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専門書・専門家シリーズ記事

ガイ・スタンディング著『ベーシックインカムへの道』を読み解く|13記事統合による全体像と核心:旧サイト記事集約移管シリーズ-1

今回は第9回。
 「第7章 財源の問題」を取り上げます。

第7章 財源の問題
 ・大ざっぱな試算
 ・イギリスの場合
 ・住宅手当の問題
 ・ほかの国々の財源問題
 ・経済に及ぼす好影響
 ・その他の財源
 ・政府系ファンドと社会配当
 ・財源問題は政治問題

以上の構成からなる本章「財源の問題」。
当シリーズでは次回取り上げる前章「第6章 よくある批判」に適用されるのだが、ベーシックインカムに対する最もよくある「財源が確保できない」という批判が当たらないと反論するのが目的。
ただし、複雑なテーマであり、冷静な議論、さまざまな給付水準の選択、段階的導入、そして種々の財源確保法を念頭におくべきとして考察、事例紹介が行われます。
上記構成を整理して概括し、最後にベーシック・ペンションとの根本的な違いに触れます。

米国ドルはなんとか理解できるとして、本書で多用される英国ポンドによる金額提示では、円換算がすっとできず、換算値も但し書きされていないので、読み進めるのはちょっときついです。
なので、自然、ポンド表記部分は省略し、考え方・試算方法等に関する紹介にとどまることをご容赦ください。

1)給付額算出基準に所得の中央値、平均所得を用いることへの批判

冒頭、旧来の財源提案における給付額試算時に、所得の中央値や平均所得を基準としていることを批判しています。
要するに、それが「大ざっぱな試算」であるため、必要額を徒に膨大な額と見せることを指摘。
そしてあるべきは、税と社会保険料を差し引いた残りの「可処分所得」額を用いることと強調する。

2)ベーシックインカム給付に必要な増税試算例への批判根拠

ここから発して、OECDのすべての加盟国を対象としてエコノミスト誌が、医療以外の福祉をすべてBIのに切り替え、他の政府支出と税収をいじらないとして算出したBI給付額として、西欧7ヶ国では一人当り年間1万ドル超は可能と例示。
一方同誌の別の「おおざっぱな計算」によると、ある(?)金額のBIの支給には、イギリスでは15%の増税が必要と例示。
イギリスの例に限ったことではなく、またガイ氏の論述に限らず共通なのだが、それに対しする次の批判・反論を述べている。
1)高所得者層からBI相当分を税で取り戻す可能性を考慮していない。
2)資力や行動調査が不要になる行政コストの軽減を無視している。
3)社会保障以外の政府支出を減らさないと決めつけている。
4)現在の財政システムの特徴である数々の免税措置や控除制度を無視している。
こうした問題点に着目すれば、ささやかな(?)ベーシックインカムに転用可能な財源は多額に見出すことができるとする。

以上の認識を念頭に置いた上で、次にイギリスが本拠地であるガイ氏ゆえ、同国におけるBIの財源問題として、制度設計と給付水準におけるBI給付実現性に関する研究報告を、住宅問題も関連させてかなり詳細に紹介しています。

その財源の基本方針は「厳格な歳入中立性」つまり、個人所得税率と税控除制度の修正社会保障支出削減により捻出する予算だけで調達すること。
大ざっぱな計算によりBIに反対する場合、多くの低所得者の生活が一層苦しくなるとの主張があるが、これを解決する方法として
1)低所得者の損失を最低限に抑えるBIを設計する
2)過渡的な措置として、BIと現行福祉制度を併存する
かどちらかを採用すればよいとガイ氏。
後者の研究例として、
・政治シンクタンク「コンパス」による細部についてのコストシミュレーションや給付増額シミュレーション
・同方針だが、既存の福祉給付制度の大半を維持するとしての市民トラスト(CIT)マルコム・リー事務局長のもう少し控えめの給付時のシミュレーション
・このトリーモデルを用いてのイギリス王立技芸教会(RSA)による福祉の大半をBIに置き換えての試算
・「コンパス」による、併存型制度とは別に、資力調査型の給付のほとんどを廃止する場合のコスト試算
・RSAによる2016年導入の「全国生活賃金(NLW)」と低所得者・失業者向けの新給付制度「ユニバーサル・クレジット」のBIに及ぼす影響検討
などを用いて、税率の増減、給付額の増増などの設定及び算出結果を提示し、利点や問題点、特徴等を解説。
その内容、税率、金額などは、一度や二度読んでも、基本的な税制の知識不足やポンド表示でもあることから簡単に理解できず、またその例をしっかり理解把握することが不可欠ではないとも思われるので省略します。

