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リトガー・ブレグマン著『隷属なき道』を読み解く:8記事統合による全体像と核心|旧サイト記事集約移管シリーズ-2

「お金を与えれば福祉は不要」。
いかに例えての話とはいえ、これはある意味暴言です。
こういうアジり方をする人間の言うことは、素直には聞けないし、やはり極端な主張をする人間と曲解される可能性があるので、もっとよく考えて発言すべき。
そう思いながら、以下の構成に沿って本章を読み進めます。

第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
 1)ホームレスに3000ポンドを給付する実験
 2)ガーデニング教室に通い始めた元ヘロイン中毒者
 3)フリーマネーは人を怠惰にするのか?
 4)ケニアでもウガンダでもフリーマネーが収入増をもたらす
 5)45カ国、1億1000万世帯に届けられた現金
 6)アルコール中毒者、麻薬中毒者、軽犯罪者もお金を無駄にしない
 7)ハイエクフリードマンも支持したベーシックインカム
 8)カナダ「ミンカム」という世界最大規模の実験
 9)ミンカムで入院期間が8.5パーセント減少
 10)保障所得は大量離職を促すか?
 11)ベーシックインカム法案を提出したニクソン大統領
 12)「無益で、危険で、計画通りにはいかない」というユートピアへの攻撃
 13)豊饒の地の富はわたしたち全員に帰するもの


本書の全体を通じての特徴の一つが、ほとんどのベーシックインカム論書と同様、これまでの各国・各地でのベーシックインカム的実験例を紹介し、その有効性・有意性を主張していることです。
それが、本章でも展開されます。

初めに、
1)<ホームレスに3000ポンドを給付する実験>、
2)<ガーデニング教室に通い始めた元ヘロイン中毒者>は、2009年にロンドンで、援助団体ブロードウェイが、13人のホームレスに自由に使えるお金、フリーマネーを3000ポンドを給付した結果を示します。
実験開始から1年半後には、7人が路上生活から屋根のある生活、2人がアパート生活に、13人全員が、支払い能力や個人的成長につながる重要な足がかりを得ていたことを。
これで、13人を救っただけでなく、かなりのコストを削減できたことも。

また、
3)<フリーマネーは人を怠惰にするのか?>、
4)<ケニアでもウガンダでもフリーマネーが収入増をもたらす> で、支援組織ギブ・ディレクトリによる西ケニアのある村民へのフリーマネーの支給や、ウガンダ政府によるによる1万2千人の16歳から35歳の人々への約400ドルの支給における成功例報告を紹介。
それは、人々を怠惰にすることなく、家々の修繕、自身への教育、ビジネスへの投資などに向けられ、収入の増加や雇用率の向上に繋がったとします。

これを受けるかたちで、
5)<45カ国、1億1000万世帯に届けられた現金>、
6)アルコール中毒者、麻薬中毒者、軽犯罪者もお金を無駄にしない> において、フリーマネーが機能することについての世界各国での研究を包括して、以下のように紹介しています。

 フリーマネーの支給が犯罪、小児死亡率、栄養失調、10代の妊娠、無断欠席の減少に繋がり、就学率の向上、学校の成績の向上、経済成長、男女平等の改善をもたらすことが分かっている。
(略)
 ブラジルからインドまで、メキシコから南アフリカまで、送金プログラムはグローバルサウス(南の発展途上国)で広く行われるようになり、2010年には既に、45カ国の1億1千万を超える世帯に現金が届けられていた。


こうした例を紹介した、マンチェスター大学研究者らによる著『貧者には金を与えよ(Just Give Money to the Poor)』では、送金プログラムの利点を以下としています。

1)各家庭がお金を上手に利用し
2)貧困が減少し
3)収入、健康、税収の面でさまざまな長期的利益がもたらされ
4)プログラムにかかるコストは他の方策より少ない

こうした試みについての好感を抱かせる報告が済むと、<ハイエクやフリードマンも支持したベーシックインカム>で、少し遠慮気味に、しかし自信を持って、こう書き添えています。

 フリーマネー。(略)
 トマス・モアは1516年に『ユートピア』でそれについて夢想した。
 その支持者は、左派から右派、新自由主義を牽引したフリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンにまで及ぶ。
 そして世界人権宣言(1948年)第25条は、いつかそれが実現することを約束している。
 ユニバーサル・ベーシックインカムだ。
 それは数年間に限るものではなく、発展途上国や貧しい人々だけを対象とするものでもない。
 文字取り、フリーマネーは「すべての人」に与えられる。
 好意としてではなく、権利として与えられるのだ。
 「共産主義へと至る資本主義の道」と呼べるだろうか。


