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原田泰BI論の核心|財源試算と制度設計の可能性と限界

本稿は、2020年、2021年に当時運営していた複数のWEBサイトに2020年2021年に掲載した、原田泰氏著ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか(2015年初版・中公新書)に関して考察した3記事を、1記事にまとめたものです。

*当サイト「シン・ベーシックインカム2050」では、旧Webサイト「ベーシック・ペンション」(https://basicpension.jpで公開していた記事を、アーカイブとして順次統合・移管しています。
旧記事については、内容重複を避けるため、順次整理(非公開化・リダイレクト等)を行います。

この記事は、2020年にベーシックインカムに関心を持ち始めた時期に、3冊のBI書を入手した折りに書き記したものです。

ベーシック・インカム関連新書3冊入手

 これまでの持論を、そろそろまとまりがついたものに。
 そのためには、多少なりとも専門書、それもできれば新しくて、入門的なもの、高度過ぎず、ページ数も多すぎず、かつ値段が高くないお手頃なものを入手し、参考にしたい。
 そんな条件で検索し、買い求めたのが以下の3冊。

1)ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える(2009年初版:山森亮氏著)
2)ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか(2015年初版:原田泰氏著)
3)『AI時代の新・ベーシックインカム論』(2018年初版:井上智洋氏著)

 私にとっての入門書となった、2009年初版の山森亮氏著ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考えるをまず読み終えて、感覚的にまとめて投稿したのが以下。
ベーシック・インカムとは-1:歴史から学ぶベーシック・インカム です。

その体験も含めて、以下の記事で、山森亮氏の書とBI論について、当サイトでまとめています。



 今回は、それに続いての2冊目、原田泰氏著ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか(2015年初版)を、同様斜め読み、走り読みしてのまとめとなる。


 原田氏は、安倍内閣の経済政策=アベノミクスの基軸となるデフレ脱却、緩やかなインフレを目標とする「リフレーション」を掲げる一派「リフレ派」に属する経済学者。
 本書発刊の時には、アベノミクス推進の歯車とも言える日銀政策委員会の審議員を務めていた人物。
 黒田日銀総裁のもとゼロ金利等金融緩和策を進め、2%という「インフレターゲット」を設定したが、実現せぬまま今日を迎え、重ねてコロナ禍にも見舞われ、アベノミクスの評価に影を落としている。
 アベノマスクという皮肉語が多用されることになった因果関係が明確なのは皮肉である。
 そのリフレ派に属する原田氏によるベーシック・インカムは、緩やかなインフレ=リフレーションに寄与できるという考えがベースに多少なりともあるのではないかと推察する。

ベーシック・インカムの財政懸念を否定する

 ベーシック・インカムを巡って、最も反対者から危惧される財政問題への反論に力を入れているのが、本書の最大の特徴と言えよう。
「バラマキは正しい経済政策である」。
 そう明言する一方、バラマキは、財政赤字にそう影響はしないと、数字を上げて証明する。
 それを可能にする財源の一部として、決して有効ではない公共事業や、ムダな補助金投入などの保護行政批判にページを費やしていることも特徴である。
 ベーシック・インカムの妥当性主張よりも、それらの悪政・悪行政批判が目的かのように思えるほどだ。
 元経済企画庁の官僚でもあった彼がだ。
 しかし、勢い余って、というか、きっといつかは書きたいと思っていたことなのだとは思うが、第二次大戦の帝国主義失政の元凶として近衛首相とその「富」に関する考え方を持ち出し、第2章の「ベーシック・インカムの思想と対立軸」に20ページ余も費やしたことには、疑問を抱かざるを得ない。
 ほとんどベーシック・インカムの議論には関与しないものと言えるからだ。
 ということで、本書でもっとも注目すべきは、ベーシック・インカムを可能とする金額と財源に関する部分である。
 その主張の概要を見ることにする。

