この4つの原則を踏まえ、厚生就労保険制度は、単年度収支だけではなく、中長期の制度安定性を重視して運営する必要があります。
3)新制度における歳入・歳出試算
厚生就労保険制度の財政規模については、現時点では確定的な数値を示すことはできません。
しかし、制度設計を具体化するためには、一定の前提を置いた試算が必要です。
ここでは、あくまでも制度構想上の試案として、歳入・歳出の考え方を整理します。
① 制度規模の想定
現行の雇用保険制度は、保険収入だけで年間3兆円規模を超えています。
また、労災保険制度も、保険給付費等を中心に1兆円規模の財政を持っています。
令和7年度当初予算に関する財務省資料では、労災勘定の歳入総額が1兆2602億円と示されています。
厚生就労保険制度は、これらを基礎にしながら、対象者の拡大と就労支援機能の強化を行う制度です。
そのため、制度全体の財政規模は、少なくとも現行の雇用保険・労災保険を合わせた規模を基礎とし、そこに新規事業分を上乗せする形で考える必要があります。
なお、本制度の財源は、現行の雇用保険制度及び労災保険制度をそのまま引き継ぐだけではありません。
シンBI2050では、LSF生活保障給付の導入によって再編される厚生年金保険料の一部についても、厚生就労保険制度の財源へ移転することを想定しています。
そのため、本制度の歳入は、現在の雇用保険財源のみを前提とした制度ではなく、社会保障制度全体の再編の中で構築される財政構造として考える必要があります。
なお、先述した、過去記事を参照頂ければ、その考え方をご理解頂けると思います。
② 保険料収入試算
保険料収入は、給与所得者からの保険料、自営業者・フリーランス等からの保険料、企業負担、発注者負担、国庫負担を組み合わせて構成します。
仮に、現行の雇用保険料率及び労災保険料率を基礎としつつ、対象者を自営業者やフリーランス等へ拡大する場合、保険料収入の対象基盤は広がります。
一方で、所得変動が大きい層や低所得層については、保険料軽減や国庫補助が必要となるため、単純に対象者数の増加がそのまま保険料収入増につながるわけではありません。
したがって、新制度では、保険料収入を過大に見積もるのではなく、初期段階では慎重な試算を行う必要があります。
③ 国庫負担試算
国庫負担は、制度の公共性を支える財源として不可欠です。
特に、所得がない人、低所得者、求職者、学生、障害者、子育て・介護中の人、基盤分野への就労支援、公営事業などについては、保険料収入だけで支えることは困難です。
国庫負担については、現行の雇用保険制度における国庫負担を基礎としつつ、新制度で追加される公共性の高い事業について、別枠で財源を確保することが考えられます。
特に、食料安全保障、医療・介護、防災、観光、地域インフラ維持など、国家社会・生活社会の基盤を支える分野については、国の政策責任として一定の財政負担を行う必要があります。
さらに、現在、国が実施している各種雇用政策、職業能力開発事業、就労支援事業などについても、厚生就労保険制度へ統合・整理することにより、国費の一部を本制度の財源として位置付けることが可能になると考えます。
厚生就労保険制度で想定する主な歳入構成を整理すると、次のようになります。
| 歳入項目 | 財源 |
|---|---|
| 雇用保険保険料 | 引継ぎ |
| 労災保険料 | 引継ぎ |
| 厚生年金保険料の一部 | LSF導入に伴う移転 |
| 雇用政策関係国費 | 統合・移管 |
| 就労支援関係補助金 | 統合・移管 |
| 国庫負担 | 公共性の高い事業 |
このように、本制度は新たな財源を創設する制度ではなく、既存の社会保障財源と雇用政策財源を再編・統合することによって構築することを基本としています。
④ 必要歳出試算
厚生就労保険制度の歳出は、大きく次の分野に分けて考えることができます。
失業給付、所得補完給付、労働災害補償、通勤災害補償、就労支援、キャリア形成支援、学び直し・資格取得支援、両立支援、公営事業支援、行政運営費です。
このうち、失業給付や労災補償は、現行制度から引き継ぐ歳出です。
一方、適性・適職発見支援、AIを活用した就労マッチング、学び直し支援、公営農場等による能力開発、観光・農業・介護・防災分野への就労支援などは、新制度で拡充する歳出になります。
