序章 「社会制度問題」の壁とは何か|BI実現の壁超克シリーズⅢ
「社会制度問題」の壁を乗り超えるための6章・序章
「社会制度問題」の壁とは何か|BI実現の壁超克シリーズⅢ-1
はじめに
時に話題になっては消え、しばらくしてまた注目され、その後また忘れられる。
こんな経緯を繰り返しつつ、一向に、現実的・具体的な政策課題迄には至らない「ベーシックインカム」。
そこには、BIの実現を妨げる、岩盤としての「壁」が存在している。
当サイトでは、その壁の要因と本質を考察し、シンBI2050の実現のために超克すべき、以下の<8つの壁>を提示しました。
1)財源・財政問題
2)マクロ経済問題
3)社会制度問題
4)社会・労働観問題
5)格差問題
6)人口構造問題
7)AI・雇用問題(AX/AI問題に変更)
8)政治問題
第1の壁としたのは、「財源・財政問題の壁」。
以下の記事で、その壁を超克するための道筋・方針を明らかにしました。
⇒ ベーシックインカムに財源は必要か|財源問題をBI視点でシン定義する – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ ベーシックインカムは財政問題なのか|財政とは何かをBI視点でシン定義する – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ ベーシックインカムは特別会計で成立するのか|日本の財政構造と資金の流れをBIの視点からシン定義 – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ ベーシックインカムは通貨発行から成立するのか|通貨と財政構造をBI視点でシン定義する – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ ベーシックインカムはデジタル通貨で成立するのか|デジタル通貨と通貨設計をBI視点でシン定義する – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ 財源・財政問題の壁のシン定義|ベーシックインカムは「財源問題」ではない(シリーズ総括) – シン・ベーシックインカム2050論
続く、第2の壁は、「マクロ経済問題の壁」。
以下が、その壁を超えるための視点と方法を提示した記事です。
⇒ マクロ経済とは何か|シンBI2050が越えるべき過剰流動性問題の出発点 – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ マクロ経済学シン視点と過剰流動性問題戦略によるシンBI2050|過剰流動性とは何か – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ マクロ経済学シン視点と過剰流動性問題戦略によるシンBI2050|インフレはなぜ起きるのか – シン・ベーシックインカム2050論
⇒ マクロ経済学シン視点と過剰流動性問題戦略によるシンBI2050|シンBI2050のマクロ設計 – シン・ベーシックインカム2050論
そして、今回から第3の壁、「社会制度問題の壁」に立ち向かうことになります。
本稿は、シリーズの序章と位置付けるもので、その方針・方向性を整理し、第1章以降の展開を提示するものです。
なお、前提として、シンBI2050とは、どういうモノか、基本情報を整理した以下の記事を確認頂ければと思います。
それでは先ず、序章第1節として、当シリーズで「社会制度」と位置付けている枠組みを、<社会保障制度>と<社会福祉制度>の2つの軸で構成するものとして体系的に理解しておきたいと思います。
1.わが国の社会制度体系の基本|社会保障・社会福祉制度を軸に
日本の社会保障・社会福祉制度は、国民が直面するさまざまな「リスク(病気、怪我、老後、介護、貧困など)」に対して、国や地方自治体が公的な支援を行う仕組みです。
これらは1950年の社会保障制度審議会勧告に基づき、大きく4つの柱に分類され、それぞれの法律に基づいて運営されています。
| 区分 | 内容 | 主な制度 |
| 社会保険 | 事前に保険料を出し合い、事由が発生した際に給付を受ける(最大の柱) | 年金、医療、介護、雇用、労災 |
| 公的扶助 | 生活に困窮する者に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障する | 生活保護 |
| 社会福祉 | 高齢者、障害者、児童などの支援を必要とする人々へのサービス提供 | 児童福祉、障害者福祉、高齢者福祉 |
| 公衆衛生 | 国民が健康に暮らせるよう、病気の予防や衛生環境を整備する | 感染症対策、検診、水道・清掃 |
なお、社会保障に関しては、
あらかじめ保険料を出し合ってリスクに備える「保険の論理(社会保険)」と、
税金を原資として困窮者や特別なケアを要する人を国家が支える「扶助・福祉の論理(生活保護・社会福祉等)」
の2つの仕組みが重なり合うことで、国民の暮らしの安心安全基盤=セーフティネットを構成しています。
次項以降で、その細部について確認します。
1-1 日本の社会制度体系の全体構造|社会保障・社会福祉の全体マップ(一覧表)
まずは全体像です。
「誰を対象に」「何の法律に基づいて」「どのような財源で」運営されているか、その違いを一覧で俯瞰できます。
| 分類 | 制度名 | 根拠となる主な法律 | 主な対象者 | 財源の構成 | 主な給付・サービス内容 |
|---|---|---|---|---|---|
| 社会保険 | 医療保険 | 健康保険法 国民健康保険法 | 全国民(皆保険) | 保険料+公費 | 療養の給付(窓口3割負担等) |
| 年金保険 | 国民年金法 厚生年金保険法 | 全国民(皆年金) | 保険料+公費 | 老齢・障害・遺族年金(現金) | |
| 介護保険 | 介護保険法 | 40歳以上の国民 | 保険料+公費 | 訪問介護、施設入所等のサービス | |
| 雇用保険 | 雇用保険法 | 働く意思のある労働者 | 保険料+公費 | 失業給付、育児休業給付 | |
| 労災保険 | 労災保険法 | すべての労働者 | 保険料のみ (事業主負担) | 療養補償、休業補償 | |
| 公的扶助 | 生活保護 | 生活保護法 | 困窮するすべての国民 | 公費100% | 生活・住宅・医療等の8つの扶助 |
| 社会福祉 | 児童福祉 | 児童福祉法 児童手当法 | 児童、妊産婦、保護者 | 公費中心 | 保育、児童手当、児童相談所 |
| 障害者福祉 | 障害者総合支援法 | 身体・知的・精神障害者 | 公費中心 | 自立支援給付、補装具の支給 | |
| 高齢者福祉 | 老人福祉法 | 65歳以上の高齢者 | 公費中心 | 養護老人ホームへの入所措置等 | |
| 母子・父子福祉 | 母子父子寡婦福祉法 | ひとり親家庭など | 公費中心 | 貸付金、就業支援、生活指導 | |
| 公衆衛生 | 公衆衛生・母子保健 | 地域保健法 感染症法など | 全地域住民 | 公費100% | 予防接種、検診、保健所の運営 |
1-2 各制度の具体的な仕組み
上記の4つの分類について、それぞれの具体的な仕組みと機能、そしてその土台となる法律に沿って解説します。
1) 社会保険(相互扶助の仕組み)
日本の社会保障の中で最も規模が大きく、国民が事前に保険料を支払い、事由が発生した際に給付を受けることで成り立っています。
・① 医療保険: 病気や怪我の際、窓口負担(原則3割)で医療が受けられる仕組み。
会社員らが加入する健康保険(健康保険法)、自営業者らが加入する国民健康保険(国民健康保険法)、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度(高齢者医療確保法)などによって構成されています。
・② 年金保険: 老後、障害、遺族に対して現金を給付する2階建て構造の仕組み。
すべての国民の共通の基礎となる国民年金(国民年金法)と、会社員や公務員が上乗せで加入する厚生年金(厚生年金保険法)があります。
・③ 介護保険: 40歳以上が加入し、介護が必要な際にかかった費用の9割(原則)を給付する仕組み。
市区町村が保険者となって運営する介護保険(介護保険法)に基づきます。
・④ 労働保険: 失業時の給付や、仕事中の怪我の補償を行う仕組み。失業時や育児休業時の生活を支える雇用保険(雇用保険法)と、業務上や通勤時の怪我・病気を補償する労災保険(労働者災害補償保険法)があります。
労災保険は全額事業主負担であり、国費や労働者の自己負担はありません。
2) 社会福祉(生活・権利の保障)
特定の支援が必要な対象者に対し、現物給付(サービス)や現金給付を行う仕組みで、「福祉六法」をはじめとする各福祉法が根拠となっています。