20歳未満月3万円、20歳以上月7万円のベーシック・インカム年間総額96兆3千億円とその財源

 原田氏の、以下のベーシック・インカム実現可能試算は、2012年度のデータに基づくものであることを事前に理解しておきたい。

<ベーシック・インカム給付額と年間総額>
1.20歳以上人口1億490万人:月7万円(年84万円)
2.20歳未満人口2260万人:月3万円(年36万円)
3.必要年間総額:年96.3兆円

<必要財源試算>
1.所得税:77兆3千億円
 
1)ベーシック・インカム導入で、各種所得税控除が不要
 2)雇用者報酬・自営業者報酬合算の混合所得257.5兆円
 3)所得税率30%
2.現状の政府支出:以下3項目合計19兆9千億円 
 
1)老齢基礎年金:16兆6千億円
 2)子ども手当:1兆8千億円  ※現在では児童手当
 3)雇用保険:1兆5千億円
3.その他社会福祉費・補助金等から移転可能分:15兆9千億円
 
1)生活保護費:1.9兆円
 2)民生費のうち福祉費:6兆円
 3)公共事業予算のムダから:5兆円
 4)中小企業対策費:1兆円
 5)農林水産業費:1兆円
 6)地方交付税交付金:1兆円
以上、1.2.3の合計額は、113兆1千億円


 これで、必要なベーシック・インカム総額年間96兆3千億円にお釣りが来る(机上の)計算となる。
 すなわち、ベーシック・インカム制導入が可能な財政的基盤があっという間にできてしまったわけだ。
 どうだろうか?
 私の最初の感想は、
 この程度のベーシック・インカムでは、ほとんど意味をなさない!
 話にならない!

 実は、同氏のこのベーシック・インカム提案を、端から論外と評している人がいる。
 現在、多面的に活躍している蛯原嗣生氏が昨年2019年11月に発刊した
『年金不安の正体 (ちくま新書)』第五章の中で、原田氏の本書を紹介しており、以下の理由で一刀両断である。
・7万円は中途半端な(少)額で、行政サービスは削減不可能
・行政サービスをスリム化できる金額(13万円)では、所得税率80%で、現実的に不可能

 これに対して私が直感的に感じたのは、
 そう簡単に結論付けるなよ!
 もっといろいろ考えようがあるだろう!
 意外と頭が硬いんだなぁ!
 海老原氏の執筆・考えは、ネットや新聞、新書などで比較的目にしていたので、ちょっと残念に思えたわけ。
 話を、原田氏の方に戻そう。

ベーシック・インカムは、バラマキではない!

 原田氏の本書の帯に「バラマキは正しい経済政策である」とある。
 また、ベーシック・インカムという「バラマキ政策は悪くない」と言う。
 ? 「バラマキ?」
 ベーシック・インカムは、決してバラマキではないぞ!
 バラマキとは、バラバラに撒くことではないのか。
 ならばベーシック・インカムは、バラバラに、バラつきが生じるように撒くわけではないのだから、  バラマキではないはずだ。
 政治の世界で、票目当て・票目的に狙いを付けて多数に配ることを意味する、とも、ネットで調べたらあった。
 広い範囲ではあるが、多数ではなくて、全員が対象、全範囲だ。
 だからやはり、決してバラマキではない。
 ヘリコプター・マネーでもない。
 ファンダメンタル・マネーだ。
 この考えについては、1ヶ月ほど前に、以下で述べた。
ヘリコプターマネーではなく、ファンダメンタルマネー:全国民受給のベーシック・インカム制へ

 公共事業や補助金行政のムダを偏りの観点から指弾する同氏にしては、不思議な発想だ。
 この辺りが、右か左、どっち?となったとき、間髪入れずに「右」という本質を表しているんだろうなと感じる。
 決して、そのことを批判する気はないのだが。
 良い方の「右」だから。

財政面で明確な提言をしたことの大きな意味

 リフレ派のエコノミストかつ経済学者、かつもと官僚。
 こうした経歴を持つ原田氏に拠る書ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか
 この書の最大の功績は、内容の評価や意見は別にして、はっきりと財源面からのベーシック・インカム批判・否定に対する回答を提示したことにある。
 その1項目1項目の提案や、一つ一つの事項や数字に対して、異論・反論を加えることに意味はない。
 大切なのは、より多くの人々の理解・納得が得られるものに、知恵を出し合って創り上げていくことだ。
 その参考情報として、非常に意味がある書と言えるだろう。