したがって、制度開始当初は、現行制度から引き継ぐ歳出を基礎としながら、新規事業については段階的に拡充する設計が現実的です。
⑤ 財政収支試算
財政収支については、短期的には現行制度の財源を基礎にしながら、新規事業の規模を段階的に調整することが必要です。
初期段階では、現行制度の機能を維持しつつ、就労支援機関改革、適性・適職発見支援、学び直し支援、公営事業の試行などに重点を置くことが考えられます。
その後、制度効果を検証しながら、対象者、給付内容、保険料率、国庫負担、歳出規模を見直していくべきです。
厚生就労保険制度は、一度に完成形を導入する制度ではなく、人口減少社会やAI・AX時代の変化に対応しながら、段階的に育てていく制度として位置付けることが現実的です。
4)制度の持続可能性
厚生就労保険制度は、短期的な雇用対策ではなく、2050年を見据えた就労基盤制度として設計する必要があります。
そのためには、人口減少、AI・AX、就労構造の変化に対応しながら、継続的に制度を見直す仕組みが不可欠です。
① 人口減少への対応
人口減少社会では、保険料を負担する就労人口が減少する一方で、人手不足分野への就労支援や高齢期の就労支援は重要性を増します。
そのため、制度の持続可能性を確保するには、単に保険料率を上げるだけでは不十分です。
一人ひとりが希望や適性に応じて働き続けられる環境を整え、就労参加の幅を広げることが重要になります。
また、AI・AXを活用して行政運営を効率化し、限られた財源を有効に使うことも必要です。
② AI・AX時代への対応
AI・AXの進展は、仕事の内容だけではなく、制度運営そのものにも影響を与えます。
就労情報、所得情報、資格情報、支援履歴、地域需要などを適切に管理し、必要な支援へ迅速につなげるためには、AXを前提とした制度運営が不可欠です。
ただし、AIによる自動判定だけに依存する制度であってはなりません。
AIは支援の精度と効率を高めるために活用し、最終的には本人の意思、生活事情、希望、適性を踏まえた人的支援と組み合わせる必要があります。
③ 就労構造変化への対応
今後、雇用、請負、業務委託、副業、兼業、自営、地域就労などの境界はさらに曖昧になっていく可能性があります。
その中で、制度が特定の雇用形態だけを前提としていれば、再び制度の空白が生じます。
厚生就労保険制度では、就労構造の変化を前提とし、対象者、保険料、給付、支援内容を定期的に見直す仕組みが必要です。
働き方が変わっても制度からこぼれ落ちないことが、新制度の基本条件になります。
④ 定期的見直し制度
厚生就労保険制度は、導入後も定期的に見直す必要があります。
具体的には、保険料率、給付水準、支援対象、教育訓練内容、公営事業の効果、行政運営費、国庫負担などについて、一定期間ごとに検証する仕組みが必要です。
また、就労環境や産業構造は急速に変化するため、5年ごとの制度点検、10年ごとの大幅見直しなど、制度内に見直し規定を設けることが望ましいと考えます。
厚生就労保険制度は、固定された制度ではなく、社会の変化に応じて更新される制度として設計する必要があります。
厚生就労保険制度の財政運営の基本構造を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 基本方針 |
|---|---|
| 財源 | 保険料+国庫負担 |
| 個人負担 | 所得に応じた負担 |
| 企業負担 | 雇用・業務委託を含め検討 |
| 国庫負担 | 公共性の高い事業を中心 |
| 財政運営 | 中長期安定運営 |
| 制度見直し | 定期的な制度検証 |
制度の持続可能性は、保険料率だけではなく、就労人口の拡大や行政運営の効率化も含めて総合的に確保していくことが重要です。

4-6 厚生就労保険制度が実現する新しい働き方と制度
厚生就労保険制度は、雇用保険制度と労災保険制度を統合・再編すること自体を目的とする制度ではありません。
その本来の目的は、人口減少社会、少子高齢化、AI・AXの進展、働き方の多様化など、社会構造そのものが変化する時代において、一人ひとりが希望する仕事に挑戦し、能力を発揮しながら安心して働き続けられる社会基盤を構築することにあります。