① 児童福祉: 児童の権利や健やかな育成、保育所について定める児童福祉法や、現金を給付する児童手当法などに基づき、児童手当の支給、保育所の運営、児童相談所による支援などを行います。
② 障害者福祉: 福祉サービスを一元的に提供する障害者総合支援法や身体障害者福祉法などに基づき、自立支援給付の提供や身体障害者手帳による各種サービス・補装具の支給などを行います。
③ 高齢者福祉: 介護保険の枠外における国や自治体の支援を定めた老人福祉法に基づき、養護老人ホームへの入所措置など、特別なケアが必要な高齢者の安心を支えます。
④ ひとり親福祉: 手当を支給する児童扶養手当法や、生活・就業を支援する母子及び父子並びに寡婦福祉法に基づき、児童扶養手当の支給、無利子等の貸付金、就業支援などを行います。
3) 公的扶助(最後のセーフティネット)
① 生活保護: 憲法第25条の理念に基づき、健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護法(生活保護制度)。
収入が国の定める最低生活費を下回る世帯に対し、その不足分を補うため、生活扶助、教育扶助、住宅扶助など8種類の扶助を行います。
4) 公衆衛生
① 公衆衛生・母子保健: 個人の支援というよりは、社会全体の環境や安全を整備する仕組み。
感染症の蔓延を防ぐ予防接種法や感染症法、地域の健康づくりの拠点となる保健所の運営を定める地域保健法などに基づき、予防接種、各種検診、衛生環境の維持などを行います。
1-3 社会保障給付費の最新データと推移
国立社会保障・人口問題研究所が公表した「令和5(2023)年度 社会保障費用統計」の確定データをベースに、最新の社会保障給付費の推移と、その財源内訳について整理しました。
1)わが国の社会保障給付費の実態
令和5(2023)年度の社会保障給付費の総額は 135兆4,928億円 でした。
日本の社会保障給付費は、1950年の統計開始以来、高齢化に伴ってほぼ一貫して増加を続けてきましたが、実は2022年度に続いて2年連続の「減少」となっています。
・前年度比: 2兆6,809億円の減少(1.9%減)
・国民一人当たり: 108万9,600円(前年度より1万6,300円減少)
・主な減少の理由: 新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、それまで巨額にのぼっていた感染症対策関係費(医療・福祉分野の各種給付金や補助金)が大幅に縮小したためです。
2)部門別の内訳
コロナ対策費が減った「医療」が大きく減少した一方、高齢化の影響をダイレクトに受ける「年金」は着実に増加しています。
・年金: 56兆3,936億円(全体の41.6%) ⇒ 前年より増加
・医療: 45兆5,799億円(全体の33.6%) ⇒ 前年より大幅減少
・福祉その他: 33兆5,192億円(全体の24.7%) ⇒ 前年より微減
3)社会保障財源の内訳(税金と保険料の比率)
社会保障に充てられる財源(総額198兆77億円 ※年金積立金の運用利益なども含む全体の受入額)を、「保険料」と「公費(税金)」の主要2大財源の比率でみると以下のようになります。
・社会保険料: 80兆1,101億円(約 58%)
・公費負担(税金): 57兆9,681億円(約 42%)
財源総額に占める割合(積立金運用などの資産収入等を含むベース)では、社会保険料が40.5%、公費負担が29.3%となりますが、純粋に「保険料と税金」の2者で折半・按分した場合は、概ね「保険料6割:税金4割」のバランスで推移しています。
なお、この公費負担のうち、消費税の税収から充てられている金額は約28.3兆円〜29.5兆円規模(国・地方を合わせた実質的な社会保障財源化分の総額)にのぼるとされています。
4)財源における増減のトピックス
・保険料収入の増加: 被保険者数(働く人)の増加や標準報酬額の上昇、雇用保険料率の引き上げなどにより、社会保険料全体の収入は前年より約3兆円増加しました。
・公費(国庫負担)の減少: コロナ関連の全額国庫負担(国の税金)の事業が縮小したため、国が投入する公費の額は前年から6兆7,000億円超と大きく減少しています。
・資産収入の跳ね上がり: 令和5年度は年金積立金(GPIFなど)の運用実績が非常に好調だったため、資産収入が47兆円超も増加し、財源全体の総額を大きく押し上げました。
このように、足元では「コロナ特例の終了」によって一時的な総額減少が見られるものの、基調としては年金や介護といった高齢化要因による給付の拡大が続いています。
これらを支える現役世代の保険料負担と、国・地方の税負担(公費)のバランスをどう持続可能なものにしていくかが、引き続き最大の議論となっています。
なお、現時点でのデータとしては、2023年度版が最も新しいものです。
しかし、数カ月中には、2024年度版が公表されると思われます。
その新しいデータを用いての記事も予定しています。
こうした財源を巡るデータは、その全体の構成や課題にとどまらず、1章以降の個別各制度の財源・歳入歳出データと共に、BI実現の壁としての財源・財政問題と社会問題、双方の関係で、取り扱いや財源の増減・影響度などと密接に結びつくものです。
加えてそれは、当然シンBI2050の給付額と密接に関係しており、都度、比較や照合を行っていくことになります。
また、この体系中、社会保険に位置付けられている「雇用保険」「労災保険」に関しては、雇用と自営の分断を乗り越える新たな保険制度の構想を含め、次の4つ目の壁「労働・社会観問題の壁」において取り上げることにしています。

2.BI実現の壁「社会制度問題」の壁とは何か
冒頭述べた、BI実現を妨げる8つの壁の中の「社会制度問題」の壁。
この節では、社会制度問題の実態とその背景について考察します。
2-1 BI実現の8つの壁における社会制度問題の位置付け
1)BI実現を阻む8つの壁の全体像と社会制度問題の重要性・困難性
冒頭述べたように、わが国において、BIの導入実現が、広く社会的課題として認知され、検討される段階までに至ったことはありません。
話題になっても、賛成論者が出てきても、社会的に、政治的にその本質や具体論についての議論が、進められ、深化されることもありませんでした。
まあ、その程度の提案や主張に過ぎなかったと言えるのですが。
ここで、より深く考えてみると、第1の壁とした「財源問題」と並んで、BI導入には、絶対不可欠な、「社会保障制度・社会福祉制度」をどうするのかという課題に、理解・納得、同意・合意を得ることができる主張・提案がなかったことが、大きな要因と考えています。
なぜならば、一般的な概念では、ベーシックインカムは、社会保障制度・社会福祉制度の一形態と考えられるはずだからです。
2)なぜ社会制度問題が重要な壁となるのか
そのことから、BIの設計提案では、やはり、その導入に伴って、社会保障制度・社会福祉制度など関連する社会制度、あるいは経済システムなどをどのように変革するのかが不可欠。
にもかかわらず、それに対応した適切な提示・提案ができなかった。
というか、それが非常に困難な課題であったということを意味するわけです。
ただ、客観的・普遍的に困難、ということではなく、それぞれの立場・事情での<壁>があったと、好意的にみるといえるでしょうか。
こうした、ある意味では、一部言い訳的な判断・推論でもありますが、以下、BI実現の<壁>となっている「社会制度問題」の視点での理由・背景を整理してみることにします。
① 政府及び専門家による「税と社会保障の一体改革」への呪縛
一応BIの導入の必要性を語りながらも、税収に依存した社会保障費等負担から、既存の関連制度の改革や思い切った税制改革の提案に踏み切れず、本来BIが持つべき特性・本質の実現に至らない、腰が引けた内容にとどまる<壁>。
主張する人々は、それが正論と信じて疑わないのです。
② BI提案の経済専門家・研究者による「社会保障制度改革」への無関心・無責任スタンス
主に反緊縮や経済成長主義を掲げる経済学者・研究者にありがちな、無責任がもたらす<壁>。
MMTなども援用するのですが、それは、あくまでもマクロ経済の領域に留まるもの。
結局、BI導入には、社会保障制度・社会福祉制度と関連制度の改革が不可欠と認識しているにもかかわらず、専門外として踏み込まないのです。
従い、主張・提案にはパワーがなく、責任もない。
③ ネオリベ派や富裕層からの「所得再分配」論への顕著な抵抗感
根強い左派への嫌悪感もありますが、BIの財源を税のみと決めつけるゆえ、増税や負担が、自分たちや富裕層に押し付けられることを、異常に・異様に嫌い、反対する、岩盤としての層の<壁>。