 1冊目で、ベーシック・インカムの歴史的背景、思想の多様性を学んだ。
 2冊目で、決して空論・暴論としてではなく、日本における現実としてベーシック・インカムについて考えてみる価値があることを学んだ。
 起承転結で例えるなら、1冊目が起、2冊目が承、今度の3冊目が転。
 そして、それらを受けて、私自身の「結」へ、と向かう。
 ちょうど、昨日から3冊目『AI時代の新・ベーシックインカム論』を読み始めたのだが、2冊のまとめとしての3冊目、という意味に加え、私にとって、まとめ作業に入るための情報のインプットと整理、即ち「結び」に繋がる重要な書になる予感がしている。

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リフレ派のベーシックインカム論として話題にもなった、日銀政策委員会のメンバーも務めた原田泰氏による『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』(2015/2刊)を参考にして、BIを論じる上で主命題になっている財源論における「所得の再分配」について確認したいと思います。

「国家が人々の所得を直接保障すべきだという考え方、国家がベーシック・インカム(BI、基礎的所得)を給付すべきだという発想を実現するためには、ある人々の所得に課税して、他の人々にそれを分配する必要がある。」
原田氏は、このベーシックな考え方を通じて、過去提示されてきた以下の3種類の所得分配論を比較します。

19世紀ベンサム、シジウィックによる功利主義所得再分配ベーシックインカム論

「快楽や幸福をもたらす行為が善である」という功利主義を提起し、「最大多数の最大幸福」を主張したことで知られるジェレム・ベンサム(1748~1832)。
彼を受けて、ヘンリー・シジウィック(1738~1900)は
「社会に帰属するすべての個人の満足を総計した正味残高が最大となるよう、主要な制度が編成されている場合に、当該の社会は正しく秩序だっており、したがって正義にかなっている。」としました。

これだけでは、高所得者の所得を低所得者に配分することの合理性は観念的であり、断定はできないと思うのですが、要するに、全体が幸福になる上での方策として、「より高い所得の人にはより高い税率で課税することを公平とする、すなわち累進課税の正当性が、政府の権限として与えられる」ことになります。

この考え方は「豊かな人の税金負担は、それが同額であっても、貧しい人の負担感=効用の削減度より小さい」という「限界効用低減の法則」に基づき、「効用の削減度が同じになるように、より多く負担すべき」となります。

しかし、累進課税が高すぎれば税を負担する側の不満感が高まり、労働やリスクを避け始めることで所得が減ることになる。
あるいは、思いもかけぬ分配を受けた貧しい人たちは、勤労意欲を失くして所得を減少させる。
こうしたリスクも、現在のBI議論でも示される同様の問題と同一のものです。
ということで、功利主義からの所得再分配は、それほど大きなものにはならない、と原田氏は結んでいます。

20世紀リベラリズムによるベーシックインカム所得再分配論

リベラリズムは、「社会の制度は公正であるべきだ」という前提から議論を始める、と原田氏は言います。
この前提から「人々がこの世に生を得て生まれてくる前に集まって、どのような社会が公正であるかを議論する」思考実験を行ったハーバード大学の哲学者ジョン・ロールズ(1921~2002)。
出生後の世界は「無知のヴェール」に包まれているとしてのことになります。

彼は、「この原初状態では、人々は自分が最下層に属する可能性について考える。ゆえに最下層の人々の効用を高めることに関心を持つことから、公共政策は、社会の中で最下層の人々の効用を高めることを目的とすべき」とします。