なお上記の研究・シミュレーションの大半が、困窮している障がい者への支援を積極的に支援すべきとしつつ、今日深刻さが増している「家賃の問題」と関係する住宅手当に関しては、不本意ながら、引き続き独立した制度として残さざるをえないとしている。
家賃相場の高低及び人々が住む地域や住宅事情の違いが、公平・公正な家賃扶助基準を設定し、運用することが困難なためである。
この住宅をめぐる福祉制度は、BIと強く関係するが、日本を含め他の諸国でもどう制度を改革するか同様の問題点を抱えているといえる。
但し、ドイツ、スウェーデン、フランス等北部ヨーロッパ諸国の多くは、所得に応じて給付される社会保険が充実しており、ほとんどの人がそれで家賃支払が可能とも紹介している。

当然のことだが、イギリスのこうした例とは別に、オランダ、ベルギー、カナダ、ドイツ、アイルランド、スペイン、南アフリカなどでもBI導入時の財政上のコスト負担の試算は行われているとし、以下の例を挙げている。
こちらのボリュームの方が少ないが、分かりやすいので、以下紹介を。
・オランダ政府のシンクタンク「政府政策学術会議」が1985年に部分的BI制度が予算面で実現可能と提案
・ニュージーランドでは、一律30%の課税により、成人に年間1万1000ニュージーランド・ドル、18~20歳に年間8500同ドル給付可能と、エコノミストが試算
・先述のアメリカ・SEIUアンディ・スターン前議長が、すべての成人2億3400万人に、連邦政府が規定の貧困ラインと同水準の月額1000ドル支給を財源。その必要コスト年間2兆7千億ドル、GDPの15%に充当すべく、既存の貧困対策プログラムの殆どを廃止し年間1兆ドル捻出を提案。他に国防費の削減、種々の税控除制度の段階的廃止、連邦消費税・金融取引税・資産税の導入も視野に。

ここまでの財源論は、所得税増税と各種税控除制度を軸としての議論でしたが、それ以外の財源として過去取り上げられ、現状検討されている内容について、ガイ氏は付け加えています。
最近多く取り上げられているのが環境問題、カーボンゼロ政策と直結する、気候変動要因である温室効果ガス排出削減を目的として課する「炭素税」。
但し、極論だが、私は、ゼロカーボン化が進めば、その税収は次第に減少していくという欠点?があることは意外に語られていない。
またより古くから唱えられている「土地税」他、資産税、相続税、金融取引税、ロボット税なども。
加えて、IT巨大企業が、現在ユーザーに無料で提供しているデータから使用料を徴収し、財源に充当する案も。
そして、デンマークのベンチャー・キャピタリスト、セーレン・エールケント運営のシンクタンク「社会思想研究所」による独創的財源確保方法の「ソーシャル・ベンチャーファンド」的アプローチ提案。
政府が企業に投資し、企業間で利益配分契約締結。その分配金をBIとしてすべての人に給付するというもの。
まあ、アイディアレベルのものは、当サイト提案のベーシック・ペンションもその域を出ないかもしれませんが、これからも種々出てくる可能性はあると思います。

