小沢修司著『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』から|旧サイト記事集約移管シリーズ5
<参考>:2002年小沢修司氏著から2021年宮本太郎氏著までの間、社会保障・福祉制度はどう変わったか|小沢修司著『福祉社会と社会保障改革』から考える-3(初出:2021年9月29日)
小沢修司著『福祉社会と社会保障改革』から考える-3
日本のベーシックインカム論の古典、と私が勝手に位置付けている、小沢修司著2002年出版の『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』(2002/10/30刊)。
同書を読み進みつつ思い浮かんだのが、既に、以下の『貧困・介護・育児の政治』から」シリーズ記事を投稿済みの宮本太郎氏著『貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ』(2021/4/9刊)。
この本を読む前に、小沢氏の本書を読んでおけば、時系列的にちょうど良かったのでは、と感じたのです。
(参考)
◆ 福祉資本主義の3つの政治的対立概念を考える:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』序論から(2021/9/3)
◆ 増加・拡大する「新しい生活困難層」:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』からー2(2021/9/5)
◆ 貧困政治での生活保護制度と困窮者自立支援制度の取り扱いに疑問:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』からー3(2021/9/7)
◆ 利用者視点での介護保険制度評価が欠落した介護政治論:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』からー4 (2021/9/9)
◆ 政治的対立軸を超克した育児・保育政治を:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』からー5 (2021/9/11)
◆ ベーシックアセットの前に社会保障政治改革を:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』からー6(2021/9/13)
なお、小沢氏書のメインテーマは、第Ⅰ篇よりも第Ⅱ編の[ベーシック・インカム構想と福祉社会の展望]にあります。
同氏のBI論は、後述するように、10月から同書を参考にして紹介し、考察します。
それとの対比に多少はなるかと思いますが、宮本氏がベーシックインカムに替わって主張提起する「ベーシックアセット」についての紹介・考察を、関係サイト http://basicpension.jp で以下のように投稿済みです。
確認頂ければ幸いです。
◆ ベーシックアセット提案の宮本太郎氏のベーシックインカム論-1(2021/8/20)
◆ ベーシックアセットとは?:ベーシックアセット提案の宮本太郎氏のベーシックインカム論-2(2021/9/4)
小沢書と宮本書との特徴と共通点
小沢氏は、2002年発行書において、企業中心社会という視点で20世紀に入る前の日本の社会保障制度を論じました。
1995年の社会保障審議会勧告などを軸にし、 各種審議会等政治・行政を補完する機関の活動等を用いて社会保障制度を考察・総括。
家族と労働の変容によってその改革を必要とする21世紀に入っているとしています。
宮本氏は、1989年に壊れ始めた旧来の日本型生活保障の特徴を「行政・会社・家族」の三層が繋がった三重構造と表現。
その後の「新しい生活困難層」の出現により新たな福祉政治が必要とされる21世紀の今日の状況を、ここに至った政治的状況・要因に視点を当てて論じています。
そして小沢氏は、現存する企業中心社会を確認しつつ社会保障改革の必要性を主張します。
そこで、主に国民負担の面からアプローチして方策を検討しますが、企業からの個人の自立を掲げるレベルにとどまっています。
それにより、その方策として「ベーシック・インカム」を提案するに至るわけです。
当然それは、家族世帯単位ではなく、個人単位での社会保障を目指すものであることを確認しておきましょう。
一方宮本氏は、社会保障というよりも福祉、行政ではなく政治という用語を用い、「貧困」「介護」「育児」の3福祉領域での政治課題とし、これからの、それぞれにおいての「生活困窮者支援法」「介護保険法」「子ども・子育て支援法」の工夫活用の必要性を主張します。