原田氏が言っているように「公正」という言葉と意味の多義性・曖昧性は、こうした議論において、必ず限界があると思うのですが。

社会全体の効用の最大化をめざす功利主義とは対極的に、最下層の人々の効用の最大化、すなわち「ミニマムのマックス化」という「マクシミン原則」を主張するロールズの『正義論』。
これはまさに、最下層の人々へのより大きな再分配を正当化するものです。
しかしロールズ自身、課税の増大化が、貯蓄(投資)や経済効率の低下を招き、長期的にはミニマムの所得水準自体を引き下げてしまうことを認めているのですが。
彼が評価される要因として原田氏は、経済学者が、所得再分配を社会保険と考えることができ、その意義を経済学的に分析することを容易にしたことを上げています。

リベラリズムとは

リベラリズムとは、現実主義と並ぶ国際関係論の主要な学派のひとつ。
多元主義理想主義国際協調主義とも呼ばれる。
リベラルは、「自由な」「自由主義の」「自由主義者」などを意味し、政治思想では主として、自由主義(リベラリズム)の立場。
自由主義者リベラリスト政治的に穏健な革新をめざす立場。
または、1930年代以降の米国から広がった用法で、社会的公正や多様性を重視する自由主義。社会自由主義
※Wikipedia参考


20世紀リバタリアンによるベーシックインカム所得再分配論

政府が国民全体をより幸せにするために、社会をより公正なものにするために、豊かな人々から所得を得て、それを貧しい人々に分配する権限をもっていると考える。
功利主義、リベラルの2つに共通なこの考えに対して、反対に政府はそのような権限はもっていないと考えるのが「リバタリアン」と原田氏。

ハーバード大の哲学者ロバート・ノージック(1938~2002)は、『アナーキー・国家・ユートピア ー 国家の正当性とその限界』等で、「所得を得るのは個人であり、社会ではないのだから、社会はそもそも所得の再分配の理論を見出すことはない。」
「所得を得る過程が正しいものであれば、結果として得られた所得は正しいのであって、結果として成立した所得分布状況がいくら不平等であっても、それは正しい」としています。
「過去の不正義が大きいのであれば匡正することは許される」としてはいますが。

先の「公正」の曖昧さ同様「不正義」も曖昧で、私には、リバタリアンの、ある種の独善性=排他性が気になってしかたがありません。
最も懸念するのがその「自由」の定義と範囲・対象であり、それを規定する法・規範の有無です。

リバタリアンとは

リバタリアンとは、リバタリアニズムを主張する人。
リバタリアニズムとは、個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する考え方で、自由主義上の政治思想・政治哲学の一つの立場。
新自由主義が経済的な自由を重視するのに対し、リバタリアニズムは個人的な自由をも重んじる。他者の身体や正当に所有された物質的、私的財産を侵害しない限り、各人が望む全ての行動は基本的に自由であると主張する。
リバタリアニズムの訳は、完全自由主義自由人主義自由至上主義自由意志主義など。
※Wikipedia 参考


原田氏は、前者の2つのBI思想では、結局所得再分配の金額は決められないとし、リバタリアンでは論外のことです。
そして、こうも言っています。
「「所得再分配の思想」と「BIの思想」とは別のものであり、BIは基礎的所得を保障するものだが、その財源として、より高い人からより多く取る必要はない。」
「BIを給付するためには、当然に富の再分配をともなうが、その程度は、既存の富の分布がどれだけ正当と思われているかどうかにも依存する。」

どう考えても、BIは富・所得の再分配なしには実現不可能。
そんな厳とした、高く、しかし見えない壁が存在するかのようです。
累進課税や再分配の程度はどのくらいが適切かの結論もなかなか出ません。
まあ、実は、原田氏による3つの論者グループのだれも、ベーシックインカムにおいて、と論じてはいません。
BI理論を支える思想と認識すべきということになるでしょうか。

私はその困難さからBI論が一つに集約されないこと、実現しないことを「財源論の罠」と呼んでいます。
ゆえに、もう所得再分配論から離れて、新たな方法を考えるべきとし、ベーシック・ペンションを提案しているのです。
しかし、再分配論以外の思想や取り組みの歴史も確認していくことも大切と思っており、引き続き見ていきます。

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今回も、2015年2月に発行された、原田泰(ゆたか)氏による
ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるかから同氏の提案を引用・転載し、検討・考察するものです。

