社会制度問題の壁⑤|LSF生活保障給付で消える年収の壁と厚生住宅保険制度創設のシンBI2050
「社会制度問題」の壁を乗り超えるための6章
第5章 消える年収の壁、新・厚生住宅制度シン設計
はじめに
【BI実現の壁超克シリーズ】における<8つの壁>から4つ目の壁「社会制度問題の壁」を打破するための6章。
ここまで、以下の5稿の考察・提案を行ってきました。
序 章・序章 「社会制度問題」の壁とは何か|BI実現の壁超克シリーズⅢ – シン・ベーシックインカム2050論
第1章・社会制度問題の壁①|公的年金制度改革から始まるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第2章・社会制度問題の壁②|生活保護制度改革から考えるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第3章・社会制度問題の壁③|医療・介護制度改革を考えるシンBI2050の社会保障再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
第4章・社会制度問題の壁④|児童福祉・障害者福祉制度改革を考えるシンBI2050の社会福祉再設計 – シン・ベーシックインカム2050論
社会制度を根本的に変革する基本軸として、Life Security Foundation = LSF生活保障給付の構想と提案を、公的年金大改革と直結する制度設計として第1章で提示。
・LSF導入と年金改革を起点にして、
・社会制度問題の体系に基づいて生活保護制度改革
・主に社会保険の観点から医療制度・介護制度改革、
・社会福祉制度改革の視点から児童福祉・障害者福祉制度改革
について、それぞれ考察と提案を行ってきました。
ここまでの議論によって、生活保障制度を構成する主要制度については、その基本的な再設計の方向性を示すことができたと考えています。
しかし、社会保障制度は、それ単独では機能しません。
生活保障制度を持続的に運営するためには、それを支える税制、社会保険制度、住宅政策などの関連制度も同時に再設計する必要があります。
そこで本章では、特に制度全体へ大きな影響を及ぼす「個人所得税改革」と「厚生住宅保険制度創設」を中心に考察します。
また、関連して社会保険料負担の考え方についても、これまで十分整理できていなかった視点から検討を加えます。
社会制度問題の壁は、次章で完結します。
本章は、その最終章へ向けて社会保障制度を支える基盤制度を整理する重要な位置付けとなります。

1.所得税税制改革の方針と方向性
本章では、LSF(Living Security Foundation)生活保障給付導入に伴う所得税制度改革の基本方針について考察します。
これまでの各章では、公的年金制度、生活保護制度、医療・介護制度、児童福祉・障害者福祉制度といった社会保障制度の再設計を中心に検討してきました。
しかし、これらの制度改革は、それぞれが独立して成立するものではありません。
生活保障制度を持続的かつ公平に運営するためには、それを支える税制や社会保険制度についても、一体的に再設計する必要があります。
なかでも所得税制度は、国民生活と最も密接に関わる税制度である一方、多数の控除制度や累進税率、各種優遇措置などによって制度全体が複雑化し、行政運営や納税者双方に大きな負担を与えています。
また近年では、「年収の壁」や「手取りを増やす政策」をめぐる議論が活発化していますが、その多くは現行制度を前提とした部分的な制度改正にとどまり、社会保障制度全体との整合性まで踏み込んだ議論は十分行われているとは言えません。
そこで本節では、まず現行の所得税制度の基本的な仕組みと課題を整理したうえで、次節においてLSF導入を前提とした新しい所得税制度の方向性について考察します。
1-1 現状の個人所得税制の基本と問題点
所得税制度は、国及び地方公共団体の財政を支える主要な租税制度の一つであるとともに、所得再分配機能を担う重要な政策手段でもあります。
一方で、社会保障制度との関係が極めて深いにもかかわらず、制度改正は税制のみを対象として議論されることが多く、社会保障制度改革との一体的な検討は十分とは言えません。
本項では、現行所得税制度の基本構造を確認するとともに、その財政的位置付けや制度上の特徴、さらには現在議論されている課題について整理し、LSF導入後の制度改革を考えるための前提を明らかにします。
1)所得税法の概要と特徴|所得税控除制を軸に
所得税制度は、日本の租税制度の中核を構成する税制度であり、個人の所得に応じて税負担を求める直接税です。
所得の再分配機能を担うとともに、国の主要財源の一つとして位置付けられており、社会保障制度や財政政策とも密接に関係しています。
しかし、その制度設計は長年にわたる制度改正の積み重ねによって極めて複雑化しており、納税者にとっても行政にとっても理解しにくい制度となっています。
本項では、その特徴を整理しながら、LSF導入後の所得税制度改革を考える基礎を確認します。
① 所得税および同法の特徴
現行の所得税法は、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、譲渡所得など、所得の種類ごとに課税方法を定め、それぞれの所得を合算した課税所得に累進税率を適用する総合課税を基本としています。
その一方で、退職所得や分離課税など例外規定も数多く存在し、制度全体は非常に複雑な構造となっています。
また、日本の所得税制度の最大の特徴は、「控除制度」を中心に設計されている点にあります。
基礎控除、給与所得控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除など、多数の控除制度が設けられており、納税者の生活状況や家族構成に応じて課税所得を調整する仕組みとなっています。
これらの控除制度は、生活保障や所得再分配を税制によって実現しようとする考え方に基づいています。
しかし、その結果として制度は年々複雑化し、税務手続きや行政事務も膨大となっています。
さらに、控除制度そのものが「年収の壁」や就労調整の一因となっていることも、近年大きな課題として指摘されています。
② 法人所得税との比較と位置付け
個人所得税と法人所得税は、いずれも所得に対して課税する直接税ですが、その制度目的には大きな違いがあります。
法人所得税は企業活動によって生じた利益に対して課税する制度であり、企業規模や経営形態によらず、基本的には企業という一つの法人格を対象として課税されます。
一方、個人所得税は、個々人の生活状況や扶養関係、所得水準などを考慮しながら課税する制度であり、社会政策的な性格を強く持っています。
そのため、法人所得税制度では、企業活動に必要な経費や投資促進策などを除けば制度は比較的単純に構成されていますが、個人所得税制度では数多くの控除制度や特例措置が設けられています。
この違いは、所得税制度が単なる租税制度ではなく、実質的には社会保障制度の一部としても機能してきたことを意味しています。
しかし、本来生活保障が社会保障制度によって担われるべきであるならば、所得税制度に過度な生活保障機能を持たせることが適切なのかについては、改めて検討する必要があります。
③ 現状の所得税制の問題点
現行所得税制度の最大の問題は、本来社会保障制度が担うべき役割の一部まで税制側で担おうとしてきたことにあります。
生活保障、子育て支援、高齢者支援、就労支援など、多様な政策目的が控除制度や税額軽減措置として積み重ねられた結果、制度全体が極めて複雑になっています。
さらに、世帯単位を前提とした配偶者控除や扶養控除などは、「年収の壁」を生み出し、働き方そのものに影響を及ぼしています。
また、所得区分や控除要件が細分化されたことによって、税務行政にも多くの人的・事務的コストが発生しています。
今後、少子高齢化や人口減少が進展する中で、こうした複雑な制度を維持し続けることは容易ではありません。
LSF導入を前提とした社会保障制度改革では、生活保障機能を税制から切り離し、所得税制度本来の役割へ回帰させることによって、より公平で分かりやすく、行政効率にも優れた制度へ再構築することが求められると考えます。
2)所得税財源と財政構造
所得税制度を改革するためには、制度の仕組みだけでなく、所得税が国家財政の中でどの程度の規模を持ち、どのような位置付けにあるのかを確認しておく必要があります。
所得税は、国民一人ひとりの所得に課される税であると同時に、国の一般会計を支える主要財源の一つです。
そのため、所得税改革は単なる納税者負担の軽減策ではなく、国家財政、社会保障制度、消費税、法人税、社会保険料負担などと一体的に考える必要があります。
本項では、所得税の税収規模、給与所得との関係、GDPや消費税との位置付けを確認し、LSF導入後の税制改革を考えるための前提を整理します。
① 所得税税収規模と歳入構成比
所得税は、日本の一般会計税収において、消費税・法人税と並ぶ基幹税の一つです。
近年の国の一般会計税収を見ると、所得税、法人税、消費税の3税が税収の大部分を占めており、この構造は現在の日本財政を理解する上で最も基本となる視点です。
令和6年度決算では、一般会計税収は約75.2兆円となり、そのうち所得税は約21.2兆円、法人税は約17.9兆円、消費税は約25.0兆円という規模になっています。
この数値から分かるのは、現在の国税収入において、所得税は依然として大きな柱である一方、消費税が最も大きな税目となっていることです。
所得税は、個人所得に応じて課税されるため、所得再分配の機能を持ちます。
一方で、消費税は消費行動に対して広く課されるため、景気や物価、消費支出の動向と密接に関わります。
法人税は企業収益に左右されるため、景気変動や企業業績の影響を強く受けます。
このように見ると、所得税改革は所得税だけを対象として考えることはできません。
所得税を減らせば手取りは増えますが、その分、一般会計税収への影響が生じます。
逆に、所得税を維持・強化すれば財源は安定しますが、働く個人の可処分所得や就労意欲に影響を及ぼします。
そのため、LSF導入後の税制改革では、所得税の税率や控除制度を単独で考えるのではなく、生活保障給付、社会保険料、消費税、法人税との関係を含めて、税と社会保障の全体構造として再設計する必要があります。
| 項目 | 直近の規模感 | 制度上の意味 |
|---|---|---|
| 一般会計税収 | 約75.2兆円 | 国の基幹的な税収全体 |
| 所得税 | 約21.2兆円 | 個人所得に対する課税、再分配機能を持つ |
| 法人税 | 約17.9兆円 | 企業利益に対する課税、景気変動の影響を受けやすい |
| 消費税 | 約25.0兆円 | 消費に広く課税される安定財源 |
| 令和7年度予算上の租税及び印紙収入 | 約77.8兆円 | 国の一般会計歳入の中心財源 |
この表からも明らかなように、所得税は消費税に次ぐ大きな財源であり、単純に縮小・廃止できる性質のものではありません。
しかし同時に、現在の所得税制度は、多数の控除制度や世帯単位の発想を通じて、生活保障や家族支援の役割まで背負い込んできました。
シンBI2050においては、生活保障はLSFが担い、所得税はLSF外所得に対する簡素で公平な課税制度へ再設計することが重要になります。
② 総所得の規模・トレンドとGDPとの関連
所得税を考える上では、税収そのものだけでなく、その課税対象となる所得の規模も確認しておく必要があります。
とりわけ、日本では給与所得者が多数を占めており、給与所得は所得税制度の中心的な課税対象となっています。
令和6年分の民間給与実態統計では、民間給与所得者数は約6,077万人、民間事業所が支払った給与総額は約241.4兆円、源泉徴収された所得税額は約11.2兆円となっています。
また、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円とされています。
この数字は、所得税制度が国民生活とどれほど深く結び付いているかを示しています。
所得税は、高所得層だけに関わる税ではありません。
給与所得者、個人事業主、年金受給者、資産所得を持つ人など、さまざまな個人の所得に関係する制度です。
特に給与所得者については、源泉徴収と年末調整によって納税が行われるため、本人が税制度の全体像を十分理解しないまま納税が完了する仕組みになっています。
一方で、GDPとの関係で見ると、日本経済全体は名目GDPで600兆円規模にあります。
給与総額はその中の大きな構成要素であり、家計所得、消費、税収、社会保険料負担と密接に連動しています。
所得が増えれば所得税収は増えやすくなり、消費も拡大しやすくなります。