また、本制度は、LSF生活保障給付と相互に補完し合うことによって、「生活保障」と「就労支援」の役割を明確に分担し、新しい社会保障制度を形成する重要な柱となります。
ここでは、厚生就労保険制度によって実現を目指す新しい働き方と社会の姿について整理します。
1)生活保障と就労支援の新しい関係
従来の社会保障制度では、生活保障と就労支援が十分に整理されないまま運営されてきました。
生活を支える制度でありながら就労が強く求められたり、逆に就労支援制度でありながら生活保障機能を過度に担ったりするなど、それぞれの役割が重なり合う場面も少なくありませんでした。
厚生就労保険制度では、この関係を整理し、それぞれの制度が本来担うべき役割を明確にします。
① LSF生活保障給付との役割分担
LSF生活保障給付は、すべての国民に対する生活基盤を保障する制度です。
一方、厚生就労保険制度は、働くことを希望する人が、自ら選択した仕事を通じて所得を得られるよう支援する制度として位置付けられます。
両制度は互いに代替するものではなく、生活保障と就労支援という異なる役割を担いながら、一体となって国民生活を支えることになります。
② 安心して挑戦できる社会
生活の基盤が保障されることによって、人は失敗を過度に恐れることなく、新しい仕事や転職、起業、学び直しなどへ挑戦しやすくなります
厚生就労保険制度は、その挑戦を具体的に支える制度です。
単に仕事を紹介するだけではなく、相談、能力開発、資格取得、就労継続支援などを通じて、一人ひとりが自ら選んだ人生設計を実現できる環境を整えることを目指します。
③ 就労の選択肢拡大
正社員として働くことだけが就労ではありません。
副業・兼業、自営業、フリーランス、農業、観光、地域事業、起業など、多様な働き方が社会の中で自然に選択できる環境を整えることが重要になります。
当制度では、それぞれの働き方を制度上平等に位置付け、働き方の違いによって過度な不利益が生じない制度を目指します。
④ 就労を希望する人への伴走支援
仕事は、求人情報だけで決まるものではありません。
本人の希望、適性、経験、能力、家庭事情、健康状態などを踏まえながら、どのような仕事なら継続できるのかを一緒に考える支援が重要になります。
本制度では、就職させることを目的とするのではなく、一人ひとりの人生設計に寄り添いながら、継続的に伴走する就労支援を基本理念とします。
2)人生100年時代の働き方
人生100年時代では、「学校を卒業して就職し、定年まで同じ会社で働く」という人生設計だけでは対応できなくなっています。
就職、転職、独立、学び直し、子育て、介護、高齢期の社会参加など、多様なライフステージに応じた働き方を支える制度が必要になります。
① ライフステージに応じた働き方
働き方は、年齢や家族構成、健康状態などによって変化します。
厚生就労保険制度では、その変化を例外ではなく当然のものとして受け止め、それぞれの時期に応じた就労支援を行います。
② 学び直しと再挑戦
一度仕事を離れた人や、新たな分野へ挑戦したい人にとって、学び直しは重要な意味を持ちます。
制度は、単に教育機会を提供するだけではなく、その学びが実際の仕事につながるよう、相談や就労支援まで含めて一体的に支える必要があります。
③ 高齢社会への対応
高齢者は支えられる存在であるだけではありません。
本人が希望するのであれば、その経験や知識を生かしながら地域社会や産業に貢献することもできます。
厚生就労保険制度では、年齢を理由として一律に就労を区切るのではなく、本人の意思を尊重した多様な働き方を支援します。
④ 多様な人生設計への対応
人生設計は、一人ひとり異なります。
制度は画一的な人生モデルを前提とするのではなく、多様な人生、多様な働き方、多様な価値観を支えるものへ転換していく必要があります。
3)人口減少社会における人的基盤の維持
人口減少が続くわが国では、人材不足への対応が国家的課題となっています。
しかし、その解決策は、単に不足する分野へ人を配置することではありません
一人ひとりが希望する仕事や、自らの能力を発揮できる仕事へ就くことが、結果として社会全体の人的基盤の維持にもつながるという視点が重要になります。
① 希望と適性を尊重した就労
仕事は、本人の主体的な意思を出発点とすべきです。