「働かざるもの食うべからず」の価値観を併せ持つことで、関連して、「労働・社会観問題の壁」とも通じることになります。
④ 生活保護制度における医療費ゼロの壁と既得権益化の論理
ミーンズテストやスティグマなどの用語で示される、生活保護を受けることができる状況にあっても、受給申請をしない、ためらわせる負の設計・運用制度として評判の悪い生活保護制度。
しかし、BI導入時に、同制度が廃止される方式をとることに関しては、非常に強い拒絶・抵抗があります。
こうした傾向に配慮して、制度は温存した上で、BIを上乗せするという中途半端な提案をする人もいます。
その背景にあるのが、生保を受給する人の<医療費>負担がゼロである大きなメリット。
生保が廃止されると、医療費負担が発生し、生活維持が困難になるという理由です。
言うならば、既得権益を絶対にはなさない、という弱者としての論理が強く働く<壁>です。
以上は、一部の例に過ぎず、BIをめぐっては、それぞれの立場での、同床異夢ならぬ異床異夢という現実があります。
思想・財源・利権入り乱れる現状に加え、BIのこうした停滞要因を打ち破る、理論と政策と熱意を併せ持つ、社会的・政治的リーダーが不在であること。
これが、最大の、究極の<壁>ということができるでしょうか。
2-2 制度問題としてのBI論と制度改革論としてのシンBI2050
ベーシックインカム(BI)の議論は、一般には「所得保障制度の一種」として理解されることが多くあります。
しかし実際には、BIは単なる所得給付制度ではありません。
なぜなら、BIを導入しようとすれば、年金制度、生活保護制度、医療保険制度、介護保険制度、雇用保険制度、税制、行政制度など、既存の社会制度全体との関係を整理しなければならないからです。
その意味でBIは、所得保障制度であると同時に社会制度改革論でもあります。
ところが、これまでのBI論の多くは、制度改革論として十分に整理されてきたとは言い難い状況にあります。
ここでは、従来型BI論の特徴と限界を確認したうえで、本サイトが提示するシンBI2050の特徴について整理します。
1)従来型BI論の特徴
従来型BI論の最大の特徴は、「全国民への無条件所得給付」という制度理念を中心に議論が展開されてきたことです。
その背景には、貧困の解消、格差の是正、社会保障制度の簡素化、労働からの自由の拡大など、さまざまな期待が存在していました。
実際、従来型BI論には次のような多様な立場が存在しています。
・貧困対策を重視する福祉型BI
・所得再分配を重視する格差是正型BI
・行政簡素化を重視する制度合理化型BI
・労働からの自由を重視する自由主義型BI
・AI社会や自動化社会への対応を重視する未来社会型BI
このように、BIには多様な理念と目的が重ねられてきました。
しかしその一方で、
「どの制度を残し、どの制度を改編するのか」
「既存の社会保障制度とどのように接続するのか」
「制度全体としてどのような社会像を目指すのか」
という社会制度改革としての議論は十分に深まってきたとは言えません。
結果として、BI論は理念として支持されながらも、制度設計段階になると財源論や賛否論に議論が集中し、社会制度改革論として発展しにくい状況が続いてきました。
2)シンBI2050の特徴
これに対してシンBI2050は、BIを単独の所得給付制度としてではなく、社会制度全体を再設計するための基盤制度として位置付けています。
つまり、
「BIを導入するか否か」ではなく、
「2050年の日本社会にふさわしい生活保障制度をどのように再構築するか」という視点から制度を考えます。
そのため、シンBI2050では、
・年金制度
・生活保護制度
・医療・介護制度
・税制
・行政制度
・通貨制度
・デジタル基盤
などを相互に関連する制度群として捉えます。
また、従来型BI論が所得再分配や福祉政策として議論されることが多かったのに対し、シンBI2050は生活保障、安全保障、社会的共通資本、経済循環、イノベーションなど、より広い社会経済システムとの関係の中で構想されています。
その意味でシンBI2050は、
「社会保障制度の一制度」ではなく、
「社会制度全体を支える新たな生活基盤制度」として位置付けられるものです。
3)所得保障制度改革としての位置付け
もっとも、シンBI2050は既存制度を全面的に否定するものではありません。
むしろ現在の社会保障制度が長年にわたり果たしてきた役割を評価したうえで、その限界や課題に対応しようとする制度改革論です。
現在の日本社会では、
・少子高齢化
・人口減少
・非正規雇用の拡大
・単身世帯の増加
・AI・自動化の進展
・財政制約論の拡大
などにより、従来型の社会保障制度だけでは対応が難しい課題が増えています。
その結果、制度を追加し続ける改革ではなく、制度全体の構造そのものを見直す改革が求められる段階に入っています。
シンBI2050は、このような問題意識のもとで構想された所得保障制度改革論です。
それは単なる給付制度の導入ではなく、生活保障制度の再編を通じて、日本社会の新たな社会基盤を構築しようとする試みでもあります。
したがって、シンBI2050を理解するためには、「BI導入論」としてではなく、「社会制度改革論」として捉える視点が重要になるのです。
「税と社会保障の一体化」という呪縛を、通貨発行とデジタル基盤のシン定義によって解き放ち、「生活保護絶対主義」が抱える医療費の崖を、1階部分の無条件給付と2階部分の現物サービスの構造分離によって融解させる。
シンBI2050は、これらすべての壁を同時に超克するための、不可分な制度群の総体なのです。

3.なぜ社会制度は壁となったのか
3-1 制度体系そのものが抱える構造問題
日本の社会保障制度は長い年月をかけて形成されてきました。
年金制度、医療保険制度、介護保険制度、生活保護制度、児童福祉制度、障害者福祉制度、雇用保険制度など、それぞれの制度は個別の社会問題に対応するために整備されてきたものです。
その結果、一つ一つの制度には存在理由があります。
しかし一方で、制度を積み重ねる形で発展してきたため、制度全体として見た場合には様々な構造問題を抱えるようになりました。
現在の社会保障制度の問題は、個々の制度の優劣だけではありません。
制度体系そのものが複雑化し、国民にとって理解しにくく、行政にとっても運営が難しいものとなっていることが問題なのです。
ここでは、その代表的な構造問題について整理します。
1)制度ごとの縦割り構造
現在の社会保障制度は、制度ごとに所管官庁や担当部局が分かれて運営されています。
・年金は年金制度として、
・医療は医療保険制度として、
・介護は介護保険制度として、
・生活保護は生活保護制度として、
それぞれ独立した制度として管理されています。
もちろん専門性の観点から見れば一定の合理性があります。
しかし利用者の立場から見ると、人間の生活は制度ごとに分かれて存在しているわけではありません。
例えば高齢者であれば、
年金、医療、介護、住宅生活支援
が同時に必要になります。
子育て世帯であれば、
出産支援、保育、教育、住宅、就労支援
が複合的に関係します。
しかし制度側は縦割りで運営されているため、利用者は複数の制度を個別に理解し、申請し、利用しなければなりません。
この制度と生活実態との乖離が、制度利用の困難さを生み出しています。
2)対象者別制度の乱立
日本の社会保障制度は、対象者ごとに制度を設計する傾向が強くあります。
・高齢者には高齢者向け制度
・障害者には障害者向け制度
・子どもには子ども向け制度
・失業者には失業者向け制度
・低所得者には低所得者向け制度
このような制度設計は必要な側面もありますが、その反面、制度の種類を増やし続ける結果となりました。
しかも現代社会では、一人の人が複数の立場を同時に持つことが珍しくありません。
・高齢者でありながら障害者でもある人
・子育てをしながら介護も担う人
・働きながら生活困窮状態にある人
制度は対象者ごとに分かれていても、人々の生活実態は複合化しています。
そのため、対象者別制度の増加は制度全体の複雑化を招く要因にもなっています。
3)制度間の重複と空白
制度が増えると、制度同士の重複も発生します。
同じような目的を持つ制度が複数存在することも少なくありません。
一方で、どの制度にも十分に対応されない領域も生まれます。
例えば、
・制度Aの対象にはならない
・制度Bの条件も満たさない
・しかし現実には支援を必要としている
という状況です。
これがいわゆる「制度の狭間」と呼ばれる問題です。
制度が存在するにもかかわらず救済されない人が生まれるのです。
制度数が増えれば増えるほど、この重複と空白は発生しやすくなります。
4)複雑化する給付・負担構造
現在の社会保障制度は、
・保険料
・税金
・自己負担
・給付