同書の構成は、
第1章 所得分配と貧困の現実 ー 生活の安心は企業ではなく国家が守るべし
第2章 ベーシック・インカムの思想と対立軸
第3章 ベーシック・インカムは実現できるか

となっており、第3章に絞って見ていきます。

原田氏案の基本方針

第3章の冒頭に、こうあります。

 本書で考えているBIは、すべての社会保障制度に代替するものである。
したがって、基礎年金のために用いている予算、失業保険のために用いている予算もBIに代替できる。
 医療保険制度に多くの問題はあるが、これについて論じると別の書物を必要とすることになるので、省略し、ここでは、現行制度を前提として考慮している。
 なお、厚生年金の報酬比例部分は人々の基本的な生活を保障するものではないので、年金数理的に正しい私的年金制度に置き換えるのが望ましい。
 年金数理的に正しいとは、高齢者は、自分の払い込んだ年金保険料に正当な金利を付けた額を、退職後に受け取るという制度である。

このように明確に断定・定義付けしていることは、内容に問題があるとは思いますが、他の論者と違って、誠実性・責任性を感じ、好感を持つことができます。

ただし、ただし、です。
この記述の中に、生活保護制度をも代替するもの、という表現が入っていないことが問題です。
社会保障制度を代替する、とはありますが、分類・区分に曖昧さを感じるからです。
ここを読む限りでは、現在の生活保護制度に、原田氏案を上乗せするかのように思わせるのですが、果たしてどうなのか、少なからず不安を抱かせます。

原田氏は、安倍内閣の経済政策=アベノミクスの基軸となるデフレ脱却、緩やかなインフレを目標とする「リフレーション」を掲げる一派「リフレ派」に属する経済学者で、本書発刊時には、アベノミクス推進の歯車とも言える日銀政策委員会の審議員を務めていた人物。
黒田日銀総裁下、ゼロ金利等金融緩和策を進めて設定した、2%という「インフレターゲット」は、結局実現する気配さえ見せることなく、話自体終息してしまった感があります。
そのことで、BI論者のうちのMMT主張論者や、国はお金を刷りたいだけ刷って配れる的放任主義論者が、コロナ下、声を大きくしている状況があります。

ベーシック・インカムの財政懸念を否定する(が?)

ベーシック・インカムを巡って、最も反対者から危惧される財政問題への反論に力を入れているのが、原田氏論の最大の特徴と言えます。

「バラマキは正しい経済政策である。」
と明言し、バラマキのための必要財源は、財政赤字にそう影響はしないと、数字を上げて証明しているのです。
他の無責任や財政の罠からの部分的BI論とは異なり、BIを可能にする財源の一部として、有効ではない公共事業、ムダな補助金投入などを廃止すべきとして、保護行政を批判しているのが特徴です。
そうした裏付けのもとに、BIで想定される財源への不安・懸念を否定し、必要財源に道筋を付けている、のですが・・・。

以下、その内容・主張を見てみます。

原田泰氏ベーシックインカム案

20歳未満月3万円、20歳以上月7万円、年間必要財源96兆3千億円

原田氏は、一つの試算として、
・20歳未満(2,260万人)  月額3万円
・20歳以上(1億490万人) 月額7万

支給するとし、そのために必要なBI原資の額を、年間96兆3千億円としました。
では、その財源をどうするか、です。

年間必要財源96兆3千億円の裏付け

原田氏は、そのための財源を、以下の3区分で捻出・計上しています。
1.所得税:77兆3千億円
2.政府支出からの移行:19兆9千億円 
3.社会福祉費・補助金等からの移行
15兆9千億円

所得税:77兆3千億円の根拠

所得税収が77兆3千億円は、以下から算出されます。
(1)BI導入で、各種所得税控除が不要になり、税収額が増える。
(2)雇用者報酬と自営業者の混合所得257.5兆円が課税対象となる。
(3)所得税率を30%とする