どのような仕事をしたいのか、どのような生き方を望むのかを尊重し、その実現を支援することが制度の基本になります。
② 将来必要となる分野との接続
一方で、自分の適性や進路が分からない人も少なくありません。
そのような場合には、農業、観光、医療、介護、防災、地域インフラ、デジタル分野など、将来のわが国にとって重要となる仕事について情報提供や職業体験を行い、本人が選択できる機会を広げることも重要です。
これは、本人の主体的な選択を支援するための次善の政策として位置付けられます。
③ 地域社会との連携
就労は、地域社会とも深く関わっています。
地域産業や地域課題と就労支援を結び付けることによって、働く人にとっても、地域にとっても持続可能な仕組みを形成することができます。
④ 国家社会・生活社会・経済社会への貢献
一人ひとりが能力を発揮し、希望する仕事を通じて社会に参加することは、本人の生活だけではなく、国家社会、生活社会、経済社会の維持・発展にもつながります。
当保険制度は、その循環を支える社会基盤として位置付けられます。
なお、この考え方は、関係WEBサイト・ONOLOGUE2050で理念化し、具体化をめざす「シン安保2050」における三層構造に基づく政策提案と結びついています。
以下の記事を参照ください。
4)シンBI2050が目指す就労社会
厚生就労保険制度は、単独で存在する制度ではありません。
LSF生活保障給付、厚生健康保険制度、厚生住宅保険制度などと連携しながら、新しい社会保障制度全体を構成する重要な柱となります。
① 「働くこと」の再定義
働くことは、単に生活費を得るためだけの行為ではありません。
自らの意欲と能力を生かし、種々の社会活動に参加し、人とのつながりを築き、生きがい・働きがいを実現する営みでもあります。
厚生就労保険制度では、この広い意味での「働くこと」を支える制度を目指します。
② 就労と多種多様な社会参加
社会参加は、有償労働だけによって実現されるものではありません。
地域活動、文化活動、教育活動など、多様な社会参加も重要な役割を持っています。
その一方で、本制度は「就労保険制度」であることから、その中心は、仕事を通じた多様な社会参加を支えることに置かれます。
③ 新しい社会保障制度の一翼
生活保障はLSF生活保障給付、就労支援は厚生就労保険制度、医療保障は厚生健康保険制度、住宅保障は厚生住宅保険制度というように、それぞれが本来の役割を明確に分担することによって、制度全体の分かりやすさと効率性を高めることもめざしています。
④ 2050年の就労社会像
2050年のわが国では、人口減少やAI・AXの進展によって、仕事や働き方は現在とは大きく変化していると考えられます。
もちろん、それまでのプロセスにおいても同様です。
そのような時代において、一人ひとりが安心して生活し、自ら希望する仕事に挑戦し、その適性や技術・技能を習得し、発揮しながら多様な社会活動に参加できること。
そして、その積み重ねが、わが国の人的基盤を維持し、国家社会・生活社会・経済社会を支える力となることもあるでしょう。
それが、シンBI2050において厚生就労保険制度が目指す、新しい就労社会、働き方社会の姿です。
本章では、現行の雇用保険制度及び労災保険制度を基礎としながら、多様な働き方に対応した新しい厚生就労保険制度の基本構想について提案しました。
その中心にあるのは、「雇用を守る制度」から、「働くことを希望するすべての人を支える制度」への転換です。
生活の基盤はLSF生活保障給付が担い、その上で厚生就労保険制度が就労支援、能力発揮、学び直し、再挑戦を支えることにより、国民一人ひとりが安心して自らの人生を設計できる広義での社会を構築・実現することを目指します。
このような制度改革は、単なる労働保険制度の見直しではありません。
人口減少社会とAI・AX時代に対応した、新しい社会保障制度への転換であり、シンBI2050が提案する「生活保障」と「就労保障」の新たな社会契約の一つとして位置付けられるものです。
厚生就労保険制度によって実現を目指す就労社会、働き方社会を整理すると、次のようになります。
| 現在 | シンBI2050 |
|---|---|
| 雇用中心社会 | 多様な就労社会 |
| 雇用契約中心 | 個人中心の就労制度 |
| 就職支援中心 | 能力発揮支援中心 |