しかし、さすがにそれでは、従来の政治の変化を期待できないと理解しているためでしょう、「ベーシックアセット」という一つの理想的概念を提示し、これに21世紀福祉国家実現を委ね、期待するのです。
なお、もう一つ、両氏とも、社会保障制度全体体系を示し、それを前提としての改革や政治のあり方を論じているわけではないことが、物足りない要因になっていることも、加えておきたいと思います。
また、両氏による<社会保障>と<福祉>の用語の使い分け、定義も気になるところですが、それに関する記述は見当たらなかったので、いずれ当サイトでの使い方・定義などについて、今後の<社会政策>論の展開の中で確認していきたいと思います。
2002年『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』 から2021年『貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ』までとこれから
この間、日本の社会保障制度・福祉制度がどう変わったか。
その結果を示す現在の日本の社会保障制度・福祉制度は、どう考えても、なされてきた議論、費やされてきた時間・年数ほどの成果・結果を見ることはできないといってよいでしょう。
むしろ、経済の成長が停滞したままでデフレ傾向が続き、多くの国民の所得が上がらず、家族資源が頼りにならず、雇用不安・所得不安が、波状的に長期化するコロナ禍が、一層現状とこれからの生活不安と厳しさを増幅させています。
ただコロナパンデミック以前に、長く課題とされてきた社会保障制度改革が、的確・適切に実行・実現されていれば、という思いは自ずと湧いてきます。
それは、コロナ禍で問題が顕在化した、多種多様な医療・検疫に関するインフラの弱体・脆弱化にも繋がっていると言えるでしょう。
要するに、こうした改革には時間と人的労力、もちろん費用がかかることは明らかで、小手先の政策、弥縫策を繰り返してきた社会保障・福祉政治行政の失敗・怠慢にあることは自明です。
今回、2002年に出版された小沢氏の書と、それを時系列的に引き継ぐかのような今年2021年に発売された宮本氏の書を読み感じた大きなことが2つあります。
一つは、社会保障・福祉行政を改革するには、政治を変えることが絶対不可欠であること。
もう一つは、小沢氏がベーシックインカムを提案し、宮本氏がベーシックアセットを提言したように、社会保障・福祉制度の改革には、従来とまったくことなる政策・手法がやはり不可欠であろう、ということです。
2021年宮本著以後の21世紀第2四半期の社会保障・福祉行政と政治に期待できるか
2002年発売の小沢氏著から今年2021年発売の宮本氏著までの間の社会保障・福祉の変化は、それ以前に認識されていた問題認識や諸提案があったにも拘らず、成果を見ることなく、むしろ経済の停滞とも歩調を合わせ、あるいは引きづられてというべきか、悪化し続けています。
それは政治及び行政に因があることは言うまでもありません。
宮本氏が、「例外状況の社会民主主義」「磁力としての新自由主義」「日常現実としての保守主義」と、形容用語付きで政治を語っても、それが政治改革を引き起こすものとは到底思えません。
むしろそれは、政治よりも国民がそうさせているかのようにエクスキューズさせることを許容しているかのようにさえ聞こえてしまうのです。
要するに、繰り言、戯れ言の繰り返しになりますが、こうした学者・研究者の多くの書は、非常に意義があるものですが、決して政治と行政を改革させる起爆剤にも武器にもならない、なってこなかったということです。
専門家・専門業者間での情報の流通・活用には大いに寄与はしているでしょうが。
社会保障関連書の構成・概要を比較してみる
ここ1~2年内に手にした、他の社会保障関係新書に以下があります。
・『社会保障亡国論 (講談社現代新書)』(鈴木亘氏著:2014/3/20刊)
・『人口減少と社会保障 – 孤立と縮小を乗り越える (中公新書)』(山崎史郎氏著:2017/9/25刊)
・『社会保障再考 〈地域〉で支える (岩波新書)』(菊池 実氏著:2019/9/20刊)
個別の社会福祉領域に関する書ではなく、一応、全社会保障体系全体を包括するイメージで書かれたものです。
この3冊は、いずれも2010年以降、小沢氏の書と宮本氏の書の間に発刊されたもので、両書との違いも気になるところです。

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