しかし、社会保険料や税負担が重くなりすぎれば、手取り所得は伸びず、消費も抑制されます。
この意味で、所得税改革は、単に「税率を下げる」「控除を増やす」という議論ではなく、所得・消費・社会保障負担の循環をどのように設計するかという問題でもあります。
シンBI2050においては、LSFが基礎的生活費を支えるため、賃金所得は「生きるために最低限必要な所得」から、「働くことによって得られる追加的所得」へと位置付けが変わります。
この変化は、所得税の意味にも大きく影響します。
現在の所得税制度では、基礎控除や給与所得控除などを通じて、最低生活費への配慮を税制内で行っています。
しかしLSFが導入されれば、最低生活費の保障は税制ではなく生活保障制度が担うことになります。
その結果、所得税はより単純に、LSF外所得に対する一定の負担を求める制度へ転換しやすくなります。
③ 消費税規模と所得税及びGDPとの関係
消費税は、現在の日本財政において最も大きな基幹税の一つです。
令和6年度決算では、消費税収は約25.0兆円であり、所得税収を上回る規模となっています。
令和7年度予算でも、消費税は約24.9兆円と見込まれており、国の一般会計歳入において極めて大きな位置を占めています。
これは、少子高齢化が進む中で、所得や企業利益だけに依存しない安定財源として消費税が重視されてきた結果でもあります。
しかし、消費税には大きな問題もあります。
所得税が所得の大小に応じて負担が変化するのに対し、消費税は消費額に対して一律に課されます。
そのため、所得の低い人ほど所得に対する消費税負担の割合が重くなりやすいという、いわゆる逆進性の問題があります。
とりわけ食費、日用品、光熱費など、生活必需品への支出割合が高い低所得層にとっては、消費税は生活を圧迫する要因になり得ます。
この点において、LSF生活保障給付と消費税の関係は、従来の税制議論とは異なる重要な意味を持ちます。
LSFが生活必需領域に利用される専用デジタル通貨であるならば、その利用時に消費税を課すかどうかは、制度の本質に関わる問題です。
生活保障として給付されたLSFに対して、生活必需品の購入時に消費税を課すのであれば、国が給付した生活保障の一部を再び税として回収することになります。
これは、生活保障制度としての目的及び役割の明快さを損なう可能性があります。
したがって、本章では後段において、LSF利用時の消費税無税方針、LSF外法定通貨利用時の消費税、さらにLSFと法定通貨を同時に利用した場合の消費税の扱いを整理します。
所得税、消費税、社会保険料を個別に考えるのではなく、LSFを基盤とした生活保障制度の中で、それぞれの税がどの役割を担うべきかを再設計することが、本章の重要な課題となります。
3)手取りを増やす政策をめぐる議論と課題
近年、「手取りを増やす」という政策が政治・経済の大きなテーマとなっています。
物価上昇や実質賃金の低迷が続く中、多くの政党や経済団体から、所得税減税や各種控除の見直し、社会保険料負担の軽減など、さまざまな政策が提案されています。
これらはいずれも国民生活を改善しようとする試みですが、その多くは現行制度を前提とした部分的な制度改正にとどまっています。
しかし、「手取りが少ない」という問題は、税率だけの問題ではありません。
所得税、住民税、社会保険料、各種控除制度、さらには各種給付制度までが複雑に組み合わさった結果として生じている構造的な問題です。
そのため、ある制度だけを改正しても、別の制度との整合性が失われ、新たな歪みを生み出すことも少なくありません。
本項では、現在議論されている主要な政策を整理し、その特徴と課題を確認したうえで、LSF導入による抜本的な制度改革との違いを明らかにします。
① 年収の壁問題の特質
現在、「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」など、いわゆる「年収の壁」が広く知られるようになりました。
これらは、それぞれ所得税、住民税、社会保険料、配偶者控除など異なる制度によって生じているものであり、一つの制度だけの問題ではありません。
例えば、
・所得税については基礎控除や給与所得控除によって課税の有無が決まり、
・社会保険制度では被扶養者認定や加入義務が別の基準で運用されています。
さらに
・配偶者控除や配偶者特別控除も別の年収基準で設計されているため、
一定の年収を超えると税負担や社会保険料負担が急激に増え、結果として手取り額がほとんど増えない、あるいは減少する場合さえあります。
このため、多くのパート・アルバイト労働者が就業時間を調整し、「働き控え」を選択する現象が発生しています。
本来であれば、働けば働くほど可処分所得は増えることが望ましいにもかかわらず、制度が就労行動そのものをゆがめてしまっているのです。
重要なのは、「年収の壁」は税制度だけの問題ではなく、税制、社会保険制度、社会保障制度が相互に影響し合って生じている構造問題であるという点です。
したがって、その解決には年収基準を一部修正するだけでは不十分であり、制度全体を見直す視点が求められます。
② 給付付き税額控除制の特徴と問題点
近年、所得再分配政策の一つとして「給付付き税額控除制度」が注目されています。
この制度は、所得税額から一定額を控除し、控除しきれない場合には差額を現金給付する仕組みであり、低所得者支援と就労促進を両立できる制度として諸外国でも採用されています。
確かに、現行制度の中では一定の合理性を持つ制度です。
所得が低い人ほど実質的な支援を受けられるため、所得格差の是正や勤労インセンティブの維持にも一定の効果が期待されています。また、単純な減税よりも低所得者へ重点的に支援を行える点も評価されています。
しかし、この制度はあくまで所得税制度を前提とした仕組みであり、生活保障制度そのものを再設計するものではありません。
所得把握や所得確認、給付額計算など、多くの行政手続きが必要となり、制度運営は依然として複雑です。
また、所得制限を前提とするため、新たな境界線や新たな「壁」が生まれる可能性も否定できません。
シンBI2050が提案するLSFは、このような税制度の中で生活保障を実現しようとする考え方とは異なります。
生活保障はLSFが担い、所得税はLSF外所得に対する課税制度として整理することにより、それぞれの制度を単純化し、役割を明確に分離することを目指しています。
③ 減税政策と補助金政策、その功罪
現在の経済政策では、「減税」と「補助金」が景気対策や家計支援の代表的な政策として繰り返し実施されています。
所得税減税、定額減税、各種補助金、給付金、ポイント還元など、その内容は多岐にわたります。
短期的には可処分所得を増やし、家計負担を軽減する効果が期待されるため、景気対策として一定の役割を果たしてきました。
しかし、その一方で、多くの制度が時限措置や対象限定措置として運用されるため、制度全体は年々複雑になっています。
補助金ごとに対象者や申請方法が異なり、行政事務も膨大になります。
また、政策が終了すれば支援も終了するため、生活基盤そのものの安定には必ずしもつながりません。
さらに、減税政策についても、所得税を一時的に軽減するだけでは、社会保険料負担や物価上昇など他の要因によって効果が相殺されることがあります。
その結果、「手取りを増やす政策」が繰り返し実施されながらも、国民の生活実感としては十分な改善につながらない状況が続いています。
シンBI2050では、このような対症療法型の政策を否定するものではありません。
しかし、それらは現行制度の中で生じた問題を、その都度修正しているに過ぎないとも考えます。
本質的に必要なのは、減税や補助金を繰り返さなくても、生活保障制度そのものが安定して機能する社会制度を構築することです。
その中核となるのがLSF生活保障給付です。
全国民へ無条件・無拠出で生活保障を提供する基盤が整えば、「手取りを増やすための政策」を繰り返す社会から、「生活基盤があらかじめ保障されている社会」へと政策の発想そのものを転換することが可能になります。
そして、その制度設計こそが、次節で考察する所得税制度改革の出発点となります。
4)現状の個人税の体系と税収状況(除、所得税)
ここまで所得税制度を中心に見てきましたが、個人が負担する税は所得税だけではありません。
私たち市民・国民は、日常生活の中で、住民税、固定資産税、相続税、贈与税、消費税、さらには自動車税など、多様な税を負担しています。
それぞれ異なる目的と根拠法令に基づいて設けられていますが、一般の国民にとっては税体系全体を俯瞰する機会は少なく、「何のための税なのか」「どこへ使われているのか」が分かりにくい状況となっています。
また、税制改革の議論では所得税だけが注目されることが多いものの、実際には個人が負担する税全体との関係を考えなければ、本当の意味での「手取り」や生活負担を評価することはできません。
そこで本項では、所得税以外の主要な個人関連税を整理し、それぞれの役割と課題を確認したうえで、LSF導入後の税体系を考える前提を整理します。
① 地方税
地方税は、都道府県及び市町村が行政サービスを提供するための基幹財源であり、地方自治を支える最も重要な税制度です。
代表的なものとして個人住民税、固定資産税、自動車税、軽自動車税などがあり、地域住民が受ける行政サービスの財源として活用されています。
特に個人住民税は、所得税と同様に個人所得を基礎として課税されますが、国税である所得税とは異なり、地方自治体の自主財源という役割を持っています。
そのため、教育、福祉、防災、地域医療、道路整備など、住民生活に密接した行政サービスを支える重要な財源となっています。
しかし、住民税も所得税と同様に所得を基準として課税されるため、所得税制度の変更は地方税制度にも少なからず影響します。
そのため、LSF導入に伴う所得税改革では、国税だけでなく地方税との役割分担や財源調整についても同時に検討する必要があります。
② 固定資産税を中心とした資産課税
個人が負担する税の中で、所得や消費とは異なる視点から課税されるのが資産課税です。
その代表が固定資産税であり、土地や建物などの固定資産を所有することに対して毎年課税されます。
固定資産税は市町村の重要な自主財源であり、地域行政を支える安定財源として長年運用されてきました。
また、資産課税には固定資産税だけではなく、相続税や贈与税も含まれます。
これらは資産の世代間移転に対して課税する制度であり、所得格差や資産格差の固定化を抑制する役割も担っています。
一方で、近年では地価上昇や相続財産の増加に伴い、課税対象者が拡大する傾向も見られています。
シンBI2050では、生活保障はLSFが担いますが、資産保有そのものに対する課税の考え方は基本的に維持されるものと考えます。
ただし、住宅政策については次節で述べる「厚生住宅保険制度」の創設と密接に関わるため、住宅資産への課税や住宅政策全体との整合性については、新たな視点から再整理する必要があります。
③ その他の個人関連税と税体系全体の課題
このほかにも、個人が負担する税には、自動車税、軽自動車税、酒税、たばこ税、入湯税、森林環境税など、多様な目的税や個別税制があります。
これらは道路整備や環境対策、公衆衛生など、それぞれ固有の政策目的を持って設けられています。
しかし、制度が長年積み重ねられてきた結果、現在の税体系は極めて複雑になっています。
税目ごとに課税根拠や税率、徴収方法、使途が異なり、国民にとって全体像を理解することは容易ではありません。
また、新たな政策課題が生じるたびに新税や特例措置が追加されてきたため、制度全体としての整合性も十分とは言えない状況です。
次表は、現在の個人関連税の主な種類と役割を整理したものです。
| 税目 | 主な課税対象 | 主な役割・目的 | 主な税収の帰属 |
|---|---|---|---|
| 所得税 | 個人所得 | 所得再分配・国の基幹財源 | 国 |
| 個人住民税 | 個人所得 | 地方行政の基幹財源 | 地方自治体 |
| 固定資産税 | 土地・建物等 | 地方自治体の安定財源 | 市町村 |
| 相続税・贈与税 | 資産移転 | 資産格差の是正・財源確保 | 国 |
| 消費税 | 消費支出 | 安定財源・社会保障財源 | 国・地方 |
| 自動車税等 | 車両保有・利用 | 道路・地域行政等 | 地方自治体 |
| 酒税・たばこ税等 | 酒類・たばこ | 財源確保・政策誘導 | 国・地方 |
このように整理すると、現在の税体系は、それぞれが一定の役割を担いながらも、個別制度の積み重ねによって形成されてきたことが分かります。
その結果、税制度全体としての理念や役割分担は必ずしも明確ではなく、所得税、社会保険料、社会保障制度との関係も複雑になっています。