政府支出からの移行19兆9千億円の根拠

BI導入に伴い現状の政府支出分から、次の3項目分が、移行・移管されます
(1)老齢基礎年金への政府支出額16兆6千億円
(2)子ども手当(現在の児童手当)への支出額1兆8千億円
(3)雇用保険への支出額1兆5千億円

社会福祉費・補助金等から移転可能15兆9千億円の根拠

同じく、生活保護費・民生費および各種補助金・事業等の見直し等により、以下の項目で移行・捻出します
(1)生活保護費:1.9兆円(生活保護費の5割を占める医療費分を控除した額)
(2)民生費(地方自治体負担分)のうち福祉費:6兆円
(3)公共事業予算のムダから:5兆円
(4)中小企業対策費:1兆円
(5)農林水産業費:1兆円
(6)地方交付税交付金:1兆円

以上3区分の合計額は、113兆1千億円
この額から(当時における)現行所得税収13兆9千億円を差し引くと、99兆2千億円となり、必要試算額年間96兆3千億円が確保でき、多少のお釣りがでることになります。
但し、この試算のもととなるデータは、2012年のものであり、現時点で試算すると当然異なる数字になります。

生活保護制度廃止で、ネオリベ竹中平蔵氏提案と変わらぬ設計に

ここで出てきました、生活保護費も全て含まれていることが。
やはり月額7万円のBI支給で、生活保護制度も廃止することになります。

ということは、ネオリベ竹中平蔵氏の月額7万円ですべての社会保障制度全廃暴論とほとんど変わらない内容と結論づけられても致し方ないようです。
折角ここまで細かく調査し、他の領域の行政改革、ムダ遣いの削減策も組み入れられたにも拘らず、です。
そして、「バラマキ」とは言えないレベルの内容になってしまっていることも、ある意味、カンバン倒れです。

これで、原田氏案の問題点が明確になりました。
以下、列記します。

1.月額7万円では、現状の生活保護受給額を下回る人が大半を占める。
2.当然、生活保護受給要件を満たすが、実際に支給を受けていない人にも月額7万円が行き渡ることになるが、不十分な支給である問題は残る。
3.何より、月額7万円で最低限の生活を維持することは困難であろう。
4.所得税を一律30%としており、富裕層の一部には税率が現状より下がり、その所得が増える。
5.所得税率のアップで、現状の所得と実質ほとんど変わらない場合もあり得る。
6.年金保険制度、雇用保険制度の廃止により企業の法定福利費負担が削減され、企業にとってメリットがあるBI導入になるが、それに伴いあるべき何らかの制度改定や制度新設の有無などは示されていない。
7.社会保障制度全廃により、それ以外にも多くの課題が残るが、それらについての検討・提案が(断り書きはあるが)省略されている。

まあ現状の社会保障制度の国の方針をベースにしての提案なので、やむを得ないと言えばそうなのかも知れません。
しかし、生活保護制度の運用実態・管理実態への問題意識の低さや、他の諸制度への言及が足りないことへの不満は大きいものがあります。

また、現行の社会保障制度や医療保険制度・介護保険制度が続けば続くほど、貧困や格差問題の拡大を招き、少子化社会・高齢化社会問題への処方も後手後手に回り、改善・解決が一層困難になっている状況を考えると、本論の危うさは指摘すべきものです。

ベーシック・ペンションの多角的・多面的な提案を通じて、こうした現状の日本におけるBI論への問題提起と対案を行っていきます。


ただ一点、以下の提起があったことを確認しておくことに意義があると感じています。

東北大震災、コロナ禍。共通するBIの意義

同書は、東北大震災後の2015年2月に発刊されており、文中に
「震災復興も一律給付で可能となる」と書いています。
「復興」とするのはどうかと思いますが、もしBIが導入されていれば、被災した人々の生活の一部をカバーすることはできたBIではありました。
現在のコロナ禍における特別定額給付金支給要請や、これを機にしてのベーシックインカム導入主張が重なります。
被災地域が限定されるか、日本全国かという違いがありますが、本質的には同様です。

しかし、ベーシックインカム、私が提案するベーシック・ペンションは、そうした有事に限って有効ということではありません。
金額の不十分さの議論や財源論と併せて、その意義・意味自体の包摂性・全体性の議論・検討も不可欠と考えています。