・控除
・補助金
などが複雑に組み合わさっています。
そのため、多くの人々は、
自分が何を負担し、
どの制度からどのような給付を受けているのか、受けることができるのか
を正確に理解し、把握することが難しくなっています。
また、制度ごとに異なる基準や条件が存在するため、行政コストも増大します。
本来は生活を支えるための制度であるにもかかわらず、制度を理解すること自体が一つの負担になっている面も否定できません。
5)財源論中心の制度論
さらに近年の制度改革論では、制度の目的や社会的意義よりも、財源問題が先行して議論される傾向があります。
もちろん財政の持続可能性は重要です。
しかし、
どのような社会を目指すのか
どのような生活保障を実現したいのか
という議論が十分に行われないまま、
・財源不足
・保険料不足
・財政赤字
という議論だけが前面に出ることも少なくありません。
その結果、本来であれば制度全体を再設計すべき場面であっても、個別制度の給付削減や負担増加に議論が集中しやすくなります。
これは制度改革を困難にする大きな要因の一つと言えるでしょう。
現在の日本社会が直面している問題は、個々の制度の不備だけではありません。
制度を積み重ね続けた結果として生じた制度体系全体の複雑化こそが、本質的な課題となっています。
そして、この構造問題こそが、本シリーズで取り上げる「社会制度問題の壁」の中核をなすものなのです。
以上の内容を理解確認するために、以下に、「制度体系の構造問題一覧」を整理しました。
| 構造問題 | 現状 | 発生する課題 |
|---|---|---|
| 縦割り構造 | 制度ごとに分離 | 利用者負担増 |
| 対象者別制度 | 制度乱立 | 複雑化 |
| 制度重複 | 給付重複 | 非効率 |
| 制度空白 | 対象外発生 | 支援漏れ |
| 給付負担構造 | 多層化 | 理解困難 |
| 財源中心論 | 制度目的後退 | 改革停滞 |
3-2 制度追加型改革の限界
日本の社会保障制度は、一度に全体設計されたものではありません。
・高齢化が進めば高齢者向け制度を整備する
・少子化が進めば子育て支援制度を拡充する
・雇用不安が高まれば就労支援制度を新設する
このように、その時々の社会問題に対応する形で制度を追加し続けてきました。
こうした対応は短期的には有効であり、多くの課題解決に貢献してきたことも事実です。
しかし、その結果として制度全体は複雑化し、国民にも行政にも分かりにくいものとなっていきました。
社会制度問題の壁を考える上では、この「制度追加型改革」の限界を理解することが重要です。
1)問題発生ごとの制度追加
日本の社会保障制度改革の多くは、問題が発生するたびに新しい制度を追加する形や従来の法の改正により行われてきました。
先述したように、
・高齢化が進めば介護保険制度
・少子化が進めば児童手当や各種子育て支援制度
・非正規雇用の増加に対応するための就労支援制度
・生活困窮者への支援制度
近年では
・物価高騰対策給付金
などもその一例です。
もちろん、社会問題への対応として一定の意義はあります。
しかし、その多くは既存制度との関係を十分整理することなく追加されてきました。
その結果、制度全体としての整合性よりも、個別課題への対症療法的な対応が優先される傾向が強まっていったのです。
2)補助金・給付制度の増殖
制度追加型改革が続くと、補助金や給付制度も増加していきます。
現在では、
・児童手当、児童扶養手当
・住居確保給付金
・就学支援制度
・医療費助成制度、
・介護関連給付、障害福祉給付
・各種減免制度
・各種税額控除制度など、
多数の制度が並立しています。
さらに自治体独自制度も加わるため、地域によって利用できる制度が異なる場合もあります。
その結果、支援制度そのものは存在していても、
・「どの制度を利用できるのか分からない」
・「申請方法が分からない」
・「制度の存在自体を知らない」
という状況が生まれます。
制度が増えるほど支援が充実するとは限らず、かえって制度利用の障壁が高まる場合もあるのです。
3)制度の複雑化と行政コスト
制度が増えれば、それを運営する行政組織も複雑になります。
・制度ごとに担当部署が設置され、
・制度ごとに審査基準が定められ、
・制度ごとに申請手続きが必要になります。
国民・市民は、
・申請書類の提出
・所得証明の提出
・資産確認
・更新手続き
などを繰り返さなければなりません。
また行政側にも、
・制度管理
・審査業務
・相談対応
・システム維持
などのコストが発生します。
見方によれば、大きな政府を体現しているとも言えます。
本来であれば支援そのものに使われるべき資源が、制度運営そのものに大量に投入される構造が形成されているのです。
制度が複雑になるほど、国民の負担だけでなく行政コストも増加していきます。
4)国民に見えにくい制度体系
現在の社会保障制度は、多くの国民にとって全体像が見えにくくなっています。
・毎月保険料を負担し、
・税金を納め、
様々な制度を維持しているにもかかわらず、
どの制度がどのように運営され、
自分がどのような給付を受けられるのかを正確に理解している人は多くありません。
また、
・年金改革
・医療制度改革
・介護制度改革
・少子化対策
などが個別に議論されるため、制度全体としてどのような方向に向かっているのかも見えにくくなります。
結果として、
・制度に対する不信感
・将来不安
・世代間対立負担増への反発
なども生じやすくなります。
本来、社会保障制度は国民生活の基盤となるべきものです。
しかし制度追加型改革を繰り返した結果、その全体像は複雑化し、多くの人にとって理解しにくいものとなってしまいました。
こうした状況は、個別制度の改善だけでは解決できません。
制度を増やし続ける改革から、制度体系全体を見直す改革へ。
その発想の転換こそが、社会制度問題の壁を超克するための重要な出発点となるのです。
3-3「税と社会保障の一体改革」の到達点と限界|政策論の限界ー1
1) 「税と社会保障の一体化」の意味と問題点|なぜ一体化が必要なのか
日本の社会保障(特に医療や年金)は、国民が納める「保険料」を主財源としてスタートしました。
しかし、少子高齢化によって「支え手(現役世代)」が激減し、逆に「給付を受ける人(高齢世代)」が急増したため、保険料だけでは制度を維持できなくなりました。
そこで、2012年の民主党・自民党・公明党の「三党合意」を機に本格化したのが「税と社会保障の一体化」です。
最大の変化は、「消費税率の引き上げ分(5%から10%への増税分)を、すべて年金・医療・介護・子育ての社会保障財源に充てる」と法律で定めた点にあります。
保険料という「働く世代の負担」だけに頼るのをやめ、国民全員が薄く広く負担する「税(消費税)」を組み合わせてシステムを安定させようという試みです。
2)「一体化」がもたらした限界と歪み
① 消費税の「逆進性」と低所得層への打撃
消費税は所得に関わらず一律にかかるため、所得が低い人ほど収入に対する税負担の割合が重くなる(逆進性)という性質があります。
社会保障を安定させるための増税が、皮肉にも低所得層の生活を圧迫するという矛盾が生じています。
② 増税しても「現状維持」が精一杯
消費税を10%に引き上げても、膨らみ続ける高齢化の医療・介護費の自然増(毎年数千億円規模)を吸収するだけでほぼ使い切られてしまい、現役世代が本当に望む「子育て支援」や「若者向けのセーフティネット」へ大胆に財源を振り分ける余裕が十分に生まれていません。
こともあろうに、2026年の今は、レジ対応のあり方をめぐって、消費税を0%にするか、1%にするかという消費減税実現に向けての詰めの段階にさえあるのです。
③「保険」なのか「税」なのかという曖昧さ
財源に占める税金(公費)の割合が大きくなったことで、「保険料を払ったから給付を受ける」という社会保険の原則が薄れ、実質的に「第2の税金」と化しています。これにより、制度全体の公平性や、誰がどれだけ負担すべきかという合意形成が難しくなっています。
3-4 「所得再分配」の問題点と限界|政策論の限界ー2
1)格差を是正する2つのステージ
所得再分配とは、市場経済の中で生じた「所得の格差」を、国が介入して是正する仕組みです。これには以下のステップがあります。
① 当初所得: 自力で稼いだ給与や事業収入(格差が大きい状態)
② 税による再分配(拠出): 累進課税(所得が高い人ほど高い税率)によって税を徴収する。
③ 社会保障による再分配(給付): 集めた税や保険料を、年金、医療・介護サービス、生活保護、児童手当などの形で、必要とする人へ還元する。
厚生労働省の「所得再分配調査」などのデータを見ても、日本の不平等度(ジニ係数)は、この税と社会保障の再分配機能によって、当初の格差から約3〜4割程度改善されており、特に高齢者層における格差是正に大きく貢献しているとされています。