シンBI2050では、これらの税を直ちに大幅変更することを目的とするものではありません。
まず重要なのは、生活保障をLSFへ移行することによって、それぞれの税制度が本来担うべき役割を整理し直すことです。
そのうえで、所得税、地方税、資産課税、消費税が、それぞれどのような目的で存在し、どのように相互補完すべきかを再設計することが、これからの税制改革に求められる基本的な方向性であると考えます。
現行税制の全体像を俯瞰すると、その多くが生活保障や所得再分配という役割まで担っていることが分かります。
次項では、LSF導入を前提として、これらの役割を見直した新たな所得税制度と消費税の考え方について考察します。
5)消費税制の現状と望ましいありかた
消費税は現在、日本最大の基幹税目であり、所得税や法人税と並んで国及び地方財政を支える重要な財源となっています。所得税が所得に応じて課税されるのに対し、消費税は物やサービスを購入する際に広く負担を求める間接税であり、景気変動の影響を比較的受けにくい安定財源として位置付けられています。
一方で、消費税は所得水準に関わらず一律の税率が適用されるため、所得の低い人ほど負担感が重くなる「逆進性」の問題を抱えています。そのため、税率引上げや減税をめぐる議論は繰り返されていますが、社会保障制度全体との整合性まで含めた議論は十分とは言えません。本項では、現状の消費税制度を整理したうえで、LSF導入後の新たな税体系を考えるための論点を整理します。
① 現状の消費税収と使途
消費税は1989年に税率3%で導入され、その後5%、8%、10%へと段階的に引き上げられてきました。現在では国・地方を合わせた税収規模は約25兆円に達し、所得税を上回る日本最大級の税収となっています。高齢化に伴い社会保障費が増加する中で、安定した財源としての役割は年々大きくなっています。
政府は現在、消費税を「社会保障財源」と位置付けています。年金、医療、介護、子育て支援など社会保障四経費へ重点的に充当することが制度上の基本理念となっています。しかし実際には、社会保障関係費全体は消費税収を大きく上回っており、所得税、法人税、公債なども組み合わせながら財源が構成されています。したがって、「消費税だけで社会保障を支えている」という理解は必ずしも正確ではありません。
| 主な税目 | 概要税収規模 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 消費税 | 約25兆円 | 社会保障を中心とする安定財源 |
| 所得税 | 約21兆円 | 所得再分配・一般財源 |
| 法人税 | 約18兆円 | 企業活動への課税・一般財源 |
このように見ると、現在の消費税は社会保障を支える重要な財源ではありますが、社会保障制度そのものを直接支えているというよりは、一般財政全体を構成する主要財源の一つとして機能していると言えます。
② 1%化による問題点・課題(現政権下における改正政策・動向から)
近年は物価高騰対策や景気対策として、「消費税を一時的に1%へ引き下げる」「食料品を恒久的にゼロ税率とする」など、さまざまな政策提案が行われています。国民生活への即効性という点では一定の効果が期待される一方、その財源や制度運営については多くの課題も指摘されています。
例えば、消費税を10%から1%へ引き下げた場合、単純計算では年間20兆円を超える税収が失われることになります。この規模は所得税収に匹敵するものであり、代替財源をどのように確保するかという課題を避けて通ることはできません。また、一律減税は高所得者にも同じ割合で恩恵が及ぶため、生活困窮者への重点支援という観点では効率性にも限界があります。
さらに、税率変更のたびに事業者はレジシステムや会計処理、価格表示などの変更を余儀なくされます。短期間で税率を頻繁に変更することは、中小企業を中心に大きな事務負担やコスト負担を発生させることになります。
このように、消費税率だけを上下させる政策は、短期的な景気対策として一定の効果を持つ一方、社会保障制度全体を支える長期的な制度設計としては限界があると言えるでしょう。
③ 望ましい在り方
今後の消費税制度を考える上で重要なのは、「税率を何%にするか」という議論だけではなく、「何に対して課税する税なのか」という制度の目的そのものを改めて整理することです。
現在の消費税は、社会保障財源としての役割を担う一方で、生活必需品から高額商品まで幅広く課税されており、所得水準に関わらず一律に負担を求める仕組みとなっています。そのため、低所得層ほど負担感が重くなる逆進性や、物価上昇時には生活への影響が大きくなるなど、制度上の課題も少なくありません。
また、社会保障制度との関係を見ても、生活保障を税制の中で調整するのか、それとも社会保障制度そのもので保障するのかという基本的な考え方については、今後さらに整理していく必要があります。消費税も、社会保障制度全体の再設計の中で、その役割を改めて位置付け直すことが求められるでしょう。
④ 「消費税」という名称は制度の実態を表しているか
現在広く用いられている「消費税」という名称は、一般には「消費に対して課税する税」という印象を与えます。しかし制度の実態を見てみると、その課税対象や制度目的は、それほど単純ではありません。
例えば、日本国内で商品やサービスを購入した外国人旅行者が、その商品を国外へ持ち帰る場合には免税制度が適用されます。一方、日本国内で同じ商品を購入した日本人には消費税が課されます。この違いは、現行制度が「国内最終消費」を基本として設計されていることを示していますが、その一方で、日本国内で生産・製造・流通・販売された商品やサービスは、日本の道路、港湾、物流、治安、行政、通信、金融、商業基盤など、多様な社会インフラの上に成り立っているという事実も見逃すことはできません。
このように考えると、「消費税」という名称が制度の目的や課税対象を十分に表現しているのかについては、改めて検討する余地があります。税率や税収だけではなく、税そのものの役割や位置付けについても、社会保障制度改革全体の中で再整理する必要があるでしょう。
この点については、次項「LSF生活保障給付導入に伴う所得税改革と消費税の扱い」の中で、LSF社会における消費税のあり方と併せて、さらに具体的に考察します。

1-2 LSF生活保障給付導入に伴う所得税改革と消費税の扱い
前項では、現行の所得税制度や消費税制度の基本構造と、その課題について整理しました。
その結果、現在の税制は、生活保障や所得再分配、就労支援など、本来は社会保障制度が担うべき役割まで税制度の中で処理しようとしてきたことが分かります。
そのため、多数の控除制度や所得制限、複雑な税率体系が積み重ねられ、国民にとっても行政にとっても分かりにくい制度となっています。
シンBI2050では、この考え方を大きく転換します。
生活保障はLSF(Living Security Foundation)が担い、所得税制度は本来の租税制度として再設計します。
すなわち、生活保障を税制で調整するのではなく、生活保障制度と税制度の役割を明確に分離し、それぞれが本来の機能を果たす制度体系へ移行することを目指します。
本項では、その基本となる所得税制度改革と、消費税制度の新たな考え方について提案します。
1)(無税)LSFの特性と所得税基準の大転換
LSF生活保障給付は、全国民を対象とする無条件・無拠出の生活保障制度です。
これは現行の所得保障制度とは根本的に異なる考え方に基づいており、所得税制度にも大きな影響を与えます。
現行制度では、「所得があること」を前提として税制が設計され、その中で基礎控除や扶養控除、配偶者控除などによって最低生活への配慮が行われています。
しかし、LSFでは生活保障そのものが制度として独立して存在するため、所得税制度に生活保障機能を持たせる必要はなくなります。
したがって、所得税制度は、生活保障制度を補完する制度から、本来の所得課税制度へと役割を大きく転換することになります。
① 全国民無条件無拠出給付がもたらす所得税の考え方
シンBI2050において最も重要な制度改革は、全国民が無条件・無拠出でLSF生活保障給付を受けられる点にあります。
生活保障は所得や就労状況、家族構成などに左右されず、すべての国民へ、個人ごとに、共通に保障されます。
このことは、所得税制度の考え方を根本から変えることになります。
現行制度では、「最低限の生活費には課税しない」という考え方から基礎控除などが設けられています。
しかしLSF導入後は、最低生活そのものが制度として保障されるため、その生活保障給付自体を課税対象とする合理性はありません。
したがって、LSF生活保障給付は非課税とし、所得税はLSFとは別に得られる所得を対象とする制度へ移行します。
これにより、生活保障制度と税制度との役割分担は極めて明確になり、制度全体の分かりやすさも大きく向上します。
② 世帯基準から個人基準への転換による所得税の考え方
現行所得税制度には、配偶者控除や扶養控除など、世帯を単位として設計された制度が数多く存在しています。
その結果、結婚や離婚、扶養関係、同居・別居などによって税負担が変化し、「年収の壁」や働き控えの一因にもなっています。
シンBI2050では、生活保障給付そのものが個人単位で給付されます。
そのため、所得税についても、世帯ではなく個人を基準とした制度へ全面的に移行します。
これは単なる課税単位の変更ではありません。
一人ひとりが独立した生活保障を受け、それとは別に自ら得た所得に対して公平に納税するという考え方への転換でもあります。
結婚の有無や家族構成によって税負担が左右されにくくなることで、税制度の公平性と透明性が高まるとともに、多様な生き方や働き方にも柔軟に対応できる制度となります。
③ LSF外所得への所得税政策のあり方
LSFによって基礎的生活が保障される社会では、所得税の対象となるのは、LSF以外の所得です。
具体的には給与所得、事業所得、不動産所得、金融所得など、個人が経済活動によって得た所得が課税対象となります。
しかし、その目的は現行制度とは異なります。
現行所得税制度では、所得再分配や生活保障など複数の政策目的が一つの制度に組み込まれていますが、シンBI2050では生活保障機能はLSFが担うため、所得税は社会全体を維持するための公平な負担制度として整理されます。
その結果、所得税制度は現在よりも単純で分かりやすい制度へ移行することが可能になります。
また、各種控除制度や世帯基準に依存しない課税体系を構築できるため、行政コストの削減、納税者の理解促進、さらには税制度全体の透明性向上にもつながります。
このように、LSF導入は単に新しい生活保障制度を創設するだけではありません。
所得税制度そのものの役割を見直し、「生活保障を支える税制」から「生活保障と役割分担した税制」へ転換することによって、社会保障制度と税制度の双方を、より持続可能で合理的な制度へ再設計することが可能になると考えます。
2)各種控除廃止が及ぼす所得税率・税額算出方法見直しの必要性
現行所得税制度は、多数の控除制度によって成り立っています。
基礎控除をはじめ、給与所得控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除など、それぞれが異なる政策目的を持ち、長年にわたって制度へ追加されてきました。
その結果、所得税制度は極めて複雑となり、納税者にも行政にも大きな負担を与えています。
しかし、シンBI2050では、生活保障はLSF生活保障給付が担います。
そのため、従来のように税制度の中で生活保障機能を実現する必要性は大きく変化します。
本項では、現行控除制度の役割を整理するとともに、LSF導入後における控除制度のあり方と、新たな所得税制度について考察します。
① 現状の所得税の各種控除制
現在の所得税制度には、多数の所得控除及び税額控除制度が設けられています。
代表的なものとして、基礎控除、給与所得控除、扶養控除、配偶者控除、社会保険料控除、医療費控除、生命保険料控除、寄附金控除などがあり、それぞれ異なる目的を持っています。
例えば、基礎控除は最低限度の生活費への課税を避けることを目的としており、扶養控除や配偶者控除は家族扶養への配慮として設けられています。
また、社会保険料控除は二重負担を避けるため、医療費控除は高額医療費への配慮として制度化されています。
このように、現在の所得税制度は単なる所得課税制度ではなく、生活保障、家族政策、社会保障政策、医療政策など、多くの社会政策を税制度の中で実現する仕組みとして発展してきました。
その結果、一人ひとりの所得や家族構成、支出状況に応じて税額を細かく調整する制度となっています。
| 主な控除制度 | 主な目的 |
|---|---|
| 基礎控除 | 最低生活費への配慮 |