 ここで重要であり、絶対的なのが「権利として与えられる」ということ。
 「共産主義へと至る資本主義の道」 という部分については反対です。
 しかし、ここではここまでとし、先を急ぎます。


  


そしてもう一つが、
8)<カナダ「ミンカム」という世界最大規模の実験>、
9)<ミンカムで入院期間が8.5パーセント減少>、
10)<保障所得は大量離職を促すか?
で紹介されている、1973年カナダのドーフィンで行われた「ミンカム」社会実験にまつわる話の紹介です。

1973年にカナダの人口1万3千人の町、ドーフィンの全住民の30%の世帯に、何も条件をつけず毎月小切手を、年間で約1万9千ドル相当額郵送した。
4年間すべて順調に進められたが、選挙で保守陣営が勝利して、実験は土台から崩壊。
費用の4分の3を負担した政府は、金のかかる実験の価値を認めず、実験結果を分析する費用を負担する意志もなく、結局研究者たちは実験を中止し、その結果のファイルを2000個の箱にしまい込んだ。

マニトバ大学教授エヴリン・フォーゲットがそうした記録があることを知り2004年から探し始め、5年後2009年にアメリカ国立公文書記録管理局で発見し、その記録を分析。
その結果、結婚する年齢は遅くなり、出生率は下がり、学業はおおむね向上、男性の労働時間はほとんど減らず、新生児をもつ母親は数ヶ月の育児休暇を取ることができ、学生はより長く教育を受け、入院した人の入院期間が8.5%減少、家庭内暴力も減少し、メンタルヘルスの悩みも減った。
ミンカムは、町全体を賃金と健康両面から、次世代に良い影響を及ぼしたことが分析できたとしています。 

このミンカムの事例については、波頭亮氏著『AIとBIはいかに人間を変えるのか 』(2018/2/28刊)を参考に、以下で紹介しています。
カナダオンタリオ州ミンカム等ベーシックインカム、実験導入事例紹介-1(2021/3/6)

またこれ以外の実験導入例を、以下の記事でも紹介しています。
BI実験と効果誘導に必要な認識:ベーシックインカム、実験導入事例紹介-2(2021/3/7)

なお、この後、1964年、リンドン・B・ジョンソン大統領が「貧困との戦い」宣言時に、共和党・民主党両党が基本的福祉の改善で結束。
数千万ドルの予算を組み、ニュージャージー、ペンシルベニア、アイオワ、ノースカロライナ、シアトル、デンバーの計8500人以上の米国人にベーシックインカムを提供することを決定。
実験群と対象群とを用いての、史上初の最大の社会実験が行われたことが記されています。
しかし、なぜか本書では、その実験結果の詳述も、その後の扱いも、ほとんど報告されていません。

こうした中途半端な記述をリカバーするためか、次節では、より現実的な話が紹介されます。
 


1968年に著名な経済学者5人が、他の1200名の学者の署名を添えて議会に送った公開書簡に端を発し、これを真摯に受け止めた、時の共和党政権下のニクソン大統領。
自ら「わが国の歴史上、最も重要な社会立法」とした控えめなベーシックインカム法案を議会に提案。
この政策が社会にセンセーションを巻き起こし、マスコミもこぞって賞賛し、ついには下院を通過。
しかし、ある疑念・疑問が持ち上がり、一部の同党議員と民主党議員の面々の反対にあう。
民主党の反対は、より高額を求めてのもの。
すったもんだの末、大統領に拠る修正案が再度下院を通過したが、またもや上院で却下。
棚上げになり時が過ぎて1978年。
シアトルでの実験の最終報告で、離婚数が50%以上も跳ね上がったことで致命的に。
その10年後、そのデータは統計上誤りがあり、離婚率に変化がなかったことが明らかになるというオチが付き。

左の人たちの教条主義的志向と行動の知恵のなさ加減が、とんでもないチャンスを潰したわけです。
歴史上のタラレバの話は多々ありますが、アメリカでべーシクインカムが導入されていタラ、それも1970年代に始まっていレバ・・・。
考えてもムダなこと。
そういうこともありました、でよろしいでしょう。

下院まで法案が通過し、残す上院の承認は問題なしと考えられていた、ニクソン政権下でのベーシックインカム法。
それが潰えた理由は、やはり、ベーシックインカムの危険視にあったわけですが、本章で<「無益で、危険で、計画通りにはいかない」というユートピアへの攻撃>として、幾つかの視点で反論を紹介しています。
ここでは、その3つの要因のうち、<無益か?>とする部分の記述だけを紹介します。