2)機能不全を起こしている再分配の構造
① 現役世代(子育て世代)への再分配の弱さ
日本の所得再分配は、その大部分が「高齢者(年金や医療)」に向けて機能しています。一方で、現役世代や子育て世代に対する現金給付や現物サービス(福祉)の再分配は諸外国に比べて歴史的に薄く、これが「子どもへの投資」を阻害し、少子化を加速させる要因の一つになってきました。
②「一億総中流」の崩壊と非正規雇用の「置き去り」
かつてのように「正社員の夫と専業主婦の妻」という標準世帯を前提に作られた再分配システムであるため、単身世帯(単身高齢者や独身の若者)や非正規雇用労働者に対して、十分に富が再分配されない「網の目の漏れ」が生じています。
③「手取り」を奪う中所得層の壁
累進課税や社会保険料の引き上げにより、最も必死に働いている「中間層(現役の働き盛り)」の負担が重くなります。
そのため、いくら額面の給与が上がっても手取りが増えないという現象が起きています。
これが消費を冷え込ませ、経済の活力をそぐ結果となっています。
そこで、手取りを増やすということで、2026年の今、それなりに煮詰まってきているのが、「給付付き税額控除」の実現です。
問題が多い、うまくいくかどうか疑問も持たれている制度が、政局に流されて、実現しようとしているのです。
3-5 「全世代型社会保障」をめぐる議論と限界|政策論の限界ー3
政府が進めている「全世代型社会保障」。
従来の「高齢者=支えられる側、現役世代=支える側」という固定的な構図を見直し、「能力に応じて皆で支え合い、必要とするすべての世代が給付を受けられる仕組み」へ移行しようとする改革です。
背景には、少子高齢化によって現役世代の保険料負担が限界に近づき、可処分所得(手取り収入)の減少がさらなる婚姻率・出生率の低下を招くという悪循環への強い危機感がある、とされています。
しかし、婚姻率・出生率の低下は、こうした単純な理由に依存するものではないのですが。
一応、現在進められている具体的な施策と、それが現役世代に及ぼす影響(メリットと新たな負担)を整理しました。
1) 全世代型社会保障の「3つの具体的施策」
政府の改革工程に基づき、大きく分けて3つの柱で施策が展開されています。
①少子化対策・子育て支援の抜本的拡充
「持続可能な社会保障」の最大の鍵は支え手を増やすこと。
2024年以降、児童手当の所得制限撤廃や支給期間の高校生までへの延長が進められてきた。
さらに、柔軟な働き方を支える「子ども誰でも通園制度」の本格実施や、時短勤務中の賃金を補う「育児時短就業給付(2025年度〜)」の創設、フリーランスや自営業者の育児期間中の国民年金保険料免除(2026年度〜)など、共働き・共育てを公的にバックアップする施策を具体化する取り組みはみることができます。
②「勤労者皆保険」の実現(支え手を増やす)
働き方に中立的な制度を作るため、パートやアルバイトなどの短時間労働者への社会保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大が急ピッチで進められています。
さらにステップを進め、社会保険の企業規模要件(従業員数)の完全撤廃や、「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくり、5人以上の個人事業所の非適用業種の解消といった「働いている人は原則みんな社会保険に加入する」仕組みへの移行(2025年成立の年金法等に基づく施策)も進めています。
③ 高齢者医療・介護の「能力に応じた負担」への見直し
一定以上の所得がある高齢者に対して、現役世代並みの負担を求める改革。
後期高齢者医療(75歳以上)の窓口負担2割化の対象拡大や、高所得な高齢者の「現役並み所得(3割負担)」の判断基準の見直し、介護保険における利用者負担や多床室(相部屋)の室料負担の見直しなど、「年齢に関わらず、経済力がある人には相応の負担をしてもらう」方向での議論や見直しが進んでいます。
2) 現役世代への具体的な影響
この改革は、現役世代にとって「手厚い子育て支援というリターン」と「新たな拠出(負担)」の双方が同時に発生する形になっています。
| 現役世代へのプラスの影響(メリット) | 現役世代へのマイナスの影響(負担・課題) |
| 子育て世帯の直接的な負担軽減 児童手当の拡充や高等教育の無償化枠拡大により、子育てにかかる現金支出の負担がダイレクトに減っています。 | 「子ども・子育て支援金」の上乗せ負担 一連の少子化対策の財源として、2026年4月から公的医療保険(健康保険や国保)に上乗せして「支援金」の徴収が始まります(段階的に引き上げ)。 |
| 短時間労働者のセーフティネット強化 非正規雇用やパートであっても、厚生年金や健康保険に加入できるため、将来の年金受給額が増え、傷病手当金などの保障も手厚くなります。 | 手取り(可処分所得)の一時的な減少 社会保険の適用拡大により、新たに加入する短時間労働者は社会保険料の負担が発生するため、いわゆる「手取り」が減少するケースが出ます。 |
| 高齢者への過度な仕送りの是正 所得の高い高齢者の医療・介護の自己負担率が上がることで、現役世代が支払う「高齢者支援金」の急激な上昇に一定のブレーキがかかります。 | 現役並み所得の基準引き下げへの懸念 「現役並み所得」の基準が下がりすぎると、現役で働く子世代が、親の医療・介護の窓口負担を実質的に穴埋めせざるを得なくなるリスクも指摘されています。 |
このように、全世代型社会保障は、現役世代に「ただ負担を押し付ける」のではなく、「負担も求めるが、その分を子育てや次世代への投資として100%還元する」という設計を目指しています。
しかし、2026年4月から始まった「子ども・子育て支援金」のように、独身・既婚、子どもの有無に関わらず全世代の医療保険料に上乗せされる負担については、現役世代の間でも「納得感」や「手取り減少への不安」をめぐる議論が続きます。
単純な政策論で解決することは、非常に困難な実態が示されています。
3) 高齢者世代への具体的な影響
高齢者世代にとっての「全世代型社会保障」は、端的に言えば、もっと働いて、もっと負担して、と、世代間の不公平感の解消策を、一身に担うことを意味します。
単純に、世代間の負担の違いや不公平感・不満感を、現状の社会保障制度・福祉制度体系において大きなメリットを得ている高齢者の負担増で平坦にならす。
これが、現状の「全世代社会保障制度」の実態の一局面であり、自ずと限界を示しています。
現在の日本の制度は、現役世代が保険料を支払い、高齢世代を支える「世代間扶養」の側面が強いのが特徴です。
しかし、少子高齢化の進展により、社会保障給付費は増大し続けています。
こうした状況を、世代間の利害関係を調整すべき政策課題として設定し、議論することが、いかに矛盾に満ちたことか。
もうそろそろ、日本社会と市民は、そして何よりより望ましい社会を創造すべきと考える政治家と政党が、こうした馬鹿げた徒労から脱して、実りある議論と設計に前進すべきと考えます。
言い旧された、馬鹿の一つ覚えのように用いられる「喫緊の課題」などと言う必要はありません。
無責任であることを自ら語っている「喫緊の課題」は、実は、非常に困難な課題であり、理念とビジョンと、具体的・現実的な課題超克への地道な取り組みこそ、求められているのです。
現行システムの枠内で世代間のパイを奪い合わせる「全世代型」という名の弥縫策は、すでに限界を迎えているといえます。
これから必要なのは、対症療法の追加ではなく、普遍性と包摂性を併せ持つ「生活保障OSへの根本的刷新」と言えるでしょう。

4.シンBI2050「社会制度問題の壁」と他の壁との関係性、及びシン安保2050との共通性
4-1 社会制度問題の壁と他の壁との関係
これまで見てきたように、社会制度問題の壁は、単に年金制度や生活保護制度の問題を指すものではありません。
制度体系そのものの構造問題であり、その影響は社会の様々な分野に及んでいます。
また逆に、制度問題は制度だけで発生しているわけでもありません。
雇用構造、所得構造、人口構造、技術革新、経済構造、政治構造など、多くの要因が相互に作用することで制度問題が生じています。
そのため、社会制度問題の壁を超克するためには、他の壁との関係性を理解することが不可欠です。
1)労働・社会観問題との関係
社会保障制度の多くは、「働くこと」を前提に設計されています。
年金制度は保険料拠出を前提とし、雇用保険制度は雇用関係を前提とし、多くの所得保障制度も就労を前提に構築されています。
その背景には、戦後日本社会が形成してきた雇用中心社会の考え方があります。
①雇用中心社会との関係