| 給与所得控除 | 給与所得者の必要経費的配慮 |
| 配偶者控除・扶養控除 | 世帯・扶養への配慮 |
| 社会保険料控除 | 社会保険料負担への配慮 |
| 医療費控除 | 高額医療費負担への配慮 |
| 生命保険料控除 | 自助努力への政策誘導 |
| 寄附金控除 | 公益活動支援 |
この一覧からも分かるように、現在の控除制度は「税制」と「社会政策」が一体化した制度となっていることが大きな特徴です。
② 上記の問題点と課題
多くの控除制度は、それぞれ一定の政策的役割を果たしてきました。
しかし、その一方で制度全体は年々複雑化し、現在では専門家でなければ理解が難しい税制度となっています。
また、控除制度の多くは世帯単位を前提として設計されているため、結婚や扶養関係によって税負担が変化します。
さらに所得制限や控除額の逓減措置などが加わることにより、「年収の壁」や就労調整など、税制度そのものが働き方へ影響を及ぼす要因にもなっています。
行政側にも大きな負担があります。
控除制度ごとに申告、審査、確認、証明書提出などの事務が必要となり、制度運営コストは膨大です。
税務行政だけではなく、企業の年末調整事務や納税者自身の申告負担も決して小さくありません。
さらに本質的な問題として、現在の控除制度は、本来社会保障制度で保障すべき生活保障機能を、税制度の中で代替してきた側面があります。
そのため、社会保障制度と税制度との役割分担が曖昧になり、制度全体の複雑化を招いてきました。
③ シン設計による控除制のあり方と税収
シンBI2050では、この考え方を根本から見直します。
LSF生活保障給付によって、すべての国民へ、個人ごとに共通した生活保障が提供されるため、基礎控除をはじめとする生活保障を目的とした控除制度は、その役割を終えることになります。
また、所得税制度も世帯単位から個人単位へ移行するため、配偶者控除や扶養控除などについても制度として維持する必要性は大きく低下します。
もちろん、公益政策や政策誘導を目的とした一部制度については、今後も個別に検討する余地はあります。
しかし、所得税制度の基本構造としては、多数の控除制度を前提とする現在の仕組みから脱却し、できる限り単純で公平な制度へ再設計することが望ましいと考えます。
その結果、所得税制度は「所得から控除を差し引いて税額を求める制度」から、「LSF外所得に対して一定のルールで課税する制度」へ大きく転換します。
課税対象が明確になれば、税率そのものも簡素化しやすくなり、税額計算も大幅に分かりやすくなります。
行政コストや企業負担も軽減され、納税者自身も自らの税負担を容易に理解できるようになるでしょう。
さらに重要なのは、控除制度がなくなることによって税収が失われるという発想ではなく、生活保障機能が税制度からLSFへ移行するという点です。
税制度は本来の租税制度として、生活保障制度はLSFとして、それぞれ独立した役割を担うことにより、社会保障制度と税制度の双方がより合理的で持続可能な制度へと再構築されることが期待されます。
3)一定料率制と料率上限設定制へ|分かりやすい税制と行政簡素化
現行所得税制度では、累進課税制度を基本としながら、多数の控除制度や特例措置が組み合わされているため、実際の税負担を理解することは容易ではありません。
また、税率区分や控除制度の複雑さは、税務行政だけでなく企業の年末調整事務や納税者自身にも大きな負担を与えています。
シンBI2050では、LSF生活保障給付によって生活保障機能を税制度から切り離すことにより、所得税制度そのものを本来の所得課税制度として再構築します。
その結果、税率体系についても、より単純で公平、かつ行政効率に優れた制度へ見直すことが可能になります。
① 所得税率の簡素化(一定税率化)と適正税率試算
現行の所得税率は、所得額に応じて複数段階の累進税率が設定されており、最高税率は45%となっています。
しかし実際には、多数の控除制度や各種特例が存在するため、名目上の税率と実際の負担率とは必ずしも一致していません。
そのため、納税者自身が実際の税負担を理解することは容易ではなく、制度全体も極めて複雑になっています。
シンBI2050では、生活保障はLSFが担い、所得税はLSF外所得に対する課税制度として再整理されます。
そのため、多数の控除制度を前提とした累進課税から、より単純な一定税率制を基本とすることが現実的な選択肢となります。
一定税率制には、「所得が増えれば税額も比例して増える」という極めて分かりやすい特徴があります。
納税者は将来の税負担を容易に予測でき、企業にとっても源泉徴収や給与計算が大幅に簡素化されます。
また、行政側も税額計算や審査事務を大幅に効率化することが可能となります。
もっとも、適正税率については慎重な検討が必要です。
LSF給付額、所得税課税対象となるLSF外所得の総額、必要財源、社会保険料負担率などとの整合性を総合的に検討しながら、国民負担全体の中で適正な税率を設定することが重要になります。
② 上限設定と定期的見直し制
一定税率制を導入する場合であっても、その税率を固定的に運用することが最適とは限りません。
経済成長率、物価水準、人口構造、財政状況などは長期的に変化するため、それらに応じて適切な税率を見直す仕組みも必要になります。
シンBI2050では、税率そのものを政治的判断だけで頻繁に変更するのではなく、一定の上限を制度として設定し、その範囲内で定期的に見直す仕組みを提案します。
例えば、税及び社会保険料の合計負担率を一定範囲内に維持することを基本原則とし、その中で所得税率や社会保険料率を総合的に調整することも考えられます。
これにより、国民は将来の負担水準をある程度予測でき、企業も中長期的な経営計画を立てやすくなります。
また、税率見直しについても、毎年の政治課題として議論するのではなく、例えば5年ごとなど一定期間ごとに制度全体を検証し、経済・財政・人口動向を踏まえて必要な調整を行う仕組みとすることで、制度の安定性と透明性を高めることが期待されます。
③ 関連行政改革と効果予測
所得税制度の簡素化は、税率だけの問題ではありません。多数の控除制度が整理され、一定税率制へ移行することにより、税務行政そのものも大きく変化します。
現在は、控除確認、扶養確認、証明書提出、年末調整、確定申告など、多数の行政事務が必要となっています。
また、企業側も年末調整や各種証明書管理など、多くの事務負担を負っています。
これらは国民にとっても企業にとっても決して小さな負担ではありません。
シンBI2050では、LSF生活保障給付が生活保障を担い、所得税制度が単純化されることによって、税務行政は大幅に簡素化されます。
企業の給与事務も効率化され、納税者自身も税額を容易に理解できるようになります。
さらに、デジタル行政との連携が進めば、源泉徴収や確定申告制度そのものについても、抜本的な見直しが可能になるでしょう。
期待される主な効果を整理すると、次のようになります。
| 改革項目 | 主な効果 |
|---|---|
| 一定税率制 | 税制度の透明化・分かりやすさの向上 |
| 控除制度整理 | 税額計算の簡素化・公平性向上 |
| 個人単位課税 | 年収の壁・扶養調整問題の解消 |
| 行政デジタル化 | 税務行政コストの削減 |
| 年末調整・申告簡素化 | 企業・納税者双方の負担軽減 |
このように、一定税率制への移行は、単なる税率改革ではありません。
LSFを基盤とした新しい生活保障制度の上に、国民が理解しやすく、企業にとっても運用しやすく、行政にとっても効率的な税制度を構築することが、その本来の目的です。
そして、この制度改革は、次項で考察する賃金外所得への課税制度改革や、税及び社会保険料負担率の総合的な設計へとつながり、社会保障制度全体の持続可能性を支える重要な基盤となります。
4)賃金外所得捕捉制の導入
現行所得税制度では、給与所得については源泉徴収制度が整備されており、所得把握や納税が比較的容易に行われています。
一方で、事業所得、不動産所得、金融所得、配当所得、譲渡所得など、給与以外の所得については、それぞれ異なる制度によって課税されており、所得把握や税率体系も必ずしも統一されていません。
シンBI2050では、LSF生活保障給付によって生活保障を確保した上で、LSF外所得については、公平で透明性の高い所得課税制度を構築することを目指します。
そのためには、給与所得だけではなく、あらゆる所得を適切に把握し、公平な課税制度へ再編することが重要になります。
① 現状の賃金外所得の種類と課税および税収状況
現在、給与所得以外にも、多様な所得が存在しています。
主なものとしては、個人事業による事業所得、賃貸経営などによる不動産所得、株式配当や利子による金融所得、株式・不動産等の譲渡所得、一時所得、雑所得などがあります。
これらは所得税法上、それぞれ異なる所得区分として整理されており、総合課税、分離課税、申告分離課税など、課税方法もさまざまです。
また、金融所得については一定税率による分離課税、不動産所得については必要経費控除など、それぞれ独自の制度が設けられています。
| 主な所得区分 | 主な内容 | 現行課税方式 |
|---|---|---|
| 給与所得 | 給与・賞与 | 源泉徴収・総合課税 |
| 事業所得 | 個人事業・自営業 | 総合課税 |
| 不動産所得 | 家賃収入等 | 総合課税 |
| 配当所得 | 株式配当等 | 総合・分離課税 |
| 譲渡所得 | 株式・土地等売却益 | 分離課税等 |
| 利子所得 | 預金利息等 | 源泉分離課税 |
| 雑所得等 | 年金・副業等 | 総合課税等 |
このように、所得区分ごとに課税方法や税率体系が異なることから、制度全体としては複雑であり、一般の納税者にとっても理解しやすい制度とは言えません。
② 現状の制度の問題点と対策
現行制度の最大の課題は、所得の種類によって所得把握や課税方法が大きく異なっていることです。
給与所得については、企業による源泉徴収制度によって所得把握が比較的容易ですが、その他の所得については申告制度が中心となるため、所得把握の難しさや制度運用上の課題も指摘されています。
また、所得区分ごとに税率や控除制度が異なることから、同じ所得水準であっても所得の種類によって実質的な税負担が異なる場合もあります。
近年では、インターネット取引、副業収入、暗号資産取引、海外投資など、新たな所得形態も急速に増加しています。
今後、AIやデジタル経済が発展する中では、所得形態はさらに多様化することが予想され、従来の制度だけでは十分対応できなくなる可能性があります。
そのため、シンBI2050では、所得区分そのものを必要以上に細分化するのではなく、「LSF外所得」として包括的に把握し、公平な課税制度へ整理していく方向が望ましいと考えます。
③ 制度改定時の税率と税収予測
LSF導入後は、生活保障給付が非課税となる一方、給与所得を含めたLSF外所得全体が所得税の対象となります。
このため、給与所得だけを重視した現在の課税体系から、あらゆる所得を公平に把握する制度へ移行することになります。
もっとも、この改革は税負担を一律に増やすことを目的とするものではありません。
重要なのは、所得区分による不公平や制度の複雑さを解消し、透明性の高い税制度を構築することです。
その結果として、税率そのものは現在よりも単純化されても、課税対象となる所得全体を適切に把握することによって、必要な税収を安定的に確保することが可能になります。
また、デジタル行政やマイナンバー制度、金融データとの連携がさらに進展すれば、所得把握の精度も大きく向上します。
行政コストを抑えながら、公平性と透明性を高める税制度が実現できれば、納税者の理解と信頼も高まり、税制度全体の持続可能性も向上するでしょう。
このように、シンBI2050が目指す所得課税制度は、給与所得だけを中心とした制度ではなく、LSF外所得全体を公平・簡素・透明に把握する制度です。
そして、その制度は次項で考察する消費税制度改革や、税及び社会保険料の総合負担率管理とも密接に連携し、生活保障制度全体を支える重要な基盤となります。
5)消費税の取り扱い
現行の消費税制度は、すべての国民が同一の法定通貨を利用することを前提として設計されています。
しかし、シンBI2050では、LSF生活保障給付と法定通貨という二つの経済領域が併存することになります。
そのため、消費税についても、従来とは異なる新たな制度設計が必要になります。
基本的な考え方は明快です。
LSF生活保障給付は、国民の基礎的生活を保障するための制度であり、その利用に対して再び税を課すことは、生活保障給付の一部を税として回収することを意味します。
一方、LSF外の法定通貨による自由な経済活動については、従来どおり社会全体を支える税負担を求めることが適切です。