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はじめに ー ベーシック・インカムとは何か
第1章 所得分配と貧困の現実
 ー 生活の安心は起業ではなく国家が守るべし

 はじめに
 国家が国民の生活を守る以前の時代
 自営経済における資本財としての子
 雇用が生活の安心を守っていた
 男性の非正規も増えている
 会社福祉から取り残された人もいる
 日本の社会保障の機能と仕組み
 これまでのやり方では良い雇用を増やせない
 最低賃金の引き上げは失業質を上昇させる
 最低賃金の問題ではなく生活保護の問題
 日本の生活保護水準は高い
 保険原理の欠陥
 雇用重視の財政金融政策の重要性
 企業を生活保障から解放しよう
 日本の特徴はワーキングプアが多いこと
 昔の日本は平等だったのか
 戦前の格差はどうだったのか
 ベーシック・インカムの提案
第2章 ベーシック・インカムの思想と対立軸
 はじめに
 功利主義の再分配理論
 リベラリズムの所得再分配論
 リバタリアンの所得分配論
 現実の所得分配状況と再分配政策

 BIの発想
 BI思想の活発化
 負の所得税の概念図
 自由な社会と負の所得税

 給付レベルに現れる哲学の相違
 権利としてのBI
 BIと富の正当性

 近衛の危険思想の背景
 世界革命的共産主義者としての近衛文麿
 アジアの共産化をもたらした日本のアジア戦略
 存在しえなかったABCD包囲網
 明治の元勲の富の認識
 ウォール街を占拠する人がいても・・・
 富の正当性が疑われている
 報酬返還の議論
 報酬返還の実例
 BIと家父長主義
 パレンス・パトリエ政策の限界
 日本政府はパレンス・パトリエであるのか
 貧困とパターナリズム
 ケースワーカーの不正関与
 日本政府は必要な家父長の役割を果たしていない
 BIの思想を整理する
第3章 ベーシック・インカムは実現できるか
 はじめに
 BIは給付と税が一体の制度である
 代替財源と考えられるもの
 貧しい人々の人数とBIの水準
 二兆円とインセンティブのための費用
 BIと所得階級ごとの関係
 給付水準と実行可能性
 比例税についての修正の余地
 日米の所得格差と累進課税の影響
 BIの水準は低すぎるか
 医療保険制度をどう扱うか
 なぜ豊の人にもBIを支給するのか
 結婚税を避ける
 BIと資産保有
 労働意欲を阻害するか
 BIは賃金を引き下げるか
 BIと移民
 夢追い人を増やさないか
 BIの付随的利点
 BIと地域
 事実として地方にもさまざまな産業がある
 BIと富の正当性
 バラマキ政策は悪くない
 バラマキでない農業政策は何をもたらしたか
 バラマキでない林業政策とはいかなるものか
 震災復興も一律給付で可能となる
 高台移転のコスト
結語
おわりに ー 国家は貧困を解消できるか

上記の対象図書の構成(目次)を、本統合記事版に追記しました。
旧記事の一本化だけでは、体系的な確認が不足しているかと懸念したからです。
一部、第2章の中盤から後半にかけての、歴史認識的記述には、なぜこんなことをこの書で?と疑問を感じました。
しかし、一応、同書もBI入門書としては、評価できる構成と、再確認できたからです。

しかし、当然と言えば当然ですが、「税と社会保障の一体化」「財政規律主義」を固く守る、リフレ派の方としては、これで精いっぱいと言えるでしょう。
リフレ派の限界と、リベラル派の限界。
こうしたBI論をめぐる2元的対立論の限界も、「BI実現の壁」と言えるわけです。

今年、2026年に開設し、運営・投稿を開始した当サイト、【シン・ベーシックインカム2050論】は、こうした「BI実現の壁」を超克するための研究・考察を精力的に進めていきます。
最初の壁【財源・財政問題の壁超克シリーズ】5記事の総括記事を、ぜひ閲覧頂ければと思います。