高度経済成長期以降の日本社会では、企業に雇用され、賃金を得ることが生活保障の中心でした。
社会保障制度もその延長線上で整備されてきました。
しかし、非正規雇用の増加や単身世帯の増加、働き方の多様化により、その前提は揺らぎ始めています。
②ワークフェア思想との関係
近年の社会保障制度改革では、「働ける人は働くべき」というワークフェア的発想が強く見られます。
生活保護制度や就労支援制度にもその考え方は反映されています。
しかし、AI化や人口減少が進む社会においては、就労だけを基盤とした生活保障には限界も見え始めています。
③所得保障制度との関係
シンBI2050は、働くか否かではなく、すべての人に共通する生活基盤を構築しようとする試みです。
そのため、労働問題と所得保障問題は切り離して考えることができず、両者は密接に関係しています。
2)格差問題との関係
社会制度問題は格差問題とも深く結びついています。
所得格差だけでなく、教育、医療、介護など様々な領域で制度の利用可能性や利用結果に差が生じています。
①所得格差
所得保障制度のあり方は、直接的に所得格差に影響します。
制度の対象外となる人々や制度利用が困難な人々が存在することで、格差が固定化される場合もあります。
②教育格差
教育機会は家庭の経済状況によって左右されることがあります。
制度上は支援策が存在しても、利用条件や地域差によって十分活用されない場合もあります。
③医療・介護格差
医療や介護も制度上は全国民を対象としていますが、所得や地域、家族状況などによって利用環境には差が生じています。
制度問題は格差問題の一因であり、また格差問題は制度問題の結果でもあるのです。
3)人口構造問題との関係
社会保障制度は人口構造の変化によって大きな影響を受けます。
少子高齢化と人口減少は、日本の制度問題を考える上で避けて通れない要素です。
①少子化
出生数の減少は将来の支え手人口の減少を意味します。
これは年金制度や医療保険制度など、現行制度の持続可能性に大きく影響します。
②高齢化
高齢者人口の増加は年金、医療、介護支出の増加を伴います。
その結果、制度維持のための負担増加が繰り返し議論されることになります。
③人口減少
人口減少は労働力不足だけでなく、地域社会の維持や税収構造にも影響を及ぼします。
制度問題は人口構造問題と不可分の関係にあります。
4)AI・雇用問題との関係
AI技術の発展は、今後の社会保障制度のあり方にも大きな影響を与える可能性があります。
①雇用構造変化
自動化やAI活用の進展によって、従来型の雇用構造は変化していく可能性があります。
②所得構造変化
雇用と所得の結び付きが弱まれば、従来の社会保険制度にも見直しが求められることになります。
③新しい社会保障ニーズ
働き方や所得構造の変化は、新しい生活保障制度へのニーズを生み出します。
シンBI2050もその一つの対応策として位置付けることができます。
5)財源・財政問題との関係
社会保障制度改革を議論すると、必ずと言ってよいほど財源問題が提起されます。
しかし本シリーズで既に検討したように、財源問題は制度問題の一側面に過ぎません。
どのような社会保障制度を構築するのかという制度設計の議論と、財政運営の議論は本来区別して考える必要があります。
6)マクロ経済問題との関係
社会保障制度は経済成長、物価、雇用、所得などマクロ経済全体と深く関係しています。
また、社会保障制度自体が家計や地域経済を支える重要な経済インフラとして機能しています。
制度問題とマクロ経済問題は相互に影響し合う関係にあります。
7)政治問題との関係
制度改革を最終的に決定するのは政治です。
制度が複雑化した背景にも政治的判断の積み重ねがあります。
また、新しい制度への移行も政治的合意形成なしには実現できません。
その意味で、社会制度問題の壁は政治問題の壁とも密接につながっています。
このように、社会制度問題の壁は単独で存在するものではありません。
むしろ、BI実現を阻む他の7つの壁と相互に関連しながら存在している複合的な課題なのです。
以上の「社会制度問題の壁と他の壁との関係」構造を、以下に整理しました。
| 壁 | 関係内容 |
|---|---|
| 財源・財政問題 | 制度設計の前提 |
| マクロ経済問題 | 雇用・物価・所得 |
| 労働社会観問題 | 雇用中心社会 |
| 格差問題 | 再分配と機会格差 |
| 人口構造問題 | 少子高齢化 |
| AI雇用問題 | 所得構造変化 |
| 政治問題 | 制度改革の実行主体 |
4-2 シン安保及び生活社会基盤とは
1)シン安保2050とは
シン安保2050という理念を、関連するWEBサイト、ONOLOGUE2050において、以下の記事で設定しています。
従来の「安全保障」は、防衛や外交を中心とした国家存立の問題として語られてきました。
しかし21世紀に入り、エネルギー、食料、医療、経済、人口、社会保障など、人々の生活そのものを支える基盤の安定が、安全保障の重要な構成要素として認識されるようになっています。
当サイトでは、この考え方をさらに拡張し、2050年の望ましい日本社会の構築を目的として「シン安保2050」を提唱しています。そして、シン安保2050をはじめとする複数のシン2050理念群を統合・集約する到達点として、「シンBI2050」を位置付けています。
なお、「シン安保2050」とは何か、上記記事中に掲載の画像を、ここでも以下に用いて、その意味・概念を示しています。

2)シン安保2050を構成する3つの社会基盤
そして、この<シン安保2050>では、社会の安定を支える基盤を次の3つの社会概念に整理・分類しています。
① 国家社会基盤シン安保:日本社会の存立を支える基盤を扱う領域。
② 生活社会基盤シン安保:市民の生活基盤を支える制度や社会構造を扱う領域。
③ 経済社会構造シン安保:社会の生産活動と分配構造を支える経済基盤を扱う領域
経済活動が持続しなければ、社会制度や生活基盤も維持することができません。
そのため経済構造の安定もまた社会安保の重要な要素となります。
この3構造毎に重点政策課題を整理したのが、以下の表です。
一般的に、何気なく用いられる「社会」という用語を、責任主体や当事者主体を明確にする目的で、この3区分を用いました。
しかし、それぞれが独立して機能するものではなく、相互に連関し、連携して機能することは言うまでもありません。
| 1. 国家社会基盤シン安保 | 2. 生活社会基盤シン安保 | 3. 経済社会構造シン安保 |
|---|---|---|
| ① エネルギーシン安保 | ① 人口・少子高齢化・世代シン安保 | ① 雇用・労働/賃金・所得シン安保 |
| ② 資源シン安保 | ② 結婚・家族・世帯シン安保 | ② 労働力シン安保 (外国人労働・AI代替・人材育成・労働保険等シン安保含む) |
| ③ 国土・自然環境・防災シン安保 | ③ 出産・子育て・保育シン安保 | ③ 経済安全保障シン安保 |
| ④ 公共インフラシン安保 | ④ 教育・スキリング・生涯設計シン安保 | ④ 産業経済・企業格差シン安保 (中小企業シン安保含む) |
| ⑤ 食料シン安保 | ⑤ 医療・健康・公衆衛生・介護シン安保 | ⑤ 金融・資本市場・税制シン安保 |
| ⑥ 財政シン安保 | ⑥ 社会保障シン安保(年金・生活保護・障害者福祉シン安保含む | ⑥ AI/AX・デジタル経済・イノベーションシン安保 |
| ⑦ 先端技術シン安保(情報・デジタル情報リスク・サイバー統治シン安保含む) | ⑦ 地方自治・地域社会生活シン安保 (都市・地方生活シン安保含む) | ⑦ 企業統治・事業経営・CXシン安保 |
| ⑧ 防衛・外交シン安保 | ⑧ 治安・情報市民社会・AI社会シン安保 | ⑧ 貿易・観光シン安保 |
| ⑨ 統治制度(政治・立法・行政・司法)シン安保 | ⑨ 日常生活シン安保 (消費・居住・健康・移動他) | ⑨ グローバル経済シン安保 |
| ⑩ ベーシックインカムシン安保 | ⑩ ベーシックインカムシン安保 | ⑩ ベーシックインカムシン安保 |
そして、3つの区分ごとの重点政策課題の最後に、「ベーシックインカムシン安保」を共通政策課題として位置付けているのです。
これは、なにより、先述の<シン日本社会2050>という基軸理念と関連する他のシン2050理念群が<シンBI2050>に、統合・集約されることと同じ意味を持つものです。

4-3 シン安保の3層構造と社会制度
本サイトでは、国家の安全保障を軍事・外交問題に限定して捉えるのではなく、人々が安心して暮らし続けることのできる社会全体の基盤を支える仕組みとして再定義し、上記の3層の社会構造からなる「シン安保2050」を提唱しています。
社会制度問題の壁もまた、この3層社会構造の中で理解することができます。