この考え方に基づき、LSF社会における新たな間接税制度について整理します。
① LSF生活保障給付利用時の消費税無税方針
LSF生活保障給付は、すべての国民へ、個人ごとに共通して支給される基礎的生活保障です。
その目的は、食料、住居、衣服、日用品、教育、医療など、人間らしい生活を維持するための最低限の生活基盤を保障することにあります。
この生活保障給付を利用して生活必需品を購入する際に消費税を課せば、生活保障として給付した資金の一部を税として回収することになります。
制度全体から見れば、給付と課税を同時に行う非効率な仕組みとなり、生活保障制度としての一貫性も失われます。
そのため、シンBI2050では、LSF生活保障給付による決済については原則として非課税とします。
これは消費税の優遇措置ではなく、生活保障制度そのものの整合性を維持するための制度設計です。
また、用途限定デジタル通貨であるLSFは決済経路が明確であるため、課税・非課税の判定もシステム上自動的に処理することが可能となり、事業者や行政に新たな事務負担を生じさせることもありません。
② LSF外法定通貨利用時の消費税
一方、LSF外の法定通貨は、生活保障を超えた自由な経済活動に利用されます。
給与所得、事業所得、資産所得などを原資とする法定通貨による購買については、現行制度と同様、一定の間接税を課すことが適当と考えます。
これは、自由な経済活動によって得られた所得を用いて商品やサービスを購入する場合には、日本社会の市場や社会インフラを利用することになるため、その維持費用を社会全体で公平に負担するという考え方に基づくものです。
したがって、LSF外法定通貨による決済については、現行消費税に代わる新たな間接税制度の対象と位置付けます。
その税率については、財政状況や経済動向を踏まえながら適切に設定・見直しを行うことになります。
③ LSF及びLSF外通貨同時使用時の消費税
実際の生活では、一回の買い物の中でLSF生活保障給付と法定通貨を併用する場面も想定されます。
例えば、生活必需品部分をLSFで支払い、それを超える部分を法定通貨で支払うようなケースです。
この場合には、LSFによる決済部分については非課税とし、法定通貨による決済部分についてのみ間接税を課す方式が最も合理的です。
現在のキャッシュレス決済システムやデジタル通貨技術を活用すれば、一つの決済を複数の支払手段へ自動的に振り分けることは十分可能です。
そのため、事業者が複雑な税計算を行う必要もなく、システム上で課税対象額を自動判定することができます。
この方式によって、生活保障部分への課税を避けながら、自由な経済活動には適切な税負担を求めるという制度設計を実現することができます。
④ 「消費税」から「購買税・利用税」へ|税の目的と制度思想の転換
前項では、「消費税」という名称が制度の実態を十分に表しているのかという問題提起を行いました。
シンBI2050では、LSF生活保障給付を前提とした新たな社会保障制度の下で、この間接税の制度思想そのものについても見直しを提案します。
現在の消費税は、「消費」に課税する税として理解されています。
しかし実際には、日本国内で生産・製造・流通・販売される商品やサービスは、日本の道路、港湾、物流、通信、金融、治安、行政、人材育成など、多様な社会資本や公共インフラによって支えられています。
そして、それらの商品やサービスは、日本国内という市場において購買・利用されることによって初めて経済活動として成立します。
このように考えると、課税対象は単なる「消費」という結果ではなく、日本国内の市場や社会基盤を利用して成立する「購買」あるいは「利用」という経済行為そのものと捉える方が、制度の実態により近いと言えます。
また、外国人旅行者に対する免税制度を見ても、現行制度は一般に理解されている「消費」そのものではなく、「国内最終消費」という制度概念によって運用されており、「消費税」という名称との間には少なからぬ隔たりがあります。
シンBI2050では、生活保障に必要な購買・利用はLSFによって保障されるため非課税とし、それ以外の法定通貨による自由な経済活動について、日本社会の市場や社会インフラの利用に対して公平な負担を求めます。
このような制度へ移行するのであれば、「消費税」という従来の名称よりも、「購買税」あるいは「利用税」といった名称の方が、制度の目的や課税対象をより正確に表現できるものと考えます。
税制度は単なる財源確保の仕組みではありません。
社会が何に価値を認め、何に公平な負担を求めるのかという制度思想そのものでもあります。
LSFを基盤とする新しい社会保障制度の下では、税制度についても、その名称を含めて再設計することが望まれます。
そして、「生活保障には課税しない」「自由な経済活動には公平な負担を求める」という考え方が、シンBI2050における新たな間接税制度の基本理念になると考えます。
6)税及び社会保険料合計負担率の基準設定
シンBI2050では、LSF生活保障給付は日銀専用デジタル通貨による特別会計制度によって実施されることを前提としており、その財源を所得税や社会保険料に求めるものではありません。
したがって、本項で検討する「税及び社会保険料合計負担率」は、LSF生活保障給付を除く税制及び社会保険制度について、国民にとって分かりやすく、公平で持続可能な負担水準をどのように設計するかを目的とします。
なお、ここでいう負担率は、一般に用いられている「国民負担率」とは異なる考え方です。
国民負担率は、国民所得を分母とし、租税負担率と社会保障負担率を合計した国家財政上のマクロ指標であり、社会保障負担には企業負担も含まれています。
本項ではこれとは区別し、給与所得者本人が実際に負担する税及び社会保険料を対象として検討します。
① 現状の税及び社会保険料本人負担率と問題点
現状の制度では、所得税は課税所得(各種控除後)を基準として算定される一方、社会保険料は標準報酬月額等を基準として算定されています。
このため、税と社会保険料では負担率の算定基準が異なっており、私たち国民にとって制度全体の負担構造を理解することは容易ではありません。
そこで、本稿では制度設計上の比較を分かりやすくするため、給与所得者の年間給与総額(控除前給与所得)を共通の基準として試算することとします。
令和6年分の民間給与実態統計では、給与総額は約241兆円、給与所得に係る源泉徴収所得税額は約11兆円となっており、給与総額に対する所得税負担率は約4.6%となります。
また、個人住民税は約13.7兆円程度であり、給与総額に対する概算負担率は約5〜6%となります。
さらに、厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険などの本人負担分を合計すると、おおむね15%前後となります。
以上を整理すると、現状における給与所得者本人の税及び社会保険料負担は、おおむね次のようになります。
| 区分 | 負担率(概算) | 年間負担額(概算) |
|---|---|---|
| 所得税 | 約4.6% | 約11兆円 |
| 住民税 | 約5.7% | 約14兆円 |
| 社会保険本人負担 | 約15% | 約36兆円 |
| 合計 | 約25% | 約61兆円 |
もっとも、この所得税約11兆円は給与所得に係る源泉徴収税額であり、一般会計歳入として計上される所得税総額約21兆円とは異なります。
残り約10兆円は、個人事業所得、不動産所得、配当所得、譲渡所得など給与外所得に対する課税によるものであり、これらについては後述する「賃金外所得捕捉制」の対象として整理・検討します。
② 望ましい税及び社会保険料合計負担率と算定基準
シンBI2050では、各種所得控除制度を大幅に整理・見直すことを前提としています。
そのため、従来のような課税所得ではなく、控除前の個人総所得を共通基準として税率及び社会保険料率を設計することが望ましいと考えます。
また、国民にとって分かりやすい制度とするためには、所得税、住民税及び社会保険料を個別に考えるのではなく、「税及び社会保険料本人負担率」という共通指標によって全体を設計することが重要です。
例えば、現状では約25%前後となっている本人負担率を一つの基準とし、その範囲内で所得税率、住民税率及び社会保険料率を適切に配分することにより、制度全体の透明性と予見可能性を高めることができます。
さらに、所得税と住民税については徴収事務を一本化し、国が一括徴収した後に地方自治体へ自動配分する仕組みも将来的な検討課題となります。
これにより行政コストの削減や徴税事務の効率化も期待できます。
③ 上記に拠る財源・財政予測と課題
現段階では、税率や社会保険料率そのものを決定することが目的ではありません。
重要なのは、まず国民が負担可能な合計負担率の基準を設定し、その範囲内で制度全体を再設計するという考え方です。
また、本稿で示した試算は、給与所得者本人負担を基準とした制度設計上の概算モデルであり、事業所得者や給与外所得、企業負担分などを含めた国家財政全体を示すものではありません。
今後は、給与外所得に対する捕捉制度、所得税・住民税制度の再編、社会保険制度全体の見直しなどと合わせて、より精緻な制度設計及び財政試算を進める必要があります。
本項で示した約25%という本人負担率は、あくまで現行制度を整理・比較するための出発点です。
シンBI2050では、この基準を踏まえつつ、LSF生活保障給付によって生活保障の基礎部分を独立させることにより、税及び社会保険制度本来の役割をより明確化し、簡素で透明性の高い制度へと転換することを目指します。
7)LSF生活保障給付によって消える「年収の壁」
近年、「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」など、いわゆる「年収の壁」が社会問題として大きく取り上げられています。
人手不足が深刻化する中でも、多くのパート・アルバイト労働者が就業時間を調整し、「これ以上働くと手取りが減る」「社会保険料負担が増える」と考えて働き控えを行う現象が続いています。
しかし、これらの「年収の壁」は、人々が働きたくないから生じているのではありません。
現行制度が、税制、社会保険制度、扶養制度を複雑に組み合わせた結果として生み出している制度上の歪みです。
シンBI2050では、LSF生活保障給付を基盤とし、所得税制度、社会保険制度、扶養制度を全面的に再設計することによって、この構造問題そのものを解消します。
① 103万円・106万円・130万円・150万円の壁の整理
現在、「年収の壁」と呼ばれているものは、一つの制度によって生じているものではありません。
それぞれ異なる制度が、それぞれ異なる基準によって設計されているため、多数の壁が存在しています。
例えば、103万円の壁は所得税の課税基準、106万円・130万円の壁は社会保険加入基準、150万円の壁は配偶者特別控除など、それぞれ制度の目的も制度設計も異なります。
そのため、一つの壁だけを見直しても、別の壁が残るという状況が繰り返されてきました。
| 年収の壁 | 主な制度 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 103万円 | 所得税 | 所得税負担・扶養控除等 |
| 106万円 | 社会保険 | 一定条件下で社会保険加入 |
| 130万円 | 社会保険 | 被扶養者資格の喪失 |
| 150万円 | 配偶者特別控除 | 控除額の段階的縮小 |
このように、「年収の壁」は税制だけの問題ではありません。
所得税、社会保険制度、扶養制度が相互に影響し合って生じている制度全体の構造問題なのです。
② 控除制度廃止・個人単位課税・LSF導入による構造変化
シンBI2050では、この構造そのものを抜本的に見直します。
まず、LSF生活保障給付によって、すべての国民へ、個人ごとに共通した生活保障給付が提供されます。
そのため、生活保障を税制の中で実現するための基礎控除や扶養控除などは、その役割を終えることになります。
さらに、所得税制度は世帯単位から個人単位へ移行します。
配偶者の有無や扶養関係によって税負担が左右される制度ではなく、一人ひとりが生活保障給付を受け、それとは別に自ら得た所得に対して公平に納税する制度へ転換します。
また、社会保険制度についても、LSF生活保障給付を基盤とした新たな厚生保険制度へ再編されることによって、現在のように年収基準によって加入・非加入が決まる制度から脱却することが可能になります。
つまり、「年収の壁」を一つずつ撤廃するのではなく、「壁」を生み出している制度そのものを再設計することが、シンBI2050の基本的な考え方です。