歴史上初めて、相当額のBIを調達できるほど豊かになっている。
(略)複雑な税額控除を廃止してシンプルな新システムに資金を流すことができる。
BIを選択すれば、支援に必要な額が、税金、浪費、原料、消費のせいで膨張することはなくなるのだ。
(略)
貧しい人だけを支援するシステムは、彼らと他の人々との間に深い溝をつくる。
「貧しい人だけのための政策は、貧しい政策である」という言葉を紹介します。
計画、貸し付け、所得比例給付のすべてをきっちり管理するというのは左派に浸透した考え方だが、問題は、それが逆効果だということだ。
(略)
基本的に人は、恩恵が自分にも及ぶ場合に協力的になる
その社会保障制度によって、自分や家族や友人が得る利益が大きいほど、それに貢献したいと思う。
従って、万人向けの無条件のBIは、万人の支持を得るはずだ。
結局のところ、皆が恩恵を受けるのだから。

 
ベーシックインカムに限らず、他の給付においても、富裕層にも無条件で給付する必要はない、というのが左派に見られる主張です。
分からないことはないですが、すべての富裕層が、努力も何もせず、濡れ手で粟で、あるいは労働者を搾取して莫大な富を手に入れたわけではないはず。
コツコツ貯めた元手で事業を興し、苦労して成功して一代で富を為した人もいるはず。
教条的に富裕層はすべて同じとみる主義には与しません。
ゆえに、ユートピア的主張にも反対で、少しでも、関連する諸制度がどうなるか、どうすべきかなどの対策や法律案なども添えて、ベーシックインカムを論じ、提案すべきと考えます。

そして肝要なのが、富裕層も貧困層も、どちらも相手に対して寛容であること。
それが完全ベーシックインカム、ユニバーサル・ベーシックインカムの思想・精神であり、すべての人々に対する基本的人権としてのものです。

本章の最後の節のタイトルを、<豊饒の地の富はわたしたち全員に帰するもの> としてまとめています。

 資本主義を賞賛できるのは、わたしたちが豊かになり、進歩の歴史の次の段階に自力で進むことが可能になったからだ。
 その段階とは、すべての人にベーシックインカムという保障を与えることだ。
 それこそが資本主義がめざすべきことである。
 それを過去の世代の血と汗と涙によって可能になった進歩の配当と考えよう。
 結局、わたしたちが享受しているこの繁栄のうち、わたしたち自身の努力によるのは、ごく一部にすぎないのだ。
 豊饒の地の住人であるわたしたちは、制度と、知識と、先人が蓄積してくれた社会資産のおかげで豊かでいられる。
 この富は、わたしたち全員に帰するものだ。
 そしてベーシックインカムは、わたしたち全員がそれを分かち合うことを可能にする。


こうブレグマンは断言します。
よくもまあ、ここまではっきり言えるものだと・・・。
自信満々です。
まあ、私は豊かさを実感して人生を送っていることがないせいもあるのでしょうが。

とりわけ今だから特別に、ということでもないのでは、と思います。
その時代その時代に、だれかがユートピアを描き、語り、望んだように、です。
そして今、今を生き、自分や家族が生きる明日を思うことで、ベーシックインカムがあれば、と希望するでしょう。

それにしても、「福祉はいらない、直接お金を与えればいい」というのは、短絡が過ぎる、考察が浅過ぎるというべきでしょう。



資本主義がめざすことがベーシックインカム。
ん~~?

とりわけ今の時代が豊かとは思っていません。
特に精神、人の心の部分については、古代からほとんど進歩していないでしょう。
犯罪は相変わらず多く、欲深い人も多く、国家や民族、宗教をめぐる争いも常にどこかで起きている。
物質的には、私自身は物欲がないため、贅沢品もゆとりを示すものもないので、豊かというものの実感はありません。

この富は、わたしたち全員に帰するもの。
ベーシックインカムで分かち合う・・・。
ん~~?
 
そもそも、当サイトが提案するベーシック・ペンションは、何かを分かち合うものではなく、基本的な人権として、国民国家の市民・住民として、国との約束事として、等しく給付され、受け取るもの。
こういう考え、思想に拠るものです。

共産主義社会をめざしてのものではないですし、右も左も関係なく、受け取るのです。
ただし、他の社会保障・社会福祉制度の基軸としてベーシック・ペンションは機能し、それらの制度もまた、右も左も関係なく、適用され、運用されるのです。
一応、「望ましい資本主義社会」を前提として。
「望ましい」と頭に付くのは、未だ望ましい資本主義社会が実現されておらず、困難なことではありますが、多少の希望をもっ、ベーシック・ペンションを実現することでそれをめざすべき、という考えからです。
 

次は、<第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる >を取り上げます。

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