| 画一的職業訓練 | 希望・適性を重視した能力開発 |
| 雇用保険 | 厚生就労保険 |
| 生活保障との混在 | LSFと役割分担 |
| 制度ごとの運営 | 統合的就労支援 |
厚生就労保険制度は、雇用を前提とした制度から、一人ひとりの主体的な就労を支える制度への転換を目指すものであり、シンBI2050が提案する新たな社会保障体系の重要な柱となります。
(画像4)
まとめ
本章では、現在の社会保障制度が抱える「仕事」と「生活保障」を巡る課題について整理するとともに、シンBI2050における新たな就労保障制度として、「厚生就労保険制度」の基本構想を提案しました。
まず第1節では、わが国の社会保障制度には、「働かざる者食うべからず」に象徴される社会観や労働観が現在も様々な制度に反映されていることを確認しました。
また、生活保障制度においても就労支援が重視される一方で、人口減少、少子高齢化、AI・AXの進展、働き方の多様化など、社会構造そのものが大きく変化する中では、従来の就労条件主義だけでは対応が難しくなりつつあることを考察しました。
第2節では、雇用形態の多様化、所得格差、仕事と子育て・介護・治療との両立、人口減少社会、AI・AXによる職業構造の変化など、就労を取り巻く環境が大きく変化していることを確認しました。
これからの就労支援には、単に仕事を紹介するだけではなく、一人ひとりの希望や適性を踏まえながら、能力や経験を十分に発揮できる仕事へつなげる視点が、これまで以上に重要になることを示しました。
第3節では、現行の雇用保険制度及び労災保険制度の目的、仕組み、財政運営、給付制度などを整理しました。
その結果、両制度は現在も重要な役割を果たしているものの、「企業に雇用される労働者」を制度設計の基本としているため、多様化する就労形態との間に少しずつ制度的なズレが生じていることを確認しました。
これらを踏まえ、第4節では、現行制度を発展的に統合・再編した「厚生就労保険制度」の基本構想を提案しました。
厚生就労保険制度は、現行制度を単純に置き換えるものではありません。
失業給付や労働災害補償など、これまで重要な役割を果たしてきた制度機能は維持しながら、働くことを希望するすべての人を対象とした就労支援制度へ発展させることを目的としています。
また、本制度では、生活保障はLSF生活保障給付が担い、厚生就労保険制度は就労保障を担うという役割分担を明確にしました。
これにより、生活保障制度が就労を条件とすることなく国民生活を支え、一方で厚生就労保険制度は、一人ひとりが自ら希望する仕事や働き方を実現できるよう支援する制度として位置付けられます。
さらに、従来の職業紹介や職業訓練だけではなく、適性や適職の発見、技能・技術開発、学び直し、資格取得、起業支援、公営事業との連携など、人生を通じた就労支援を重視しました。
その出発点は、国や企業が必要とする人材を育成することではありません。
まず、一人ひとりの主体的な意思や希望、自ら選択した仕事を尊重し、それを実現するための支援を行うことです。
そして、その結果として、食料安全保障、医療・介護、防災、観光、地域産業など、わが国が将来にわたって維持・発展させるべき人的基盤の形成にもつながっていくことを期待しています。
厚生就労保険制度は、「働くこと」を社会保障の条件とする制度ではなく、「働きたい」と願う人々を支え、その能力や経験を社会の中で生かすことを目的とする制度です。
それは、人口減少社会とAI・AX時代に対応した、新しい就労保障制度であるとともに、シンBI2050が提案する新しい社会保障体系を構成する重要な柱の一つでもあります。
本稿では、「社会・労働観問題の壁」における制度改革として、厚生就労保険制度の基本構想について提案しました。
これにより、第3の壁「社会制度問題の壁」で提案してきたLSF生活保障給付、厚生年金制度、厚生健康保険制度、厚生住宅保険制度などの制度改革に加え、就労保障制度の基本的な方向性も整理することができました。
次稿では、第3の壁「社会制度問題の壁」と第4の壁「社会・労働観問題の壁」の両者を総括し、シンBI2050が提案する「シン社会制度大改革」の全体体系について、その制度構造と各制度の役割分担を含めて総合的に提案します。