③ 「働き控え」が消滅する社会制度改革の効果
制度が変われば、人々の働き方も大きく変わります。
現行制度では、「これ以上働くと手取りが減るかもしれない」という不安から、多くの人が勤務時間を調整しています。
しかし、LSF導入後は、生活保障給付は常に確保され、それとは別に働いた分だけ所得が増え、その所得に応じて公平に負担する制度となります。
つまり、「働けば働くほど可処分所得が増える」という、ごく自然な経済原理が回復します。
年収の壁を気にして就業調整を行う必要がなくなれば、本人の希望や能力に応じた働き方を選択できるようになります。
その結果、パートタイム労働者や短時間就労者だけではなく、高齢者、子育て世代、障害のある人、副業・兼業を希望する人など、多様な働き方を選択する人々にとっても、就労の自由度が大きく向上します。
また、企業側にとっても、人手不足対策や人材確保という観点から大きな効果が期待されます。
年収基準を意識したシフト調整や雇用管理が不要となり、より柔軟で効率的な人材配置が可能になります。
このように、シンBI2050が目指す制度改革は、「年収の壁」の基準額を変更する改革ではありません。
生活保障制度、所得税制度、社会保険制度を一体的に再設計することによって、「年収の壁」そのものを消滅させる社会制度改革です。
それは、国民一人ひとりが安心して働き、安心して暮らし、働く意欲がそのまま生活の向上につながる社会への転換でもあります。
そして、この制度改革は、人材不足への対応、労働参加率の向上、地域経済の活性化など、日本社会全体にも大きな波及効果をもたらすことが期待されます。

2.厚生住宅保険制度の基本方針と制度設計
住まいは、人が安心して生活を営むために欠かすことのできない生活基盤です。しかし、日本の住宅政策は、これまで住宅建設、住宅金融、税制、都市計画、福祉政策などが個別に運営されてきたため、生活保障制度として体系的に位置付けられてきたとは言い難い状況があります。
また、人口減少、高齢化、都市部への人口集中、地方の空き家増加など、日本の住宅を取り巻く環境は大きく変化しています。住宅は単なる個人資産ではなく、有限な国土資源の利用という側面も持っています。そのため、今後の住宅政策は、従来の住宅供給政策だけではなく、生活保障制度全体の中で再設計する必要があります。
シンBI2050では、住まいを生活保障の重要な柱として位置付け、新たに「厚生住宅保険制度」の創設を提案します。本節では、その前提となる住宅政策の現状と課題について整理します。
2-1 住宅政策をめぐる現状と問題点
住宅問題は、単に住宅不足や住宅価格だけの問題ではありません。人口構造、都市政策、地方創生、土地利用、税制、金融政策など、多様な制度が相互に影響し合って形成されています。そのため、住宅政策だけを個別に見直しても、本質的な問題解決にはつながりません。
本項では、日本の住宅政策が抱える構造的課題を整理するとともに、LSFを基盤とした新しい住宅保障制度を考えるための前提条件を確認します。
1)一般論としての住宅政策と課題
住宅は、人間の生活に不可欠な基礎的生活基盤であると同時に、市場経済の中では資産であり、不動産商品でもあります。そのため、日本の住宅政策は、「生活保障」と「市場経済」という二つの異なる価値観の間で制度設計が行われてきました。
しかし、人口減少社会へ移行した現在では、住宅を単なる市場原理だけに委ねることにも限界が見え始めています。住宅政策についても、社会保障制度全体との関係の中で、その役割を改めて整理することが求められています。
① 地価・家賃問題及び有限の不動産資源問題
住宅問題を考える上で最も重要な前提は、土地は有限の資源であるという事実です。
住宅そのものは建て替えることができますが、その住宅が立地する土地は増やすことができません。特に都市部では、人口や経済活動が集中することによって土地需要が高まり、地価や家賃が上昇しやすい構造となっています。一方、地方では人口減少によって住宅需要が低下し、空き家や遊休地が増加しています。
つまり、日本全体では住宅ストックが十分存在していても、その立地や利用状況には大きな偏りがあります。その結果、都市部では住宅取得が困難になる一方、地方では住宅資源が十分活用されないという二極化が進んでいます。
さらに住宅は、市場価格だけで評価すべき財ではありません。住まいは生活の基盤であり、教育、医療、就労、子育て、地域社会とのつながりなど、多様な社会活動を支える基礎条件でもあります。その意味で住宅政策は、不動産政策だけではなく、社会保障政策としても位置付け直す必要があります。
② 都市対地方及び人口流入・流出問題
日本では長年にわたり、若年人口や雇用機会が大都市圏へ集中してきました。その結果、都市部では住宅需要が高まり、住宅価格や家賃が上昇する一方、地方では人口減少と空き家増加が進行しています。
現在では、住宅問題そのものよりも、人口移動による住宅需要の偏在が大きな課題となっています。住宅不足なのではなく、「必要とされる場所」と「住宅が存在する場所」とが一致していないのです。
また、人口減少社会では、今後さらに住宅ストックが余剰化していくことも予想されます。住宅政策は新築住宅の供給だけではなく、既存住宅の有効活用、地域再編、コンパクトシティ形成など、国土政策や地域政策とも一体的に考える必要があります。
シンBI2050では、LSF生活保障給付に加え、厚生住宅保険制度を組み合わせることによって、住宅取得だけではなく、居住そのものを生活保障の一部として位置付けることを目指します。これにより、都市部・地方を問わず、多様な居住形態に対応できる制度設計が可能になります。
③ 一般的な住宅政策と財政を巡る特徴・問題
現在の住宅政策は、公営住宅、住宅ローン減税、住宅金融支援、家賃補助、空き家対策、耐震補助、省エネ住宅支援など、多数の制度によって構成されています。それぞれ一定の役割を果たしていますが、制度ごとに所管省庁や財源、対象者が異なるため、政策全体としては複雑で分かりにくい構造となっています。
また、多くの制度は個別補助金や税制優遇を中心としているため、住宅政策全体の財政規模や政策効果を総合的に把握しにくいという課題もあります。人口減少が進む中で、これまでと同じ住宅政策を維持することが将来的にも持続可能であるとは言えません。
シンBI2050では、住宅を単なる建設政策や不動産政策としてではなく、「生活保障を支える社会インフラ」と位置付けます。そのため、住宅政策についても、税制、社会保障、土地政策、都市政策、地域政策などを一体として再構築し、新たな「厚生住宅保険制度」の中で体系的に運営することを基本方針とします。
その際に重要となるのは、「住宅を所有すること」を保障するのではなく、「安心して住み続けられること」を保障する制度へ転換することです。この考え方が、次項以降で考察する厚生住宅保険制度の制度設計における基本理念となります。
2)社会保障・社会福祉制度における住宅問題
住宅は、人間が生活を営む上で最も基本的な生活基盤の一つです。しかし、現行の社会保障制度では、住宅政策と社会保障制度は必ずしも一体的に設計されておらず、生活保護制度、公営住宅制度、高齢者福祉、障害者福祉など、それぞれが個別制度として運営されています。
その結果、住宅を失うことが生活困窮へ直結し、逆に住宅を確保できないことによって就労や自立も困難になるという悪循環が各所で生じています。人口減少と超少子高齢化が進行する日本では、住宅問題はもはや住宅政策だけの課題ではなく、社会保障制度全体の課題として再整理する必要があります。
① 生活保護制度再編上の課題
現在の生活保護制度では、住宅扶助が生活扶助と並ぶ重要な給付の一つとなっています。住居を確保できなければ生活そのものが成り立たないため、住宅扶助は生活保護制度において不可欠な制度となっています。
しかし、この仕組みは生活保護受給者だけを対象としているため、生活保護基準には達しないものの、家賃負担に苦しむ低所得世帯や若年単身世帯、高齢者世帯などとの間に制度上の格差を生みやすいという課題があります。また、地域ごとの住宅扶助基準や住宅事情の違いもあり、制度運用は決して単純ではありません。
さらに、住宅扶助は生活保護制度の一部として設計されているため、住宅保障そのものを独立した生活保障制度として考える仕組みにはなっていません。そのため、「住宅を失ったから生活保護を受ける」という受け身の制度となりやすく、住宅を基盤とした自立支援という視点は十分とは言えません。
シンBI2050では、LSF生活保障給付を基盤とした上で、住宅保障についても独立した制度として位置付けることにより、生活保護制度へ過度に住宅保障機能を集中させない制度設計を目指します。
② 社会福祉制度再編上の課題
住宅問題は、生活保護だけではありません。高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉など、多くの社会福祉制度においても、住宅は極めて重要な役割を果たしています。
例えば、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続するためには、住宅のバリアフリー化や見守り体制が必要になります。障害のある人にとっては、グループホームや地域生活支援住宅などが地域生活の基盤となります。また、児童福祉の分野でも、家庭環境や住宅事情が子どもの生活や成長へ大きく影響することは言うまでもありません。
しかし、現在は、それぞれの福祉制度ごとに住宅支援制度が設けられており、対象者や財源、運営主体も異なっています。そのため、制度全体としては重複や空白も少なくありません。
シンBI2050では、前章までに提案した社会福祉制度改革と連携しながら、住宅については「厚生住宅保険制度」が基盤的な役割を担い、その上に高齢者支援や障害者支援など、それぞれの専門的支援を組み合わせる制度体系を目指します。これにより、住宅保障と福祉サービスとの役割分担をより明確にすることが可能になります。
③ 超少子高齢化・単身世帯化社会の住宅問題
日本は今後、世界でも例を見ない超少子高齢化社会へ進むとともに、単身世帯が世帯構成の中心となる時代を迎えようとしています。この人口構造の変化は、住宅政策にも大きな転換を求めています。
これまでの住宅政策は、夫婦と子どもによる標準世帯を前提として発展してきました。しかし現在では、高齢単身世帯、未婚単身世帯、離別・死別による単身世帯など、多様な世帯構成が増加しています。今後は、住宅そのものよりも、「一人でも安心して住み続けられる環境」を整備することがより重要になります。
また、高齢者の住み替え、介護との連携、地域医療との連携、孤立防止、空き家活用など、住宅政策は地域社会全体の再構築とも密接に関係しています。住宅問題は建物だけの問題ではなく、人と地域とのつながりを維持する社会基盤でもあるのです。
シンBI2050では、このような人口構造の変化を前提として、住宅を生活保障制度の一部として位置付け直します。厚生住宅保険制度は、住宅取得支援だけを目的とする制度ではなく、生涯を通じて安心して住み続けられる居住環境を保障する制度として設計することを基本理念とします。
この考え方によって、生活保護制度や社会福祉制度が個別に住宅問題へ対応する現在の仕組みから、住宅保障を社会保障制度全体の共通基盤として位置付ける新しい制度体系への転換が可能になると考えます。

2-2 厚生住宅保険制度の基本方針と制度設計
厚生住宅保険制度は、単なる住宅補助制度や住宅金融制度ではありません。LSF生活保障給付を基盤とする新しい社会保障制度の中で、「安心して住み続けること」を社会全体で保障するための新たな制度です。
そのため、この制度は住宅政策だけを目的とするものではなく、社会保障制度改革、人口構造改革、国土利用政策、行政改革など、多くの政策分野と連携しながら設計される必要があります。本項では、その制度設計に当たっての基本理念と基本方針について整理します。
1)目的及び基本方針
厚生住宅保険制度が目指すものは、「住宅を所有する権利」を保障することではありません。国民一人ひとりが、生涯を通じて安心して住み続けられる居住環境を保障することです。
住宅は、教育、就労、子育て、医療、介護、地域生活など、あらゆる生活活動の基盤となる社会資本です。そのため、住宅保障は社会保障制度の一部として位置付けられるべきであり、住宅政策だけで完結する制度ではありません。
シンBI2050では、この考え方に基づき、厚生住宅保険制度を次の五つの視点から設計します。
① 社会保障・社会福祉政策としての課題(=社会制度問題の視点から)
現行制度では、住宅支援は生活保護制度、公営住宅制度、高齢者福祉、障害者福祉、子育て支援など、それぞれ異なる制度の中で個別に実施されています。その結果、制度間の重複や空白が生じ、住宅問題への対応も対象者ごとに細分化されています。