なぜなら、社会保障制度や所得保障制度は、人々の生活だけでなく、経済活動や国家運営とも深く関係しているからです。
上表で示している、各社会シン安保における重要課題を取り上げ、簡単に、社会制度問題との関係と共通性についてメモしました。
1)生活社会基盤シン安保と社会制度問題との関係性・共通性
社会制度問題の壁と最も直接的に関係するのが、生活社会基盤シン安保です。
生活社会基盤シン安保とは、人々が安心して生きるための生活基盤そのものを支える仕組みを指します。
その中心に位置するのが社会保障制度です。
加えて、それと繋がる重要政策課題を、簡単に説明しています。
① 社会保障シン安保
年金制度、生活保護制度、雇用保険制度、障害者福祉制度などは、生活保障の中核を担っています。
しかし現在の制度体系は、高度経済成長期以降の人口構造や雇用構造を前提として形成されてきたものであり、少子高齢化や人口減少社会への対応に課題を抱えています。
社会制度問題の壁とは、まさにこの生活保障制度の構造的課題でもあります。
シンBI2050が提起する全国民・全世代型の生活保障制度構想も、この社会保障シン安保の一環として位置付けることができます。
② 医療・健康・公衆衛生・介護シン安保
医療保険制度や介護保険制度は、日本社会を支える重要な制度です。
しかし高齢化の進展により、医療費や介護費の増大、担い手不足、地域格差などの問題が深刻化しています。
また感染症対策や公衆衛生政策の重要性も近年改めて認識されました。
これらは単なる医療問題ではなく、国民生活全体の安全保障問題でもあります。
社会制度問題の壁は、こうした医療・介護分野の制度課題とも密接に結び付いています。
③ 出産・子育て・保育シン安保
少子化問題への対応も生活社会基盤シン安保の重要な課題です。
出産、育児、保育、教育に関する制度は拡充されてきましたが、依然として経済的不安や将来不安が大きな障害となっています。
子どもを持ちたい人が安心して持てる社会を実現するためには、単なる子育て支援策の拡充だけではなく、生活保障制度全体の見直しも必要になります。
その意味で、少子化問題と社会制度問題は共通の根を持つ課題と言えます。
2)経済社会構造シン安保と社会制度問題との関係性・共通性
社会制度問題は生活保障だけでなく、経済社会構造とも密接に関係しています。
特に雇用構造や所得構造の変化は、社会保障制度そのものの前提を揺るがしています。
同じように、上表から、該当する課題を抽出しました。
① 雇用・労働/賃金・所得シン安保
現在の社会保障制度は、雇用を通じた所得獲得を前提として設計されています。
しかし、非正規雇用の増加、フリーランスの拡大、働き方の多様化などにより、その前提は大きく変化しています。
また、AI技術の発展や自動化の進展は、将来の雇用構造や所得構造にも影響を与える可能性があります。
社会制度問題の壁は、こうした雇用・労働・所得問題とも切り離して考えることはできません。
② 労働力シン安保
人口減少社会では、労働力の確保そのものが大きな課題となります。
高齢者、女性、障害者、外国人など、多様な人材の活躍が求められる一方で、過度に労働参加だけを求める政策には限界もあります。
生活保障制度の在り方と労働力政策は相互に影響し合う関係にあり、そのバランスが重要になります。
シンBI2050は、労働参加を否定するものではなく、生活保障と労働参加の新しい関係を模索する制度改革論として位置付けられます。
3)国家社会基盤シン安保と社会制度問題との関係性・共通性
社会制度問題は、最終的には国家の制度運営そのものにも関係します。
ここで取り上げた<統治制度シン安保>課題は、BI実現の壁の8つ目の壁<政治問題の壁>そのものに当たります。
① 統治制度シン安保(政治・行政・司法)
社会保障制度は政治によって決定され、行政によって運営され、必要に応じて司法によって解釈・判断されます。
そのため制度改革の成否は、統治制度の在り方とも密接に関係しています。
また現在の社会保障制度の複雑化は、行政制度の複雑化とも表裏一体です。
制度が増えるほど行政コストは増大し、国民にとっても制度の理解が難しくなります。
社会制度問題の壁を超克するためには、個別制度の改善だけでなく、政治・行政・司法を含めた統治制度全体の視点も必要となります。
このように社会制度問題の壁は、単独の制度問題ではありません。
生活社会基盤、経済社会構造、国家社会基盤というシン安保2050の三層構造すべてに関わる課題であり、その意味でシンBI2050とシン安保2050は、多くの問題意識と改革目標を共有しているのです。

5.シンBI2050による社会制度改革の方向性
ここまでで、社会制度問題の内容とその要因を考察してきたことで、どのように制度設計及び制度改革に取り組むべきかのアウトラインと本質的な要素が見えてきました。
第1節で確認したように、社会制度の領域とテーマは、非常に多岐にわたり、かつ複雑に形成・構成されており、一気にその方法と対策を形成することは簡単ではありません。
本稿は、序章として、この後のシリーズでの取り組み方針と道筋・シナリオを考察・整理することを目的としています。
以降、そのまとめ作業を進めていきます。
5-1 シンBI2050、現状定義確認
「シン・ベーシックインカム2050」は、従来のベーシックインカム論をそのまま延長したものではなく、社会制度全体の構造を見直す中で再設計された新しい社会基盤制度としてのシン化したベーシックインカムです。
以下の整理は、上記記事の内容を引用して、考察しています。
1)財源・社会保障・目的設定をめぐる分岐点
ベーシックインカムの制度設計をめぐる議論では、いくつかの重要な分岐点が存在します。
① 財源の問題
② 社会保障制度との関係
③ 制度の目的設定
本稿のターゲットが、ここでの「社会保障制度との関係」にあります。
「財源の問題」については、既に<財源・財政問題の壁>超克シリーズで、取り組んでおり、その結果の利用について後述します。
そして、「制度の目的設定」に関しては、当節での整理考察において、この後反映させることになります。
2)シンBI2050の主な特徴
先述したシンBI2050の定義記事では、以下を挙げていました。
① 専用デジタル通貨による無条件給付
② 本人利用・利用期間限定、譲渡相続禁止と個人専用口座
③ 生活基礎消費に限定した利用設計と専用管理運営システム
④ 循環型デジタル通貨による国内事業者への流通限定と中央銀行への循環回収システム
⑤ 政府一般財源ではなく、専用特別会計による管理
⑥ 社会保障・税制・行政改革と一体化した統合制度
①~⑤までの多くは、既に、<財源・財政問題の壁>において、超克する方法と考え方として整理し、提案してきました。
そして、
「⑥ 社会保障・税制・行政改革と一体化した統合制度」が、当シリーズの<社会制度問題の壁>そのものの超克すべき課題となっています。
5-2「財源・財政問題の壁」超克の結果から
1)「財源がない」固定観念から「制度設計」のあり方へ転換へ
・「財源がない」ということは、客観的な事実ではなく、複数の前提を束ねた判断に依拠している。
・「財源」概念自体が、税、国債、通貨発行という異なる性質のものを曖昧に一括りにしている。
・国家を家計と同じように捉える発想が、固定観念化の要因である。
・経済学的に、会計、長期整合性、貨幣制度、短期オペレーションを区別して考える必要がある。
・政府支出の真の制約は、法制度、市場、インフレ、政治、国際環境であり、「財源」に集約されるものではない。
以上の視点から、ベーシックインカムは
「財源がないから不可能」という議論から脱却し、
「どう設計すれば現実の制約を乗り越えられるのか」という論理に転換すべき
としています。
この内容は、以下の記事で確認できます。
2)壁を越えるための統合的視点
前述の財源の「制約」から「制度再設計」への転換は、以下の統合的視点から<壁>の超克に繋がります。
すなわち、
・財政は収支ではなく社会設計の機能
・資金は単一の財布ではなく多層的に循環
・通貨は有限資源ではなく制度によって供給される構造
と、財政・資金循環・通貨という3つの制度レイヤーを統合的に捉え直すことによります。
この3つの視点が統合されたとき、財源論は制約ではなく、制度設計の一部として再構成されるのです。
5-3 従来の社会保障政策からの解放・脱却
以上の流れから導かれた、従来の「財源論」制約から制度再設計への転換は、以下の発想と考察法の転換をもたらします。
1)税と社会保障の一体改革からの脱却
<財源・財政問題の壁>を乗り超えたことから、税が社会保障制度の財源としたことがもたらした、財源不足を理由とした制度改革の否定や世代間の不公平性への対策の弥縫性は、消滅します。