もう一つ、別視点から、ベーシック・インカムが経済にもたらす強いプラスの影響が、種々の財源案では考慮されていないことを指摘。
その内容は、既に投稿済みの第5回、第6回、第7回で触れていますので、ここでは省略します。

本章でガイ氏自ら財源論としての推しは、「アラスカ永久基金」や「ノルウェー政府年金基金」のような政府系ファンドの創設により財源を賄う方法。
これは、ノーベル経済学賞受賞のジェームズ・ミードがその著書『アガソトピア』で唱えた考え方に基づくもので、「国が基金を設立し、長年かけてその基金を増やし、ベーシックインカムもしくは社会配当の財源にする」方式。
こうした社会の共有財産から配当を配るのは、政治的に極めて魅力的なアプローチであり、既存の福祉制度の解体や、所得税の引き上げ等を必要としないことを特徴としている。
とは言っても、ただで基金への資金が湧き出てくるわけではなく、ガイ氏は、物的資産・金融資産・知的財産のすべてを含むあらゆるタイプの資産の私有と利用から生じる不労所得への課税による税収を財源とするとしている。
基金という方式が、BI原資を自在に、マジックのように生み出すわけではないことに注意が必要だ。
そしてまたこう注意を促す。
こうした基金は、民主的な統治システムにより、倫理を重んじて運営されなければならず、財源が枯渇した後も基金が長く存続できるようにし、世代間の公平を確保する必要がある、とも。
すなわち、イギリスのスチュアート・ランズベリー提案の「ソーシャル・ウェルス・ファンド」や、2014年イギリス政府提案の「シェール・ウェルス・ファンド」を引き合いに出し、一部の富裕層や地域を利する制度となりうるリスクを認めてもいるわけで、ガイ氏主張の社会正義が保障されないリスクを示す、残念な提案というべきだろう。

こうしたリスクを含め、ガイ氏が本章の最後に位置づけるように、ベーシックインカムの財源をどうするかは、結局のところ政治的判断の問題となる。
その要因は、ガイ氏がここまで提起してきた既存福祉制度の限界・欠点や貧困層・富裕層間の不平等など多岐にわたっているためといえる。
しかし、ベーシックインカム実現のために、不労所得の社会的な有効活用、すなわち富裕層に対する課税強化や税控除制度廃止などを一方的、一元的に主張することが簡単に功を奏することがこれまでなかったことについて、ガイ氏が新たな考察と対策を進めることは行っていない。
すなわち、望ましい政治問題とする従来とは異なる方法・方策を見出すことができていないのである。
そこが、同氏のベーシックインカム論の弱点であり、財源論の、ある意味未熟さであると考えています。

とは言っても、当サイト提案のベーシック・ペンションにおける財源問題が、クリアになっているわけではありません。
ただ、従来の財政規律至上主義、税と社会保障の一体改革主義に基づく、ベーシックインカム財源考察では、ゼロサムまたはマイナスサムを要件とする財源論に陥り、結局、富裕層にとどまらず、平均的所得者の反対をも受けてしまう増税政策に自ずと収斂してしまうことをはっきりと認識し、共有すべきでしょう。
遥か以前からヨーロッパを中心に、ベーシックインカムの是非の議論や試算提起や実験的導入が早期から行われてきたにも拘わらず、未だに真のBIが実現していないという現実。
動かしがたいこの事実を打破するためには、従来にない発想による考察・提案と政治的アプローチが不可欠と考えます。
その要素を持つベーシック・ペンションの一掃の深掘りを進めていきたいと考えています。

(参考)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円(2021/2/3)
鈴木亘学習院大学教授による、財源面からの2021年ベーシックインカム試案(2021/2/4)
税を財源としない日本独自のBI、ベーシック・ペンションの根拠・合理性を示す考え方(2021/3/19)

次回は、これまでさまざまに論じられてきているベーシックインカム及びその条件等に関する批判を取り上げ、反論する「第6章 よくある批判」がテーマです。
一般論として、またベーシック・ペンションにおける共通の課題として併せて考えてみます。

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