しかし、住宅は特定の福祉制度だけで必要となるものではありません。子どもから高齢者まで、すべての国民が生活を営むために必要不可欠な生活基盤です。したがって、住宅保障は個別福祉制度の一部ではなく、社会保障制度全体の共通基盤として再構築する必要があります。
厚生住宅保険制度は、このような考え方の下で、住宅保障を独立した社会保障制度として位置付け、生活保護制度や各種社会福祉制度が本来担うべき専門的支援との役割分担を明確化することを目的とします。
② 公的住宅保険制度としての役割と意義
厚生住宅保険制度は、住宅保障制度であると同時に、公的住宅保険制度としての機能も併せ持つ新しい社会保障制度です。
現在、住宅に関するリスクへの備えは、火災保険、地震保険などの民間保険制度を中心として運営されています。
しかし近年は、大規模地震、豪雨災害、台風などが頻発し、住宅被害は個人や民間保険だけでは十分に対応しきれない社会的リスクとなっています。
また、被災後の生活再建には、現行制度でも各種公的支援や融資制度などが設けられていますが、制度が複雑に分かれていることや、貸付制度への依存が少なくないことなど、多くの課題も指摘されています。
シンBI2050では、厚生住宅保険制度の中に、公的住宅保険としての機能を位置付けます。
これは、自動車保険における自賠責保険のように、住宅についても最低限の生活再建を社会全体で支える公的保険制度を創設しようとする考え方です。
平常時における住宅保障や一定範囲までの住宅被害については、厚生住宅保険制度による保険給付を基本とします。
一方で、住宅の資産価値そのものや高額な建物・家財補償などについては、引き続き民間の火災保険や地震保険などが補完する役割を担います。
すなわち、公的住宅保険が「生活再建」を支え、民間保険が「財産補償」を担うという役割分担を基本とします。
さらに、巨大地震や広域水害など、保険制度だけでは対応が困難な国家的規模の災害については、厚生住宅保険制度とは別に、国及び地方公共団体が特別財源等を活用し、追加的な公費支援を実施することを基本方針とします。
住宅は生活保障の基盤であり、国家的災害によって居住基盤を失った国民の生活再建は、保険制度だけで完結させるべきものではないからです。
また、現行制度では住宅再建のための融資制度も多く利用されていますが、生活基盤を失った被災者へ新たな債務を負わせることは、生活保障制度として必ずしも望ましい姿とは言えません。
厚生住宅保険制度では、返済を前提とする貸付制度への依存を可能な限り縮小し、保険給付及び公費支援を中心とした生活再建制度への転換を目指します。
なお、本制度の財源については、国民による保険料負担だけでなく、企業の法定福利費の考え方を参考に、国が一定割合を公的に拠出する仕組みについても検討に値します。
住宅は個人資産であると同時に、国民生活と国土利用を支える社会的基盤でもあることから、国が制度運営に恒常的な責任を負うことは十分合理性があります。
この考え方により、住宅保障を社会全体で支える制度としての性格をより明確にするとともに、大規模災害時に必要となる追加的な公費負担についても、平時から安定した制度基盤を形成することが期待されます。
このように、厚生住宅保険制度は、「安心して住み続けられる生活基盤」を保障する制度であると同時に、「住宅に関する社会的リスクを社会全体で支える公的保険制度」として設計されます。
そして、通常時は保険制度、国家的災害時は公費による特別支援、さらに民間保険との適切な役割分担を組み合わせることによって、持続可能で実効性の高い住宅保障制度を実現することを目指します。
③ 有限国土資源政策と持続可能な社会基盤形成の視点から(シン日本社会2050、シン安保2050、シン社会的共通資本2050、シン循環型社会2050との関係)
住宅政策を考える上で忘れてはならないのは、住宅が立地する土地は有限の国土資源であるという事実です。
人口減少が進む日本では、住宅そのものが不足する時代ではなく、住宅資源の配置や利用方法をどのように最適化するかが重要になります。
都市部では住宅価格や家賃の高騰が続く一方、地方では空き家や未利用住宅が増加するなど、住宅資源の偏在が大きな課題となっています。
シンBI2050では、この問題を住宅市場だけの課題とは捉えません。
このように整理すると、厚生住宅保険制度は単なる住宅政策ではなく、シン日本社会2050、シン安保2050、シン社会的共通資本2050及びシン循環型社会2050の理念を具体的な社会制度として実装する中核的制度の一つとして位置付けることができます。
この時、先述した、厚生住宅保険制度の意味・意義と結びつけて確認できると思われます。
つまり、住宅は個人資産であると同時に、社会全体で共有すべき有限の国土資源でもあります。
厚生住宅保険制度は、この社会的資産を次世代へ持続可能な形で継承するための制度としても重要な役割を担います。
④ 人口構造問題の視点から(少子化・高齢化)
住宅政策は、人口構造の変化とも密接に関係しています。
これまでの住宅制度は、夫婦と子どもによる標準世帯を前提として発展してきました。
しかし現在では、未婚化、晩婚化、高齢単身世帯の増加などにより、世帯構成そのものが大きく変化しています。
今後は、一人暮らし、高齢夫婦世帯、多世代近居など、多様な居住形態を前提とした制度設計が必要になります。
また、高齢化の進展、とりわけ高齢夫婦世帯及び高齢単身世帯の急増に伴い、住宅に求められる機能も大きく変化しています。
今後の住宅には、介護、医療、見守り、地域コミュニティとの連携など、単なる居住空間を超えた生活支援機能が求められます。
住宅保障は、単に住居を提供する制度ではなく、生涯にわたり安心して地域生活を継続するための生活基盤として設計されなければなりません。
厚生住宅保険制度は、このような人口構造の変化を前提とし、超少子高齢化社会に対応する新しい住宅保障制度を目指します。
⑤ 格差問題の視点から
住宅は、資産格差が最も表れやすい分野の一つでもあります。
土地価格や住宅価格の上昇は、既に住宅を所有している人には資産価値の上昇として働く一方、これから住宅を取得しようとする若年世代や低所得世帯には、大きな経済的負担となります。
また、家賃負担も都市部を中心に上昇傾向が続いており、居住費が家計を圧迫する要因となっています。
さらに、住宅格差は教育格差、就労格差、地域格差などとも密接に結び付いています。住宅を確保できないことが、子どもの教育環境や就業機会にも影響を及ぼし、世代を超えた格差の固定化につながる可能性もあります。
とりわけ、子どもを養育しながら就労と家計を両立しなければならないひとり親世帯、特にシングルマザー世帯にとっては、安定した住環境の確保が生活の安定、就労継続、子どもの教育環境の維持に直結します。
厚生住宅保険制度は、このような世帯に対しても、生活基盤を支える重要な社会保障制度として大きな役割を果たすことが期待されます。
厚生住宅保険制度は、こうした格差を単に所得再分配だけで解決するのではなく、「安心して住み続けられる権利」を社会全体で保障することによって、生活基盤そのものの格差是正を目指します。
⑥ 行政改革の視点から
現在の住宅政策は、国土交通行政、福祉行政、地方自治体、住宅金融、税制など、多数の制度や行政機関によって分散して運営されています。
その結果、制度全体が複雑化し、国民にとっても分かりにくいものとなっています。
シンBI2050では、LSF生活保障給付を基盤とする社会保障制度改革と連携しながら、住宅保障制度についても体系的な再編を行います。
住宅に関する各種補助制度、住宅扶助、公営住宅政策などについても、その役割を整理し、厚生住宅保険制度を中心とする分かりやすい制度体系へ移行することを目指します。
行政改革の目的は、単に制度を統合することではありません。
国民が必要な住宅支援を分かりやすく利用でき、行政も効率的に制度運営できる仕組みを構築することです。
厚生住宅保険制度は、社会保障制度改革、国土政策、人口政策、格差是正、行政改革という五つの視点を統合することによって、「住まいを生活保障の柱」と位置付ける新しい社会制度として設計されます。
そして、それはシンBI2050が目指す持続可能な日本社会の基盤を支える重要な制度の一つになると考えます。
2)厚生住宅保険制度が実現する新しい社会
厚生住宅保険制度は、住宅費を補助するためだけの制度ではありません。LSF生活保障給付が日々の基礎的生活を支え、厚生健康保険が医療・介護を支えるように、厚生住宅保険は「住まい」という生活基盤を支える制度として位置付けられます。
この制度によって実現しようとする社会は、住宅を個人の自己責任や市場任せだけに委ねる社会ではなく、国民一人ひとりが安心して住み続けられる居住基盤を持つ社会です。住宅を生活保障体系の中に組み込むことによって、生活不安、家賃負担、住み替え不安、老後の居住不安などを制度的に軽減することが可能になります。
① 住宅保障を生活保障へ組み込む意味
生活保障を考える上で、住まいは食料や医療と同じく不可欠な基礎条件です。いくら生活費が給付されても、安心して住める場所がなければ、生活は安定しません。住居が不安定であれば、就労、教育、子育て、介護、地域参加など、あらゆる生活活動に影響が及びます。
現行制度では、住宅支援は生活保護の住宅扶助、公営住宅、住宅ローン減税、各種補助金などに分散しています。しかし、それらは対象者や目的が限定されており、国民全体を対象とする生活保障制度としては体系化されていません。
厚生住宅保険制度は、この分散した住宅支援を、生活保障制度の一部として再構成するものです。住宅を「困窮した時に支援する対象」としてではなく、「生活を継続するためにあらかじめ支える基盤」として位置付けることに、この制度の大きな意味があります。
② 「住まい」を社会保障インフラと位置付ける理由
住まいは、個人の私有財産であると同時に、社会生活を支えるインフラでもあります。
そのため、住宅保障には生活保障制度としての側面に加え、住宅に関する社会的リスクを社会全体で支える公的住宅保険としての役割も求められるようになります。
住宅が安定していれば、医療や介護を地域で受け続けることができ、子どもは安定した環境で育ち、働く人は生活の拠点を持って就労を継続できます。
反対に、住宅が不安定であれば、生活保護、医療、介護、児童福祉、障害者福祉、就労支援など、他の社会保障制度にも負荷がかかります。
住宅問題を放置すれば、結果として福祉行政や医療・介護行政の負担が増大し、社会全体の制度コストも高まります。
したがって、住まいは単なる市場財ではなく、社会保障インフラとして位置付ける必要があります。
厚生住宅保険制度は、住宅を個人資産や不動産市場の問題だけに限定せず、国民生活を支える社会的共通基盤として扱う制度です。
③ LSF・厚生健康保険・厚生住宅保険による生活保障体系
シンBI2050における生活保障体系は、LSF生活保障給付だけで完結するものではありません。
LSFは日々の基礎的生活を支える制度であり、厚生健康保険は医療・介護を支える制度です。
そして厚生住宅保険は、住まいという生活の場を支える制度として位置付けられます。
この三つを組み合わせることで、生活費、健康、住まいという生活の基礎条件を一体的に保障する制度体系が形成されます。
従来の社会保障制度では、年金、医療、介護、生活保護、住宅支援が個別に運用されてきましたが、シンBI2050では、それぞれの制度が役割分担しながら一つの生活保障体系を構成します。
| 制度 | 主な役割 | 保障する生活基盤 |
|---|---|---|
| LSF生活保障給付 | 基礎的生活費の保障 | 日常生活 |
| 厚生健康保険 | 医療・介護の保障 | 健康・ケア |
| 厚生住宅保険 | 居住環境の保障 | 住まい |
この体系によって、社会保障制度は「困窮後に救済する制度」から、「生活の基盤をあらかじめ安定させる制度」へと転換します。
厚生住宅保険制度は、その中で住まいを支える柱となり、国民一人ひとりが安心して生活を営むための社会制度として機能することを目指します。
また、厚生住宅保険制度は、通常時における住宅保障だけでなく、公的住宅保険として住宅に関する社会的リスクへ対応する役割も担い、大規模災害時には国及び地方公共団体による特別な公的支援と連携することによって、より強固な生活保障体系を構築します。
3)厚生住宅保険制度改革の方針及び方向性
厚生住宅保険制度は、住宅費を補助する制度ではありません。住宅を生活保障の柱として位置付け、人生の各ライフステージに応じて安心して住み続けられる社会を実現するための制度です。