新たな制度設計もしくは制度改革に取り組む基盤が形成されたのです。
今までの、有識者を集めた包括的・総花的対策のまとめとそれに費やした時間が、ほとんど無意味なものだった。
その定型的、連鎖的、螺旋状のムダな呪縛から解放される有形無形のメリットは計り知れないでしょう。
2)所得再分配論からの脱却および転換
従来の所得再分配論は、高所得者から低所得者への移転を中心に制度設計を考えるものでした。
そこで、税を主要財源とする所得再分配制度としてではなく、社会制度全体の再設計としてシンBI2050を捉えるならば、従来のBI論でしばしば見られた「働かざる者食うべからず」という反論も、その前提自体が変化することになります。
しかしシンBI2050は、特定の人々への所得移転を目的とする制度ではなく、全国民・全世代に共通する生活基盤を保障する制度として構想されているのです。
そのため、所得再分配の議論が不要になるわけではありませんが、制度設計の中心課題として位置付ける必要性は大きく低下します。
そのため議論の焦点は、「誰が誰を支えるのか」ではなく、「社会全体の生活基盤をどのように設計・構築するのか」へと移行していくことになります。
もし敢えて、<所得再分配>政策を考えるならば、より望ましい国家社会基盤や経済社会構造に関する重要課題での有効なあり方を議論・考察・構築することが望ましいと考えます。
3)全世代型社会保障制度の普遍的要素への集約
BI制度設計の普遍的な方法は、全国民のすべての個人に無拠出で、デジタル通貨を給付すること。
極力働ける人はみな働いて、保険料も負担して、その見返りとして社会保障制度の恩恵を受けることができる。
このような全世代各条件付き社会保障制度は、決して「全世代型社会保障制度」とは呼べません。
シンBI2050の定義における、特別会計制に基づく、個人のみ使用可能なデジタル通貨の、全国民へのBI給付こそが、唯一普遍性をもつ「全世代型社会保障制度」にシン化することになります。
5-4 大転換のシンBI2050
前項では、これまでの社会保障制度の改善・改訂・改革に取り組む上で、方針・スローガンとして掲げられてきた政策的視点での改革のポイントを整理しました。
観念的な論述にとどまりましたが、この項では、一歩前に進み、制度設計上大きな転換となる要素・特質を取り上げます。
1)所得保障制度から生活保障制度、生活安保制度としてのシンBI2050
ここまでの考察を、整理し、社会制度問題における、各制度および体系全体の改革の道筋を明らかにする必要があります。
まず、BI(Basic Income) 本来が持つ、Income =所得を保障する制度の普遍性は、決してブレることはありません。
しかし、シンBI2050は、決して社会保障・社会福祉という従来の包括的領域にのみ焦点を合わせた制度・システムではありません。
社会制度問題だけを考えると、「所得保障制度」という表現がもっとも妥当とは思われます。
しかし、シンBI2050を受け取る国民・個人一人ひとりにとって、「所得」という概念は、適切ではないと考えます。
また、それ以前に用いていた、Basic Pension(年金) という表現も、大きな誤解・曲解を受ける可能性があり、代わって、シンBI2050というコードネーム的な表現を用いてきています。
BI実現の8つの壁は、社会制度問題に集約することをめざすものでは決してありません。
経済的な視点での問題の壁やシン安保の経済社会構造も大きく関係し、同様に生活社会基盤を形成する上での他の壁や重点政策と直接繋がっています。
そういう意味では、「所得保障制度」という位置づけから、「生活保障制度」およびシン安保における「生活安保制度」として位置付けることが適切と考えるに至っています。
Income Security(所得保障) でもない、Basic Pension でももちろんない、
Living Security(生活保障)及び Basic Living Foundation、Living Foundation(基本生活基盤)
という普遍性を持った新しい理念及び概念を、社会制度問題の壁を超克するためにも掲げて、これからの論考の礎にしたいと考えます。
シンBI2050は、従来の所得再分配制度でもなければ、単なる社会保障制度でもありません。
それは、全国民・全世代に共通する生活基盤を保障するための新しい社会基盤制度であり、生活保障制度であり、生活安保制度でもあります。
本シリーズでは、この視点から既存の社会制度を見直し、社会制度問題の壁を超克するための具体的な制度改革論を検討していきます。
2)単一・個別制度対応はシンプルな制度設計で
上記の理念・概念を基にして、社会制度問題のそれぞれの要素として存在する個別・単一の各制度の改革のあり方で必須となるコト。
それは、前節でも述べた、制度と手続きの複雑性やつぎはぎを重ねてきたツケとしての理解しにくい短所の解消です。
そのための方策は制度廃止が理想ですが、そうもいかない制度については、極力、シンプルにすること。
これに尽きます。
次項で提示する、シリーズ「社会制度問題超克のための6章」への取り組みが、その起点となります。
3)社会制度体系の拡張・拡充が不可欠|税制改革と社会問題解決を伴うシンBI2050
冒頭、社会保障制度・福祉制度に関する政府予算とその歳入歳出実態なども組み入れました。
当然、制度のシンプル化は、歳入歳出という数字上でも示される必要があります。
また、従来の社会保障制度の管理・運営においては、所得税や社会保険料の納付に関する法律があります。
従い、社会制度問題への取り組みにおいても、税制/社会保険料に関する改革は不可欠・必須であり、現時点で取り組むべき課題や問題提起も、これからのシリーズの中で組み入れるべきものです。
加えて、関連する社会問題の解決にも、その取り組みで、前進・具体化できるようにしていくことになります。
次の4番目の壁に組み入れた、労働制度や労働保険に関する諸課題も、全体系に含むため、社会制度問題の括りは、一層体系の拡張・拡充が必要になります。
しかし、心すべきは、複雑化ではなく、シンプルに体系化することです。
4)社会制度改革がもたらす行政制度大改革
社会保障制度・社会福祉制度の管理・運営において予算や歳入歳出というコスト面からの比較・対照そして変化や効果が、社会制度問題への取り組みに必要なことは、既に確認してみました。
実は、その背景にというか、基盤として、その公的業務に携わる人と組織・官庁・行政機構が存在します。
こうした人的公共的サービスにもコストがかかっていますが、多くの既存の制度の改廃で、こうした行政機能・機構の再編成は必然となります。
そして、いわゆるエッセンシャルワークの多くが、こうした公的サービス業務でもあることから、社会制度問題の壁の超克は、行政制度大改革にも直結します。
その在り方や想定される課題なども、シリーズの中で取り上げていくことになります。
5)補完すべき新制度設計の必要性|シン安保の思想と制度の具体化
また、種々の個別制度課題に取り組む中で、複数の関連政策課題を繋げても、改善・解決できない問題が残るでしょうし、新たな制度設計が必要となる場合もあります。
現時点で、想定すべき課題としては、住宅問題の政策化や雇用保険制度の就労保険制度への改変などがあります。
加えて、先述した<シン安保>の各基盤と構造との関係や、8つの壁の「格差問題」や「人口構造問題」などとの関連での制度設計も考慮・配慮する必要がありそうです。
5-5 「社会制度問題超克のための6章」へ
以上のシンBI2050のあり方の基本となる方針・方向性に加え、根源的な問題への取り組みに方向性について、深掘りも加えてきました。
そこで触れたように、以下の6つの章及び主テーマを配置し、社会制度問題の壁の超克に、次回以降、取り組むことにします。
なお、各章の命題の表現を訂正することがあります。その場合はお許しください。
1)1章 年金制度改革とシンBI2050
2)2章 生活保護制度廃止とシンBI2050
3)3章 医療保険・介護保険改革とシンBI2050
4)4章 児童福祉・障害者福祉制度改革とシンBI2050
5)5章 税制改革・控除制度改革、厚生住宅制度とシンBI2050
6)6章 総括及びシンBI2050における社会制度体系改革
本稿では、BI実現の壁の一つである「社会制度問題の壁」について、その背景にある社会制度体系の構造と課題を確認してきました。
問題は個別制度の是非ではなく、制度が積み重ねられた結果として生じた制度体系そのものにあります。
シンBI2050は、その制度体系を生活保障・生活安保の視点から再設計しようとする試みです。
次章以降では、年金制度、生活保護制度、医療・介護制度、出産・子育て支援制度などを取り上げながら、社会制度問題の壁を具体的に検討していきます。