そのため、住宅政策だけではなく、人口政策、地域政策、福祉政策、防災政策、行政改革など、多様な政策分野と連携しながら制度設計を行う必要があります。
① 保険制度としての厚生住宅
厚生住宅保険制度は、平常時における住宅保障を担う生活保障制度であると同時に、公的住宅保険として住宅に関する社会的リスクへ対応する保険制度としても位置付けます。
また、大規模災害など保険制度だけでは対応が困難な場合には、国及び地方公共団体による追加的な公的支援と連携することを基本とします。
制度の目的は住宅取得を促進することではなく、生涯を通じて安心して居住を継続できる環境を保障することです。
そのため、持家・賃貸という区分ではなく、「安心して住み続けられること」を保障対象とする制度設計を基本とします。
② 人口流動化と移転・移住政策推進(セカンドライフ、サードライフ推奨)
人口減少社会では、一つの住宅に一生住み続けることだけを前提とした住宅政策には限界があります。
定年後のセカンドライフ、さらに高齢期のサードライフを見据えながら、地域間の移住や住み替えを柔軟に支援する制度が必要になります。
都市部から地方への移住、多拠点居住、地域コミュニティへの参加なども含め、「住み替える自由」を保障することによって、人口分散と地域活性化の双方に寄与する住宅政策を目指します。
③ 空き家・空き地対策推進
全国的に増加している空き家・空き地は、人口減少社会における重要な社会資源でもあります。
現在は管理不全や老朽化が問題となっていますが、厚生住宅保険制度では、それらを生活保障住宅、子育て住宅、高齢者住宅、地域コミュニティ住宅などとして積極的に再活用することを基本方針とします。
新築偏重から既存住宅ストック活用への転換を図ることによって、国土資源の有効利用と循環型社会の形成にもつながります。
④ 新しい街づくりと新しい集合住宅(プライバシー及び機能重視)
これからの住宅政策では、住宅単体ではなく、街全体を生活保障インフラとして設計することが重要になります。
医療、介護、買い物、行政サービス、教育、公共交通などが適切に配置されたコンパクトな生活圏を形成し、その中で世代間交流や地域コミュニティも育まれる街づくりを目指します。
集合住宅についても、単なる高密度住宅ではなく、個人のプライバシーを十分確保しながら、必要なときには共助や交流も可能となる新しい居住空間を構築することが求められます。
⑤ 高齢者住宅政策
超高齢社会では、「住み替え」よりも「住み続ける」ことが重要になります。
バリアフリー化、見守り、医療・介護との連携、地域コミュニティとのつながりなどを組み合わせ、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できる住宅環境を整備する必要があります。
また、介護施設と一般住宅を明確に分離するのではなく、多様な居住形態を選択できる住宅政策を推進します。
⑥ 災害・被災時住宅政策
日本は世界有数の自然災害国でもあります。
そのため、住宅政策には平時だけではなく、災害時及び災害復興時における住宅保障も組み込む必要があります。
厚生住宅保険制度では、被災者住宅の迅速な確保、仮設住宅から恒久住宅への円滑な移行、地域コミュニティの維持などを制度の中へ位置付け、災害時においても生活基盤を失わない住宅保障を目指します。
⑦ デジタル住宅行政と住宅保障データ基盤
厚生住宅保険制度を効率的に運営するためには、住宅情報、居住情報、人口情報、福祉情報などを適切に連携させるデジタル行政基盤が不可欠になります。
シンBI2050では、JLSC(日本生活保障センター構想)との連携を図り、LSF生活保障給付、厚生健康保険、厚生住宅保険などの各制度を統合的に管理することによって、行政の効率化と国民サービスの向上を実現します。
これにより、住宅支援の申請や住み替え支援なども迅速かつ簡素に行える制度を目指します。
⑧ 総合的・包括的福祉政策としての住宅政策(上記各項まとめ)
厚生住宅保険制度は、住宅政策だけを改革する制度ではありません。
社会保障制度、人口政策、国土政策、防災政策、地域政策、行政改革を統合し、「住まい」を生活保障の柱として位置付ける新しい社会制度です。
LSF生活保障給付が生活費を保障し、厚生健康保険が健康を保障し、厚生住宅保険が住まいを保障する。この三つの制度が相互に連携することによって、国民は人生の各段階において安心して生活を継続できるようになります。
シンBI2050が目指す社会は、住宅を市場だけへ委ねる社会ではありません。住まいを社会全体で支えながら、一人ひとりが安心して人生を設計できる持続可能な生活保障社会です。そして厚生住宅保険制度は、その生活保障体系を支える重要な柱の一つとして位置付けられます。
4)厚生住宅保険制度の財源と財政政策
厚生住宅保険制度は、新たな住宅保障制度であると同時に、シンBI2050が目指す社会保障制度全体の再編の一翼を担う制度です。
そのため、従来の住宅補助制度や個別補助金制度の延長線上ではなく、社会保険制度の一つとして安定的かつ持続可能な財源・財政基盤を構築することが重要となります。
また、本制度はLSF生活保障給付とは役割を異にします。
LSFは国民全員の生活基盤を保障する制度である一方、厚生住宅保険制度は住宅保障という社会保障機能を担う制度であり、財源構造も明確に区分して考える必要があります。
① 現状の住宅政策における財政負担(現状の公費投入実態)
現在の住宅政策は、国土交通省を中心として住宅整備、住宅取得支援、公営住宅、住宅セーフティネット制度、空き家対策、耐震化補助、災害復旧支援など、多くの制度が個別に運営されています。
これらの制度は、それぞれ一定の役割を果たしていますが、所管官庁や制度目的が分散していることから、制度全体としての一体性や継続性に課題があります。
また、住宅困窮者支援、高齢者住宅対策、災害復興支援などについても、多くは一般財源や補正予算に依存しており、景気や財政状況によって政策の継続性が左右される側面があります。
さらに、住宅問題は生活保護制度、高齢者福祉、介護、医療、地域政策とも密接に関係しており、本来は社会保障制度全体の中で体系的に位置付けることが望ましい課題です。
② LSF導入に伴う旧年金保険負担軽減分からの充当
シンBI2050では、LSF生活保障給付の導入によって、現行公的年金制度の基礎部分はLSFへと移行します。
その結果、従来、公的年金制度のために拠出してきた社会保険料の一部については、新たな社会保障制度へ再配分することが可能になります。
厚生住宅保険制度は、その再編によって生じる社会保険制度内部の財源余力を有効活用する制度として位置付けることができます。
もちろん、制度移行期には十分な経過措置が必要となりますが、将来的には社会保険制度全体を見直す中で、住宅保障を新たな保険機能として組み込むことが十分可能であると考えられます。
③ 厚生住宅保険制度における必要財源試算と歳入見込み
現段階では制度内容が完全に確定しているわけではないため、必要財源についても概算試算として整理することが適切です。
住宅支援、災害時住宅支援、高齢者住宅支援、住宅改修支援、公営住宅政策との連携など、本制度が担う機能を総合的に勘案すると、年間数兆円規模の制度として設計することが現実的と考えられます。
また、本制度は単なる住宅取得支援制度ではなく、生涯にわたる住宅保障制度として運営されるため、平常時の住宅支援だけでなく、大規模災害時の住宅再建や地域復興などにも柔軟に対応できる制度設計が求められます。
さらに、巨大災害など通常の保険制度だけでは対応が困難な場合には、別途、国による特別財源からの追加支援を実施することを基本とし、本制度単独ですべてを賄うことは想定しません。
④ 税及び社会保険料合計負担率基準における当制度保険料率および歳入額試算
本章で示したように、現行制度における給与所得者本人の税及び社会保険料負担率は、おおむね給与総額の約25%前後となっています。
シンBI2050では、この本人負担率全体を一つの基準として制度設計を行い、その範囲内で所得税、住民税及び社会保険料を適切に再配分することを基本的な考え方とします。
その前提に立てば、厚生住宅保険制度については、社会保険制度全体の再編によって生み出される財源を活用することを基本とし、新たに国民負担を大幅に増加させる制度とは考えません。
例えば、制度完成時において社会保険料率の一部を住宅保障へ再配分し、給与総額に対して2〜3%程度の保険料率を充当できた場合、個人負担分だけでも年間約5〜7兆円規模の安定財源を確保できる可能性があります。
さらに、本制度では、企業の法定福利費の考え方も参考にしながら、個人負担保険料と同率を国が負担する仕組みを導入することも検討課題となります。この場合、国費から同額が拠出されることとなり、制度全体としては年間約10〜14兆円規模の財源確保が可能となります。
この規模は、住宅支援、住み替え支援、高齢者住宅支援、空き家・空き地対策、防災・災害住宅対策などを含めた総合住宅保障制度として想定する年間10〜15兆円程度の制度規模とも概ね整合する水準であり、本制度が現実的な制度設計となり得ることを示しています。
なお、大規模地震など国家的災害のように通常の保険制度だけでは対応が困難な場合については、従来どおり特別財源による追加的な公的支援を実施することを基本とし、本制度は平常時の住宅保障を安定的に支える社会保険制度として位置付けます。
もっとも、これらの数値は現段階における制度設計上の試算であり、今後の社会保険制度全体の再編内容や制度移行計画と合わせて、さらに詳細な財政試算及び制度設計を行う必要があります。
本制度の具体的な保険料率や運営方法については、今後予定している制度設計編「シンBI実現への道」において、法制度や移行工程も含めて詳しく検討していく予定です。
本節では、住宅問題を単なる住宅政策や不動産政策としてではなく、国民生活を支える社会保障制度の一つとして位置付け直す必要性について考察しました。超少子高齢化、単身世帯の増加、人口減少社会の進展、さらには災害リスクの高まりなどを踏まえると、「住まい」は生活保障を構成する重要な社会基盤であり、その安定的な確保は今後の社会保障制度における重要課題の一つとなります。
そこで本稿では、LSF生活保障給付、厚生健康保険制度と並ぶ新たな社会保障制度として「厚生住宅保険制度」を提案しました。本制度は、住宅支援に加え、高齢者住宅、住み替え支援、空き家・空き地対策、防災・災害住宅対策などを総合的に担う住宅保障制度として位置付けるものであり、住宅政策と社会保障政策を一体的に再構築する新たな制度設計を目指しています。
制度の具体的な内容や財源・保険料率等については、今後さらに詳細な制度設計及び検討が必要となりますが、本節で示した基本理念及び方向性は、シンBI2050が目指す「生活保障を中心とした社会保障制度改革」の重要な構成要素の一つとして位置付けられるものと考えています。

まとめ
本章では、LSF生活保障給付を前提とした所得税制度改革及び厚生住宅保険制度について考察しました。
所得税制度については、各種所得控除制度を前提とした現行税制を見直し、個人単位課税への転換、税率構造の簡素化、賃金外所得の適正な捕捉、さらには消費税制度の見直しなどを通じて、分かりやすく公平で持続可能な税制の方向性を示しました。
また、税及び社会保険料を一体的に捉え、個人総所得を基準とした新たな負担率の考え方についても、その基本的な方向性を整理しました。
さらに、LSF生活保障給付の導入によって、現在の各種控除制度や「年収の壁」の多くは制度上の意味を失い、働き方や所得形成を歪めてきた仕組みそのものを見直すことが可能となります。
これは単なる減税政策ではなく、生活保障制度全体を再設計することによって実現される社会制度改革の一つの成果であると考えます。
また、本章では、新たな社会保障制度の一つとして厚生住宅保険制度を提案しました。
住宅は単なる個人資産ではなく、国民生活を支える重要な社会基盤であり、高齢化、人口減少、空き家問題、災害対策など、わが国が抱える多くの課題とも密接に関係しています。
そのため、住宅政策を社会保障制度の中へ位置付け直し、生活保障の一環として総合的に再構築する必要性を示しました。
もっとも、本章で示した税制改革や住宅保障制度は、シンBI2050が目指す社会保障制度改革全体の一部に過ぎません。
今後は、医療、住宅、就労などを含めた社会保険制度全体の再編、さらには制度相互の役割分担や一体的運用についても、引き続き整理・検討していく必要があります。
次章では、これまでの議論を踏まえつつ、社会制度問題の壁に関する現段階での論点を整理するとともに、今後取り組む社会・労働観問題や社会保障制度全体の体系化へ向けた中間総括として、本シリーズ全体の方向性について改めて考察していきます。
